Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

レミーリャ

2008/08/04 21:47:58
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*オリキャラっぽいのが一匹います。










「咲夜、紅魔館から出て行きなさい」
「お断りします」

急に呼びつけられたと思ったら急に首を宣告された。
お嬢様が突拍子もない事を言い出すのはいつもの事であるし
それに全力をもって報いるのが私の仕事だ。
だが、これだけは受け入れられない。

「僭越ながら申し上げます。
 首なら首でかまいませんが、せめて私が納得できるなりの理由を用意してくださいませ。
 そうでなければ如何に私といえどお嬢様の命令には従えません」
「うう…」

馬鹿丁寧に返答をする私に対してお嬢様はたじたじ。
従者として失礼な態度である事はわかっているが、主を正しい方向に導くのもまた従者の役目。

「理由を言えないのですか? ではこれはお嬢様のいつもの思いつきと判断してよろしいのですね?」
「…、そ、そうよ…」

がっくりとうなだれお嬢様は負けを認める。
我が主ながら情けない姿。外には見せられないと改めて思う。



「メイド長、一体何を言われたんですか?」

仕事に戻り、一通り雑務を終えてくつろいでいると後ろから話しかけられた。
慣れ親しんだその声に気を緩めたまま首だけ後ろに向ける。
そこにいたのは気心の知れた副メイド長。
未だに妖怪なのか妖精なのかよくわからないが、実力だけはそこら辺のメイドと違って折り紙付きだ。

「いつものお嬢様の思い付きよ。冗談で言って良いことと悪い事の区別をつけて貰いたいものね」
「冗談を言える位に信用されているという事で良いではありませんか。私は言われたことがありません」
「そう、なら私はあなたと違ってお嬢様に舐めきられているという事ね。やはり人間はつらいわ」
「そんなに不満ならやめちゃえば良いんですよ。すっきりしますよ、いろいろと」
「いい加減な言い方ね。そんなんじゃアドバイスにもならないわ。
 もう少しはっきり言ってくれないと何をしたら良いのかさっぱりわからないわね」
「あらら、これはすいません。ならもう少し具体的に」

けらけらと笑う副メイド長に私もつられて笑う。やっぱりこのメイドは面白い。
ひとしきり笑って紅茶を一口。カップを置いてふうと一息ついたところに副メイド長の一言。

「人間やめますか? それとも紅魔館やめますか?」



もう何度も繰り返されてきた議論だ。
十六夜咲夜は人間である。紅魔館は吸血鬼の館である。
だから十六夜咲夜という『人間』は紅魔館にいるべきではない。
何度も繰りかえされているから結論も大体決まってくる。
十六夜咲夜は人間としての属性を維持したまま死ぬまで紅魔館で働き続ける。
私が人間の世界に戻っていくと言う者もいるが少数派だ。
お嬢様に血を吸われて人外になるなんてめったに聞かない。

「吸血されるばかりが人外になる方法ではありませんよ」
「やっぱりあなたも人外ね。そんなに私を仲間に引き込みたいの?」

にへっと首を傾ける副メイド長に軽い冗談のノリを感じ取る。

「いえいえ、咲夜さんがずーっと紅魔館に人間として居続けるなんてみんな思ってる事ですよ」
「わかっているじゃない。もちろんそのつもりよ」
「殺される覚悟込みでのその決意。やはり尊敬に値します。私ならこうは行きません」
「ただで殺されるつもりもないんだけどね」

不穏な単語に眉をひそめる。暗黙の了解を口に出す時点でやはり彼女も人間ではないと再認識する。

「それも了解済みです。ただ、私が言いたい事は自己矛盾だけはやめてくださいねってことです」

あくまで軽い物言いで喋って、そのまま彼女は仕事に戻っていった。ほんとに人数の割りに忙しい職場だ。

なになに、どーしたのー?
あー、副メイドちょ。窓ガラス割っちゃいましたー。
あんたガラスって意外と高いのよ。しかも紅魔館のは全部UVカット仕様だし。
ごめんなさーい。
とりあえず片付けなさい。ほらほら

部屋の外から聞こえる喧騒をぼんやりと聞きながら私は今言われたことを考える。
「自己矛盾」
人間の癖に妖怪の只中にありながらも殺されないだけの化け物じみた実力を持っていること、だ。
そんな化け物じみた能力を持ったものを人間と呼んで良いのか。
人間である以上はあまり強い力を持つのはおかしいのではないか。
これも良くある議論だ。実のところ聞き飽きた。
同じくとんでもな能力を持っている人間は他にもいるが博麗霊夢や東風谷早苗なんかは免罪符を持っている。
すなわち博麗の巫女という肩書きと神様の子孫、そしてそこそこの弱さといったもの。
つまり、この議論の対象は専ら私と霧雨魔理沙が対象となる。
ついでに言うとどちらも人間である事を強調しているため殊更都合が悪い。

「だからこそ私は殺される事込みでメイドやってるなんて言われるのよね」

溜息をつきながら更に紅茶を一口。はぁ。
仕方ないじゃない。そういう力持ってるんだから。
そんな人間がいても良いじゃない。いる以上はいるのよ。
いないことを証明してみろなんて無理難題言うわけにもいかないしね。
人間の定義なんて哲学的で生物学的なことなんてわかりません。





「もう一度言うわ。咲夜、紅魔館から出て行きなさい」
「お断りします。お断りします」

翌日。懲りずにまた首を宣告された。
やっぱり舐められているのだろう。人間だから。

「主に逆らうとは咲夜、良い度胸ね」
「従者ですから逆らいます。自分の命令にはいとしか言わない者をお望みなら奴隷でも買ってくださいませ」

私はあくまでメイドであり従者である。
いちいち理不尽な命令に従うわけにはいかない。

「ところが今日は正当な理由があるのよ」
「なんでしょうか」
「これよ!」

バンと目の前にひらひらの布切れを突きつけられる。何でしょうこれ?

「咲夜の箪笥から出てきたブツよ! 観念する事ね!」
「…はぁ」

ようやくわかってきた。
目の前のコレはパンツだ。ひらひらの。

「この紅魔館は吸血鬼の館。無論人間は咲夜一人。更に男は一人もいない!」
「ですね」
「だが、咲夜の箪笥からはこんな破廉恥な下着が出てきた。有罪、有罪っ!」

つまり、人間の男が一人もいない紅魔館でこんな物が必要になるはずもない。
外の男に興味があるに違いないという事らしい。

「人間に未練があって、妄想に耽っていそうなメイドを置いておくわけにはいかないわ!
 即刻紅魔館から出て行きなさい!」
「問題外ですわ、お嬢様」

鬼の首を取ったと言わんばかりのお嬢様を見て頭がくらくらしてくる。
この館は本当に頭痛の種には事欠かない。

「お嬢様はクマさんパンツがデフォルトだとお思いになっておられるのでしょうが
 世の中そんな事はないのです。そこら辺のメイドのスカートはお捲りにはなられませんか?」
「…う?」
「みんなこんなパンツですよ。お嬢様は少しばかり見識が狭すぎます」
「う、うう…、そ、そうなの…?」
「はい」

にこやかに答える。お嬢様が見聞を広められるのは私としても嬉しいものだ。
手に持ったパンツを見つめ、お嬢様はウンウン唸っている。かわいい。

「今回も正当な理由がなかったということでよろしいですか?」
「…ええ、私の勘違いだったわ」

がっくりとうなだれるお嬢様。
見ていて涙が出てきそうだ。

「返すわ」
「いりません」

差し出されたパンツを拒絶する。
お嬢様が不思議そうに私を見てくる。

「なんで?」
「見られてしまった奥の手に価値はありません。
 言うじゃないですか。奥の手は敵に見せるな、見せるなら更に奥の手を持てって」
「敵なのね、私」
「敵です」



「お嬢様も懲りないですね」
「いつもの事よ」

紅茶を楽しみながらの午後の一時。
目の前の副メイド長は一緒にいても疲れにくい紅魔館の貴重な逸材だ。

「堂々とお嬢様の事を敵だなんていうからひやひやしましたよ」
「わかりきっていることじゃない」

私とお嬢様はそもそも敵同士だった。コレもよくある話。
ハンターだった私は吸血鬼であるお嬢様に挑み、そして負けた。
負けた際に名前を与えられそのまま従者へとされた。
証拠物件は銀のナイフ。あと幻想郷縁起。

「あと堂々と嘘を言わないでください。私はドロワ派ですわ」
「あらごめんなさい」

幻想郷にはドロワ派が多い。さすが幻想郷。





「ねえ咲夜、紅魔館から出て行ってくれないかしら」
「そんな事言われても困りますぅ~」

図書館に向かう途中で自然に会話に挟まれたからあくまで自然に返してみた。
しかしいい加減にしてほしい。そんなに私を首にしたいのだろうか。

「でもね咲夜。私やっぱり思うの。人間は人間の中で暮らしてこそ幸せなんだって」
「悪魔の口から出た幸せという言葉に如何ほどの価値がありましょうか」
「ひどい」

紅魔館のメイドらしく主に従いながら図書館へとたどり着く。
ヴワル魔法図書館なんて偽名で呼ばれることもあるこの紅魔館付属図書室には紫の魔女がいます。

「こんにちわ、レミィ」
「こんにちわ、パチェ。いい夜ね」

お嬢様とパチュリー様は私が紅魔館に来るずっと前から友達同士だといいます。
それがどんな縁だったかなんて私にはわかりません。実際どうでもいい。

「咲夜、紅茶を」
「はい」

用意しておいた紅茶をお二方の前に出し後ろに下がる。
しばらくいつものように歓談しているのだろう。

「こんにちわ、咲夜さん」
「こんにちわ、名もなき中ボス」

ひょいと私の隣にやってきたのはパチュリー様が召喚したという生き物だ。
一般には小悪魔と呼ばれているがなんでそんな呼ばれ方をしているのか私は知らない。

「何か憂鬱な表情ですね。何かありましたか?」
「あなたの存在意義について考えていたのよ。憂鬱に見えた? やっぱり」
「ひどい」



「最近投げやりですね。すべてが」
「悪魔の館ですもの。この位は許容範囲内ですわ」
「そうでしょうか」

最近一人でお茶をしているといつも副メイド長が近くにいるようになっていた。
別に害がないからかまわない。
しかし妖怪だか妖精だかが間合いに居てのんびりくつろいでいるというのも間違っているような気がする。

「その通りですね」
「そうよねえ」
「人間という属性を維持する事を選んだのですから
 人間を捕食する種族が近くにいてくつろぐというのは明らかに間違っています」
「この環境に適応しただけで人間である事を放棄するに等しい暴挙なのよね」
「ええ、人間は妖怪を恐れ、食べられるものですから。
 人間は妖怪を退治する事もよくありますが、それでも目の前でくつろぐ事はないでしょうね」
「人間失格ね」
「じゃあ私は妖怪失格です」

互いに目を合わせ、くすくす笑い出す。
実際は笑い事ではない。自分たちの存在意義にかかわる事だ。

「恐れられない妖怪に意味はないし妖怪を恐れない人間にも意味はない」
「わかってるんじゃないですか」

驚いたように副メイド長が言う。
驚くような事だろうか。当たり前な事だ。

「そこまでわかっていて人間でありつつ紅魔館に居続ける選択をしたんですか。悪魔ですね」
「わかってるんでしょ、私とお嬢様は敵同士なんですよ」
「陰湿ですね」
「人間らしいでしょう?」
「とっても」





「ねー咲夜、紅魔館から出て行きたくなったりすることってなーい?」
「残念ながらありませんね」

最近人里では紅魔館の評判が変わってきているらしい。
カリスマカリスマと騒がれていたのも段々下火になってきた。
世間での印象はれみりゃな幼女に変わりつつある。

「あーもー、いい加減に出て行きなさいよ!」
「はいはい、死んだら出て行きますとも」



紅い悪魔は、もういない。
そそわに投下するのは初めてなので奇を衒わずにありがちな話を書いてみました。
めんどくさがり屋なので必要な表現含めてごっそり省略しがちです。
文意が伝われば幸いです。
ツァル
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
わあい、桃色紅魔館コメディだ。などと単純にはしゃいで読み始めたら。
あれ……これって……なんだ。刺し違え技?
2.名前が無い程度の能力削除
証拠物件は~幻想郷縁起
一般には小悪魔と呼ばれているがなんでそんな呼ばれ方をしているのか私は知らない

この辺のさらーっと挿入されたメタ的感想がステキと思いました

淡淡として多くを語り過ぎない感じが好きです

良ければまた書いて欲しいです