お品書き(注意事項)
・本SSはパロとメタネタが盛り込まれております。
苦手な方は、申し訳ありませんがブラウザバックでお戻りやがりなさい。
・本SSは色々とはっちゃけております。
愛はありますが、正義や規定はあやふやとなっておりますのでご注意を。
永遠亭の一室。
月の光も当たらない薄暗い自室で一人、永遠亭のブレインこと八意永琳は正座をして何枚かの写真を見比べていた。
正確に言うと、十枚。
一枚一枚に映されたモノは、持ち主である彼女でさえ見る度にほぅ……と恍惚の溜息を零す程の代物。
ようは、永遠亭の面々。
余談だが、その表情は誠に煽情的にして妖艶、見る者が見れば一発KO、「ぉぉぉ奥さぁぁぁぁんっっ」或いは
「せ、先生っ僕ぁもぅ、もぅっ」なのだが、非常に残念な事に彼女は部屋に一人なのだ。
尤も、ここの界隈には真逆の嗜好の持ち主が多いので、心ない言葉を投げかける者もいるやもしれないが。
「CoQ10とヒアルロン酸、コラーゲン要ります?あ、蓬莱人なんですから要りませんよね。ぷ」とか。ふぁっきゅ。
閑話休題。
永琳は再度、束ねられたソレらをじっくりと端から端まで舐める様に眺める。
無論のこと、実際に舐める訳ではない。彼女は同じ過ちを繰り返すほど、愚かではないから。
……おっと待ってほしい、諸兄らは『舐める』と読んで『ぅわ、変態』と思うかもしれない。
しかし、しかしだ。
例えば、十二、三歳の少女――より具体的にする為に、猫耳と二股の尻尾を付け加えよう。つまり、橙だよ――が
就寝前に布団の上で想い人――より具体的にする為に、狐耳と九尾の尻尾を付け加えよう。藍だって――の写真に、
若干頬を上気させて軽い、触れたかどうかも定かのキスをしたとしよう。
諸兄らは、その姿を変態と嘲るか。それとも、けしからんと悶えるか。
嘲るのならば、宜しい、決闘だ。ハンカチは用意しよう。
悶えるのならば、同士だ。
同士よ、その姿を彼女――永琳に置き換えて欲しい。ほら、なにももんだいないですよー、こわくないですよー。
とは言え。
幾ら永琳とて、その禁断の思考に躊躇しなかった訳ではない。思いついたその瞬間に、汗が頬をつたった。
果たしてこの行為は是なのか非なのかとか。姫様に見られたらどうしようとか。いっそ本人を舐めたらどうだろうとか。
……しかし、彼女は哀しいかな実行の人だった。ものは試しだとばかりに、艶めかしい赤い舌をちろりと出し――
その姿を当然の如く、彼女の主・蓬莱山輝夜に見られ、二十六時間三十五分も無視されたのは、彼女にとってトラウマであった。
『未遂です!』と舌を引っ込めた彼女だったが、輝夜は聞く耳持たず。
『ほらっ』と提示したソレは、確かに濡れてはいなかったのだが、しかし、それでも彼女の主は頑な姿勢を崩さなかった。
二十六時間三十四分五十秒辺りで、これは一種のプレイでは、と天才的な閃きが浮かんだ彼女。
私ったら天才ね!――こみ上げる快感に蕩けるような表情を曝け出す。
と。その面に『うわぁ』と驚嘆の声をあげ、月の姫は思う所があったのか、慈悲を与えた。
『もうしないなら、許すけど』
『しません』
――と、永琳はその叡智の結晶たる思考を簡単にかなぐり捨てた。
天才には柔軟な考えが不可欠であり、彼女はこう考えたのだ――やっぱり、相手にされないの、辛い。
そういう悲しい過去があって以来、永琳はただただその愛おしい被写体を映した写真を眺めるしかできない。
至極真っ当な写真の使用方法だが、彼女は何所か物足りないといった表情を浮かべている。
穴が空くほどの情熱を込めて見つめはしたが、所詮それは比喩表現であり、実際に穴はできなかった。
代わりに、映っているもの――因幡てゐ――の目が、若干胡乱気な視線に変わった気はするが、気のせいだろう。
その時。永琳に電流が走る――舐めるのが駄目なら、ねぶればいいじゃない。
意味的に同じ?いやいや、ねぶるの方が情緒があるじゃないか。
流石は幸運の兎ね、てゐ。私にこんな天啓を与えてくれるなんて!――瞳に感謝の念を込め、写真を見直す。
胡乱気に思えた写真の彼女の視線は、侮蔑に変わっている様な気がした。やはり、気のせいだろう。
写真が変わる訳ないじゃないですか。ファンタジーじゃあるまいし。
感覚を研ぎ澄ます。よし、誰も部屋の傍にはいない。
感謝の念を瞳から舌に移し、ついでにたっぷりと愛情を乗せ、舌をだし――
「相変わらず、いい趣味してるわねぇ」
――急に耳に入った声に反応し、名残惜しげに一度下唇を舐め、しまう。
声の主は、輝夜ではない。彼女であったならば、永琳は瞬時に舌を引っ込めただろう。
また、鈴仙でもない。彼女であったならば、永琳はにこやかに微笑んだであろうから。
そして、てゐでもない。彼女であったならば、永琳は彼女を舐めに行っただろうから。テンション上ってたし。
『多分、最近ますます磨き上がっているあの子の右ストレートに鎮められるんだろうけど』――なんて思いつつ、
永琳は突然部屋に現れた声の主に、別段慌てた様子もなく、返事をした。
「あら、それはどういう意味かしら、八雲の……紫」
永琳が来訪者を『境界の妖怪』こと八雲紫と判断したのは、姿形を視認したからではなかった。
彼女は、自身の能力を遍く把握していた――つまり、今の彼女の不意をつけるのは、時間や距離の概念を捻じ曲げられる者
しかいないという確信があったのだ。
そんな出鱈目な力を持った者は、けれど幻想郷には永琳が知るだけでも数名存在した。
では何故、彼女は来訪者を八雲紫と判断したのか。
声、聞こえたし。
「そのままの意味だけれど?」
人を食ったような応えが返ってくる。
「ふーん……で、なんで貴女はぼろぼろなの?」
「うぅ……ここに来る前に、写真の選別中、つい魔が差しちゃってねぶろうとしたら、藍が……」
なにそのシンクロニシティ。と言うか、ほんとにそのままの意味だったのか。
流石、共通点がある者同士だ。共通点とはえっと、天才とか。
「ふふ、可愛いじゃない。私なんて、以前、同じ様な事をしようとして姫様に無視されちゃったわよ」
「耐えられないわね……」
「でしょう?――でも、貴女らしくないわね。此処に来るまでに何とでも出来たでしょうに」
「面白いかなーって思ったんだけど。貴女の顔は予想に反して『うわぁ』って感じだったわ」
「どれだけ人を性格破綻者だと思ってるのよ。いいから、さっさと隙間の中でなんとかしなさい」
「ごめんあそばせ――覗いちゃ、駄目よ?」
「舐めないで。覗く位なら隙間に突っ込むわ」
「……よく、さっき言いきれたわね」
「ま、ともかく」
紫のじと目を、永琳はたったの六文字で追いやった。大人だ。
「ええ、そちらも準備は出来てるみたいだし」
するりと隙間から降り立ち、ロングスカートをたおやかに折りながら、紫は畳に正座した。
彼女がそうしている間、永琳は二人の間に、ごく薄い透明のポリ塩化ビニデリンを加工した物を広げる。
どんなものかわからない方は、ご家庭の炊事場にある幾つかの道具を見て欲しい。あれの粘着性のないモノだ。
紫は自身の服の袖口から写真を取り出し、ちらりとそれらを見て微笑む。
その数は永琳の手元にある数と同じ、十枚。
二人は、互いに持つ一枚一枚を裏返しながら、相手の膝元に丁寧に並べていく。
先程永琳によって広げられたサラン○ップっぽいものは、誠に好運である。
だって、偉大な山が四つも眼前に迫ってきてるんだから。雄大なる二つの山脈と言い換えてもいい。
「一応、ルールの確認をしましょうか」
紫山、もとい紫さんが口を開く。
「十本勝負。一枚一枚、同時に右から順にオープンしていく。
写真を見てから一分間耐えた方の勝ち。ピチューンしたら負け。お互いにピチューンしたら引き分け。
……こう、だったわね」
最後の一枚から指をゆっくりと離し、姿勢を戻して永琳。あぁ、あぁ、山が離れていく。
「ええ。でも、大事な一文が抜けているわ。
十本勝負の後、勝者は、……」
そこで、一旦紫は口を噤んだ。
彼女でさえ、その言葉を口にするのには時間が必要なようだ。
対面の永琳も同じ心情な様で、紫の言葉をただ待った。
「……勝者は、敗者の写真を、譲り受ける」
大妖怪と天才なめんじゃねぇぞこら、と思った諸兄。
しかしならば、諸兄のHDD、もしくはメモ帳、或いはワードの中身が他人に奪われる事を想像してほしい。
それでも納得できなければ、彼女達の前に並べられた写真の全てが、ピューリッツァー賞ものだとでも思ってくれ。
なに、ピューリッツァー賞がわからないだと?なんか凄い写真の賞なんだよ、確か。
「それじゃあ――」「――始めましょうか」
すぅ、と小さく息を吸い込み、ふぅ、と吐き出す。
桃色の香りがしそうなそれは、しかし、互いの表情によりかき消える。
『月の頭脳』と『境界の大妖怪』の眼は、見る者に畏怖を抱かせるほど、奇麗で美しく、真剣だった。
「「第五回永遠亭とマヨヒガ周辺はどっちが悶えるか杯っっ!」」
此処まで読んだ所で、諸兄らはゆらりとブラウザバックで抜けだそうとするだろう。いい加減。
――第五回ってなんですかとか、あれ、お星様が迫ってきたよなんでだろう。
……兎に角、五回目なのだ。
名称の前後は、単に行われる場所によっているだけ。前回の勝者が永琳だから、という訳ではない。
「「セットスペルピクチャ――スタート!」」
ばっ、と互いに腕を伸ばす音が重なる。
言葉と同時に動いたのは、そうしなければ相手に不誠実だから。
と言う訳だけでもなく、早く見たいのだ。写真を。
「さぁどんな――ごふ、に、にゃんにゃんにゃん!?」ピチューン
「負けないわ――ぐぬぅ、う、うさうさうさっ」ピチューン
紫の一枚目は『マヨヒガの猫達(お昼寝中)』。
永琳の一枚目は『永遠亭の兎達(お食事中)』。
「なんて愛らしいの、この子たち!?特に一匹だけ寝れてない子の、この愛くるしい仕草!
顔を前脚でこすってるなんて……あぁ、私、どうすればいいの!?」
「ちょっと犯罪よ、これ!手前の、お箸を上手に扱えてない子とその横の教えてあげてる子なんて、もう!
これだけで、私、この子たちが食べてるご飯分は軽くいけるわよ!?」
説明的な口調、ありがとうございました。
互いに声を荒げているのは、怒気によるものでは勿論なく、テンションが高い時のソレである。
「あぁ手前の子は蒲公英って言って、横の子は菫よ、因みに蒲公英はちょっとおませさんっ」
「なんとー!?」ピチューン
何がどう、「なんと」なのか突っ込んではいけない。
ハイテンション時の返事なんてそんなもんだ。
一本目の勝負、引き分け。
永琳の追加情報により紫の方がダメージを負っている様に見えるが、そこはそれ、
二人とも確認直後にピチューンしているので、勝負としては引き分けなのだ。
下した判定に、どちらとも不服はない。淑女である彼女達は見苦しい言い訳などしない。
暫しのクールダウンの後、どちらからともなく姿勢を正す。
「「二本目、勝負っっ」」
サ○ンラップ、その場所を代われと思わせる四つの山の高速接近。
たゆんたゆんぽいんぽいんと脳味噌が蕩ける擬音を奏でながら、しかし、腕だけは紅魔館に乗り込む黒白魔法使いを
凌ぎそうな程、速かった。
それでいて写真を抓むのは極々丁寧なのだから、ひょっとしたら七色人形使いよりも器用なのかもしれない。
少なくとも、今だけは。
「つぎははぅ!?」ピチューン
「どんなぁはんっ」ピチューン
紫の二枚目は『橙(縁側で溜息ver)』。
永琳の二枚目は『因幡てゐ(落ち込んでいる鈴仙に微苦笑ver)』。
ごぅんごぅんと高鳴る鼓動を抑えようともせず、二人は聞いてもいないのに感想を述べあった。
「橙が……あの元気印の猫っ子がこんな切なげな表情をするなんて……!色を知る歳か!」
永琳が鬼の様な面となり、呟く。誰か描いてください。……いや、やっぱいいです。怖い。
「何時もの悪戯なものではなく、対象の憂いをかき消す様な柔らかいソレ!是で永遠亭はあと十年戦える……!」
てゐを資源にしないでください。あと、何と戦うんですか。
Z軸からの茶々や突っ込みなどものともせず、二人は熱い滴を煌めかせながら固い握手を交わす。
その固さは、名刀と称えられし楼観剣と白楼剣の二刀をもってしても断ち得ないであろう。
持ち主にぐしぐしと泣かれたら速攻でばいばいする程度ではあるが。
兎にも角にも――
「「ギャップっていいわよね!」」
――だそうだ。ノ
二本目も引き分け。
叫び終え、気が済んだ二人は手を解き、代わりにハンカチで熱い滴を拭う。
一回戦目のダメージの差か、紫の方が何枚か多めに白いハンカチを赤色に染め直していた。
先に在る程度出し終えた永琳が鼻にこよりを突っ込んだ後、紫の後ろに回り、首をとんとんと一定のリズムで叩く。
「あら、敵に塩を送るつもり?」
「これでも薬師ですからね」
「ふーん。……ところで、さっきの写真の橙、何を思って溜息をついていたか、わかる?」
「何って……貴女の式でしょう?」
この流れで、実は、今日の晩御飯はなにかしらん、とかだったら困る。その、凄く、困る。
「ええ、まぁそうなんだけど。でもねー、藍ったら、『ちぇ、ちぇんが誰かに切な』」
すぽーん。こより行きまーす。
続く言葉は必要なかった。何故なら永琳は天才であったから。
新たに湧き出る熱いしずもういいや鼻血は、重力に従ってその下にいる紫に落ちていくのだが、
待ち構える亜空間――隙間の中に取り込まれていく。スプラッタは趣味じゃない。
「藍……流石よ、藍。そんなの誰がどう考えても貴女を想っていると言うのに、それでも貴女は本気で慌てているのね」
「見た瞬間クリック余裕でした。カメラの」
「その顔も撮っていると言うの!?見せなさい、いいえ、見せて、見せて下さい!」
「はい」
「南無三!?」ピチューン
×字拳は出ません。
「て、敵に糖分を贈るつもりっ?」
「ふふ、貴女だってさっき、したでしょう?アレの、お返しよ」
「ありがとう!」
「どう致しまして!」
ばぁんっと五臓六腑に沁みわたる豪快なハイタッチを交わし、そのまま背を向けあってクールダウン。
永琳は拳を顎に当て、眼下に見下した視線を落とす。orz
一方の紫は隙間から取り出した扇子で口元を隠し、塵芥を見るような眼で虚空を見つめる。我々の世界ではご褒美です。
クールダウン終了。
姿勢を正し、膝元の残り八枚の写真を見やる。
果たして、今回は勝負がつくのだろうか。
自身、一歩も引くつもりはないが、それでいて尚、相手も兄弟。いや、強大。
軽く深呼吸をし、闘志に疼く眼を対面に向ける――ぶつかる視線は同じもの。準備は整っているようだ。
「「ラァウンドスリー、ファイっ!」」
瞬発力と言う点で、間違いなくこの瞬間、二人は幻想郷最速となった。
それでいて、手と周りの写真に防御陣を瞬時に張っている辺り、まさしく怪物。
「……!」ピチューン
「……っ」ピチューン
言葉なく、這いつくばりながらどむどむと畳を叩いている姿にその面影を探すのは聊か難しいが。
紫の三枚目は『微苦笑の藍』。
永琳の三枚目は『微笑む鈴仙』。
その二枚は、特別日常とかけ離れている訳ではない。
いや、むしろ、それぞれのほぼデフォルトの表情と言って問題ないであろう。
だがしかし。
何時もの表情であるからこそ、予想し得る状況は無限大に満ちている。
『紫様、やはり貴女には敵いません』
『紫様、仕方ないですね、もぅ』
『紫様……私ももう、子供では、ないのですよ』ピチューン
『師匠、ありがとうございます』
『師匠、ご飯が上手に出来ました』
『師匠……褒められると、やっぱり嬉しいです。えへへ』ピチューン
各々の積み重ねた歳月が、永琳と紫の心を鋭く的確に穿つ。ドリルでルンルンクルルンルン。
「「王道こそ至高、毎日がハッピー!」」
都合十四文字を、一字一句たりとも違えずに、同等のテンションで叫ぶ。
鼻から流れる赤い血潮はその表れであり、二人の衣服を朱に染めていくが、何、構うまい。
数秒後には渇いて染み込み見えなくなる。だって、そういう話だし。
三本目、引き分け。
興奮冷めやらぬ二人はご褒美、じゃなくてクールダウンの時間も惜しいと姿勢を戻し、次の勝負へと心を傾ける。
若干座る位置が四枚目に近づいているのは、心意気の具現化だ。
――彼女達は後ほど振り返る。此処でもう一度クールダウンしていれば、或いはエクステンドできていたのでは、と。
「「ヘブンオアヘル!デュエルフォー!レッツ――ロック!!」」
ッバ、ッシ。腕を振り、写真を掴む音が二人の耳に入ったのは、既にそれを確認している時。
四枚目のソレを見た二人は――これまでと違い、共に怪訝な表情をする。
紫の四枚目は『マヨヒガの猫達(お昼寝中)』。
永琳の四枚目は『微笑む鈴仙』。
映されていたものは、それぞれの一枚目と三枚目とほぼ同じであるように思えた。
微妙な差異は勿論あるが、二番煎じの感は否めない。
しかし――『彼女が、そんなミスをするかしら?』
永琳は、紫は、互いの力量を認めている。
だからこそ、この四枚目には何らかのからくりがある――そう思い至り、再度見直す。
写真を見てから、三十秒。
今まで何の意味もなさなかった勝利への時間制限が、ようやっと芽を出した。
しょうがないじゃないか、この人たち、速攻でピチュってたんだし。
(確かにこの子たちの毛並み、もふり具合は殺傷力があるけれど……もふり、具合?)――四十五秒。
(何時ものブレザーじゃないのが違いかしら……でも、この衣装、どこか、で……っ)――五十五秒。
五十九秒――「「デストローイ!?」」ピピチューン
「ち、ちょっとゆかりん!これ、この真ん中に映ってる尻尾、藍のじゃないの!?
あの藍が、最強の妖獣がっ!まどろみの中、猫達にもふられながらもっふもふ!?可愛過ぎるわ、反則よ、販促!」ピチューン
「えーりんえーりん助けてえーりん、気付いちゃったわよ、これ二枚目の続きでしょう!?
何時もは悪戯兎なのに、偶に、その、優しいのよね……って語ってるじゃない!コンビでコンボなんてずるいわ!」ピチューン
……順に突っ込んでいきましょうか。
ゆかりん言うな。擬音で話すな。律儀に腕を振るな。表情を作ってまで声を真似てますが似てません。本当に略。
あー?販促は誤字じゃないですよ、藍様は格好いいだけじゃなくて可愛さもあると広く広く宣伝したいので。
「売らないわよ!?」
ごめんなさい。
「はぁ、ふぅ……今日は、此処までね」
「ええ……、残念だけど。それと、今日も、よ」
多少乱れた衣装や髪を整えつつ、二人は広げられていた残り六枚の写真を回収する。
多少の乱れ、とは即ち、広げられた胸元であったり太腿まで露わになったロングスカート、額や頬に張り付く数本の髪の毛であるが、
この界隈には必要ないと愚考し、是以上の表現は留めておく。
と思ったが、一つだけ追加。頬は、赤みを帯びている。はらしょー。
「此処でなら、と思ったのだけれど」
「残機最大設定でも無理なものは無理なのね」
「ボムも抱え落ちしちゃってたし」
あったんですか、ボム。
「それにしても、また選別した残りが無駄になっちゃったわね」
「まぁ、前よりは進めたし。良しとしておきましょう」
苦笑し、肩を竦めながら永琳。
以前、紫の家で行った時は余りにも少ない初期残機に二人して涙していたのだ。
曖昧な表現なのは、うるせぇうちの妖々夢が低速移動しかできなくなって越せてねぇからしらねぇんだよ、Phantasm。
あと、BGMも流れません。びしゅびしゅと無味乾燥なサウンドのみ鳴ります。再インストールすべきでしょうか。
「……でもねぇ。残りの写真、より破壊力があるんでしょう?」
「そのつもりよ。そっちもでしょ?」
軽く相槌を打ち、紫を見ると。
「みたいなぁ……」
言葉は可愛らしかったが、瞳は爛々と輝き、滲み出る妖気は大妖のソレ。
並大抵の妖怪であれば、指一本動かせなくなるだろう。
しかし、相対するものも無論、並ではない。
妖艶な笑みを浮かべ、挑発する様な視線を返す。
「あら……貴女が先に見せてくれるなら、構わないけど?」
「やぁよ」
「そう。じゃあ」
「ええ。じゃあ」
「「力づく、ね!!」」
なんだったんですか、此処までの四百四十一行!?
「ゆかりん百パーセント中の百パーセントォォォォ!」
「えーりんインストォォォォォォォォォォォォルッッ」
大丈夫、大丈夫だ諸兄、ゆかりんの肌は白いままだ。ただ若干肩甲骨が伸びてる気がしないでもないが。
また、えーりんも変っちゃいない。そりゃそうだ、えーりんにえーりんをぶち込んでどうする。……いや、ありかも。
「久しぶりだから、弱い者いじめにならないか心配だわ」
それ、キャラ違う。
「やれやれね……」
あぁ、貴女は同じ……って、インストールしたえーりんがだぶってって、そっちかよ!咲夜さん泣いちゃうから止めようよ!
「「決闘準備――開始っっ」」
ご丁寧にそんな所だけ緋想天仕様にして叫ぶ。
開始直後、紫は一旦距離を取る為にバックステップ。
永琳は動かない。
動かない相手を僅かに怪訝に思い、紫は矢状の弾幕を放つ。
彼女の中では弱い部類の攻撃だが、それでも一発一発が並の妖怪の必殺技級。
幾ら永琳と言えど、何の動作もなしで受けるのは得策ではないだろう。
だと言うのに――永琳は動かない。
(無傷でいられる自信があるというのかしら。だとしたら、何故彼女は無表情……?――っ)
苛立ち、疑問に思い、仮定を立て。
相手に無数の弾幕が降り注ぐその瞬間――紫は、隙間と呼ばれる亜空間を、相手の前に出現させた。
彼女自身が放った弾幕は何の意味もなさず、隙間へと飛び込んでいく。
それを見届けた後、やはり無表情で立つ永琳に、紫はふらふらと歩み寄りながら、語りかける。
「馬鹿よ……天才なんて言われているけど、貴女は、馬鹿だわ……」
頭で今の状況を整理している為か、足は覚束ない。
整理?馬鹿な。わかっているじゃないか。彼女は、動かないんじゃない、動けないんだ。
さして離れた距離ではなかった。足を数回動かせば、嫌でも両者の距離は近づいてしまう。
――感情が消えた永琳の前に立ち、紫は声を張り上げた。
「私に合わせる必要なんてなかった!そんな無理やり作った体で、私と戦えるわけないじゃない!」
――声に籠るは、ただただ、悲哀。
「貴女が弾幕アクションなんてできる訳ないじゃないの!萃夢想にも緋想天にも出てないんだから!」
と、両作品に出ている紫さんが叫びました。
「誰がエンディング限定キャラかー!」――ずどむぱかん。
心の底からの叫びに永琳は復活したが、勢い余ってボディに一発、くの字に折れて下がった顎に一発。えーりんまじ外道。
……悔しかったんだろう。泣いてるし。
「文花帖、文花帖!」
「文々。新聞のまとめなんて読んでないわよ!」
「ええ、今更それあり!?」
「うるさいやぃ、えーりん、こうなったらてってーてきにやってやるわ!」
「ぅー、ゆかりん、おこったんだから!」
わーわーきゃーきゃーもみもみくちゃくちゃ。
「すべては、この時の為に……!」
「頑張った……!私達、凄く頑張った……!」
……頑張ったと言っている辺り、どこかしら無理があるのは理解しているようだ。
きゃっとふぁげふんごふん、キャッキャウフフな図を繰り広げた彼女達は、お互いの健闘を称え、どちらとも満足げであった。
それならそれで、最初からしておけよ、と思わないでもないが、歳をとるとまわりくど
「――さって、それじゃ、そろそろ帰るわね」
「あら、一仕事終えた顔。お疲れ様」
「一人なら大して疲れないんだけどね。他にも何人か、お仕置きしないといけないみたいだったから」
「そう。開き直れば楽よ?」
「わかってるわよ。でも、人間を狩るのが私達、妖怪だもの。それに適当な理由をつけるのは悪くないでしょう?」
「そういうものなのかしら。私にはわからないわ」
「ふふ、天才の貴女にわからないって言わせるのも、悪くないわ。――ところで」
「なにかしら?」
「私が何も気付かずに、あの弾幕をどうともしなければ、貴女はどうしていたの?」
「意味のない疑問ね。貴女は必ず気付き、どうにかするわ」
「其処まで言い切れるのは?」
「そうねぇ……貴女、全力の相手を笑いながら叩き伏せる方が好きでしょう?」
「……いいわ、今日の所はそれで納得してあげる。それと、やっぱり貴女は天才よ」
「どうも」
「次に会うのは定例会かしらね。――じゃ、御機嫌よう、八意永琳」
「ええ、八雲紫。またね」
――なんて言うのかしらね、これ。狐と狸のばかし合い?趣味と実益を兼ねたお遊び?
――まぁ、暇つぶしの一つとしては……ふふ、悪くないわ。
「――えーりん、ちょっと聞きなさい、えーりん!」
「……なによゆかりん、隙間から顔だけ覗かせて」
「守矢神社の早苗さん!」
「純情可憐天然娘!」
「あの子に言わせれば、三千歳も四千歳も『少女』だそ」
「mgd!?」
「マジよ、マジ!サジとバーツはいないけど!」
「私を神社に連れてって!」
「お嬢様、お手をどうぞ」
「嬉しい事言ってくれるじゃないの」
「ほいほいついてきちゃいなさい」
「じゃあ――」「――ええ」
「「<了>、と」」 バクンッ
あと、舌にくっつきますよね。
二人の仲の良さに、一戦一戦笑わせてもらいましたw
元々そういう対象では無いのか、出されなかったもっとスゴイのとやらの方に入っていたのか。
はたまたえーりん専用なのか・・・。