一応、衝撃に備えといたほうが。
この私、魂魄妖夢は死者の住まうここ、白玉楼の庭師を勤めさせて頂いております。
本当は西行寺幽々子お嬢様の剣術指南役なのですが、そんなことは幽々子様には関係ないようで、私は幽々子様にとって、家政婦かなにかなのでしょう、きっと。
まあ、そんなことはだからどうのこうのということはないのですが、少しばかり困った光景が眼前に広がりやがっているんですよ。
「はぁ……」
「おいおい、いくら吸血鬼とスキマ妖怪が来たからって、そんなため息つくなよ。可哀想だろ?」
「魔理沙、あまり調子に乗らないことね。一番迷惑かけるのはあなたでしょうに」
「紫の言う通りね。窃盗と強盗の常習犯が来るよりかはマシよ」
珍しい取り合わせだった。しかし、だからこそため息が出てくる。
幽々子様も、よりにもよって、一番散らかす三人をお呼びなさらずとも良かったでしょう。
せめて、あの瀟洒な従者と狐の式がいてくれればまだ幸いだったのに。
「どうせ、幽々子様に呼ばれたんでしょう?こちらです、ついて来て下さい」
「あー、何だ。お前ら呼ばれてたのか?」
「いいえ、私は呼ばれてないわよ?そこの吸血鬼のことじゃない?」
「私は呼ばれていないわ。魔理沙、あなた呼ばれていたの?」
「いいや、全然」
……助かった。
つまり、目の前の方々は幽々子様の招待ではないわけですね。
「紫様はともかく、そこの2人。切られる前に潰されるか、潰される前に斬られるか。好きなほうを選びなさい」
妖夢は腰に携えた名刀、楼観剣を刀身が半分ほど見える程度に柄を握って鞘走らせる。
今日も変わらず鈍く光を反射する愛刀。
「おいおい、そんな冷たいこと言うなよ」
「そうよ。この妹を誘惑するろくでもない白黒はともかく、このレミリア・スカーレットにそんな態度をとって許されるとでも?」
「そうよ、その必要はないわよ?妖夢」
最後の言葉は後ろから聞こえた。
妖夢が声のほうに振り向くと、自分の主人である西行寺幽々子が立っていた。違った、浮いていた。
「じゃあ、これから宴を催すってコトですね。私に過労死しろって言うんですね。わかりましたよ、ハイ。死んでやりますよ、ハイ。分かっちゃいましたよ、この魂魄妖夢、幽々子様にとっては奴隷、もしくは畜生と大差ないんですね」
「何をいじけているかは知らないけど、目の前の三人をよく見てみなさい」
三人を妖夢は凝視する。
「わかりました」
「そう」
「目の前の三人は間違いなく、女たらしだけど本当はロリコンな魔法使いと巫女萌え吸血鬼と加齢臭のする、ば……少……ばばあです」
「いや、そういうことじゃなくってね。しかも、結局言い直してないし。(あってるけどね)……3人の状態を見てみなさい」
殺意をこめた視線を浴びせてくる3人を、再び妖夢は凝視する。
「こ、これは……3人とも……死んでいる、だと……!?」
「「「な、なんだってー!!!!」」」
妖夢が驚くと、3人はもっと驚いていた。
「お前ら死んでいたのか……私はまあ、仕方ないけどな…残念だったな」
「あれ?死んでここに来たのは私だけだと思ったのに……」
「それは私の台詞よ……あんたたちは死んでも死なないと思っていたのに」
「とりあえず、3人とも自分が死んだって自覚はあるのね?」
幽々子は少々困ったようにたずねる。
「「「おう(ええ)(そうよ)」」」
「信じられません、幽々子様」
「確かに信じられないけど、まあ、とりあえず死ぬまでの経緯を聞かせてもらおうかしら……妖夢、お酒とおつまみの準備をお願い~」
「はい……かしこまりました」
「結局飲むのか……」
幽々子の案内で白玉楼の奥へと足を踏み入れる3人を見て、妖夢は小さく呟いた。
「じゃあ、誰から聞かせてもらおうかしら……」
5人は幽々子自慢の白玉楼の庭にて、酒盛りをしていた。
妖夢も邪険にはしているものの、3人がどういう経緯で死に至ったのかはもの凄く気になっていた。
「じゃあ、私から言うか」
幽々子の言葉に、一番最初に応えたのは魔理沙だった。
「あれは3時間前のことだった……」
焼酎瓶の中身を半分ほど煽ってから、魔理沙はゆっくりとその時の状況を話しはじめた。
「え、えーとだな。私は紅魔館の地下室。つまり、フランの部屋にいたんだ。何をしてたかは直球で言うと検閲により削除されてしまうから言えないけどな。ボールを握りつぶすくらい強く握って投げることで出せる魔球をかけて言うと、私はフランとプロレスをしていたわけだ」
妖夢は口に含んでいた日本酒を盛大に吹いた。
「その途中にだな……」
みょん ◆ みょん ◆ みょん ◆ みょん ◆ みょん ◆ みょん ◆
ブチ。
「ぐわぁぁぁああああああ腕が、腕がががぁぁぁぁあああああああああああ」
「ごめんまりさぁ、つい力が入りすぎちゃって……それより」
「魔理沙の血って綺麗……」
「ぐぉぉぉおおおおおお……え?」
「もっとこわしたいな……魔理沙のこと……」
「ちょ、ちょっと?フランさん」
「はぁはぁ……いいよね魔理沙?」
フランの瞳を見た瞬間、腕の痛みなぞ何処かに吹き飛んでいた。
「みみをとったら、どんな声で鳴くのかな……」
ぶt……。
みょん ◆ みょん ◆ みょん 以下自粛。 みょん ◆ みょん ◆ みょん
「と、まあこんな感じで私は痛みに新たな境地を知って、その命を終えたわけだ」
うへへ、気持ちよかったぜ。と魔理沙は付け加えた。
(変態だ……!)
妖夢は思った。
(変態ね……!)
(それがわかるようになるとは成長したわね魔理沙……!)
(紫と同じくらいに変態ね……!)
紫以外もそう思った。
「じゃあ、次はこの私がお話しようかしら…」
レミリアは目を伏せて、思い出すように言葉を紡ぎ始めた。
(あの吸血鬼が死ぬなんて、バヨネットを持った神父とでも戦ったのだろうか?)
妖夢にはそれぐらいしか思い浮かばなかった。
香霖堂に行けば、外の世界のものがあるらしい。
「あれは、私が咲夜と出かけている途中のことだったわ……」
みょん ◆ みょん ◆ みょん ◆ みょん ◆ みょん ◆ みょん ◆
「ねえ、咲夜?」
「はい?お嬢様?」
「里への道ってこっちで合ってたっけ?」
それを聞いた瞬間だった。
咲夜の口元がいやらしく歪んだのは。
「何故そのように?」
「だって、ここ……見たことも無い場所よ。それに草が生い茂っていて、まるで深い森みたいよ」
「みたい、じゃなくて…そうなんですよ」
「え?」
急に咲夜に草むらに押し倒された。
「ちょっと、咲夜!?」
「今回のお出かけの目的はですね、お嬢様。昼間で力が思うように出せないお嬢様を無理やり検閲により削除されました的なことをして、楽しむためですよ」
いや、やめて。冗談じゃないわ。
「私の初めては、霊夢にあげるって決めてるの!だからその手を離しなさい!」
「レーッツ、大人のプーロレースターイム」
「いやぁぁあああああああああああ」
みょん ◆ みょん ◆ みょん 以下自粛。 みょん ◆ みょん ◆ みょん
「そして、無理やり何度も何度も……」
「終いには私の体を切り刻んで、銀のナイフで…こう、心臓を……」
(変態だ……!)
妖夢は思った。
(うらやましいぜ……!わたしもフランに…はあはあ)
(霊夢にそんなことされたらわたし、わたし……はぁーん(はーと))
(……むごいわね)
まともな思考ができるのは亡霊だけのようであった。
「さて、最後は私か……」
妖夢にはもう、ろくな死因じゃないのがわかっていた。
みょん ◆ みょん ◆ みょん ◆ みょん ◆ みょん ◆ みょん ◆
「さーて、賽銭箱の中身は……」
「たすけてーれいむー」
「あんた…なんてところに入っているのよ」
「スキマを出すところを間違えちゃったのよぉ~」
霊夢は渋々ながらも助けてくれた。やっぱり霊夢って優しいわ。
「はい、まったくもう…次から気をつけなさい」
「はーい」
ちゃりーん。
私の服から小銭が落ちた。きっと賽銭箱の中身だろう……中身?
ま、まずい……びっくりびっくり(!!)
「ほう、なんだ、紫かと思ったら賽銭泥棒か……」
がし、ぎぎぎぎぎぎぎぎぎ。
「やめて、あいあんくろーやめて!!いたい、いたいたいよぉれいむぅ!」
「そうか……じゃあ、楽にしてやろう……ふん」
ぎぎぎぎぎぎぎ、ぐちy……
みょん ◆ みょん ◆ みょん 以下自粛。 みょん ◆ みょん ◆ みょん
「と、霊夢の本性を垣間見た気がするわ……」
(馬鹿だ、しかし変態よりはマシだ……!)
妖夢は思った。
(馬鹿すぎるぜ……!)
(馬鹿ね……!)
(馬鹿すぎて失望したわ……!)
初めて全員の思考が合致した。
「ま、というわけで、これから世話になるからな。よろしく頼む」
「そうね、よろしく頼むわ」
「そーゆーことね、おねがいするわ幽々子」
「あらま、仕方ないわね~」
「ちょっと待ってください。もしかして食事とかは……」
「あなたの仕事ね、妖夢」
「嫌です」
「もう、我侭言わない」
「我侭じゃありません。こいつらは閻魔に裁かれるべきです」
「そんなに嫌なら慧音に頼んでくればいいじゃないか」
「それは一番まずい気もするけど」
レミリアはこっそりぼやいた。
「今夜は確か満月だし私たちが死んだことをなかったことにするなんて余裕だろう」
魔理沙の言葉に妖夢はそれだ、と叫んだ。そして、言うなり飛び出していった。
「幽々子、行っちゃったけどいいの?」
「大丈夫よ、一応初めてはもらっといたから」
「そう」
みょん ◆ みょん ◆ みょん ◆ みょん ◆ みょん ◆ みょん ◆
3日後、妖夢は泣きながら帰ってきて、そんなことは無理だと言われたらしい。
妖夢は角と鞘で三日三晩いじめられたって言ってた。
紫以外も、だと思われますが。
とりあえず、うん、末期だコイツラ……
紫以外もそう思った
妖夢って庭師じゃなかった?
>>8.
間違ってもいないのさ