じょーんず

あらすじ

　俺の体はボロボロだ！









「んぐっ、んぐっ、んぐっ、んぐっ、ぷはぁ♪」




　――それは魔理沙が香霖堂で手に入れた、缶コーヒーのジョージアを飲んでいるときのことでした。




　
「ううん、コーラがないから貰ってきたんだが、これもけっこうイケるな」



　　　　　　　コンコン　コンコン



「ちょいとすいませーん」
「おお？」


　そんな声と共に、魔理沙の家のドアがノックされました。どうやら来客のようです。


　ここは魔法の森の霧雨邸。ごくごく普通の魔法使いである可愛い女の子。
　霧雨魔理沙の住んでいる、意外に整理整頓されたおうちです。
　「あれ？　魔理沙の家って散らかってるんじゃ？」とみなさんは思うかもしれません。
　でもこれが、意外にもきちん、と整理整頓されているのです。
　男の子のような言葉遣いをするものの、魔理沙も立派な可愛い女の子。
　部屋を散らかしっぱなしにしておくのは恥ずかしいから、こっそり整理整頓をしているのです。


　なんていうことはなく、本当はたまに訪ねてくるアリスが勝手におかたづけをしてしまうんですけれどね。


　昨日魔理沙の家にアリスがやって来て、いつものように散らかっている魔理沙の部屋を見て。
　「女の子なんだから、もっとちゃんと整理整頓しなさい」といつものように叱りながらおかたづけ。
　魔理沙はぶつぶつ文句を言いながらも、むず痒い甘さを覚えながら、そのおかたづけを眺めていたりするので。
　案外、アリスに片付けて欲しくて魔理沙は部屋を散らかしているのかもしれませんね。


　そんなわけもあって、ただいま霧雨邸は綺麗に整頓されているのです。


　さて、そんな少し落ち着かない自分の部屋で魔理沙が缶コーヒーを飲んでいるとドアがノックされました。
　魔理沙は、どこか聞き覚えのある声に首をひねりながら立ち上がり、お客さんを出迎えようとします。
　ですが、そこでふとたちどまって、腕組みをすると「むむむ」と考えました。

　霧雨邸があるのは鬱蒼と木々が茂る魔法の森。
　お客さんを出迎えてみると、それはフィンランドの楽しい妖精一家だったり。
　はたまた、連邦捜査局の二人だったりするのです。魔理沙はいつも驚いてばかり。
　魔法のような出来事が起こる魔法の森に、それなりに長く住んでいるのにこれではいけません。
　刺激的な出会いは大歓迎の魔理沙でしたが、たまには驚かずに対応して威厳を見せないと。
　魔理沙は負けず嫌いなので驚かされっぱなしにはがまんが出来ないのです。


　ちなみに、魔理沙と楽しい妖精一家のお話は真型・プチ創想話ミニの作品集１２と１３「たに」「たに　たに」に。
　連邦捜査局の二人とのお話は、作品集１９「ふぁいる」に載っています。

　魔理沙がどんな風に驚いて、どんなお話があったのか、興味のある方は読んでみてくださいね。



「よし。今日の私は一味違うところを見せてやるぜ」


　魔理沙は「うんっ」と可愛らしく気合を入れると、お客さんの正体に考えを巡らせます。
　どうも、玄関でした声は男性の、しかもかなり魅惑的な声です。
　あんなに魅力的な声で、魔法の森にやって来てしまうのですから、普通の人ではないでしょう。
　きっと有名人に違いありません。魔理沙は一歩答えに近づきました。



「ありゃ？　留守かな？　すいませーん？」


「………どこかで聞いたことのある声だな」



　少ない手がかりで名推理を働かせる魔理沙の事件簿は早々に迷宮入りしていました。
　しかし、玄関でする声はどこか聞き覚えのある声です。
　記憶の中を探ってみる魔理沙。とりあえず、あの声は魔理沙の顔なじみ。
　古道具屋の青年、森近霖之助の声でないことは確かです。


「こーりん？　こーりんこーりん……あ！」


　先ほど香霖堂に寄ってコーヒーを貰ってきた魔理沙はひらめきました。
　机の上の空っぽのコーヒー缶。それは霖之助が手に入れた外の世界の飲み物です。
　幻想郷にやって来たもので、まだ幻想になっていないものではありますが。
　缶コーヒーがこちらにやって来ているということはすなわち。



「きっとＣＭに出ていた俳優さんが迷い込んできたに違いないぜ！　ハリウッドスターだ！」




　魔理沙は「パチン☆」と指を鳴らすと、大急ぎで玄関に向かいました。



　霖之助が「この缶コーヒーを調べる為にハリウッドスターが来日したらしい」と言っていました。
　きっと缶コーヒーを調べにやってきたに違いありません。

　なんでもハリウッドスターは本当は宇宙人なのだそうですが、それでもハリウッドスターです。
　途中で色紙を用意すること、そして玄関前の鏡で髪型を整え、いつもの帽子をかぶることは忘れません。
　きちんと身だしなみを整えた上で、魔理沙は玄関を開け、ハリウッドスターを出迎えて。
　自信満々、余裕たっぷりに、くいっと帽子を指先で持ち上げながら、色紙を差し出し、こう言うのです。



「『おおっと、動くな。話を聞いて欲しければ色紙にサインをするんだな』、よし、これだ！」



　不思議な来客に機先を制せそうだ、と満面の笑みを浮かべる魔理沙。
　そわそわと逸る心を押し隠し、魔理沙は玄関にたどり着くとまずは走って乱れたスカートを整えます。
　魔理沙は女の子。スターの前に出るんですから、おしゃれには気を使わないといけませんからね。
　「よし、完璧だな」と魔理沙は少年のような笑みを浮かべ、ドアノブに手をかけました。


「ん～、こりゃ留守じゃねぇかなあ」
「かなあ……あ、いや、見て！」
「お！」



　　　ガチャ



　　　　くいっ


　　　　　しゅばっ



「おおっと動くな。話を聞いて欲しければ色紙にサインをする――――」




　内開きのドアを引き開け、「くいっ」のところで帽子を人差し指でニヒルに持ち上げ。
　「しゅばっ」のところで早撃ちのガンマンのように色紙を差し出した魔理沙を待っていたのは。




「…………」
「…………」




　永琳先生や姫様と同郷との噂もある、ハリウッドスター。
　トミーリー＝ジョーンズ。



　ではなく。




「………なあ、お嬢ちゃん、ひとついいかな？」
「動かないと、色紙にサインが出来ない気がするんだけど」




　二人仲良く両手をあげて、「お手上げ」のポーズで律儀に固まっている。
　魔理沙の言う通り、動かずじっとしてくれている、探検家ルックをしたノリのいい。






「――――――――モンタナ＝ジョーンズだーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー！！！！！」





　黄色と紫色の毛並みの、二本足で立っているライオンでした。





「サイン！　サインサイン！」

「あ、もう動いていいか？」

「サインサイン！」

「……いいみたいだよ、モンタナ？」



　ぴょこぴょこと飛び上がって興奮しながらサインをねだる魔理沙。
　どうやら、今の魔理沙には「トミーリー＝ジョーンズは！？」と叫ぶ余裕はないようです。
　興奮しながら自分たちをきらきら光る瞳で見つめる、毛むくじゃらではない女の子の姿に。



「なあ、アルフレッド」
「なんだい？」
「………なんか妙なことになってきやがったなあ」
「……だねえ」
「アルフレッドも！」
「あ、僕も？」
「サインサイン！」
「はいはい、落ち着いて……」



　二人は肩をすくめて「やれやれ」とするのでした。




　魔法の森は不思議の森。魔法の森は奇妙な森。
　ごくごく稀に変わったお客さんの訪ねてくる、出会いの森。
　これはそんな森に住む普通の魔法使いと、冒険航空会社の二人のお話です。



「うわあい♪　ところで二人とも何で日本語なんだ？」
「え？　そりゃあ、なあ」
「うん。ほら、僕たちって」


　『日本でも放映されてたから』


「だからムーミンパパと声が一緒なんだな！」




　それは言わないおやくそく。
　そしてこのつづきは次回のおたのしみです。

ニトロはかせもでるよ！