注:ちょっとした口直しとして番外編をどうぞ。
い:生きておれども
生きてさえ居れば、いつかきっと幸せになれる。
そんな言葉に惑わされていた自分が愚かだったのだと、何故に今の今まで気付けなかったんでしょうか。
毎日結構死んでますけど、ここで働けて幸せです。
~門番隊の新米~
ろ:浪漫を求めて
「浪漫って何だろね?」
萃香の唐突な疑問に、少し考えてから答える霊夢。
「そうね……文に聞いてみたら?」
いやいや、あれは煩悩でしょと反論する萃香。
礼儀正しく正座している椛に対して『浪漫とは何か』と題し、間違った知識を色々と仕込む文の姿を、萃香は以前目撃したことが有った。
その上、演説が終わった後は椛の足をつついていじくり、二人揃って悶絶していた。
どう考えたって、こんな天狗から正しい浪漫は出て来ないだろう。
「なら、パチュリーはどう?」
いやいや、喘息持ちの魔法使いをいじめる趣味は無いよと反論する萃香。
誰が相手でもいじめる気は毛頭無いのだが、パチュリーならお互い納得が行くまできっちりと説明し、その上で血を吐くまで咳きこむだろう。
うーむと首を捻る霊夢を見ていると、萃香に一つの疑問が浮かんだ。
「じゃあさ、霊夢の浪漫って何?」
そんなの簡単よ、とあっさり答える霊夢。
「朝はのんびりと起きて、美味しいご飯を食べる。お昼はゆったりと休んで、美味しいご飯を食べる。夕方はたまに宴会して、美味しいお酒とご飯。それくらいかしら。」
ついうっかりと『安いね』と口走った所為で、数日間タダ働きさせられる萃香であった。
は:春は道連れ
春になると現れる、春告精ことリリーホワイト。
彼女は人間の里でも人気であり、それは寺子屋でも同じことが言える。
今年も慧音は沢山の花の種を用意している。
これでリリーを釣り出し、子供達と一緒の部屋に囲い込めば準備完了。
そして授業をするとあら不思議。
アイデアの花が良く咲くと評判の春期講習、受講の申し込みはお早めに。
に:人間やめますか
「幻想郷って人間の方が少ないわね、よく考えれば。」
「だからって師匠が私を魔薬の実験材料に使う理由にはなりぃいやああー!!!」
ほ:惚れた弱みに
外の世界で忘れ去られた訳でも無いのに、幻想郷に流れ着いているモノは数多い。
片想い、なんてのもその一例である。
そして、幻想郷には恋する乙女がたくさんいる。
「はあ……。」
白狼天狗、犬走椛もその一人である。
だが、彼女の場合は少々事情が異なる。
何せ彼女は、千里を見通す視覚、触れる風からあらゆる異常事態を察知する嗅覚、そして長年の警邏天狗経験による勘の持ち主である。
今だって、永遠亭へとカメラ片手に全速突進している想い人、文の姿を、両眼できっちり捉えているのだ。
彼女の取材の迷惑っぷりは、天狗達に苦情として全て余すことなく伝えられている。
なので、文の取材を止めるのも、最近の椛の仕事なのだが、彼女にはそれが出来ないでいる。
「どうして文様は、あの突撃取材を私にしてくれないんでしょうか……。」
取材を止めたら突撃されず、止めないでいたら苦情と減給。
今日も今日とて、秩序と乙女心の境界をふらふらする椛であった。
へ:隔たりは絶望的で
スペルカードを手にする者は、必ず戦いに身を投じる事となる。
勿論弾幕勝負の事もそうだが、それだけでは無い。
そもそもスペルカードルール自体が、命のやり取りを伴わない全力勝負の為に作られたものである。
つまり、スペルカードを手にする以上、常に全力でなくてはならない。
それは弾幕勝負の事もそうだが、普段の生活にも言える事だ。
常日頃から食事に運動に生活リズムの管理、適度な個人的努力等、注意を払わなくてはならない事柄は数多い。
他にも列挙すれば数限りないこれらを正確にこなしても変わらないもの、それを『戦闘力』と表現することがある。
「改めて文字にされてみると、余計に悲しくなるわね。あなたがちょっと……いえ、かなり羨ましいわ。特に胸元。」
「いいじゃない、そっちは魔法が使えるんだし。私なんて、どう足掻いたって無駄なのよ?どんなに努力しても来年には元通りなんて……。」
~アリスとレティ、ちょっとした世間話~
と:とまらないひと
「ようむー、おやつの時間にしない?」
「まだ朝食に使った食器を洗い終えていませんので、もう少しお待ちください。」
一時間後
「ねえ妖夢、まだ皿洗い終わらないの?」
「ええ、あと昼食の分が残っておりますので。」
一時間後
「それでは、いただきます。」
「ごちそうさま。今日のお団子はいろいろ控え目なのね。」
一時間後
「妖夢、そろそろ夕食の時間じゃない?」
「おやつの分の食器がまだ残っておりますので、それを洗い終えてから準備します。」
一時間後
「じゃあ先にお風呂に入るわね、妖夢?」
「はい、幽々子様。私は食器洗いが終わってから入りますね。」
一時間後
「……妖夢、怒ってる?」
「今やっと昨日の分の食器を洗い終えましたので、言い訳なら今日使った食器を洗い終えるまでに考えておくことです。」
ち:散ってたまるか
前略、毛玉より。
紅魔館を離れて、もう何日目になるでしょうか。
自分は今、恐らく歴史にも記録にも、誰の記憶にも残らないであろう死闘を続けております。
自分を喰い殺した亡霊の腹の中で、胃液相手にグレイズと10点毎のエクステンドを刹那の内に繰り返すなど、他の誰に出来ましょう。
どうか、万が一生還することが叶ったならば、まず最初にお風呂に入らせて下さい。
り:隣人を愛せよ
紅魔館地下、大図書館。
友人との会話を楽しみにここを訪れたレミリアは、新しく増えた本の中から適当な一冊を取り出し、ぱらりぱらりとめくり始めた。
「聖書、ねえ……聖なる書物って言っても、一概に善いものか否かは決まらないと思うんだけど。」
そんな言葉に、紅茶とケーキと小悪魔をお供に休憩しながらパチュリーは答える。
「確かにそう言う意見も一理あるけれど、実績が有るのも確かなのよ。大量にレプリカが作られているから、レプリカ同士で共鳴して何かの効果を発揮する事も有り得るでしょうし。」
「なんだか安上がり。」
「信仰はお金じゃなくて、心の問題なのよ。人間達は不明瞭でもルールが有る方が活動的になるって説の方が、私は興味が湧くけれども。」
ふうん?と言いつつ、興味の対象から外れたらしい聖書をテーブルに置いて、レミリアは適当な次の本を探し出す。
「……お賽銭、無いなあ。」
お隣さんなんて居ない博麗神社は今日もいつも通りである。
ぬ:NULLと0の差分値
森近霖之助が経営する香霖堂には、とあるスキマ妖怪の手により、外の世界から様々なモノが流れ着く。
以前は偶然に、外の世界で忘れ去られたモノだけが漂着してきていたが、最近は彼女が自発的に持ち込むモノがやたらと増えた。
だが、ここ数年でやたら多く見つかるコレは、単に忘れ去られたモノらしい。
「しかし……外の世界はこんな空っぽの術符を大量に使うとは、想像しにくいな。」
虹色に光を反射するコレは、同じモノはそうそう手に入らないと言う香霖堂の常識を覆しつつあった。
後日、『射命丸イラズ』と名付けられた道具が香霖堂から売り出され、かなりの売れ行きを記録した。
その道具が、本来はCCCDと呼ばれるべきモノである事は、霖之助と早苗しか知らない。
る:ルーレットを廻せ
某日、妖怪の山、宴会の席。
そこは小さくて大きな議論上になっていた。
未だに結論の出ない議論のテーマ。
それは、『幻想郷における公平且つ公正な乱数発生の方法』。
早い話が、毛玉が次に行く場所を決める方法を論じていたのである。
それも神とか天狗とか吸血鬼とか、力の強い皆さん方が平和的に死力を尽くして話し合っていた。
「まず、監視役としてハクタクを呼ぶ。これは決定してたよね。」
議論の進行役は、人前での話に慣れるべく、にとりが買って出た。
意外な配役だったために最初は誰もが驚いたが、今では十分に馴染んでいる。
自作の大型スクリーンに注目が集まっているから、彼女は大丈夫なのだそうだ。
基準がイマイチ分かりにくいが、そこを追及する野暮な者は居なかった。
「それと、現場に連れて来ちゃいけないのが、霊夢・魔理沙・咲夜・吸血鬼。昨日までに決まったのは、これで合ってるよね?」
勘で全ての確率をひっくり返す霊夢、いかにもイカサマしそうな魔理沙、いかにもイカサマ出来そうな咲夜は、最初から対象に入れない事にした。
決して仲間外れでは無い。言うなれば、強者故の義務である。
そして、吸血鬼の二人でもレミリアだけは現場に連れて行ってはならない。
運命を操る能力は、未来を操る能力。
過去のみを監督する慧音の能力では、運命操作が行われたか否かを察知できないだろうと言う、慧音本人からの進言だった。
現場の外から介入されたらどうするんだ、との反論も出たが、流石に対処法が無いのでそこから先の意見は続かなかった。
ちなみに、フランは癇癪を起したらあらゆる意味で危ないから、と言う理由でこの一団に含まれている。
これもまた仲間外れでは無い。
「じゃあ、今日は引き続き『現場に連れて来ちゃいけないのは誰か』を議題によろしく。」
おう、と返事が揃う。
この議論には、誰もがかなり熱中している。
『議論』と言う遊びに興じているのか、それとも本気で毛玉を自分の物にしたがっているのかは其々だったが、少なくとも平和的なのに変わりは無かった。
今夜も議論は、酒と共に進んで行く。
議論に酔った者は脱落し、酒に酔った者は渦に巻き込まれる様に議論の中へ没頭していく。
外の世界で忘れられつつある、白黒写真にも遺されないアルコールと知恵の作る独特の空間が、幻想郷に現れつつあるのかも知れない。
その渦中の存在が毛玉なのはどうかと思うが、そこを追及する野暮な者は居なかった。
お:おとし
『おとし○○
○○に入る字を見事的中させることが出来たら、相応の賞品を差し上げます。』
そんな看板が人間の里に立てられた。
誰がやったのかは分からないが、平和ボケしている訳で無しに里の安全を信じている人間達は、たいして気にせず正解は何なのだろうかと考えていた。
博麗の巫女は看板を見て、迷わず「おとしだま」と書いた。
特に何も無かった。
人形遣いは看板を見て、少しだけ考えてから「おとしもの」と書いた。
その日の夜、自宅に青いリボンが届いたと言う。
騒霊三姉妹の次女は、直感で「おとしまえ」と書いた。
長女のゲンコツが降って来たとか。
半人半霊の庭師は、ふと思いついた単語で「おとしぶた」と書こうとして止めた。
白玉楼でお嬢様が待ち構えて居そうだったからだが、書かなくても待ち構えていた。
里の守護者は、精一杯悩んでから「おとしあな」と書いてみた。
背後で親友が穴に落ちているのが見えた。
月の姫は、ひとしきり大笑いしてから「おとしめる」と書こうとした。
しかし、従者にたっぷりと説教されて書けなかった。
その後、様々な挑戦者が現れた。
だが、誰も正解を書くことは出来なかった。
誰一人として「おとしより」とは書けなかった。
きっとこれが、暗黙のルールと言う奴なのだろう。
看板を立てて、その反応を記事にしようと画策した犯人である文は、当日の内に色々おとされた、とは風の噂である。
毛玉ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!死ぬなぁあぁぁあぁぁあぁあぁあぁああ!!!11
毛玉の未来(あす)に輝ける希望(ゆめ)があるから……!
「は」が好印象。アイデアの花なんてうまいことを。
「と」は理解した瞬間盛大に吹いたwww
そして主人公の命の危機が番外編の一パーツwwwwww生きろ毛玉!
どこから脱出するつもりだい?
最後が「を」でなく「お」だったのがどうしても少し気になりました。(無茶言ってすみません)
猫なんかは、飲み込んだ自分の毛を塊にして吐き出したりするみたいですけど…
そして、毛玉ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!頑張れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!
生きて帰ってきてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!