キャラが多少壊れております。
一通り掃除も終わり、早苗は神奈子の指揮の下焚き火を行っていた。
「諏訪子様はどうしたんですかね」
「何だか探し物がどうとか言っていたね、直に来るだろう」
神奈子の言った通り、間もなく諏訪子が駆けてきた。
しかし、彼女は酷く慌てた様子でたき火には目もくれず二人にこう尋ねた。
「私の帽子知らない?」
「いえ、知りませんよ、部屋に置いてないんですか?」
「部屋には無かったの。確か段ボールの辺りで見たような気がするんだけど」
段ボールならば、先ほど周囲のゴミと一緒にたき火の中に放り込んだ。
早苗の頬を冷や汗が伝った。
「本当に知らない?」
「わ、分かりません」
早苗は、持っていた木の枝でひたすらたき火の中をかき回した。
「知らないね、もう一回家の中を探してきたらどうだい」
堂々とシラを切った神奈子に促された諏訪子が家の中に戻っていったのを見届けて、二人は顔を見合わせた。
「ま、まだ燃やしてしまったと決まったわけでは」
早苗が燃える落ち葉や段ボールの中をかき分けると、燃え残った帽子の目玉の部分が出てきた。
「きゃあ」
「さ、早苗落ち着いて」
「どうしよう。私諏訪子様の帽子燃やしちゃった、どうしようどうしよう。罰が当たる」
「大丈夫、すぐに同じ帽子を買ってくれば」
「あんな帽子、どこに売ってるんですか」
早苗の目に涙が浮かんだ。
一刻後、未だ血眼になって帽子を探し回っている諏訪子を見て二人は考え込んだ。
「私はね、以前諏訪子に帽子を無くしたらどうするかって聞いたことがあるんだよ」
「そうしたら、何て言ったんですか」
「自殺するって」
早苗が卓袱台の上に突っ伏して少しの沈黙の後、神奈子がまた口を開いた。
「段ボールで作れないかね」
早苗は答えなかった。
「ほら、あの帽子段ボールみたいだったし」
その時、諏訪子が独り言を呟きながら二人の後ろを通った。
「ここにもない」
再び沈黙の後、神奈子が立ち上がった。
「ちょっと庭に行ってくる」
疲れ切った様子の早苗はそのまま動こうとしなかった。
少しして泥だらけになった神奈子が庭から戻って来た。
「さ、早苗。これで代用が利かないかい」
「うわあ」
神奈子は巨大なガマガエルを抱えていた。
「庭で冬眠してたんだ」
「それこそ罰当たりじゃないですか」
「変な事を言うんじゃないよ、私は神だよ。神様に罰が当たってたまるかい、絶っ対に当たりません」
神奈子は眠ったままの蛙を卓袱台の上に置いた。
「わ、そんな所に置かないでください」
「どうかした?」
騒ぎに気付いた諏訪子が居間に入ってきた。
「い、いえ。何でもないんです」
卓袱台の上を見るやいなや、諏訪子は充血した目を輝かせた。
「あっ、私の帽子」
そして、やにわにその、サッカーボールほどもある巨大な蛙を掴むと自らの頭の上に乗せた。
「見つけてくれてありがとう、ちょっと重たくなったかなあ」
えへへ、ケロケロケロケロ。
神奈子は早苗の耳元で囁いた。
「早苗を元気づけるための、冗談のつもりだったんだが」
すっかり落ち着いた諏訪子は自室に戻っていった。
「神奈子様、どうするんですか。ばれるのも時間の問題ですよ」
「どうするったって、私は長い事諏訪子と暮らしてきたけどここまで馬鹿だとは思っていなかったんだよ」
「それじゃあ」
神奈子と早苗が熱く議論を交わしていると、素足の諏訪子がぺたぺたと音を立てながら部屋に入ってきた。
二人は戦慄した。
頭の上の蛙が目を覚ましている。
低身長の諏訪子の頭の上からもう一つの顔が二人を見上げていた。
「さ、早苗」
「私、お昼ご飯作ってきます」
新聞を持ったまま固まる神奈子をよそに、早苗はそそくさと台所に向かった。
困ったのは一人取り残された神奈子である。
新聞の文字など到底頭には入ってこないし、どうしてもこうしても視線が諏訪子の頭の上にいってしまう。
目が合ってしまった。
蛙のつぶらな瞳に見つめられた蛇は思わず視線をそらして立ち上がり、早苗のいる台所に駆け込んだ。
「早苗。どうして私を置き去りにした」
「ごめんなさいごめんなさい、どうしてもあの雰囲気に耐えきれなかったんです」
「心細かったぞ、私は。大体どうして冬眠から覚めるんだ。まだ秋の終わりだってのに」
「それは」
早苗が調理する手を止めて、考えこんだ。
「やはり、諏訪子様の頭の上が暖かいからではないでしょうか」
二人して頭を抱えた。
「じゃ、じゃあこうしましょう」
早苗は手近にあった鍋を取り出すと頭に被ってみせた。
「代用品です」
「だませると思ってるのかい」
「何を。あんなものを頭の上に乗せて平然としているのに、今更鍋くらい何です。駄目なら色を染めるなり目を付けるなり」
早苗が声を荒げた。
神奈子は「蛙だから気付かないんじゃないだろうか」と思ったが口にしなかった。
「分かった、分かったよ。後で私が隙を窺ってなるべく早い内にすり替えるよ。その、鍋と蛙を」
そうこうしている内にソバが出来上がってしまった。
「私は居間に行きたくない」
「私だってそうですよ。早く行ってください、ソバが伸びてしまいますよ」
蛙は相変わらず諏訪子の頭の上でぼんやり宙を眺めていた。
早苗と神奈子は終始俯きながらソバをすすった。
「どうしたの、二人とも食欲ないの?」
「いや、決してそんなことは」
否定しようとした神奈子は言葉を失った。
蛙が大きく口を開けてピンク色の舌を覗かせながら、もぞもぞと動いていた。
「さ、早苗」
原因はすぐに分かった。
神奈子の丼の縁にハエがたかっていたのである。
神奈子は頭を下げた。
「諏訪子、私が悪かった。事情は後で説明してやるから、動くな。すぐに取ってやる」
「あ、ハエ。私が追っ払うよ」
諏訪子が身を乗り出した。
「馬鹿、そっちじゃない。止めろっ」
時、すでに遅し。
神奈子の絶叫の中、蛙は諏訪子の頭を離れ丼へと放物線を描いた。
そして
一通り掃除も終わり、早苗は神奈子の指揮の下焚き火を行っていた。
「諏訪子様はどうしたんですかね」
「何だか探し物がどうとか言っていたね、直に来るだろう」
神奈子の言った通り、間もなく諏訪子が駆けてきた。
しかし、彼女は酷く慌てた様子でたき火には目もくれず二人にこう尋ねた。
「私の帽子知らない?」
「いえ、知りませんよ、部屋に置いてないんですか?」
「部屋には無かったの。確か段ボールの辺りで見たような気がするんだけど」
段ボールならば、先ほど周囲のゴミと一緒にたき火の中に放り込んだ。
早苗の頬を冷や汗が伝った。
「本当に知らない?」
「わ、分かりません」
早苗は、持っていた木の枝でひたすらたき火の中をかき回した。
「知らないね、もう一回家の中を探してきたらどうだい」
堂々とシラを切った神奈子に促された諏訪子が家の中に戻っていったのを見届けて、二人は顔を見合わせた。
「ま、まだ燃やしてしまったと決まったわけでは」
早苗が燃える落ち葉や段ボールの中をかき分けると、燃え残った帽子の目玉の部分が出てきた。
「きゃあ」
「さ、早苗落ち着いて」
「どうしよう。私諏訪子様の帽子燃やしちゃった、どうしようどうしよう。罰が当たる」
「大丈夫、すぐに同じ帽子を買ってくれば」
「あんな帽子、どこに売ってるんですか」
早苗の目に涙が浮かんだ。
一刻後、未だ血眼になって帽子を探し回っている諏訪子を見て二人は考え込んだ。
「私はね、以前諏訪子に帽子を無くしたらどうするかって聞いたことがあるんだよ」
「そうしたら、何て言ったんですか」
「自殺するって」
早苗が卓袱台の上に突っ伏して少しの沈黙の後、神奈子がまた口を開いた。
「段ボールで作れないかね」
早苗は答えなかった。
「ほら、あの帽子段ボールみたいだったし」
その時、諏訪子が独り言を呟きながら二人の後ろを通った。
「ここにもない」
再び沈黙の後、神奈子が立ち上がった。
「ちょっと庭に行ってくる」
疲れ切った様子の早苗はそのまま動こうとしなかった。
少しして泥だらけになった神奈子が庭から戻って来た。
「さ、早苗。これで代用が利かないかい」
「うわあ」
神奈子は巨大なガマガエルを抱えていた。
「庭で冬眠してたんだ」
「それこそ罰当たりじゃないですか」
「変な事を言うんじゃないよ、私は神だよ。神様に罰が当たってたまるかい、絶っ対に当たりません」
神奈子は眠ったままの蛙を卓袱台の上に置いた。
「わ、そんな所に置かないでください」
「どうかした?」
騒ぎに気付いた諏訪子が居間に入ってきた。
「い、いえ。何でもないんです」
卓袱台の上を見るやいなや、諏訪子は充血した目を輝かせた。
「あっ、私の帽子」
そして、やにわにその、サッカーボールほどもある巨大な蛙を掴むと自らの頭の上に乗せた。
「見つけてくれてありがとう、ちょっと重たくなったかなあ」
えへへ、ケロケロケロケロ。
神奈子は早苗の耳元で囁いた。
「早苗を元気づけるための、冗談のつもりだったんだが」
すっかり落ち着いた諏訪子は自室に戻っていった。
「神奈子様、どうするんですか。ばれるのも時間の問題ですよ」
「どうするったって、私は長い事諏訪子と暮らしてきたけどここまで馬鹿だとは思っていなかったんだよ」
「それじゃあ」
神奈子と早苗が熱く議論を交わしていると、素足の諏訪子がぺたぺたと音を立てながら部屋に入ってきた。
二人は戦慄した。
頭の上の蛙が目を覚ましている。
低身長の諏訪子の頭の上からもう一つの顔が二人を見上げていた。
「さ、早苗」
「私、お昼ご飯作ってきます」
新聞を持ったまま固まる神奈子をよそに、早苗はそそくさと台所に向かった。
困ったのは一人取り残された神奈子である。
新聞の文字など到底頭には入ってこないし、どうしてもこうしても視線が諏訪子の頭の上にいってしまう。
目が合ってしまった。
蛙のつぶらな瞳に見つめられた蛇は思わず視線をそらして立ち上がり、早苗のいる台所に駆け込んだ。
「早苗。どうして私を置き去りにした」
「ごめんなさいごめんなさい、どうしてもあの雰囲気に耐えきれなかったんです」
「心細かったぞ、私は。大体どうして冬眠から覚めるんだ。まだ秋の終わりだってのに」
「それは」
早苗が調理する手を止めて、考えこんだ。
「やはり、諏訪子様の頭の上が暖かいからではないでしょうか」
二人して頭を抱えた。
「じゃ、じゃあこうしましょう」
早苗は手近にあった鍋を取り出すと頭に被ってみせた。
「代用品です」
「だませると思ってるのかい」
「何を。あんなものを頭の上に乗せて平然としているのに、今更鍋くらい何です。駄目なら色を染めるなり目を付けるなり」
早苗が声を荒げた。
神奈子は「蛙だから気付かないんじゃないだろうか」と思ったが口にしなかった。
「分かった、分かったよ。後で私が隙を窺ってなるべく早い内にすり替えるよ。その、鍋と蛙を」
そうこうしている内にソバが出来上がってしまった。
「私は居間に行きたくない」
「私だってそうですよ。早く行ってください、ソバが伸びてしまいますよ」
蛙は相変わらず諏訪子の頭の上でぼんやり宙を眺めていた。
早苗と神奈子は終始俯きながらソバをすすった。
「どうしたの、二人とも食欲ないの?」
「いや、決してそんなことは」
否定しようとした神奈子は言葉を失った。
蛙が大きく口を開けてピンク色の舌を覗かせながら、もぞもぞと動いていた。
「さ、早苗」
原因はすぐに分かった。
神奈子の丼の縁にハエがたかっていたのである。
神奈子は頭を下げた。
「諏訪子、私が悪かった。事情は後で説明してやるから、動くな。すぐに取ってやる」
「あ、ハエ。私が追っ払うよ」
諏訪子が身を乗り出した。
「馬鹿、そっちじゃない。止めろっ」
時、すでに遅し。
神奈子の絶叫の中、蛙は諏訪子の頭を離れ丼へと放物線を描いた。
そして
面白いのにもったいない。
ぜひ続きを
オチは書かなくても良かった気がします
大惨事のようなので
こわこわこっわぁー!
逆に考えるんだ。大蝦蟇の頭に諏訪子を載せればっ!・・・駄目かなぁ?
頭に蛙を乗せて歩き回るケロちゃんが脳内でリアルに再生された