ある紅魔館の一室で、パチュリーはベットで横になっていた。
「むぅ…」
普段日に当らないせいか、病的に白い彼女の肌。しかし今日はほんのりと赤みが帯びている。それに普段からじとーっとした半目であるが、今日はなんだかトロンとして雰囲気が違う。つまりパチュリーは風邪をひいていた。
「油断したわ…」
まさか少し薄着をして寝ただけで風邪をひくとは思っても見なかった。あまり健康体ではないのは常々理解していたが、こうも弱いとは。
ゴロリと一回寝返りをうち、うつ伏せになってからため息を一つ。
先ほどからどうも落ち着かない。
でも、理由が解らない訳ではない。そう、本が無いからだと思う。
私が横になっているベットの隣にある二脚の小さなテーブル。先程までこのテーブルがギシギシと悲鳴をあげるほどのたくさんの本が乗っていたのに。
それを咲夜が片付けてしまったので、どうも暇だ。
『病気の時くらいは読書を忘れて休んでくださいよ』
咲夜はそう言ったがご生憎さま。私は読書をしてた方が調子がいいのよ。
とにかく本を取りに行くために立ち上がらなければ。
一度寝返りをうち、仰向けに体勢を戻す。そしてそのまま腕と足だけを使ってズリズリと、ベットの端まで移動する。
足だけを下ろし、どうにかベットに腰掛けている姿勢までもってこれた。
そして足に力を入れて立ち上がる。
ふら
「わわっ…、っと」
少しだけ眩暈がして一瞬バランスを崩してしまったが、ベットの片手をついてなんとか持ち直せた。
そのまま壁伝いに片手をついて、ドアまで移動する。
思ったより風邪は重いらしく、かなり辛い。でも本を読めないほうが辛く感じてしまうのは、根っから私は活字中毒なのだろう。
何とかドアまでやってこれた。ドアの正面に立ち、ドアノブに手をかけようとした時にドアノブが独りでに回った。
不審に思った瞬間、私の頭に鈍器で殴られたような衝撃が走った。
「んなっ!」
あまりの衝撃に私の視界が急速に真っ暗になっていった。気を失う寸前に聞いたことある二人の声が聞こえたような気がしたが、私はそこで意識を手放してしまった。
「……っ!」
「………!?」
なにやら騒がしい。そう思って私は目を開ける。開いた視界には、とても色鮮やかな服を着た少女。黒と白色のエプロンドレスを着た少女が言い争っていた。
「だからノックくらいしましょうって言ったじゃない、魔理沙!」
「なんだよ、驚かせようってお前も同意したじゃないか。」
「そ、そうだけど!でも…!」
「ちょっと待ったアリス。パチュリーが起きたみたいだ」
「え?」
そう言って魔理沙とアリスは言い争いをやめて、私の方を向く。なんだかとても心配そうな顔をしている。この二人がこんな顔をするのはめずらしい気がする。
「大丈夫か?パチュリー」
「怪我はない?」
「え、ええ。大丈夫よ二人とも。…っ!」
そう言って体を起こそうとすると、鋭い痛みが頭に走る。おかしいな、こんな頭痛さっきまではしてなかったのに。
「あーあー、動くなパチュリー。頭をぶつけたんだから、少し安静にしないと」
「そうよ、パチュリー。起きなくていいから。ね?」
二人して私を押さえつけてくる。流石に頭痛がシャレにならないので、素直に従っておいたほうがよさそう。
横になってからふと疑問が浮かぶ。
「そういえば何で私は寝てるのかしら?」
そういって二人に目線を送ると、露骨に目を逸らす。
暫く見つめていると、おずおずといった感じでアリスが答える。
「実は、パチュリーが倒れたって聞いたからお見舞いに来たのよ。」
「誰から聞いたの?」
「小悪魔だぜ」
成る程、今朝私を手当てしてから『用事があるので』とか言って抜け出したのはそのためか。妙な気を利かせるのだから、こまったものね。
「それで、その、パチュリーが寝てる部屋に入る前に魔理沙と相談して…」
「せっかく来たんだし、驚かせようって話になったんだ」
「うん」
「で、一気にドアを開けて入ろうとしたら…、その、なんだ。パチュリーが居たみたいで…」
「ああ、なるほど」
そこで私は気を失い、現在に至るわけ、ね。
「その、ごめんなさいパチュリー」
ペコリと頭を下げて謝ってきたアリス。
「その、私も悪かった。ごめんなパチュリー」
こちらも帽子で顔を上半分ほど隠しながらだけど、謝ってくれた。
「許さないといったら?」
「え、いやその…」「あぅ…」
「冗談よ。気にしてないわ」
そこでほっとした表情をする二人。こうもクルクル表情が変わるのを見ていると、怒る気にもならないわ。
「それでパチュリーは何で倒れたの?風邪?」
「おお、私も倒れたとしか聞いてないんだ。喘息かと思ったが、違うみたいだし」
咳したりしてないもんな、っと付け足す魔理沙。
「いや、ちょっと体を冷やしちゃっただけよ」
「そりゃドロワーズと薄いネグリジェだけじゃあ体も冷やしますよ」
「んなっ。小悪魔!余計なことを言わなくてもいいでしょ!それにいつから居た!」
「アリスさんが、『だからノックくらいした方が~』とか言っている辺りです」
最初っからじゃない。アサシンか。
「いいえ、使い魔です」
「心を読まないで」
「仕様ですので」
最近小悪魔が反抗期なのかしら。しかも余計な恥かいちゃったし…。
「まあ、なんだ。それくらい誰でもやってるから気にするなパチュリー」
「ありがとう…」
魔理沙までに気を使ってもらってしまった。
「そ、そうよパチュリー。私も暑いときは上のシャツだけのみを羽織って寝てるもの。大丈夫!」
「え…、アリス下は?」
「いや、履かないでだけど…?」
「「「……」」」
「ちょ!しない?みんなやらない!?暑いとき!」
「いいえ」
「しないわね」
「やらないな、流石都会派だぜ」
「うわーん!」
「賑やかでしたね」
「そうね、お陰で大分頭痛が酷くなったわ」
あれから結構な時間を雑談して、お開きとなった。
今はベットに戻り、本を読みながら休憩中。小悪魔は私の看病をしている。
「ふふ、何だかんだでパチュリー様はとても楽しそうだったじゃないですか」
そういって、小悪魔は微笑みながら暖かい紅茶が入ったカップを私に手渡してくれた。
一口飲んでから、私は思い出す。
アリスの剥いてくれた林檎はとても美味しかった。
魔理沙が作ってきてくれた風邪薬は、とても苦かった。
「そうね…」
なんだかんだで心配してくれる人が居て、友人が居て嬉しかった。
「私も心配してますよ?」
「だから何もいってないのに妙なことを言わないで」
「はいはい、かしこまりました」
まったく、この使い魔は使い魔らしくない。
そこで不意に思い出した。あの友人を。
「小悪魔、レミィはどこに居るか知らない?」
あの吸血鬼は一番付き合いの長い友人の癖に、今日は顔すら見せに来てくれなかった。
「そろそろだと思いますよ?」
「なにがよ?」
「だからもうすぐ来ると思いますよ?」
「何でわかるのよ」
そこで、ニコリと笑って小悪魔は言った。
「今朝、パチュリー様が倒れたとレミリア様にお伝えしたんですよ。そしたら直ぐに飛んで行ってしまいました。おそらく永遠亭に向かって行ったんでしょうね。」
「貴方…」
この子はもう小悪魔ではないわね。いうならば
「悪魔ね」
「ありがとうございます。でも皆さんパチュリー様をそれだけ心配してるんですよ?」
「キレイに纏めたつもりなら、二点ね。」
そして、外の方が騒がしくなってきた。
「あら、残念です。では私はこれで失礼しますね。」
そう言って、小悪魔はドアから出て行った。そして、ものの数秒後にレミィが入ってきた。
「大丈夫パチェ!?」
「うわっぷ。いきなり抱きついてこないでよレミィ、痛いわ」
「あら、ごめん。それより永遠亭から薬を盗ってきたの。さあ、飲んで!」
そういって、グイグイと袋に入った薬を押し付けてくる。
この友人も含め、今度は何かお礼でもしてみようかしら。…みんな驚きそうね。楽しみになってきたわ。
でもね、レミィ。蓬莱の薬はいらないわ。
>私も暑いときは上のシャツだけのみを羽織って寝てるもの
詳細をkwsk。
あ、後書きが紅色の紳士になってますよ。念のために報告しておきます。
一人暮らしで風邪を拗らせるとかなりしんどいですね。
こういう友達を持てて羨ましい
>紅魔卿が一番好きです
紅魔郷が一番好きです
誤字修正しました。
ありがとうございました。