レミリアの突発的な思いつきで、咲夜、パチュリー、フランドール、美鈴、小悪魔を呼んで怪談を話すことになった。
開始時刻は雰囲気をそれらしくするため夜。パチュリーが魔法を使い、ぞくりとする冷たい風がときおりするりと体を撫でる。
くじ引きで話す順番を決め、それに従い話していった。
それぞれが話した怪談は、美鈴の死したのちも門突破を挑んだ挑戦者、フランドールの誰も知らない見えない自室のトモダチ、咲夜のお盆になると一人増えるメイド、レミリアの動く鎧、パチュリーの図書館にいる黒影だ。
そしてとりを飾るのは小悪魔。現時点で発案者たるレミリアのリミットはぎりぎりだ。この話が止めとなるのだろうか?
「さて畏れ多くもとりを飾ることになりました。
今宵私が話すのは同属の話です」
常に浮かべている笑みのまま小悪魔は話し出す。
レミリアは怖くないといいなぁ、なんて怪談の前提を否定する思いで聞いている。
「同属というくらいですから悪魔というわけです。
しかし力の強い悪魔ではありません。どちらかというと弱い部類に入る悪戯好きな悪魔です」
「悪戯する悪魔の話って怪談とは違うんじゃないの?」
「まあまあ最後まで聞いてくださいパチュリー様」
パチュリーの突っ込みに律儀に返して話を続ける。
「その悪魔は思い込みを利用します。
聞き間違いや見間違いといったものは、見慣れていたりあって当然という想いからすることがありますよね?
例えば、いつも同じ場所に置いてある花瓶がなくなっているのに、いつもそこにあるからちらっと見たときにそこにあるように思いこんでしまう。
こんな思い込みを利用して、人になりすまします。
詳しく説明すると、所用でいなくなった人にかわって、その場でその人と同じことをして周囲の人があとで驚く様を見て喜ぶ。その人がそこにいるのは当たり前という想いを利用して、違和感なくその場に溶け込むことができるんです。
美鈴さんが門にいるのは当たり前です。その美鈴さんがトイレに行っている間に、美鈴さんになりきって門番に立つといった感じです」
「やっぱり怪談じゃないわ」
「最後まで聞きましょう」
再び突っ込むパチュリーを今度は美鈴が止める。
「そうですね、これとこの次はただの悪戯です。ちょっと怖いのは最後です。
でも物には順序がありますから、順番に話させてください。
それで続きですが、人になりすますことが何度も成功すると、その人の姿でほかの場所に現れるようになります。
その人がいて当たり前という場所から離れることができるようになるんです。
かといって、なにをするわけでもないんですが。やはり驚く様子を見て喜ぶだけです。
実はこの悪魔、少しでも疑われると逃げちゃうんです。だからたいていは、始めの悪戯で逃げるものがほとんどです。
二番目の悪戯を成功させる悪魔は年に一人でればいいほうです。
さて二番目の悪戯も成功させた悪魔は、一つの想いを抱きます。このままその人に成り代われるのではないかと。
すぐに成り代わることはありません。その人の癖や行動を完全に把握していませんから。
時間をかけてそばで観察して、その人のもつ全てを真似できるようになると、衰弱の呪いをかけます。
呪いは即効性のものではなく、ゆっくりと効果を表していくものです。
やがて呪いに蝕まれ衰弱した人をぱくりと食べて、すべてを自分のものとした悪魔が何食わぬ顔でその人として暮らしていくようになります。
成り代わる過程で、この悪魔にとりつかれていると判断する方法があるんです。
それは働きぶりです。悪魔は真似たことを練習も兼ねて実行します。それは真似られた人がいない場所で実行するため。真似られた人がずっと働いているように見えるんです。
休みをとらずに働く仕事熱心な人がいると要注意ということです」
ここで小悪魔はいったん話を止める。
そして、いままで誰ともなくむけていた視線をレミリアに固定した。
「お嬢様にお聞きしたいことがあります」
「な、なにかしら?」
「お嬢様は咲夜さんが休んでいるところを見たことがありますか?」
「……え?」
誰もがゆっくりと咲夜を見る。
視線を向けられた咲夜の姿がぐにゃりと歪んだ。
「咲夜っ!?」
レミリアの悲鳴じみた声があがった。
とたん咲夜の姿が元に戻る。
「ナイスタイミングです、咲夜さん」
小悪魔が明るい声で言った。
「「「え?」」」
レミリアとフランドールと美鈴が戸惑った声を上げ、小悪魔を見る。
小悪魔が種明かしをする。
「怖さを増すために咲夜さんに協力してもらったんですよ。私が幻影の薬を渡して。
パチュリー様は驚きませんでしたね」
「幻の魔法に関するものだと一目でわかったからね」
「むぅ~全員驚かすつもりだったんですが」
悔しげな小悪魔を少しだけ得意げにパチュリーが見ている。
咲夜が紅茶を入れてきますと言って席を立つ。用意した冷たい飲み物は、冷たい風の流れる部屋には不釣合いで、暖かな飲み物が必要だと判断したからだ。
すぐにポットとカップを持った咲夜が現れる。
全員にカップを配る咲夜を見つつ、小悪魔が口を開く。
「皆さん、怪談は楽しんでいただけましたか?
実はですね、今回の怪談は咲夜さんと私で企画したものなんですよ」
「ちょっと待ちなさい」
制止するのは、怪談発案者のレミリア。自分の気まぐれで始めたと自覚があるのに、企画されていたと言われて黙ってはいられなかった。
そのことを小悪魔に伝える。
「お嬢様がそう思うのも無理はありません。しかし咲夜さんによって思考が誘導されて発案に至ったのです。
起床時の会話をよく思い出してください。今夜は暑くなるとか、恐怖で寒くなるとか、パチュリー様が怪談を知っていそうだとか、言ってませんでしたか?」
「言われてみれば……。
どうしてそんなことをしたのかしら?」
「最近咲夜さんは疲れが溜まっていたみたいで、休暇をもらおうと思っていたらしいです。
でもせっかく休暇申請するのだから、普通に申請するのではなくお嬢様に楽しんでもらいたいと言っていたので、私が一計を案じてみました」
「なるほどね。
主を騙すようなまねは感心しないけど、このような余興を企画したことに免じて責を問うことはしないわ」
「ありがとうございます」
カップを配り終えた咲夜と小悪魔が一礼する。
「ところで小悪魔の話は本当なのかしら?」
「成り代わる悪魔ですか。
はい、本当にいますが?」
それがなにかと、小悪魔は聞き返す。
「咲夜にとりついてるなんてことはないの?
いや、怖がってるんじゃないのよ? 主としては従者の命を脅かすような存在を放置するようなまねはできないから」
「とりついたら私はわかると思います。
同属の気配を見逃すほど抜けてはいないつもりですから」
「そう。それならいいの」
安心した様子でレミリアは紅茶を飲む。
「あら? いつもと出来が違うわね。どうしたの咲夜?」
「申し訳ありませんお嬢様。思いのほか皆様の話が怖かったもので、手違いがあったようです」
「それなら仕方ないわね」
自分もいっぱいっぱいだったのだ。咲夜も怖かったと知って、味などの違いがでたことに納得する。
「お茶請けがなくなっていますね。取りに行ってきます」
そう言って咲夜は消え、次の瞬間現れた。
ただしその手にはお茶請けはなく、ポットとカップが。
「遅くなって申し訳ありません。
あら? どなたかがお茶をいれてくれたのですね?」
「なに言ってるの? お茶入れたのはあなたでしょ?
それにお茶請けはどうしたの?」
「お茶請けですか? 私にはお嬢様がなにを言われているのか。
お茶も今持ってきたばかりですよ」
「え? だってお茶入れたの咲夜……だったよね?」
レミリアはその場にいるメンバーに聞く。
それに四人は頷いた。
「茶葉とポットとカップがいつものところになく、代わりを探して遅くなったのですが」
「……だったらあれは誰?」
フランドールが不安げな声で誰ともなく聞いた。
咲夜を除いたメンバーの脳裏に成り代わりの悪魔の話が浮かぶ。
どこからともなく、クスクスという楽しげでいて少し悔しげな咲夜の笑い声が聞こえてきた。
開始時刻は雰囲気をそれらしくするため夜。パチュリーが魔法を使い、ぞくりとする冷たい風がときおりするりと体を撫でる。
くじ引きで話す順番を決め、それに従い話していった。
それぞれが話した怪談は、美鈴の死したのちも門突破を挑んだ挑戦者、フランドールの誰も知らない見えない自室のトモダチ、咲夜のお盆になると一人増えるメイド、レミリアの動く鎧、パチュリーの図書館にいる黒影だ。
そしてとりを飾るのは小悪魔。現時点で発案者たるレミリアのリミットはぎりぎりだ。この話が止めとなるのだろうか?
「さて畏れ多くもとりを飾ることになりました。
今宵私が話すのは同属の話です」
常に浮かべている笑みのまま小悪魔は話し出す。
レミリアは怖くないといいなぁ、なんて怪談の前提を否定する思いで聞いている。
「同属というくらいですから悪魔というわけです。
しかし力の強い悪魔ではありません。どちらかというと弱い部類に入る悪戯好きな悪魔です」
「悪戯する悪魔の話って怪談とは違うんじゃないの?」
「まあまあ最後まで聞いてくださいパチュリー様」
パチュリーの突っ込みに律儀に返して話を続ける。
「その悪魔は思い込みを利用します。
聞き間違いや見間違いといったものは、見慣れていたりあって当然という想いからすることがありますよね?
例えば、いつも同じ場所に置いてある花瓶がなくなっているのに、いつもそこにあるからちらっと見たときにそこにあるように思いこんでしまう。
こんな思い込みを利用して、人になりすまします。
詳しく説明すると、所用でいなくなった人にかわって、その場でその人と同じことをして周囲の人があとで驚く様を見て喜ぶ。その人がそこにいるのは当たり前という想いを利用して、違和感なくその場に溶け込むことができるんです。
美鈴さんが門にいるのは当たり前です。その美鈴さんがトイレに行っている間に、美鈴さんになりきって門番に立つといった感じです」
「やっぱり怪談じゃないわ」
「最後まで聞きましょう」
再び突っ込むパチュリーを今度は美鈴が止める。
「そうですね、これとこの次はただの悪戯です。ちょっと怖いのは最後です。
でも物には順序がありますから、順番に話させてください。
それで続きですが、人になりすますことが何度も成功すると、その人の姿でほかの場所に現れるようになります。
その人がいて当たり前という場所から離れることができるようになるんです。
かといって、なにをするわけでもないんですが。やはり驚く様子を見て喜ぶだけです。
実はこの悪魔、少しでも疑われると逃げちゃうんです。だからたいていは、始めの悪戯で逃げるものがほとんどです。
二番目の悪戯を成功させる悪魔は年に一人でればいいほうです。
さて二番目の悪戯も成功させた悪魔は、一つの想いを抱きます。このままその人に成り代われるのではないかと。
すぐに成り代わることはありません。その人の癖や行動を完全に把握していませんから。
時間をかけてそばで観察して、その人のもつ全てを真似できるようになると、衰弱の呪いをかけます。
呪いは即効性のものではなく、ゆっくりと効果を表していくものです。
やがて呪いに蝕まれ衰弱した人をぱくりと食べて、すべてを自分のものとした悪魔が何食わぬ顔でその人として暮らしていくようになります。
成り代わる過程で、この悪魔にとりつかれていると判断する方法があるんです。
それは働きぶりです。悪魔は真似たことを練習も兼ねて実行します。それは真似られた人がいない場所で実行するため。真似られた人がずっと働いているように見えるんです。
休みをとらずに働く仕事熱心な人がいると要注意ということです」
ここで小悪魔はいったん話を止める。
そして、いままで誰ともなくむけていた視線をレミリアに固定した。
「お嬢様にお聞きしたいことがあります」
「な、なにかしら?」
「お嬢様は咲夜さんが休んでいるところを見たことがありますか?」
「……え?」
誰もがゆっくりと咲夜を見る。
視線を向けられた咲夜の姿がぐにゃりと歪んだ。
「咲夜っ!?」
レミリアの悲鳴じみた声があがった。
とたん咲夜の姿が元に戻る。
「ナイスタイミングです、咲夜さん」
小悪魔が明るい声で言った。
「「「え?」」」
レミリアとフランドールと美鈴が戸惑った声を上げ、小悪魔を見る。
小悪魔が種明かしをする。
「怖さを増すために咲夜さんに協力してもらったんですよ。私が幻影の薬を渡して。
パチュリー様は驚きませんでしたね」
「幻の魔法に関するものだと一目でわかったからね」
「むぅ~全員驚かすつもりだったんですが」
悔しげな小悪魔を少しだけ得意げにパチュリーが見ている。
咲夜が紅茶を入れてきますと言って席を立つ。用意した冷たい飲み物は、冷たい風の流れる部屋には不釣合いで、暖かな飲み物が必要だと判断したからだ。
すぐにポットとカップを持った咲夜が現れる。
全員にカップを配る咲夜を見つつ、小悪魔が口を開く。
「皆さん、怪談は楽しんでいただけましたか?
実はですね、今回の怪談は咲夜さんと私で企画したものなんですよ」
「ちょっと待ちなさい」
制止するのは、怪談発案者のレミリア。自分の気まぐれで始めたと自覚があるのに、企画されていたと言われて黙ってはいられなかった。
そのことを小悪魔に伝える。
「お嬢様がそう思うのも無理はありません。しかし咲夜さんによって思考が誘導されて発案に至ったのです。
起床時の会話をよく思い出してください。今夜は暑くなるとか、恐怖で寒くなるとか、パチュリー様が怪談を知っていそうだとか、言ってませんでしたか?」
「言われてみれば……。
どうしてそんなことをしたのかしら?」
「最近咲夜さんは疲れが溜まっていたみたいで、休暇をもらおうと思っていたらしいです。
でもせっかく休暇申請するのだから、普通に申請するのではなくお嬢様に楽しんでもらいたいと言っていたので、私が一計を案じてみました」
「なるほどね。
主を騙すようなまねは感心しないけど、このような余興を企画したことに免じて責を問うことはしないわ」
「ありがとうございます」
カップを配り終えた咲夜と小悪魔が一礼する。
「ところで小悪魔の話は本当なのかしら?」
「成り代わる悪魔ですか。
はい、本当にいますが?」
それがなにかと、小悪魔は聞き返す。
「咲夜にとりついてるなんてことはないの?
いや、怖がってるんじゃないのよ? 主としては従者の命を脅かすような存在を放置するようなまねはできないから」
「とりついたら私はわかると思います。
同属の気配を見逃すほど抜けてはいないつもりですから」
「そう。それならいいの」
安心した様子でレミリアは紅茶を飲む。
「あら? いつもと出来が違うわね。どうしたの咲夜?」
「申し訳ありませんお嬢様。思いのほか皆様の話が怖かったもので、手違いがあったようです」
「それなら仕方ないわね」
自分もいっぱいっぱいだったのだ。咲夜も怖かったと知って、味などの違いがでたことに納得する。
「お茶請けがなくなっていますね。取りに行ってきます」
そう言って咲夜は消え、次の瞬間現れた。
ただしその手にはお茶請けはなく、ポットとカップが。
「遅くなって申し訳ありません。
あら? どなたかがお茶をいれてくれたのですね?」
「なに言ってるの? お茶入れたのはあなたでしょ?
それにお茶請けはどうしたの?」
「お茶請けですか? 私にはお嬢様がなにを言われているのか。
お茶も今持ってきたばかりですよ」
「え? だってお茶入れたの咲夜……だったよね?」
レミリアはその場にいるメンバーに聞く。
それに四人は頷いた。
「茶葉とポットとカップがいつものところになく、代わりを探して遅くなったのですが」
「……だったらあれは誰?」
フランドールが不安げな声で誰ともなく聞いた。
咲夜を除いたメンバーの脳裏に成り代わりの悪魔の話が浮かぶ。
どこからともなく、クスクスという楽しげでいて少し悔しげな咲夜の笑い声が聞こえてきた。
でも、面白かったです
抜けてる、抜けてるよ小悪魔www
……小悪魔www抜けてるよwwww
瀟洒なメイド長は二重トリックをしてくれたに違いない!