「そろそろ、人間をやめるか」
「またえらく唐突ね」
馬鹿みたいに広い図書館にいたのは白黒魔法使いと紫魔女だった。2人は薄暗い空間の中で、頼りない、ぼんやりとしたランプの明かりを頼りに読書をしていた。
そこへ不意に魔法使いが沈黙を破った。
「人間をやめてもどうせ本は持っていくんでしょ?」
「ずっと借りていくだけだ。人間やめても死んだら返すぜ、パチュリー」
魔理沙がニカっと笑う。
「あなたが人間をやめたら、私が先に死んじゃうじゃない」
「よし、その時はこの図書館の名前が、魔理沙専用魔法図書館になるから安心してくれ」
何がどういう風に安心できるのだろうか。
「何を安心するのよ?」
パチュリーは呆れ気味に本を閉じて言った。
「それは自分で考えてくれ……それよりも、私が本当に人間をやめたらお前はどう思う?」
魔理沙の顔は真剣―――――には、5歩ほど遠かった。おどけているのがパチュリーには雰囲気で感じ取れた。
「別に、どうも思わないわ」
「矢張草か。よく見る植物だな」
「ただ―――――――――」
「ただ?」
パチュリーはランプの明かりだけが闇を照らす中で、やわらかく微笑んだ。
「―――――あなたが来るようになってから、この図書館も随分静かになったわ」
「何だ、本を借りていくからか。そういえば、あっちの本棚の本は全部無くなっていたな。まったく、そんなことする奴
はどこのどいつだ」
魔理沙が少し離れた左側の端にある本棚を指差した。その姿を見てパチュリーはゆっくりと首を横に振る。
その表情は依然柔らかいままである。
「違うわ、あなたが帰ってからよ」
「やっぱりそうだろ?私の言っていることの何が違うんだ?」
「私はこの静かな図書館を、あなたがいない間のここが、寂しいと思うようになったのよ」
「だから、あなたが人間をやめてここにずっと来るようになるなら」
「なるなら?」
「パチュリー・ノーレッジはそんな毎日を素晴らしいと思うでしょうね」
少しばかり顔を赤くした、パチュリーの笑顔は魔理沙の瞳にいかように映ったのか。
えーと、つまりだな……。
「お前は、実は騒がしい宴会とかが大好きだってことか?」
まったく効かなかった。
「……そうよ」
……このニブチンは。
「私が人間をやめるのと何の関係があるんだ?」
「はあ……とにかく、覚えておいて頂戴。あなたが人間をやめるならば、私は歓迎するわ」
パチュリーの顔が赤い。今日は喘息の調子があまり良くないのか?
それなら今日のところはこれくらいでおいとまするか。
「そうかい、ありがとな」
そう言うと、魔理沙は開いていた本を閉じて、風呂敷に包む。それから、横においてあった箒を手に取った。
「持ってかないでー」
いつもの決まり文句。
「ずっと借りていくだけだ、さっきも言ったぜ?死んだら返すって」
いつも返ってくる答え。
このやり取りも既に日課みたいなものだ。
そうやって意地悪そうに魔理沙は笑うと、箒にまたがってふわりと浮く。そして、そのまま一気に加速すると、この図書館から飛び去っていった。
「ふぅ……」
「持ってかないでー……随分と楽しそうに仰るじゃないですか」
突然の声に振り向くと、小悪魔がニヤニヤしながら脇に本を抱えて立っていた。
「別にいいのよ、本当に楽しいんだから」
「でも、冗談抜きで持っていって欲しいものはあるんじゃないですか?」
「何のこと?」
「パチュリー様自身、とか?ああ、本と一緒に私も持っていってー……なんて」
小悪魔はにやにやしながら、自分の上司であるパチュリーを茶化す。
「そうね、そうかもしれないわ」
さきほど、魔理沙との会話で見せた笑顔だった。
「じゃあ、何でそれをさっき白黒に直球で言わなかったんですか?あれのニブチン度はなかなか高いですから、
きっとパチュリー様の気持ちに気付きませんよ?」
今までに見たことの無いパチュリーの笑顔を見て、小悪魔は軽くため息をついた。
「いまはまだいいのよ、こんな感じの距離で」
パチュリーは嬉しそうに言った。
●月 13日 木曜日
今日は変な夢を見た。
なんかよく分からないが、回転する鋸をもったマスクの男が私の部屋で落ち込んでいた。
木曜日とかうつだ……。せっかく張り切って来たのに……などとぶつぶつ呟いていた。体育座りで。
夢だったせいか、私はなんで部屋にいるのかと疑問に思うことも無くとりあえず、励まして慰めることにした。
マスクの男は「ありがとう、なんだか元気が出てきました」と、礼を言って立ち上がった。
ついでに、部屋から出て行くときに振り返って、憎い奴はいないかと聞いてきた。
私はとりあえず、アリスと言っておいた。
マスクの男は、「分かりました。このご恩は必ず」と言うと、今度こそ部屋を後にした。
夢だから大丈夫だって。
●月 14日 金曜日
今日は冗談交じりで人間をやめるとパチュリーに言った。
なんかよく分からんが嬉しそうだった。
その時の笑顔が妙に心に残って、それで何の気なしにパチュリーの名前を呟いたら、
膝の上に座っていた私のあごに頭突きをかましてきた。
それから、なぜかふてくされたフランの機嫌を直すのに1時間かかった。
金色より、紫色のほうがいいな。フランの髪を梳かしながらそう思った。それを口にしたら、今度は泣き出してしまった。
あと、帰ってきてから本を読んでいると、一人で本を読むのがなんだかつまらなく感じた。
読書は一人でするものなのに、おかしな話だ。
―――――――――白黒魔法使いの手記より
あと魔理沙外道。
そして、アリス逃げてぇぇぇー!!
これはいいパチュマリ…と思えば魔理沙がニブチン過ぎる…www
しかし、此処で敢えて言おう。私はマリアリ派だと!