Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

フラン「抱きしめた、壊れた」

2008/09/01 00:09:15
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美鈴が部屋に入ると、レミリアが手を振り体を振り、時には回転していた。
ついでに何かを口ずさんでいた。わりと聞こえるくらいの大きさで。




殺した  殺した  殺した


狂い狂う  くるくる狂う


ああ  でも 


廻らない  回らない


狂気は巡らない


殺した  殺した  殺した


それが正しいのが


たまらなく悔しかった





「……はっ!?」


くるりと廻ったレミリアの視線の先には、にやにや美鈴がいた。
「見たわね聞いてしまったわね美鈴?」
「はい、それはもうたっぷりと」
レミリアの顔が赤くなる。


「……誰にも言わないで」
「どうしましょうかね~」
半分くらい涙目で、すっかり紅潮しきった顔を伏せたレミリアを見ながら、美鈴はにたにたといやらしく笑った。



……こんな感じの展開を望む人は、ここで戻ったほうがいいぞえ。
なんか色々と鬱のはずだし、暴力的な表現もきっとある。


































――――――――――――――――――――――――――――――――――――




昨日、妹様が霧雨魔理沙を壊してしまった。
昨日は、お嬢様がずっと傍にいたそうですがずっと謝りながら泣いていたそうです。
そして今日、お嬢様は仰っていました。
妹様の涙は、心は枯れてしまったと。
妹様は、霧雨魔理沙という人間の存在を破却したと。


あの子はもう、二度と元には戻らないと―――――――――。


パチュリー様に、妹様を一突きで殺せるような魔法具を作るように頼んだと仰っていました。


せめて私のことを憶えていられる内に殺す、と。
                           


―――――――――――――メイド長、十六夜咲夜の手記より。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


















最近変わったことがある。


魔理沙が帰らなくなった。
何も言わない代わりに、動くこともない代わりに、ずっと隣にいてくれるようになった。
魔理沙は何も言ってくれないので、理由はわからない。私は不思議に思うけど、魔理沙が言おうとしないなら私も
何も言わない。


魔理沙が帰らなくなり始めたその日は、黒色と赤色の服だったのに、いまは黒一色になっている。私は不思議に
思ったけど、どうでもよかった。


不思議なことがもう一つ。
いつもなら魔理沙のことを邪険に扱うお姉さまが何も言わないのだ。
ずっと帰ろうとしないのに文句の一つも言わない。今度来たら聞いてみようと思う。




「ねーえ、魔理沙」
「………」


やっぱり魔理沙は何も言わない。


「もう、何かお話してよ」
「………」


人形のように動かない魔理沙。


「つまんないよぉ」




魔理沙の右腕に抱きついて、体重を寄せる。もちろん、つまらないというのは嘘だ。ただ、そんな風にねだられて
困る魔理沙を見たいだけだ。
これをして魔理沙の困った顔を見たことは一度も無いけど。


「………」


―――――――屍体は何も語らなかった。開いたその眼は光を宿すこともなければ何かを孕ませることも無い。


それが嬉しかった。
それでよかった、いいのだ。
魔理沙が隣にいる、その絶対的な事実だけで私は満足だった。


隣にいるだけでいい。それがどれほど陳腐で、甘美で素敵なことか。
狂おしいほどに愛しい者の隣に。
大好きな魔理沙の隣に。


でも、流石に隣にずっといるのに何も言ってくれないのは寂しい。
魔理沙の気を引こうと思って、魔理沙の右腕をちょっとだけ本来曲がらない方向に曲げる。


メキメキ。


「すっごぉい……魔理沙って、とっても体が柔らかないんだね!他のところも柔らかいの?」
私が驚いて魔理沙の体を揺らすと、魔理沙はコクリと頷いた。
「そうなんだ、じゃあ試してみていい?魔理沙」
魔理沙が肯定するのを待たずに、私は魔理沙の、今度は左腕をさっきと同じように曲げる。


メキメキ。
左腕も右腕と同じように曲がった。


「本当にすごいっ、もっとやっていい?魔理沙!」
「………」


言うや否や、次は右足、そして左足。
さらに、上半身を手で押し込むと、背中がお尻とくっついた。


「あはははははははははは」


面白くて止まらない。
唇を歪ませるフランドールにはカルシウムの軋む音など聞こえるはずがなかった。


メキメキメキ。
ベキィ、ボキバキメキメキメキ。


「あはははははははははははははははははははははははははははは」


「首なんか一回転できそうだね―――――――魔理沙?」


そして、今度は首にゆっくりと手をかけた。絞めるのでもなく、愛でるわけでもなく。
ただ、破壊するために。




小さく、最後の音が響いた。










それから三回ほど、図々しい太陽が昇り、沈み、恭しい月が昇り、沈んだ。











最近は暇だ。
お姉さまも来ないし、あの玩具も何だか嫌な臭いを発すようになったので、粉々に破壊してしまった。


「お姉さま、今日も会いに来てくれないのかしら?」
ベッドで横になったまま呟く。
溢れ出た涙が頬をつたう―――――――――。



「―――――――――え?」
頬を滑る感覚に私は驚いて、手で確認する。


なんで―――――、なんで、私は泣いているのか。
私の手が掬い取ったのは液体だった。
涙腺も熱い。


お姉さまが来てくれないから?
玩具が無くなってしまったから?
それで、独りだから寂しいから?


それとも、それとも――――――何か、大切なものを失くしてしまったから?
そんなもの私には無かったはず。この歪な羽で、歪な能力で、全てを遠ざけた私には。
だから、だからっ……そんなっ、大切なものなんて、ない。のに……。


「どうして……こんなに悲しいの?」


塵へと変わった玩具の面影が脳裏を掠める。
ああ、そういえばあの玩具は、何も言わなかったはずなのに笑っていたような気がする。動かなかったはずなのに抱きしめてくれたような気がする。


玩具のはずなのに愛していたような気がする。
玩具のはずなのに、おかしな話だけど。
もしかしたら、あれはとても大切な物だったのかもしれない。


ならば、あの玩具がもう一度手元にあれば、私のこの涙も止まるのだろうか。


トントン。
扉を叩く音が聞こえる。


次いで、入るわよ。という小さく透き通った声。
お姉さまだ―――――――――!


私は扉へと駆け寄る。
乾いた笑みで戸口に立っているお姉さま。


「久しぶり、お姉さまっ!あのね、私、欲しい玩具があるの――――――あのね、白黒でね、それでね……」




「……ごめんなさい、フラン」
「え―――――――――?」
いま、何て……?





ドス。





「あ―――――――――」
燃えるように腹部が熱い。
手を伸ばした先には、自分の血で染められながらも輝きを失わない銀色のナイフが刺さっていた。
紅く染まった手を見つめながら、金髪の少女は仰向けに崩れ落ちた。


「け、ほ―――――――――」
「パちぇ……のとく……ひん。たいよう……ちから……やどし……」
ああ、お姉さまは何を言っているんだろうか。よくわからない。瞳は世界を映さないので、お姉さまがどんな顔をしているかもわからない。


私は死ぬのかな……?
さっきからどろどろどろどろ血が流れているのがわかる。それに刺された場所がすっごく痛い。
そういえばたいようがどうこうってお姉さまが言っていたような気がするから、そういうことなのだろう。
私は多分死ぬ。きっとお姉さまも殺すつもりなんだろう。


どうしてお姉さまがこんなことするかはわからないけど、私の心はとても穏やかに、目の前の闇を受け入れていた。


壊れてしまった私の砂時計。まだ落ちないはずの砂がもう落ちてしまった砂と交わった、最後の闇の中で。
零れ落ちた記憶と再び交じり合った世界の中で。
何もわからないけど、ただ一つだけ思い出せたから。


玩具じゃなかった人間。
白黒の魔法使いだった人間。
お姉さま以外にただ一人の人間。
私が愛した―――――――――。


本当に大切なことを最後に思い出せてよかった。
名前を、私が破壊してしまったいのちのなまえを。


「ごめんね……まりさ――――――ありがとうね……おねーさま」
少女は瞳を閉じる。


銀のナイフが燃え上がる。
それはまるで太陽みたいだった。
貫いた吸血鬼を嬲るように、ゆっくり、ゆっくりとその身を溶かした。
まるで絹糸のように決め細やかな金色の髪の毛も、宝石のように美しい真紅の瞳も、背中に生えている歪な羽も例外なく、平等に。





妹を殺した少女は炎に手を触れる。


右の小指が溶けた。
























深い宵闇を窓が映す。
燭台に置かれた、蝋燭の頼りない炎だけが吸血鬼とその従者を照らしていた。



薄暗い闇の中で、悪魔の流した涙は優しい従者に遮られ、宵闇の空を照らす月ですら気付かなかった。






殺した  殺した  殺した


狂い狂う  くるくる狂う


ああ  でも 


廻らない  回らない


狂気は巡らない


殺した  殺した  殺した


それが正しいのが


たまらなく悔しかった










――――――――――――――――――――――――――――――――――――
                     
                     
                     
                     
お嬢様が為したことは誰のためであったか。       
愛する妹のためであったか。                                  
その妹の幸せを願った者のためであったか。          
                     
                     
それはきっと、その両方。                      
                     
                    
それがお嬢様にはたまらなく悲しかったのでしょう。    
妹様を殺す以外にやりようが無く、それが正当化されることに。
                     
                     
泣きじゃくるお嬢様を抱き締めることぐらいしか、私には出来なかった。 
                     
                     
                                           
                           ―――――――――――――メイド長、十六夜咲夜の手記より。
あー……うーん。
真面目な話って書いていると酔っているような気がしてとても怖い。


気づいたら、黒歴史。


でも、それを決めるのは自分ではなく他人であるわけで。それだと、人に見せなければ絶対にわからないわけで。
しかし、やはり恐ろしい。


鬱だ死脳が足りない。
読んでくださってありがとうございました。
niojio
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
時期尚早にも見えるレミリアの行動は、フランが元に戻る運命が視えなかったからなんですかね…

この姉妹はネガティブにすると救いがなくなる
2.シリアス大好き削除
こんな鬱気味のシリアスな話が良いと感じてる自分は、狂ってるのでしょうか?
自分とフランどっちが狂ってるのでしょうか?
それとも、両方狂ってるのでしょうか?
次の作品も待ってます
3.名前が無い程度の能力削除
凄く鬱ですねえ。
こういうお話は、結構好きだったりします。
4.名前が無い程度の能力削除
鬱過ぎて好きだww