※CTHULHU神話についてご存じでない場合、十分なご理解が得られないかもしれませんので、ご注意の上お読みください。
「はふぅ…」
その日、ルナサは何度もため息を吐いていた。
「ルナサ姉さん、どうしたの?」
「ああ、リリカ。何、ちょっと欲求不満でね…」
その言葉を聞き、リリカは首を捻る。欲求不満と言えば当然アレの事だろうが、人前でそう言う事を漏らす姉ではないはずだからだ。
(誘われてる?でも姉妹でそんな…いやしかし求められてるのなら応えるべきか…)
「ね、姉さん。私なら、その…」
「最近新しい音楽とか聴けてないからさ。ゆっくり見たことない楽譜でも見たいなって」
ガクッ。
「どうしたの、リリカ?」
欲求不満と言っても性欲だけではないのだ。ルナサのそれは、言うなれば音楽欲とでも言ったものか。
「あー…楽譜なら家にいっぱい有るでしょ」
せっかく出した勇気を空振りさせられたリリカは投げやりに言い放つ。
「それがどれも読んだものばかりで」
「じゃ、紅魔館にでも行ってみれば?あそこの図書館は凄いらしいよ」
「…紅魔館か。良いかもね」
と言うわけでルナサは紅魔館を訪れることにした。
「黒白は駄目なんですっ!」
等とよく分からない理由で来館を拒否してきた門番を何とか撃退し、ルナサは図書館に辿りついていた。館に入った後で咲夜にも出迎えられたのだが、面識があったためか用件を話すとすんなり案内されたのである。
「騒霊、ね。図書館は騒ぐ場所じゃないわよ」
「いや、それは分かっている。今日は楽譜を見せてもらいたいだけよ」
のっけから不機嫌そうなパチュリーを見て、慌ててルナサが取り繕う。
「楽譜…見るだけなら良いけど、貸し出しはしていないわ」
「貸してはくれないのか…まあ今日見たいだけだから。それに一度見れば十分記憶できるし演奏も出来る」
「なら問題ないかしらね」
納得したパチュリーは、近くで本の整理をしていた小悪魔を呼びつけた。
「なんですか、パチュリー様?あ、お客様ですね」
「そう。音楽系の書架群まで案内してあげて」
「それは珍しいご注文ですねー」
確かにこの図書館に来る者と言えば、魔法の知識を求めてくる者が大半だ。
「まあよろしくお願いするよ。えっと」
「あ、私のことは小悪魔と呼んで下さい」
ルナサは小悪魔とは大雑把な名前だなと考えたが、それを飲み込んで頷いた。本人が良いと言っているのだから良いのだろう。
「分かった。私はルナサ・プリズムリバーよ」
「ルナサさんですね。では行きましょう。大分奥ですからはぐれないようにして下さいねー」
奥に向かって歩き出した小悪魔の後にルナサも続く。パチュリーはしばらくその後姿を眺めていたが、すぐに読書を再開した。
はぐれないようにと言われたルナサだが、進むにつれて前を行く小悪魔よりも周囲の書架に注意が向きがちになっていた。
そしてとうとう「ツレがうつになりまして。」という気になるタイトルを見つけてしまったルナサは完全に小悪魔から目を離してしまい、気が付いた時には目の届く範囲から小悪魔の姿はなくなってしまっていた。
「しまった…小悪魔さーん」
聞いている者も落ち込むような暗い声で助けを求めるルナサだが、広大な図書館ではそうそう返事が返ってくるわけもない。
「まいったなあ」
ルナサはとりあえず向かっていた方向に歩き回ってもみるが、やはり小悪魔は見付からない。
「仕方が無い、上から探そう…ん?」
書架の切れ目で宙に浮こうとしたルナサの目が、何か動くものを発見した。近寄って見てみるとそれは書架と書架との隙間を隠すように掛けられた布で、何か空気の流れを受けて揺れているようだった。
「小悪魔さん?」
呼びかけるも返事は無い。だがルナサは空気の動きがあるからには中に誰か居るのだろうと判断し、布をめくって奥へと進んだ。
「うぷ…なんなのここは…」
奥には空間が歪められているのか書架の隙間とは思えない広さの空間があり、いくつか置かれている書架からは濃厚な魔力が噴き出していた。
「魔導書の類が置かれているのか…」
ルナサは辺りを見回してみるが、特に動くものは見当たらない。布が揺れていたのは魔力が渦巻いているせいらしい。
「この魔力の質から言って、かなりのものが有りそうね」
そう言いつつ、ルナサは手近に有る魔導書のタイトルを改める。「エイボンの書」、「魂の射出」…粘土板の破片や古めかしいバインダーなども見受けられる。そしてルナサはそういった奇妙なものを眺めているうちに、気になるタイトルを発見した。
「ミサ・ジ・レクイエム・ペル・シュジャイ…シャガイのための鎮魂歌、ね」
音楽に関する本なら見ないわけにはいかない、とばかりにルナサはその本を手に取り立ったままで読み始めた。読んでみると、それがオペラの台本だという事がすぐに分かった。
その内容はおぞましいものだった。故郷を追われたシャンと呼ばれる生物が、様々な世界の侵略を行いながら堕落に満ち溢れた旅を続け、最後には目的に適った場所で新しい奴隷とともに暮らしてゆく、といったものである。そしてその目的に適った場所というのが、ルナサたちが今いるこの世界なのだ。
だがルナサはその内容のおぞましさよりも、平行して書かれている楽譜に心を奪われていた。それはフルオーケストラの楽譜で、明らかに人間的ではない音程とリズムからなっていた。雑音と言うにも相応しくない、まさに狂気と言うべき曲である。
いつしかルナサはその楽譜にのめり込み、鼻歌で演奏を始めていた。それどころかヴァイオリンの音までもが鳴り響き出した。そうなると当然、
「…何をしているのかしら。図書館は騒ぐ場所じゃない、と言ったわよね」
背後からの声を聞いてルナサが振り返る。そこにはいつの間にかパチュリーが来ていた。
「ああ、パチュリーさん。良い楽譜を見つけたのよ」
「…ミサ・ジ・レクイエム・ペル・シュジャイ。確かに良い曲ね。どの辺りまで読んだのかしら?」
言われてルナサは考える。ノリにノッていたので、どれだけの量を演奏したのか分からなくなっていたのだ。手元ではオペラの第三幕の台本が書かれているページが開かれていたので、それを答えておくことにする。
「第三幕の途中みたいだけど」
「…もう最後じゃない。だけど何とか間に合ったみたいね。今すぐそれを渡しなさい」
パチュリーが手を出しながらルナサに近づいてゆく。ルナサはページをめくった。
「何故?こんな良い曲なのに。折角だから最後まで読みたいのだけど」
「駄目よ。危険すぎるわ」
「そう。それは残念ね」
ルナサはそう言うと素早くパチュリーから距離をとり、スペルカードを取り出した。
「…既に取り込まれていた、ということかしら」
パチュリーは手に持った本をゆっくりと開いた。その本からはこの世界のものではない、そうで有りながらどこか神を思わせる力が漂っていた。
紅魔館の図書館の入り口近くに設けられた、一際大きな読書スペース。そこに置かれたソファーにルナサが横たわっていた。
「ん…」
ルナサの目が開いた。ぼんやりと天井を見つめている。
「気が付いたかしら?」
横手からの声に、ルナサが身を起こしそちらを向く。パチュリーが机に向かって座り、本を読んでいた。
「あなた、疲れてたんじゃない?小悪魔が言うには突然倒れたそうよ。背負わされて文句を言ってたわ」
「あ、ああ…それはごめんなさい。迷惑を掛けてしまって」
ルナサが腑に落ちない感じなのを察し、パチュリーが付け加える。
「まあここの門番も、あれでなかなか強いみたいだから。それで消耗してもおかしくないわ。それにもしかしたら、図書館の本の量に中てられたのかも」
「そうかな…」
大分と目も覚めてきたのか、ルナサがソファーから降り立ち上がる。
「体がもう大丈夫なようなら、今日はもう帰ると良いわ。楽譜はまたの機会にして。今度来る時は、門番にも通すように言っておくから」
「…そうね、分かった。また今度、楽しみにしておくわ」
ルナサは会釈をし、図書館からしっかりとした足取りで出て行く。特に異常に見える部分は無い。
「…記憶の操作は上手く言ったようね」
ルナサの様子をひとしきり観察したパチュリーは、そう呟いた。
「もう少し、閲覧禁止書架の管理を考えないといけないわね…」
パチュリーはルナサから、小悪魔と逸れた後の記憶を消し去っていた。記憶操作は非常に難しくボロも出やすいが、今回は上々の出来のようだ。
「…それにしても騒霊にミサ・ジ・レクイエム・ペル・シュジャイ、ね。酷い組み合わせだわ」
ミサ・ジ・レクイエム・ペル・シュジャイ。そのおぞましき内容や狂気の曲調も十分恐ろしいものだが、本当に恐ろしいのはそれが演奏されてしまった時なのである。
ミサ・ジ・レクイエム・ペル・シュジャイが完全に演奏されてしまった時、第三幕の途中でアザトース、盲目にして白痴たる破壊の権化が召喚されてしまうことになる。パチュリーが止めに入ったタイミングは、まさにギリギリだったのである。
「あの様子なら多分大丈夫だと思うけど…次に来た時にもう一度、術の掛かりを確かめておこうかしらね…」
パチュリーはそう結論付け、本の続きを読み始めた。
「ねえ、メルラン姉さん。ルナサ姉さんの鼻歌聴いた?」
「あ、それ聴いた聴いた。無意識に歌ってるみたいだけど。変わった曲よね~」
「この前紅魔館に行ってたから、そこで仕入れたのよ、きっと」
「ずるいな~。楽譜見れなかったって言ってたのに。私たちには教えてくれないつもりなのね」
「…私たちも練習してみる?鼻歌から耳コピして」
「良いかも。姉さんも驚くかもね~」
「うん。でね、私の見立てだとあれはオペラの曲っぽいのよ。第三幕くらいまである感じの――」
「はふぅ…」
その日、ルナサは何度もため息を吐いていた。
「ルナサ姉さん、どうしたの?」
「ああ、リリカ。何、ちょっと欲求不満でね…」
その言葉を聞き、リリカは首を捻る。欲求不満と言えば当然アレの事だろうが、人前でそう言う事を漏らす姉ではないはずだからだ。
(誘われてる?でも姉妹でそんな…いやしかし求められてるのなら応えるべきか…)
「ね、姉さん。私なら、その…」
「最近新しい音楽とか聴けてないからさ。ゆっくり見たことない楽譜でも見たいなって」
ガクッ。
「どうしたの、リリカ?」
欲求不満と言っても性欲だけではないのだ。ルナサのそれは、言うなれば音楽欲とでも言ったものか。
「あー…楽譜なら家にいっぱい有るでしょ」
せっかく出した勇気を空振りさせられたリリカは投げやりに言い放つ。
「それがどれも読んだものばかりで」
「じゃ、紅魔館にでも行ってみれば?あそこの図書館は凄いらしいよ」
「…紅魔館か。良いかもね」
と言うわけでルナサは紅魔館を訪れることにした。
「黒白は駄目なんですっ!」
等とよく分からない理由で来館を拒否してきた門番を何とか撃退し、ルナサは図書館に辿りついていた。館に入った後で咲夜にも出迎えられたのだが、面識があったためか用件を話すとすんなり案内されたのである。
「騒霊、ね。図書館は騒ぐ場所じゃないわよ」
「いや、それは分かっている。今日は楽譜を見せてもらいたいだけよ」
のっけから不機嫌そうなパチュリーを見て、慌ててルナサが取り繕う。
「楽譜…見るだけなら良いけど、貸し出しはしていないわ」
「貸してはくれないのか…まあ今日見たいだけだから。それに一度見れば十分記憶できるし演奏も出来る」
「なら問題ないかしらね」
納得したパチュリーは、近くで本の整理をしていた小悪魔を呼びつけた。
「なんですか、パチュリー様?あ、お客様ですね」
「そう。音楽系の書架群まで案内してあげて」
「それは珍しいご注文ですねー」
確かにこの図書館に来る者と言えば、魔法の知識を求めてくる者が大半だ。
「まあよろしくお願いするよ。えっと」
「あ、私のことは小悪魔と呼んで下さい」
ルナサは小悪魔とは大雑把な名前だなと考えたが、それを飲み込んで頷いた。本人が良いと言っているのだから良いのだろう。
「分かった。私はルナサ・プリズムリバーよ」
「ルナサさんですね。では行きましょう。大分奥ですからはぐれないようにして下さいねー」
奥に向かって歩き出した小悪魔の後にルナサも続く。パチュリーはしばらくその後姿を眺めていたが、すぐに読書を再開した。
はぐれないようにと言われたルナサだが、進むにつれて前を行く小悪魔よりも周囲の書架に注意が向きがちになっていた。
そしてとうとう「ツレがうつになりまして。」という気になるタイトルを見つけてしまったルナサは完全に小悪魔から目を離してしまい、気が付いた時には目の届く範囲から小悪魔の姿はなくなってしまっていた。
「しまった…小悪魔さーん」
聞いている者も落ち込むような暗い声で助けを求めるルナサだが、広大な図書館ではそうそう返事が返ってくるわけもない。
「まいったなあ」
ルナサはとりあえず向かっていた方向に歩き回ってもみるが、やはり小悪魔は見付からない。
「仕方が無い、上から探そう…ん?」
書架の切れ目で宙に浮こうとしたルナサの目が、何か動くものを発見した。近寄って見てみるとそれは書架と書架との隙間を隠すように掛けられた布で、何か空気の流れを受けて揺れているようだった。
「小悪魔さん?」
呼びかけるも返事は無い。だがルナサは空気の動きがあるからには中に誰か居るのだろうと判断し、布をめくって奥へと進んだ。
「うぷ…なんなのここは…」
奥には空間が歪められているのか書架の隙間とは思えない広さの空間があり、いくつか置かれている書架からは濃厚な魔力が噴き出していた。
「魔導書の類が置かれているのか…」
ルナサは辺りを見回してみるが、特に動くものは見当たらない。布が揺れていたのは魔力が渦巻いているせいらしい。
「この魔力の質から言って、かなりのものが有りそうね」
そう言いつつ、ルナサは手近に有る魔導書のタイトルを改める。「エイボンの書」、「魂の射出」…粘土板の破片や古めかしいバインダーなども見受けられる。そしてルナサはそういった奇妙なものを眺めているうちに、気になるタイトルを発見した。
「ミサ・ジ・レクイエム・ペル・シュジャイ…シャガイのための鎮魂歌、ね」
音楽に関する本なら見ないわけにはいかない、とばかりにルナサはその本を手に取り立ったままで読み始めた。読んでみると、それがオペラの台本だという事がすぐに分かった。
その内容はおぞましいものだった。故郷を追われたシャンと呼ばれる生物が、様々な世界の侵略を行いながら堕落に満ち溢れた旅を続け、最後には目的に適った場所で新しい奴隷とともに暮らしてゆく、といったものである。そしてその目的に適った場所というのが、ルナサたちが今いるこの世界なのだ。
だがルナサはその内容のおぞましさよりも、平行して書かれている楽譜に心を奪われていた。それはフルオーケストラの楽譜で、明らかに人間的ではない音程とリズムからなっていた。雑音と言うにも相応しくない、まさに狂気と言うべき曲である。
いつしかルナサはその楽譜にのめり込み、鼻歌で演奏を始めていた。それどころかヴァイオリンの音までもが鳴り響き出した。そうなると当然、
「…何をしているのかしら。図書館は騒ぐ場所じゃない、と言ったわよね」
背後からの声を聞いてルナサが振り返る。そこにはいつの間にかパチュリーが来ていた。
「ああ、パチュリーさん。良い楽譜を見つけたのよ」
「…ミサ・ジ・レクイエム・ペル・シュジャイ。確かに良い曲ね。どの辺りまで読んだのかしら?」
言われてルナサは考える。ノリにノッていたので、どれだけの量を演奏したのか分からなくなっていたのだ。手元ではオペラの第三幕の台本が書かれているページが開かれていたので、それを答えておくことにする。
「第三幕の途中みたいだけど」
「…もう最後じゃない。だけど何とか間に合ったみたいね。今すぐそれを渡しなさい」
パチュリーが手を出しながらルナサに近づいてゆく。ルナサはページをめくった。
「何故?こんな良い曲なのに。折角だから最後まで読みたいのだけど」
「駄目よ。危険すぎるわ」
「そう。それは残念ね」
ルナサはそう言うと素早くパチュリーから距離をとり、スペルカードを取り出した。
「…既に取り込まれていた、ということかしら」
パチュリーは手に持った本をゆっくりと開いた。その本からはこの世界のものではない、そうで有りながらどこか神を思わせる力が漂っていた。
紅魔館の図書館の入り口近くに設けられた、一際大きな読書スペース。そこに置かれたソファーにルナサが横たわっていた。
「ん…」
ルナサの目が開いた。ぼんやりと天井を見つめている。
「気が付いたかしら?」
横手からの声に、ルナサが身を起こしそちらを向く。パチュリーが机に向かって座り、本を読んでいた。
「あなた、疲れてたんじゃない?小悪魔が言うには突然倒れたそうよ。背負わされて文句を言ってたわ」
「あ、ああ…それはごめんなさい。迷惑を掛けてしまって」
ルナサが腑に落ちない感じなのを察し、パチュリーが付け加える。
「まあここの門番も、あれでなかなか強いみたいだから。それで消耗してもおかしくないわ。それにもしかしたら、図書館の本の量に中てられたのかも」
「そうかな…」
大分と目も覚めてきたのか、ルナサがソファーから降り立ち上がる。
「体がもう大丈夫なようなら、今日はもう帰ると良いわ。楽譜はまたの機会にして。今度来る時は、門番にも通すように言っておくから」
「…そうね、分かった。また今度、楽しみにしておくわ」
ルナサは会釈をし、図書館からしっかりとした足取りで出て行く。特に異常に見える部分は無い。
「…記憶の操作は上手く言ったようね」
ルナサの様子をひとしきり観察したパチュリーは、そう呟いた。
「もう少し、閲覧禁止書架の管理を考えないといけないわね…」
パチュリーはルナサから、小悪魔と逸れた後の記憶を消し去っていた。記憶操作は非常に難しくボロも出やすいが、今回は上々の出来のようだ。
「…それにしても騒霊にミサ・ジ・レクイエム・ペル・シュジャイ、ね。酷い組み合わせだわ」
ミサ・ジ・レクイエム・ペル・シュジャイ。そのおぞましき内容や狂気の曲調も十分恐ろしいものだが、本当に恐ろしいのはそれが演奏されてしまった時なのである。
ミサ・ジ・レクイエム・ペル・シュジャイが完全に演奏されてしまった時、第三幕の途中でアザトース、盲目にして白痴たる破壊の権化が召喚されてしまうことになる。パチュリーが止めに入ったタイミングは、まさにギリギリだったのである。
「あの様子なら多分大丈夫だと思うけど…次に来た時にもう一度、術の掛かりを確かめておこうかしらね…」
パチュリーはそう結論付け、本の続きを読み始めた。
「ねえ、メルラン姉さん。ルナサ姉さんの鼻歌聴いた?」
「あ、それ聴いた聴いた。無意識に歌ってるみたいだけど。変わった曲よね~」
「この前紅魔館に行ってたから、そこで仕入れたのよ、きっと」
「ずるいな~。楽譜見れなかったって言ってたのに。私たちには教えてくれないつもりなのね」
「…私たちも練習してみる?鼻歌から耳コピして」
「良いかも。姉さんも驚くかもね~」
「うん。でね、私の見立てだとあれはオペラの曲っぽいのよ。第三幕くらいまである感じの――」
エーリッヒ・ツァンの音楽とか思い出しました。
(或いはルールブックだけ持ってるGMのセッションでクトゥルフの呼び声をプレイしたような)
かの歌劇にしろアザトースへの言及にしろ、ラヴクラフト御大を始めとする暗黒神話体系へ理解が及んで無い様に思うところが多々見受けられます。
主人公の選択等、なるほどと思うところもあるだけに残念です。
>1それはもったいないお言葉。オーゼイユ街などとてもとても…。
>2聖スカーレット戦攻伝辺りが落とし所と判断したのですがー。シャガイのための鎮魂歌は説明に気を使いました。禁止っぽい言葉がわんさか~。