Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

シカクいアタマをマルくする

2008/08/28 03:41:33
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「ふぅ…」

僕は閑散とした店内を見回し、思わず溜息をついた。
相変わらずこの香霖堂は風の流れが良過ぎてしまう。
常々、商売繁盛を願っているわけではないが、やはり店を営む者としてたまには盛況であってほしいものだ。
数少ない常連は客ですらないという状況であるなら殊更に、だ。

「どうしたんだ? 香霖。溜息なんてついて」

その客ではない常連が今さっきまで格闘していた本を置いて、僕に話しかけてきた。

「ああ、魔理沙。知っているかい? 溜息一つで一カロリーが消費されるんだ」
「ふぅっふぅっふうっふうっふー! ふー! ふー!」
「落ち着け、嘘だ。過呼吸になるぞ」
「殴っていいか?」
「そこの壁なんか頑丈そうでおすすめだよ」

未だ息の荒い魔理沙に僕はきわめて冷静に対処した。
しかし、魔理沙もやはり女の子なんだな。重さが気になる年頃なのだろう。

「それで。一体、どうしたんだ?」

やがて、落ち着いた魔理沙が再度尋ねてきた。気のせいか若干、顔が赤い。
しかし気付かぬふりをして、僕はその質問に答えた。

「ああ、もう少しまともな客をこの店に滞在させるにはどうすれば良いかを考えていたんだよ」
「なんだ。客ならここにいるぜ」
「僕はまともなと言ったつもりなんだが」

常日頃から商品を盗品に変えるくせに、悪びれもせずに言い切った魔理沙にはもう呆れるほかない。

「もっと万人受けするようなものを商品にしないと駄目なんじゃないか。…そうだな。ほら、あれあったろ。なんて言ったっけ……」

何かを思い出そうとしている。
だが、この香霖堂は店主である僕が自負しているが外の世界の珍しいものを商品としているので、この幻想郷の住人の要求に万遍なく応えられるものは多くないはずだ。
そんな我が家に万人受けするという商品などあっただろうか。

「あっ、あれだ。『げえむ』ってやつ。『シカクいアタマをマルくする』とかなんとか言ったな」
「ああ、あの表面が妙な板のことか。確かに外の世界の娯楽の一つらしいが…どこにやったものだったか」

以前、見た目よりもずっと重く、手のひら大の大きさの板を拾ってきたことがあった。そうだ、確かあれも魔理沙に持っていかれたはずだ…。

「そうだ。以前、私が貰ったやつだよ」

魔法使いという人種はどうやら、自前の記憶の改ざんもお手の物のようだ。

「私も試したけど動かなくてさ。ああいう機械とやらに詳しい連中に見てもらったんだけど、電力ってやつが足りなかったらしいんだよ。結局、河童に頼んで動くようにしてもらったけど」

それでこれが結構面白くってさ、と話を続ける。
魔理沙の話を聞くにその『げえむ』とやらはなかなか面白いもののようだった。何でも言語の知識がどこまで蓄えてあるかを試すものだったりするらしい。
なるほど確かに。そんなものを商品にすれば客もなかなか集まるだろう。この幻想郷にまともな客は少ないが、暇な客は大層いるのだから。

「河童に頼めば量産できるものかな」
「まあ、できるんじゃないか? でも、私はもうあの『げえむ』は持ってないぜ」
「なに?」

まさか、壊したのか。

「私がずっと動かしていて飽きたから欲しがってた河童にあげた」
「じゃあ、その河童が持っているのか」
「いんや。あいつが欲しがってたのは動かしたいからじゃなくて分解したいからだよ」

参った。せっかく状況を打開する道が見えてきたというのに。
僕の悲観が伝わったのか、魔理沙はじゃあ、と話を続けた。

「じゃあ、自分で作ればいいんじゃないのか」
「……………………………………なるほど」

自分で、ね。
確かに合理的な選択だ。そして実に魅力的な選択であるが、しかしそれ以上に問題点も多くある。

「しかし僕には作る技術がないぞ」
「分解した河童なら構造も知っているだろうし、頼めばいいだろ」
「内容だって知らない」
「せっかくだ。似たようなものでもいいから自分なりのものに仕立てればいいじゃないか。アイディアだけ提供すればいい」

パクリは悪いことじゃない、と主張する魔理沙。まるで自己暗示しているようだった。きっと今の自分の言葉が彼女の多すぎる心当たりを刺激したのだろう。
だがしかし、その言葉の通りにしてみるのも悪くはない。
一つ、やってみるとしよう。





あれから数日。その間、僕は魔理沙の言に従い、『げえむ』のそふとのアイディアを考えていた。何分、初めてのことなので随分と時間がかかると思っていたが、元となる『げえむ』の内容は魔理沙から掻い摘んで教えてもらった。後はそれを自分なりに捻じ曲げてやればいい。
そうして思慮に遠慮せず考慮を重ね、先ほどようやく仕上がった。

「魔理沙、新しいそふとの企画ができたぞ。
その名も『四角い頭をかるくする 非常識の書・三文の書』。
これをやればどんなバカでも、」
「お前みたくなるな」
「…む、気に入らないのかい?」
「いや、だってさ」

魔理沙は大げさに首を振り、呆れたように言った。

「バカを増やしてどうするんだよ。なんだか逆に内容が楽しそうだけど、幻想郷が非常識なやつで溢れるぞ」
「いや、僕はこれを反面教師として活用してもらおうと思ったんだが」

目の前にいる反面教師にそう言ったが、あまり良い顔はされなかった。同属嫌悪だろうか。
仕方なく僕は次のそふとの企画に取り組んだ。





今度は以前よりも時間はかからなかった。良い題材がこんなにも近くにあることに気付いたからだ。

「魔理沙、次の新しいそふとの企画ができたぞ。
その名も『四角い仲をまるくする 好色の書・悶々の書』。
これをやればどんな複雑な人間関係の問題も解決だ。魔理沙、僕はこれを特に君に強くおすすめするよ」
「…なんでだよ」
「君にこそ必要だろう?」

僕は魔理沙の思う部分を示唆するように言った。

「…いや! そんなもの、私にはいらん!」
「魔理沙、無理することはないよ」
「いいんだよ! 私はそんなものに頼らずに解決してやるからな!」

自分で必要だと認めたことには追求しないでおこう。
幼い頃から知っている仲の情けということで。
しかし、またしても駄目だったか。やはり、僕にはこういったものを考えるのは向いていないのだろうか。
いつの間にかいなくなった魔理沙を意識から逃がし、僕はこれからについての結論を出すことにした。





翌日、魔理沙がいつも通り、遠慮なく店にやってきた。

「魔理沙、僕は度重なる失敗に深く反省したよ。僕のように思考の固い頭では良いものを生み出すことは到底できそうにないしね」
「へえ。それが、珍しく帽子をかぶっているのと何か関係あるのか?」

ああ、と僕は答え帽子をとった。

「今までの失敗を改めるために、頭を丸くしてみたよ」
その日から、魔理沙は客でもなく、また、数少ない常連でもなくなった。
智弘
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
あのゲームも幻想郷入りかw
2.名前が無い程度の能力削除
眼鏡の坊主ってどうなんだwww
結局魔理沙はかっこいいこーりんに合いに香霖堂にきてたのか。