――でね、お使いの帰り道に寄ったミスティアの屋台で、『風流ね』って咲夜さんに奢ってもらったのよ。
あ、それ、その牌、ぽ、じゃなくてチー!
この三本竹がいらなくて……へっへー、これであと二つ揃えばリーチでき――へ、何?
……ろん?って、またぁ!?
といといさんあんこーどらどら?
そんな役もあるのね。なんか呪文みたい。
私、一回も勝ててないんだけどぉ……。
うぅ、あんた、ずるっこしてるんじゃないでしょうね。
わ、笑ったわね!今の笑いは『れーせんなんかにズルはしませんよー』って感じだった!
見てなさいよぉ、次こそはどかーんっておっきな役で勝つんだから!
うん、まぁ。
おっきな役じゃないと点数差ひっくり返せないんだけど。
『役満積もっても同点』?
ぅぐ、いいもん、これだけ勝てないんだから、役満の一つや二つ、次で引き寄せてやるわ!
やたい……あー、うん、赤提燈が揺れててさ、いい匂いがしたし、知り合いの声も聞こえたからふらふらーと。
入る間際に風見幽香が出てきてさ、ちらっとこっち見て何か呟いてたからちょっと怖かったけど、
あっちは帰る所だったみたい。
そんで暖簾をくぐったら、いきなり隅っこにいた咲夜さんが『風流ね』って呟いて、『今日は奢るわ』って。
……今思えば、幽香もそう言ってたのかも。
うん、そうだね。私も、今のあんたみたいに『何が風流なんだろう』ってきょとんってした。
それは、横にいた――あ、咲夜さんの、ね――文も同じだったみたいで、『何がです?』って尋ねてたわ。
そしたら、咲夜さんは『咲くのは何?』だって。
あ、いいな、それ。そうやって牌を一遍に積むの。私がやると、どうしても真ん中から折れちゃうのよね。
握力の問題なのかなぁ、それとも器用さ?うーん。
って、あ、ごめん。言ってる間に三列も積ませちゃったね。こっちも是で完成、と。
ほらほら、早くサイコロ振って!
え?――うぅん、咲くのは血じゃないみたい。咲かせそうだけど。――文がそう答えて、苦笑されてたし。
でも、その謎々で、ミスティアはわかったみたい。
『なるほど、確かに風流だねぇ。私からも一皿サービスするよ』って笑ってたもん。
『無理やりかしら?』『最適な奴はもう帰っちゃったし、いいんじゃない?』『じゃ、代役だけどサービスは宜しく』。
宜しくって言われても、私達はさっぱりわかんなかったけど。
わ、わ、わ、凄い良い最初の牌!あがるまでふた……。
なんでもないわ、うーん、どーしよーかなー、どれでも切れちゃうな―。
ほら、笑ってないで早く切りなさいってば!ハリーハリー!
あー!それ、そのみなみ、ホン!じゃなくて、ポン!
うるさい焦ってない、だって、其処の竹に留ったのがホーホって鳴いてるから、つい……!
ぅーともかく、是で後一つ……♪
……なんで、また笑うのよ。
えっと、それで、咲夜さんとミスティアはクスクス笑ってたんだけど……。
私達は置いてけぼりだったから、三人で顔を見合せて、首を捻ってたの。
あ、そうだよ。三人。文の隣で、私の前にきた人だから、屋台の三人目のお客さんかな。うん。
あんたも知ってる人よ。ほら、この前、此処にも来たじゃない。神社の――
――ぅわ、吹いてきたね、ひゅーひゅーってこの時期にしては少し涼し過ぎるかな。
中に戻ろっか?私はともかく、あんたはそういうの気にするでしょう?
上着とかはおってなくてワンピーっしゃぁぁぁぁ、きたっ、きたっ!あがり!ツモよ!
しかもしかも、宣言通り、役満よ、役満!やったぁ!
つーいーそー?なにそれ、違うよ。
私が知ってる役満って、強そうなこくしむそうと簡単そうなすーあんこーだけだもん。
ほらほら、見なさいよ、一丸三つに五丸三つ、一竹三つで南三つ。後二つは白。ね、すーあんこでしょっ。
ふふん、笑えよ、てゐ。
って、笑えとは言ったけど、なんでそんな半笑いなのよ……?
ないてる?え、え、顔で笑って心で泣いて?あ、違う?
あ、そっちの『鳴く』ね。うん、私、南を鳴いてるよ。それがどうかしたの?
……えーっと、ちょっと待って。落ち着いて復唱するから。
…………『四暗刻は鳴いちゃ駄目。四暗刻は泣いちゃ駄目』。
………………ないてないわよ、泣いてないもん、うわーん。
ぐす……いいわよ、ちょっとだけ勝てるかもって期待してただけだから。
月の兎は期待と共に沈んでいくもん……ぐすぐす。
……?私の前に屋台に来た人?だから、守矢神社の巫女さんだって。東風谷早苗さん。
あ、巫女じゃなくて、風祝だったっけ。それがどうかしたの?
『わかった』……。
え、ちょっと待ちなさいよ、なんであんたまで『風流だねぇ』って顔してるのよ。
ちょっと、てゐ、せつめ――
――や、『勝負は引き分け』って訳わかんない!
なんで今の話からいきなりまーじゃんの話になって、しかも引き分けになるのよっ。
説明をしなさい、説明を!
あーもぅ、牌の場所を入れ替えてないで、私の話を聞けってば!聞いて!聞いて下さい!
ぅー、これでどうしたのよ。
五丸三つ、一竹三つ、南三つ、一丸三つ……白二つを離してるけど、意味あるの?
やくまん?これが?でも、鳴いてるよ?
それにこんな形、暗くて見難いけど、役一覧表にも載ってないよ?
……あ、雲が散ってきた。
私、間違ってないよね?
ほーほら、ってうるさい、梟!
あーもぉ、ひゅーひゅーって強すぎてひらひらとんでっちゃいそうだけど、
明かりが出てきたから見やすくなって……やっぱり載って――え?だから、月明かり。
――ぺしぺしと簡易の役一覧表を叩きながら鈴仙は、何処にも載っていない、と躍起になっている。
そりゃまぁ、そうだろう。私だって思い出すのに切っ掛けがいるほど、使われなくなって久しい役なのだから。
それにしても、と私は苦笑する。
引き分けだと言っているのだから、素直に喜べばいいものを。
ほんとに、もう――「鈴仙は駄目だなぁ」。
「なんだとぉ!?」
耳をぴんと立てて卓に手をつき、彼女はむーむーと吠えた。
『負け犬』?いや、違う。
『負け兎』?それも、違う。
だって、鈴仙・優曇華院・イナバは、宣言通り、最後の最後で役満を二つ呼び込み――私に、勝ったのだから。
「うどんげってさぁ」
「あんたまでうどんげって言うな!最後の砦なんだから!」
「そうじゃなくて。いや、そうなのかな。――花の名前なんだよね」
私の唐突な独白に、鈴仙は目をぱちくりとさせて、怪訝そうな視線を寄こしてきた。
私は、自然と笑みを浮かべ、呟く。
去った花の妖怪と、その代役に咲いた人間に。
鴉天狗に。
風祝の現人神に。
そして、月の兎に。
此方をきょとんと見てくる花に。
ほーほと鳴き声を響かせる鳥に。
強目に吹きつけ肌を撫でる風に。
そして、暖かい灯りを放つ月に。
「あぁ、風流、だねぇ」
<了>
マージャンやってて初めて知りました。
勉強になりました。
早速明日友達と打って狙って見ますw