※プチ作品集28にある『妹紅の独白』の続きっぽいですが読まなくても問題無かと。
妹紅の独白~えきすとら~
優しい。
親切だ。
面倒見がよい。
押しに弱い。
時に厳しい。
意外と抜けている。
皆から好かれる人気者。
正義感あふれる里の守護者。
本当は誰よりも脆い女の子。
そんな彼女を独り占めにしたいなんて、思っちゃダメかな?
* 悩み *
この気持ちはいわゆる「恋」と言うものらしい。
そして「恋」をしている者は色々と悩むらしい。
だからと言うわけではないけど、わたしは悩んでいる。
日に日に増していく想い。
あなたを見るたび心が踊る。
無意識のうちに瞳はあなたを探してる。
可憐な姿に目を奪われる。
あふれ出てしまいそうなこの想い。
あなたに伝えたい。
胸が張り裂けてしまいそうに切ない。
あなたの気持ちが知りたい。
どうやって伝えたらいいのかな。
単刀直入にキッパリと?
何気ない会話に紛れさせる?
いっそ行動で示してみる?
ああもう!!
いくら悩んでも答えが出ない。
「恋」ってこんなに大変なものだったんだ。
ぐるぐるぐるぐる回る思考。
たどり着くのはいつも同じ。
「慧音はわたしのことをどう思っているのかな?」
聞きたいけどなかなか聞けない。
タイミング的にも気持ち的にも。
胸にもやもやがたまっていく。
人と違う道を生きてきたわたしには初めての気持ち。
初めて抱いた「恋心」。
人はそれを「初恋」と呼ぶ。
「初恋は叶わない」と一体誰が言ったのか。
そんなの信じない。
信じたくない。絶対に。
普通の人間はきっと何度も「恋」をする。
だからそんなことが言えるんだ。
人間だとあなたは言ってくれた。
でも「普通の人間」じゃないって分かってる。
だから「初恋」以降「恋」をすることなんてきっと出来ない。
次の「恋」をするということは、この気持ちが叶わないってことだから。
千年生きて、初めて知った感情。
それは永遠の始まりと同じほどに私を悩ませる。
* 想い人 *
誰にでも優しいのは彼女のいいところ。
人間が好きで、助けを求められたらすぐに飛んでいく。
いつも一生懸命で、純粋で、まぶしい。
わたしに向ける笑顔とわたし以外に向ける笑顔。
どこか違う気がするのは自惚れ?見間違い?
みんなの中の一人じゃなくて、特別になりたい。
不老不死であるわたしを受け入れてくれた。
普通の人間と同じように扱ってくれた。
それはわたしにとって十分なきっかけだったのだ。
真面目さと優しさを知った。
大人びた雰囲気をまとっていた。
親切で押しが弱くて人の頼みを断れない。
寺子屋を開き子供たちの面倒も見る。
時に厳しくお堅い一面が顔を出す。
老若男女問わず人気者である。
里の守護者として尊敬されている。
人は皆、敬意を払って彼女の事を呼ぶ。
「けーねさま」「慧音様」「白沢様」
人間が好きな半獣である彼女は呼ばれるたび、穏やかに返事をする。
人間が好きだから、好かれるのが嬉しいのだと語った。
でも、ある日わたしは気付いてしまう。
彼女の笑みの奥に潜む小さな寂しさに。
本当は対等に話がしたいのだとそれは語っているように感じた。
本当の自分を見て欲しいとかすかに叫んでいる気がした。
わたしは本当のあなたを知りたい。
里の守護者としてのあなたではなく。
守護者として在ろうとしているあなたではなく。
本当のあなた。飾らないあなた。
……見せて欲しいな。
――わたしにだけ、見せて欲しいな。
わざと壁を作るような言葉。
必要以上に堅い態度。
そんなのわたしには使わなくていいんだよ?
ありのままのあなたを受け入れるから。
あなたがわたしを受け入れてくれたように。
* 雫 *
月がきれいなある夜のこと。
里の者から譲り受けたと言う酒を酌み交わす。
縁側に二人並んで他愛のないことをぽつりぽつりと話す。
お互いほろ酔い気分でどこか陽気。
月の光で白く見える頬が朱に染まる。
こくん、とまた一つ喉が鳴る。
思わずめぐらせた視線は彼女のそれと絡まった。
浮かぶのは穏やかな笑み。
静寂の時が過ぎる。
心は不思議と落ち着いていた。
そして自然に口が開いた。
「わたし、慧音のことが好き」
今までの悩みとか、心配とか、不安とか、心の中には何にもなかった。
あったのはただただ純粋な「好き」という気持ち。
友人以上の気持ち。あなたの一番近くにいたいという気持ち。
―……私も、妹紅のことは好きだぞ。
いきなりのことに少し驚いたみたいだけど、すぐに答えてくれた。
その笑顔はいつもと同じ…?
そう。「応えて」ではなく、「答えて」くれた。
その言葉に宿るのは友人としての感情。
付き合いの長さがそれを教えてくれた。
「あはは、そっか。ありがと」
胸が、心が…痛い。
平穏は瞬く間に乱される。
心の痛みがじんわりと目尻に浮かんだ。
月を見上げる振りをして押し戻す。
彼女の前でこれをこぼすわけにはいかない。
心配させてしまう。
驚かれてしまう。
綺麗な夜に彼女の憂い顔は似合わない。
だから、あと少しだけ、我慢。
想い人は酔いが回って眠ってしまった。
風邪を引かないように布団に寝かせる。
ふと気持ちが緩む。
それは決壊の予兆。
庵を後に竹林へと羽ばたく。
きらりと雫が空に舞った。
迷いの竹林にある自らの住処。
淡い月の光が唯一の光源。
薄暗い部屋の中、惨めな気持ちが湧き上がる。
頭の中をぐるぐると彼女の言葉が巡る。
彼女の「好き」は友人の気持ち。
わたしの「好き」は恋する気持ち。
こんなときはどうすればいいの?
……分からない。
…分からない。
分からない!!
ぽろりぽろり。
涙がこぼれる。
暗い気持ちが流れていく。
ぽろりぽろり。
嗚咽がこぼれる。
乱れる思考が流れていく。
竹林に朝の光が差し込む頃。
ぐちゃぐちゃな心はやっと落ち着きを取り戻した。
* 決意 *
改めて、冷静な頭で思考する。
昨夜は「好き」の違いに取り乱してしまった。
でもよく考えてみれば当然なのかもしれない。
だってわたしははっきりと「恋する気持ち」を告げてはいない。
気持ちを込めて言ったつもりでも、相手がそれを感じなければ意味がない。
…つまりはそういうことだ。
彼女はわたしが言葉に込めたものに気付かなかった。
だから、いつもと同じ笑顔で「答えた」。
友人として好きだとわたしに言ったのだ。
ゆっくりと考えてみれば特に落ち込むことじゃなかった。
まったく…昨日の涙を返して欲しい。
ひとつ、息をつく。
ふと浮かんだのは月光の中の笑顔。
ショックを受けていても脳はしっかり記憶していたらしい。
自分の頭の現金さに呆れつつも思い出す。
愛しい人の、素敵な笑顔。
何でも包んでしまうような。
誰でも見とれてしまうような。
彼女の優しさが滲み出すような。
ほんの少しだけ苦しそうな……。
――あれ??
いつもと同じだと思っていたものに見つけた僅かな違い。
それが意味するのは一体何?
一度気付いてしまえば気にしないなんて無理だった。
「友人としての気持ち」を伝える笑顔にそれが混ざっていたのは何故?
わたしのことを「友人」として好いてくれているのなら混じるはずのないもの。
と言うことは、「友人」として好いていない?
…いや、それはありえない。
幾つもの季節を共に過ごしたわたしたちは間違いなく「友人」だ。
「大切な友人」だと言ってくれたことがあるから、間違いない。
自惚れとかでは絶対無いと言い切れる。
じゃあ、……もしかして。
本当は気付いていたのかもしれない。
わたしの言葉の意味に。
「恋する気持ち」に。
そしてあの答えなのだとしたら。
僅かに見えた苦しみが意味するのは………。
パシンッ!
頬を叩いて負に傾きかけた思考を断ち切った。
どれだけ一緒にいても、親しくしていても、自分以外の気持ちは分からない。
普段の行動や言動や態度から想像し、推測するしかない。
知りたいのなら聞けばいい。
そうじゃないといつまでも分からないまま。
伝えたいのなら言えばいい。
そうじゃないといつまでもくすぶったまま。
わたしはまだ、ちゃんと気持ちを伝えていない。
わたしはまだ、彼女の本当の気持ちを聞いてない。
気持ちを伝えることで関係が壊れてしまうことを危惧したこともあった。
伝えた気持ちが彼女の重荷になってしまわないかと思ったこともあった。
それはとても怖いこと。
だけどそれ以上に伝えたい、知りたいと思ってしまう。
これはわたしのわがまま。
それを突き通すのに必要なのは、覚悟。
結果として何が起こっても受け入れる覚悟。
ゆっくりと、しかし確実に心の中で覚悟と言う名の糸を結んでいく。
ぎゅっと固く結ばれたそれは揺るぎのない決意となる。
――何があってもこの気持ちは変わらないから。
わたし藤原妹紅は、上白沢慧音に告白します。
妹紅の独白~えきすとら~
優しい。
親切だ。
面倒見がよい。
押しに弱い。
時に厳しい。
意外と抜けている。
皆から好かれる人気者。
正義感あふれる里の守護者。
本当は誰よりも脆い女の子。
そんな彼女を独り占めにしたいなんて、思っちゃダメかな?
* 悩み *
この気持ちはいわゆる「恋」と言うものらしい。
そして「恋」をしている者は色々と悩むらしい。
だからと言うわけではないけど、わたしは悩んでいる。
日に日に増していく想い。
あなたを見るたび心が踊る。
無意識のうちに瞳はあなたを探してる。
可憐な姿に目を奪われる。
あふれ出てしまいそうなこの想い。
あなたに伝えたい。
胸が張り裂けてしまいそうに切ない。
あなたの気持ちが知りたい。
どうやって伝えたらいいのかな。
単刀直入にキッパリと?
何気ない会話に紛れさせる?
いっそ行動で示してみる?
ああもう!!
いくら悩んでも答えが出ない。
「恋」ってこんなに大変なものだったんだ。
ぐるぐるぐるぐる回る思考。
たどり着くのはいつも同じ。
「慧音はわたしのことをどう思っているのかな?」
聞きたいけどなかなか聞けない。
タイミング的にも気持ち的にも。
胸にもやもやがたまっていく。
人と違う道を生きてきたわたしには初めての気持ち。
初めて抱いた「恋心」。
人はそれを「初恋」と呼ぶ。
「初恋は叶わない」と一体誰が言ったのか。
そんなの信じない。
信じたくない。絶対に。
普通の人間はきっと何度も「恋」をする。
だからそんなことが言えるんだ。
人間だとあなたは言ってくれた。
でも「普通の人間」じゃないって分かってる。
だから「初恋」以降「恋」をすることなんてきっと出来ない。
次の「恋」をするということは、この気持ちが叶わないってことだから。
千年生きて、初めて知った感情。
それは永遠の始まりと同じほどに私を悩ませる。
* 想い人 *
誰にでも優しいのは彼女のいいところ。
人間が好きで、助けを求められたらすぐに飛んでいく。
いつも一生懸命で、純粋で、まぶしい。
わたしに向ける笑顔とわたし以外に向ける笑顔。
どこか違う気がするのは自惚れ?見間違い?
みんなの中の一人じゃなくて、特別になりたい。
不老不死であるわたしを受け入れてくれた。
普通の人間と同じように扱ってくれた。
それはわたしにとって十分なきっかけだったのだ。
真面目さと優しさを知った。
大人びた雰囲気をまとっていた。
親切で押しが弱くて人の頼みを断れない。
寺子屋を開き子供たちの面倒も見る。
時に厳しくお堅い一面が顔を出す。
老若男女問わず人気者である。
里の守護者として尊敬されている。
人は皆、敬意を払って彼女の事を呼ぶ。
「けーねさま」「慧音様」「白沢様」
人間が好きな半獣である彼女は呼ばれるたび、穏やかに返事をする。
人間が好きだから、好かれるのが嬉しいのだと語った。
でも、ある日わたしは気付いてしまう。
彼女の笑みの奥に潜む小さな寂しさに。
本当は対等に話がしたいのだとそれは語っているように感じた。
本当の自分を見て欲しいとかすかに叫んでいる気がした。
わたしは本当のあなたを知りたい。
里の守護者としてのあなたではなく。
守護者として在ろうとしているあなたではなく。
本当のあなた。飾らないあなた。
……見せて欲しいな。
――わたしにだけ、見せて欲しいな。
わざと壁を作るような言葉。
必要以上に堅い態度。
そんなのわたしには使わなくていいんだよ?
ありのままのあなたを受け入れるから。
あなたがわたしを受け入れてくれたように。
* 雫 *
月がきれいなある夜のこと。
里の者から譲り受けたと言う酒を酌み交わす。
縁側に二人並んで他愛のないことをぽつりぽつりと話す。
お互いほろ酔い気分でどこか陽気。
月の光で白く見える頬が朱に染まる。
こくん、とまた一つ喉が鳴る。
思わずめぐらせた視線は彼女のそれと絡まった。
浮かぶのは穏やかな笑み。
静寂の時が過ぎる。
心は不思議と落ち着いていた。
そして自然に口が開いた。
「わたし、慧音のことが好き」
今までの悩みとか、心配とか、不安とか、心の中には何にもなかった。
あったのはただただ純粋な「好き」という気持ち。
友人以上の気持ち。あなたの一番近くにいたいという気持ち。
―……私も、妹紅のことは好きだぞ。
いきなりのことに少し驚いたみたいだけど、すぐに答えてくれた。
その笑顔はいつもと同じ…?
そう。「応えて」ではなく、「答えて」くれた。
その言葉に宿るのは友人としての感情。
付き合いの長さがそれを教えてくれた。
「あはは、そっか。ありがと」
胸が、心が…痛い。
平穏は瞬く間に乱される。
心の痛みがじんわりと目尻に浮かんだ。
月を見上げる振りをして押し戻す。
彼女の前でこれをこぼすわけにはいかない。
心配させてしまう。
驚かれてしまう。
綺麗な夜に彼女の憂い顔は似合わない。
だから、あと少しだけ、我慢。
想い人は酔いが回って眠ってしまった。
風邪を引かないように布団に寝かせる。
ふと気持ちが緩む。
それは決壊の予兆。
庵を後に竹林へと羽ばたく。
きらりと雫が空に舞った。
迷いの竹林にある自らの住処。
淡い月の光が唯一の光源。
薄暗い部屋の中、惨めな気持ちが湧き上がる。
頭の中をぐるぐると彼女の言葉が巡る。
彼女の「好き」は友人の気持ち。
わたしの「好き」は恋する気持ち。
こんなときはどうすればいいの?
……分からない。
…分からない。
分からない!!
ぽろりぽろり。
涙がこぼれる。
暗い気持ちが流れていく。
ぽろりぽろり。
嗚咽がこぼれる。
乱れる思考が流れていく。
竹林に朝の光が差し込む頃。
ぐちゃぐちゃな心はやっと落ち着きを取り戻した。
* 決意 *
改めて、冷静な頭で思考する。
昨夜は「好き」の違いに取り乱してしまった。
でもよく考えてみれば当然なのかもしれない。
だってわたしははっきりと「恋する気持ち」を告げてはいない。
気持ちを込めて言ったつもりでも、相手がそれを感じなければ意味がない。
…つまりはそういうことだ。
彼女はわたしが言葉に込めたものに気付かなかった。
だから、いつもと同じ笑顔で「答えた」。
友人として好きだとわたしに言ったのだ。
ゆっくりと考えてみれば特に落ち込むことじゃなかった。
まったく…昨日の涙を返して欲しい。
ひとつ、息をつく。
ふと浮かんだのは月光の中の笑顔。
ショックを受けていても脳はしっかり記憶していたらしい。
自分の頭の現金さに呆れつつも思い出す。
愛しい人の、素敵な笑顔。
何でも包んでしまうような。
誰でも見とれてしまうような。
彼女の優しさが滲み出すような。
ほんの少しだけ苦しそうな……。
――あれ??
いつもと同じだと思っていたものに見つけた僅かな違い。
それが意味するのは一体何?
一度気付いてしまえば気にしないなんて無理だった。
「友人としての気持ち」を伝える笑顔にそれが混ざっていたのは何故?
わたしのことを「友人」として好いてくれているのなら混じるはずのないもの。
と言うことは、「友人」として好いていない?
…いや、それはありえない。
幾つもの季節を共に過ごしたわたしたちは間違いなく「友人」だ。
「大切な友人」だと言ってくれたことがあるから、間違いない。
自惚れとかでは絶対無いと言い切れる。
じゃあ、……もしかして。
本当は気付いていたのかもしれない。
わたしの言葉の意味に。
「恋する気持ち」に。
そしてあの答えなのだとしたら。
僅かに見えた苦しみが意味するのは………。
パシンッ!
頬を叩いて負に傾きかけた思考を断ち切った。
どれだけ一緒にいても、親しくしていても、自分以外の気持ちは分からない。
普段の行動や言動や態度から想像し、推測するしかない。
知りたいのなら聞けばいい。
そうじゃないといつまでも分からないまま。
伝えたいのなら言えばいい。
そうじゃないといつまでもくすぶったまま。
わたしはまだ、ちゃんと気持ちを伝えていない。
わたしはまだ、彼女の本当の気持ちを聞いてない。
気持ちを伝えることで関係が壊れてしまうことを危惧したこともあった。
伝えた気持ちが彼女の重荷になってしまわないかと思ったこともあった。
それはとても怖いこと。
だけどそれ以上に伝えたい、知りたいと思ってしまう。
これはわたしのわがまま。
それを突き通すのに必要なのは、覚悟。
結果として何が起こっても受け入れる覚悟。
ゆっくりと、しかし確実に心の中で覚悟と言う名の糸を結んでいく。
ぎゅっと固く結ばれたそれは揺るぎのない決意となる。
――何があってもこの気持ちは変わらないから。
わたし藤原妹紅は、上白沢慧音に告白します。