「あぁ~…。暇だなぁ~」
此処は幻想郷の、妖怪の山より高い場所にある天界。そこにあるキレイな花が咲き乱れる草原で、比那名居天子はつぶやいた。
「この前は楽しかったんだけど、衣玖に怒られちゃったからなぁ。もう異変は起こせないし…」
ごろごろごろ。
両腕を万歳して右に左にと転がる。服や帽子、綺麗な青い長髪に葉っぱがついてもお構いなし。そのまま暫く転がり続けると、何か細長いものにぶつかってしまった。
「痛っ。何よ…って、衣玖」
自分にぶつかった物を涙目になりながらも確認すると、とても長い緋色の羽衣が印象的な
永江衣玖が立っていた。
「何をしているのですか、比那名居様」
「いや、ちょっと新技を開発しようと」
「妙な言い訳はいいですから。お立ち下さい比那名居様」
しぶしぶと天子は立ち上がる。そして衣玖が天子に手を伸ばし、体中に付いた葉っぱを丁寧に一枚一枚取り除く。服に付いた埃も綺麗に叩き、最後に髪を手櫛で整えて満足そうに一回うなずく。
「終わりましたよ。まったくいつもお洋服は綺麗にしないと駄目と言ったではありませんか」
「むー…。そんな要所要所長い服を着て、何処も汚さない衣玖がおかしいのよ」
「気をつけていますから。それで、比那名居様。本当は何故あのように転がっていたのですか?」
「う~ん、単刀直入に言うとね」
「はい」
「と~~~~~~っても暇なのよ」
「はぁ」
またですか。と言わんばかりの表情をする衣玖。
「それで、異変を起こすのは衣玖に禁止にされちゃったでしょう?だから何か面白いこと無いかと考えてたの」
「そうですか」
「うん、それで何か無いかな?」
「何かと申されましても、比那名居様自身の仕事があるのでは?」
「ああ衣玖。それは違うわよ~。もっとこう、面白いこと!なんかこう~…ズババ~~ンとかバシーーンとした感じの!」
「は、はぁ」
よく分からない。といった表情の衣玖。でも適当な事を言っても納得するようなお方ではないと昔から知っている。自分が出来うる限りの返答をしきりに考える。
うんうんと十秒ほど考えてから、ふと思い出す。
「そういえばですけど…」
「うん!なになに?」
まだ『そういえば』しか言ってないのに、がしっと衣玖の両肩を掴み、目をキラキラとさせて身を乗り出してくる天子。
「わわ…、私が仕事中で幻想郷を上空から見回っていた時の事なんですが」
少し顔を引きつらせて、体をそらしながら会話を続ける衣玖。
「うんうん!
ズイズイ
「そ、それで以前比那名居様が地震を起こした場所、博麗神社上空まで来たときに何やら騒がしかったので、確認に言ったんですよ」
「それでそれで!」
ズイズイズイズイ
「そ、それで博麗の巫女に聞いたところ、『夏祭りをするのよ』っと申しておりまして」
「夏祭りって何!」
ズイズイズイズイズイズイズイズイ
話すごとにドンドン迫ってくる天子。衣玖は既にイナバウアー。
「せ、説明しますから、離れてください!」
流石に限界になったのか、衣玖が堪らず声を上げる。
「わ、ごめんごめん」
自分でも気がついてなかったようで、慌てて体勢を元に戻す。衣玖はほっとため息をし、そのまま体勢を持ち直す
「それで、夏祭りってなんなの?」
「そうですね、博麗と一緒に居た鬼が言っておりましたが『夏祭りと言ったら飲んで騒ぐしかないだろーー!!』っと申してましたね」
その後、霊夢に『いつものことでしょう!』っと殴られていたのはご愛嬌。
「の、飲んで騒ぐ…。それって公認で異変オッケーって事かな?」
「どうでしょうか…、なにか違う気もしますが」
「ま、そんな事どうでもいいか。さっそく行きましょう」
「あ、比那名居様。今日の分のお仕事は?それにもう夜ですよ?」
「帰ってからやるー!とうっ!」
「以前もそう申したじゃないですか!お待ちください比那名居様!」
~少女降下中~
「着いたー!」
「まったくもう、何故あんな速さで降りるのですか。ああ…髪もボサボサになってしまってます。桃もずれてしまってますよ?比那名居様」
「嘘!?衣玖直して直して」
「はい、少々じっとしてて下さいね」
そう言って本日二度目の身だしなみをする。
「はい、出来ましたよ」
「ありがとう!それじゃあレッツゴー」
「わわ、ちょ、ちょっと押さないでください比那名居様…」
天子が衣玖の背中をグイグイと押して急かしながら、博麗神社の階段を登りきる。
階段を上りきり、鳥居の前まで来ると夜と思わせない程の光と、楽しそうな笑い声が二人をむかい入れる。
「わあ…」
「コレはコレは」
二人して感嘆の声を上げる。大量の出店や沢山の人妖があちらこちらで大騒ぎ。いたるところで笑い声が上がり、まるで天変地異がおこったような騒がしさ。
それに圧倒されて、鳥居の入り口で二人で立っていると黒い洋服を着た魔女が声をかけてきた。
「よー、お前等も来たのか」
「あ、魔理沙」
「こんばんは、魔理沙」
「おう、こんばんわはだ。二人して何してんだ?こんな入り口で」
「え、いやちょっと…ねえ?衣玖」
「はぁ…」
しどろもどろと返答をする天子を見て魔理沙は、ははぁんと頷き天子を指差して言った。
「天子。お前祭り初心者で何をすればいいのか分からないんだろう?」
「なっ、そ、そんなことないわよ!ちゃんとしってr…」
「仰る通り、よく分からないんですよ」
「い、衣玖~…」
項垂れながら、衣玖を睨み付ける天子。それに真っ直ぐ目を合わせながら、衣玖ははっきりと言う。
「嘘はよろしくないですよ比那名居様」
「ぶー…」
ホッペをぷくーっと膨らませて、せめてもの反抗。
それを見た魔理沙はくっくっくと笑い、衣玖に向けて親指を立てにこやかに言う。
「正直でよろしい。その褒美にこの霧雨魔理沙様が祭りの楽しみ方を直々に教えて進ぜよう」
「え?本当?」
「おお、任せとけ。祭りの隅から隅まで楽しみ方をレクチャーしてやるぜ」
ニカっと笑い、手を腰に当て胸を張る魔理沙。魔理沙を先頭に、天子と衣玖は並んで歩く。
「んじゃ、早速行こうか。」
「おおー。で、まず何から行くの?」
「ん、まずは食べ物から入るのが基本だな。よし、あれにしよう」
そう言って魔理沙が指を指す。その先には、美味しそうなバターの香りが漂うお店があった。
「タバがゃじ?」
「変わった名前ですね?」
「だあ、反対に読むな。じゃがバターだ!」
「あ、なるほどー」
「読みづらいですね」
「まあ、私も昔は間違えたなあ。反対に見えちゃうんだよな。さて、じゃがバター三つ頼む」
「はいはーい」
魔理沙が注文し、暫くするとジャガイモを丸ごとふかしたものが木の皿に載せられて出てきた。
「バターはつけ放題だからね」
そういって、亭主はバターがたっぷり入った箱を指差す。
「さあ、おまっとさんだ」
そういって、天子と衣玖にジャガイモを手渡す。
「でか!」
「大きいですね」
「それにバターを塗れば完璧だ。因みにバターはこれでもかって位つけるのがお勧めだぜ」
そう言って、魔理沙はジャガイモの半分くらいの量のバターを乗せる。乗せたバターはジャガイモの熱によって直ぐに溶け始める。そして、その溶けたバターの匂いが天子の食欲をかきたてたようで、天子も魔理沙と同じくらいのバターを乗せる。
しかし衣玖は少なめに盛る。それを見た魔理沙は、衣玖からジャガイモの乗った板を奪い取る。そして、追加攻撃とばかりに天子が大量のバターをぶちかました。
「あーーー!バターが!ジャガイモがバターに飲み込まれてしまったじゃないですか!!」
「いやいや、騙されたと思って食ってみろって。それでも絶対美味いから」
「そーそー。絶対美味しいから。ね?」
「比那名居様は食べたこと無いでしょう…」
はふぅ…とため息を吐き、もはやバターと呼ぶべきジャガイモを見つめる。
「まあ、いざとなったら比那名居様に食べてもらいますからね。我慢はお得意でしたし」
「げ、それは無いんじゃない?衣玖」
「まーまー。これから祭りは楽しむ事が多いから、時間がもったいない。さっさと食べようぜ?」
「そうですね、頂ましょう」
「ほーい、って衣玖。それ私のじゃがバター!」
「責任は自分でお取りください。頂きます」
「はっはっは、天子頑張れよー。いただきまーす」
「うぅー。頂きます…」
まず最初に魔理沙がジャガイモを、箸でほぐす。そしてほぐした場所にバターを流し込み、よく染み込んだのを確認してから口に運ぶ。
それを見よう見まねで天子と衣玖は、同じ要領で箸を進める。
予想以上に熱いのか、二人は目を白黒させながら噛み締める。そうして一口めを飲み込む。
「「美味しい…」」
「だろ?」
二人の反応をそれはそれは嬉しそうに笑う魔理沙。その後は、食べ終わるまで誰も喋らずに夢中になって食べてしまっていた。
そして、わずか数分で皆の皿は空になってしまった。
「ふー、食った食った」
「美味しかったー…」
「そうですね、まさかあんな単純な料理がこんなに美味しいとは思いませんでした」
「まあ雰囲気ってのもあるがな。家で作っても美味いんだけど、何故か祭りのよりかは美味しくなかったりするんだよな」
「ふ~ん。雰囲気ねえ」
「プラシーボ効果ですね」
「ん~。まあそんな感じじゃないか?さて、次行こうぜ」
「次はなんなの?魔理沙」
「チョコバナナだ」
「チョコバナナて、また食べ物?」
「はっはっは、祭りなんて九割は飲み食いだぜ?まあ、付いて来なって。後悔はしないさ」
「ふ~ん、じゃあレッツゴー」
「で、コレがチョコバナナ屋さんだ」
魔理沙が指を指すと、店のカウンターには割り箸に刺さったバナナが大量に並んでいた。どれも黒くチョコでコーティングされており、甘い匂いが漂う。
「魔理沙、チョコバナナって高いんだね」
「は?
「いや、だってアレ」
そう言って指を指す。その先にはチョコバナナの値段が書かれた札があり、『百万円』と書かれてあった。
「いや、アレは冗談だって」
「え?嘘なの?」
「ああ、アレは単なる洒落みたいなもんだ。普通の値段で買えるから気にするな。だから財布をしきりに確認するのは止めろって衣玖」
「い、いえ。ちょっと所持金を確認しただけです。別に買ってあげられるかなあっとか思ったわけでは…」
慌てたように財布を懐に仕舞う衣玖。
「さ、さて、早速買いましょうか。」
「「…」」
「…あの、ニヤニヤしながら見るのは止めてもらえませんかお二人とも」
「はいはい、んじゃ、私が買ってくるからまってな」
ご馳走様、っと魔理沙が手を振りながら買いに行く。
二人きりになり、天子が衣玖に近づく。正面に立ち、ニッコリと笑いながら天子は言った。
「衣玖、ありがとね」
ぼんっと音が聞こえたかのようにみるみる顔が赤くなる衣玖。
「お、お気にせずに。比那名居様の我侭を聞くのは私の仕事でもありますから」
「ふ~ん?」
腕を後ろに組みながら、下から覗き込んでくる天子。いくら顔を左へ右へと移動してもしつこく覗き込んでくる。
「おーい、おまたせー」
丁度、衣玖が限界になり始めた頃、魔理沙が三本のチョコバナナをもって戻ってきた。
「わあ、ありがとー」
天子は既にチョコバナなの方に興味が向いたため、衣玖から離れる。衣玖はほっとしたようにため息を吐いた。なんとか顔が赤いのも直ってきたようだ。
「ふ~ん、コレがチョコバナナねえ。いただきまーす。はむ・・・ちゅ・・・ん、おいし」
ぼんっ!
「な、なあ天子。ワザとやってるのか?」
「むちゅ・・、ぷはぁ。何が?」
「い、いや。まあ何でもないぞ。きにするな。うん」
そう言って、魔理沙は衣玖の方を見る。
「………はぅ」
(ありゃ暫く帰ってこないな…)
顔をまっかっかにし、呆ける衣玖をみてそう判断する。
しょうがないので魔理沙と天子で、一本半ずつ美味しく頂きました。
暫くして、祭りの騒ぎにも負けないほどの声が響き渡った。
「大変お待たせしました!本日のメインイベント『弾幕花火大会』が始まります。参加の方は博麗神社居間まで願います!!なお、私が今使っているにとり特製『拡声器』。ご要望の方も博麗神社までーー!!」
「お、きたな。メインイベントが」
「むぐむぐ…。だんみゃくはにゃびってにゃに?」
「ええい、口の中のバナナを飲み込んでから話してくれ」
それを聞いた天子は、急いで飲み込む。
「んぐっ…、ぷは。で、弾幕花火って何?」
「ん、これは口では説明できないんだが、まあこれぞ夏祭り!って感じなやつだぜ」
「わあ、行きたい行きたい!」
「おう、もちろん行くさ。天子、衣玖ひっぱって来てくれ」
「オッケー」
まだ、顔を赤めてぼーっとしている衣玖を天子が手を引っ張って空を飛ぶ魔理沙を追う。
着いたのは神社の鳥居の上。そこに三人で座る。
「霊夢に見つかるとヤバイんだが、今は大丈夫だろう。」
「それで、いつ始まるのさ?」
「ん、もうそろそろだ。しっかり空をみてろよ」
衣玖と天子は空を見上げる。空は雲ひとつ無く、綺麗な星空が広がる。しかし、よくよく見るとその空に一つの人影が在るのに気づく。
「誰か居ますね」
「なんだろ、変わった帽子の人だね」
「どれどれ?お、今年の頭は慧音か。こりゃ楽しみだ」
魔理沙の言葉に衣玖と天子は顔を見合わせる。次の瞬間強い光が起こり、慌てて先程の人影を見る。
すると先程の人影を中心に色鮮やかの光が舞う。まるで一つの太陽のよな綺麗な光を発する。赤、青と交互に光、二人はその光景に釘付けとなった。
徐々に光は三角の形となり、また色鮮やかに光る。
そしてその光とはまた別に、大きな炎が上空に上がる。二人は不思議に思っていると、徐々に炎は形を変えて鳥の形となる。
その鳥が上空を自由に飛びまわっていると、またまた別のところから大量の虹色の光が現れる。
その光は炎の鳥目掛けて飛んでいくが、炎の鳥はそれを回避。鬼ごっこのようにそれが続けられている。
「ありゃ、蓬莱組だな。相変わらず派手でいいな」
魔理沙が感心したように言うが、二人は夢中に見入っているために聞こえていないようだ。
「やれやれ…」
魔理沙が再び、視線を上空に戻すとあちらこちらで光が上がっていた。
「夢想封印・反魂蝶・極彩颱風・サイレントセレナに、…あれは蓬莱の薬だったかな?今年は豪勢だなあ」
最初は順番に上がっていた弾幕だったが、蓬莱組の喧嘩により好き勝手に弾幕を出し始めたために、よく分からない光の群れになってしまっていた。
しかし、元が綺麗な弾幕。それでも始めてみる二人には素晴らしいものであった。一心にその光景を見ている。
「ん?」
その弾幕花火の中心に向かっていく影を魔理沙は見つける。遠くて見づらいが、小さい体に不釣合いな角を頭に生やしている。萃香に間違いない。
「~~~~~~~!!」
そしてその萃香が何かを叫ぶと、みるみる体が大きくなる。さらに、萃香は続けざまに叫ぶ。
「百万鬼夜行―――!!!!」
巨大な萃香から、大小様々の弾幕が放たれる。他で弾幕を放っていた人妖も、突然の強力な弾幕に慌てて逃げ回る。
「おーおー、萃香の独壇場じゃないk・・・!!」
ヒュン!!
何かが魔理沙の頬をかすめた。
ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!
「わあああ!」
「きゃああ!」
「っく!」
続けざまに大量に、飛んでくる。どうやら飛んできたのは萃香の弾幕のようだ。
慌てて三人はその場から上空に逃げる。
「まったく、当ったらどうするつもりだったのでしょうか」
「魔理沙、あれどうするの?」
「ん?売られた喧嘩は買うしかないぜ?」
それを聞いた天子はニヤリと笑う。
「そうね、あそこまで綺麗な弾幕を見せてくれたんならお返ししなきゃね」
「そうですね、綺麗な風景を台無しにした事を少し反省してもらいましょうか」
衣玖は萃香を見上げながら言った。表情は無表情ながらも、その声には少し怒りが込められていた。
「よーし、突撃だ。弾幕はパワーだぜ!」
「おー!」
「はい」
その日の幻想郷の空は、沢山の雷と図太いレーザーが暴れまわっていたそうな。
騒ぐしかないだろ
>高んだね
高いんだね
誤字ご指摘ありがとうございました。修正いたしました。
4の名前が無い程度の能力さん。
言われて気づきました…。その二つの神器を入れるのを忘れるなんて…orz