本作は「もしも紅霧異変が映画の中の架空の出来事だったら」というお話です。
そのため「原作キャラ設定」が「映画内の設定」と改変され、キャラの性格が著しく変化しています。
そういった表現が苦手な方は、ここで引き返すことをお勧めします。
第1回は作品集29に収録されています。
映画『紅魔郷』製作者インタビュー、第2回は1ボス役のルーミア氏、2ボス役のチルノ氏に話を伺います。天真爛漫な少女を演じる彼女達の苦悩、そして喜びとは? 引き続き森近監督にもご登場頂きました。
■子どもらしさとは
ルーミア氏(以下ルミ、敬称略):子どもを演じる、というのは見た目以上に難しいんですよね。あまり物事を知らなさすぎるとキャラが薄っぺらくなってしまうし。
チルノ氏(以下チル):チルノもルーミアも、厳しい自然の中を日々生き抜いてるわけですから。知識はないけれど知恵はある、というのを表現できればいいな、と常々思っています。
――お二人とも、落ち着いてらっしゃいますね。見た目以上に大人っぽく見えますが。
森近霖之助氏(以下森近):そりゃそうだよ。二人ともかなりのベテランだからね。
ルミ:監督、年の話はやめてくださいよ(笑)。
――あややややや、すいません、下調べ不足でした……。そういえば、霧雨さんがそのようなことをおっしゃってましたね、周りはベテランばかりだったって。
森近:映画女優としては駆け出しだけど、舞台女優としては大ベテランだよ。
チル:あまり子どもの夢を壊さないであげてください(笑)。
森近:いいじゃないですか、妖怪や妖精が年を気にしたってしょうがないですよ。見た目は若いんですから。
――半妖の森近監督が敬語を使うってことは、お二人は監督より年上、ということに……。
ルミ:うーん、これ以上は隠したってしょうがないですね。その通りです。この監督は、そんな精神的に老成した先輩に子どもの役をやらせるんですから、ひどいですよね。こんな外見してるわけですし、まあ分からなくもないですけど。それでも普通は気を使って言えなさそうなもんでしょ?
チル:業界でも噂の変な人ですからねえ。でも、演技の幅が広がって仕事は増えたし、子役も慣れれば楽しいです。
森近:結果的には大成功だね。お二人とも素晴らしい演技でした。
――博麗さんや霧雨さんの反応はどうでした?
ルミ:二人ともまだ若いのに研究熱心で礼儀正しいですよ。私達のことも知っていてくれたらしくて、年齢については特に驚いてはいなかったかなあ。魔理沙ちゃんはこの配役に驚いていましたが(笑)。
チル:私もルーミアさんも舞台では落ち着いた役が多かったですからね。
森近:でも、紅さんには結局伝えられないままでしたよね、年齢については。
ルミ:紅さんは……(笑)。子ども扱いに悪意がないですからね。「ルーミアちゃん! アメ欲しい?」って満面の笑みで迫られたら、そりゃ言い出せないですよ。監督はそれを見てニヤニヤしてるし。
森近:違いますよ、僕はただ笑いをこらえるのに必死だっただけです。
――相変わらず否定になってませんよ。チルノさんも紅さんには振り回されてた感じですか?
チル:いえいえ、楽しかったですよ。気持ち的にも若返った感じで。「めーりん姉ちゃん!」って甘えたりね。霊夢ちゃんたちも事情を知ってるから優しく見守ってくれてたし。
ルミ:後輩たちの目がなければ私も全力で甘えたのになあ(笑)。でも、後半からはもう完全にふっきれましたね。チルノさんを見てたら何だか羨ましくなっちゃって。この年になると、誰かに甘えるというのも中々できないことですから。
――なかなか複雑な上下関係があるんですね。ただ、紅さんもかなりのベテランですよね。だとしたら、お二人を知らないはずがないと思うんですが……。
森近:もしかしたらルーミアさんたちよりずっと年上だったりして。
チル:ありえない、とは言い切れないのが美鈴さんですからねえ。監督に負けず劣らずの、謎の多い人ですから。
■名文句誕生秘話
――演技に話を戻しましょう。撮影中、何か印象に残るような逸話はありました?
森近:あるよ。チルノさんの台本にだけ少し手を加えてね、“私”という部分を全部“あたい”に変えてたんだ。もちろん皆には黙ったままで。そしたら霊夢は眉一つ動かさないでそのまま演技を続けるんだよ。つまらんなあと思いつつも、最高の前フリになったね。おかげで脇で待機してた魔理沙に怪しまれずに済んだし。お蔵入りにするのがもったいないくらいの出来だったよ。平静を装ってるのがありありと見てとれて面白かったなあ。
チル:あれは私も驚きましたよ。魔理沙ちゃんもいい演技をするようになったなあ、と(笑)。
ルミ:監督は魔理沙ちゃんで遊びすぎなんですよ……じゃなくて! 私達の演技の話をしましょうよ。
森近:子どもになりきれてない感じがよかったですよねー。さすがベテラン。
チル:監督の言葉は褒めてるように聞こえないんですよ。確かに子どもっぽくなりすぎないようには心がけてましたが。
ルミ:霊夢も魔理沙も表面上は大人っぽいキャラじゃないですからね。差別化が難しかったかな。
――ルーミアといえば、なんといっても「そーなのかー」ですよね。
ルミ:あれは苦労しましたよ。ルーミアは台詞で結構小難しいこと言ってますからね。無理なく子どもっぽさを出すには、これが一番よかったんですよね。監督が「子どもになりきらないように」と言っておられましたけど、ああ、そういうことかと気付きました。台詞との整合が取れていないと、異様さばかりが際立ってしまいますから。台本では「そうなのか」だったんですけど、過剰に演出するぐらいで丁度いいかなって。だからそう言ってもらえるのは凄く嬉しいです。
森近:台詞自体あまり多くないですからね。台本はあくまで手本ですから。僕としては、もっといいのがあればどんどん差し替えてもらって構わないんで。
――そしてチルノといえば「あたいったら最強ね」ですね。
チル:さっきの話にあったように、“あたい”っていうのは監督のイタズラから生まれたものなんですよ。私がこれを気に入っちゃって、「チルノの一人称はこれにしましょう!」って監督に持ちかけたんです。でもこれだけじゃまだちょっと足りない感じがして、何かないかなあと考えていたんです。そうやって堂々巡りになっていたところに、霊夢ちゃんと魔理沙ちゃんの会話が耳に入ってきたんですよ。「紅魔郷のキャラの中で誰が一番強いか」って話をしてたんですね。その時ピンときたんです。子どもって、強さに憧れるものだってこと。強さとか勝ち負けにこだわるキャラクターにすれば、もっと子どもっぽくできるんじゃないかなって。
ルミ:それで“最強”ってフレーズが生まれたわけですね。
チル:本当は『紅魔郷』の台本にはない台詞なんですけどね。私もルーミアさんの「そーなのかー」のインパクトに匹敵するものが欲しいなあと思って。いつかまた出演する機会があれば、ぜひとも公式化させてもらいたいです(笑)。
森近:チルノは当初のキャラとは随分変わりましたよね。監督として言わせてもらうならば「いいぞ! もっとやれ!」の一言に尽きますよ。
――脚本も演出も臨機応変に、というわけですか。
ルミ:良く言えば、ですけどね。監督は大抵のことは受け入れちゃいますからね。私達も悪ノリしすぎないようにするのが大変なんです(笑)。
■平穏の象徴
ルミ:私たち二人の戦闘シーンって、他の方々とは趣向が違いますよね。
森近:お二人は『紅魔郷』の癒しですから。
――癒し、ですか。わかるような気がします。
チル:紅魔館突入の辺りから映画の雰囲気が変わりますからね。幻想郷の日常の部分を描いていかないと、異変が起こっているんだ、というのが伝わりにくいですから。
ルミ:手加減するのもなかなか大変なんですよ。主人公の二人は飛びぬけた強さを持っているという設定ですから、ルーミアやチルノが弱すぎると迫力も盛り上がりもなくて、ただの退屈な場繋ぎになってしまいますからね。
チル:ところどころ笑いを交えつつ、主人公の強さを引き立てる。難しいですよね。
森近:ベテランのお二人にこの役をお願いしたのは、こういう裏事情があったというわけなんだ。
――出番の少ないキャラにベテランを起用したのにもちゃんと意味があったわけですね。
森近:土台がしっかりしていないと、他がよくても全部ダメになっちゃうから。
ルミ:異変には直接関わっていないですから、遊びで済まされるんです。まさに“弾幕ごっこ”って感じですよね。
チル:紅魔館勢は死力を尽くして行く手を遮る必要がありますから。異変自体お遊びみたいなものですけど、映画なんだから大げさでもいいと私は思うんですよね。あ、紅魔館の人たちは本当はみんないい子ばかりなんですよ、誤解されている視聴者の方も多いみたいですけど。
――それだけ紅魔館のインパクトが強烈だったということですよ。今回のお二人のインタビューを見た方も驚かれると思いますが。
ルミ:いつまでも隠し通せるものじゃないですからね。今回の件は丁度いいきっかけになりました。
チル:そうですね。子役以外の仕事が増えるかもしれないですし(笑)。決して悪いことばかりではないと思いますよ。
■幻のラストシーン
――噂では、お蔵入りになったラストシーンがあったそうですが。
ルミ:監督は序盤の敵が実は最大の敵だった、というのがやりたかったらしいんですよ。でも私ももう年ですし、派手なスタントシーンはきついかな、と。
森近:妖怪って年をとるごとに強くなっていくものじゃないんですか? 僕にはよくわからないですけど。
チル:モチベーションの問題じゃないですか? 実力はついても、急なテンションの切り替えが上手くできないというか。演技と同じですよ、その辺は。年をとると緩急つけた演技は苦手になってくるんです。そういう意味では子役も老人役も本質は同じなんですよ、高いか低いかの違いだけで。それにフランちゃん登場時のインパクトは凄いですからね。あれを越えろというのは酷ですよ。
森近:越えなくてもいいんですよ。好きにやってもらって構わないのに。
ルミ:そう言って頂けるのは嬉しいんですが、やっぱり最大の山場は一番最後にあったほうがいいですよ。アプローチを変えればそれなりのものにはなったのかもしれないですけど、それだと消化不良気味でしょ?
森近:うーん、そうかもしれませんね。映画の作り自体はオーソドックスですからね。でもリボンの設定をボツにするのは、ちょっともったいなかったかなあ。
――結局あのリボンってなんだったんですか? 色々と噂が立ちましたよね。結局本編では明かされずじまいでしたが。
森近:なんだろ、強いてあげるなら、個性? 本当はあれを解くと封印が解けるとかやってみたかったんだけど。
ルミ:前に言ってた変身ってやつですか? 私そんなのできませんよ。
森近:え? できるでしょ? 宵闇の妖怪なんですから。
チル:「闇」とか「影」とかって言葉は想像をかき立てられますよね、監督が勘違いする気持ちもわかりますよ。いわゆる「ジャパニーズ・ニンジャの法則」というやつですか。忍術の仕組みはわからないけど、忍者だからできるんだ、みたいな。
――私も何か裏があるんじゃないかと疑って映画を見てました。そういえば、今はリボン外されてるんですね。
ルミ:あくまで子どもっぽさの演出の一環ということで、封印設定がなくなってからもつけてました。子どもたちの前ではなるべくつけるようにしてますよ。夢を壊しちゃいけないですからね。かといって、いつもつけたままにしておくと、大人の中にも本気で信じちゃう人が出てくるものですから、難しいですよね。「あれは本物の御札が使われているんだ!」なんて噂がまことしやかに囁かれるわけですから。
チル:監督がそれを面白がって否定しないもんですから、余計に、ね。
森近:僕が否定しても信じる人は信じますよ。そんなもんですって。だったら野放しにしていたほうが面白くなりそうでしょ? 夢を与える仕事をしてますからね、その辺は寛大にいきましょうよ。
ルミ:面白くなるのは構わないですけど、変身だの大剣だの暗黒の力だの言われても難しいんですよ!(笑) 監督はもうちょっと演じるほうの身にもなってください、大変なんですから。
■インターナショナル幻想郷
――チルノさんと一緒に出てきた大妖精って誰なんですか?
森近:撮影スタッフだよ。ほら、そこにいるでしょ。
――え、あ、本当ですね、気付きませんでした。彼女の名前はなんていうんですか?
ルミ:大妖精ですよ。
――いえ、役名ではなく、本名を……。
チル:通称、大妖精の大ちゃん。本名は大妖精(ダー・ヤオジン)と言うんです。
――中国の方でしたか。台詞がないのはそういう理由からでしょうか?
森近:今では結構喋れるようになったんだよ。
大妖精氏(以下大):ホンさんかラ日本語習いましタ。ちょとだけなら話せまス。
――おお、すごい……って、そういえばルーミアさんやチルノさんも日本語話してますよね。
ルミ:長いこと生きてますから。
チル:英語だろうがなんだろうが大抵の言語は話せますよ。大ちゃんだって英語できますし。
大:英語ハ日本語より得意でス。
What a terrific audience.Too much pressure! I need coffee! Screw you guys, I'm going home!
――皆さん多国籍語話者なんですね。なんだか凄いなあ。……ん? いや、でもそんなことって……。国? 国籍?
森近:あまり深く考えちゃダメだ。というか君も英語話せるだろ。“Phantasmagoria of Flower View”ではペラペラだったじゃないか。
――あれは翻訳……ゲフンゲフン、なんでもないです。
大:じゃア中国というのもダメでハないですカ?
チル:中国は国だよ。「国って何?」という質問は受け付けないよ。
――皆さん随分と外の世界にお詳しいようで。それ以上知るとスキマ妖怪さんに消されますよ。
ルミ:何だか「理不尽な点を強引に解釈するスレ」みたいな流れになってきましたね。
大:“スレ”っテ何ですカ?
森近:やめろ! 消されるぞ!
■大妖精に愛の手を!
――今回映画に出演して一番変わったことはなんですか?
チル:ファン層が広くなりましたね。演劇はファンの年齢層高めですから。最近では子どもたちからの声援も増えて、嬉しい限りです。
ルミ:子役の仕事も増えましたね。仕事の幅が広がったのは嬉しいです。演劇の頃にやってた大人っぽい役もまたやってみたいですね。
大:特にナいでス。
森近:香霖君が有名になったんじゃない? 僕と勘違いしている人もたまにいるけど、それはそれで面白いよね。
――大妖精さんのコメントが涙を誘いますね……。新たにキャラ付けしてあげたらどうです、監督?
森近:そうだね、じゃあ、リボンを外すとEX大妖精に……。
ルミ:どこかで聞いた設定ですね。とりあえず話だけでも聞きましょうか。
森近:封印が解かれ、暗黒の力を操り、大剣を振り回し……。
チル:もう結構です。ありがとうございました。
森近:幻想郷のみんな! 僕にちょっとずつアイデアを分けてくれーっ! ではこちらの“ぼくの考えたEX大妖精”係のほうまでお願いします。
――出ませんよそんな情報。もはやインタビューでもなんでもないですね。
森近:最初のほうはまだまともだったのにね。
ルミ:霊夢ちゃんがいないとこうなっちゃうんですよ。こうなったら誰も監督の暴走を止められません。
――あなたたちも一緒になって悪ノリしてませんでした?
チル:止められないというのは、まあ、つまり、そういう意味です。
――この調子だと第3回はどうなってしまうんでしょうか。
森近:真面目にやるよ。話すことがなくなったら暴走すると思うけど。
ルミ:紫ーっ! はやくきてくれーっ!
■
――では皆さん、最後に一言ずつお願いします。
ルミ:私達は演劇出身ですからね。この映画を通じて演劇のほうにも興味を持ってもらえると嬉しいです。凛々しいルーミアとチルノが見たいという方は是非!
チル:映画のファン、演劇のファン両方とうまく付き合っていきたいですね。両者とも求めるものが違いますから、難しいとは思いますが。
大:出番増エるよニ、もっト日本語勉強しまス。
森近:見事な軌道修正だな。一体どんな魔法を使ったのかね? 例によって僕は第3回にも出るから以下同文。
――最後の最後でぶち壊してくれましたね……。ともかく、皆さん本日はどうもありがとうございました!
そのため「原作キャラ設定」が「映画内の設定」と改変され、キャラの性格が著しく変化しています。
そういった表現が苦手な方は、ここで引き返すことをお勧めします。
第1回は作品集29に収録されています。
映画『紅魔郷』製作者インタビュー、第2回は1ボス役のルーミア氏、2ボス役のチルノ氏に話を伺います。天真爛漫な少女を演じる彼女達の苦悩、そして喜びとは? 引き続き森近監督にもご登場頂きました。
■子どもらしさとは
ルーミア氏(以下ルミ、敬称略):子どもを演じる、というのは見た目以上に難しいんですよね。あまり物事を知らなさすぎるとキャラが薄っぺらくなってしまうし。
チルノ氏(以下チル):チルノもルーミアも、厳しい自然の中を日々生き抜いてるわけですから。知識はないけれど知恵はある、というのを表現できればいいな、と常々思っています。
――お二人とも、落ち着いてらっしゃいますね。見た目以上に大人っぽく見えますが。
森近霖之助氏(以下森近):そりゃそうだよ。二人ともかなりのベテランだからね。
ルミ:監督、年の話はやめてくださいよ(笑)。
――あややややや、すいません、下調べ不足でした……。そういえば、霧雨さんがそのようなことをおっしゃってましたね、周りはベテランばかりだったって。
森近:映画女優としては駆け出しだけど、舞台女優としては大ベテランだよ。
チル:あまり子どもの夢を壊さないであげてください(笑)。
森近:いいじゃないですか、妖怪や妖精が年を気にしたってしょうがないですよ。見た目は若いんですから。
――半妖の森近監督が敬語を使うってことは、お二人は監督より年上、ということに……。
ルミ:うーん、これ以上は隠したってしょうがないですね。その通りです。この監督は、そんな精神的に老成した先輩に子どもの役をやらせるんですから、ひどいですよね。こんな外見してるわけですし、まあ分からなくもないですけど。それでも普通は気を使って言えなさそうなもんでしょ?
チル:業界でも噂の変な人ですからねえ。でも、演技の幅が広がって仕事は増えたし、子役も慣れれば楽しいです。
森近:結果的には大成功だね。お二人とも素晴らしい演技でした。
――博麗さんや霧雨さんの反応はどうでした?
ルミ:二人ともまだ若いのに研究熱心で礼儀正しいですよ。私達のことも知っていてくれたらしくて、年齢については特に驚いてはいなかったかなあ。魔理沙ちゃんはこの配役に驚いていましたが(笑)。
チル:私もルーミアさんも舞台では落ち着いた役が多かったですからね。
森近:でも、紅さんには結局伝えられないままでしたよね、年齢については。
ルミ:紅さんは……(笑)。子ども扱いに悪意がないですからね。「ルーミアちゃん! アメ欲しい?」って満面の笑みで迫られたら、そりゃ言い出せないですよ。監督はそれを見てニヤニヤしてるし。
森近:違いますよ、僕はただ笑いをこらえるのに必死だっただけです。
――相変わらず否定になってませんよ。チルノさんも紅さんには振り回されてた感じですか?
チル:いえいえ、楽しかったですよ。気持ち的にも若返った感じで。「めーりん姉ちゃん!」って甘えたりね。霊夢ちゃんたちも事情を知ってるから優しく見守ってくれてたし。
ルミ:後輩たちの目がなければ私も全力で甘えたのになあ(笑)。でも、後半からはもう完全にふっきれましたね。チルノさんを見てたら何だか羨ましくなっちゃって。この年になると、誰かに甘えるというのも中々できないことですから。
――なかなか複雑な上下関係があるんですね。ただ、紅さんもかなりのベテランですよね。だとしたら、お二人を知らないはずがないと思うんですが……。
森近:もしかしたらルーミアさんたちよりずっと年上だったりして。
チル:ありえない、とは言い切れないのが美鈴さんですからねえ。監督に負けず劣らずの、謎の多い人ですから。
■名文句誕生秘話
――演技に話を戻しましょう。撮影中、何か印象に残るような逸話はありました?
森近:あるよ。チルノさんの台本にだけ少し手を加えてね、“私”という部分を全部“あたい”に変えてたんだ。もちろん皆には黙ったままで。そしたら霊夢は眉一つ動かさないでそのまま演技を続けるんだよ。つまらんなあと思いつつも、最高の前フリになったね。おかげで脇で待機してた魔理沙に怪しまれずに済んだし。お蔵入りにするのがもったいないくらいの出来だったよ。平静を装ってるのがありありと見てとれて面白かったなあ。
チル:あれは私も驚きましたよ。魔理沙ちゃんもいい演技をするようになったなあ、と(笑)。
ルミ:監督は魔理沙ちゃんで遊びすぎなんですよ……じゃなくて! 私達の演技の話をしましょうよ。
森近:子どもになりきれてない感じがよかったですよねー。さすがベテラン。
チル:監督の言葉は褒めてるように聞こえないんですよ。確かに子どもっぽくなりすぎないようには心がけてましたが。
ルミ:霊夢も魔理沙も表面上は大人っぽいキャラじゃないですからね。差別化が難しかったかな。
――ルーミアといえば、なんといっても「そーなのかー」ですよね。
ルミ:あれは苦労しましたよ。ルーミアは台詞で結構小難しいこと言ってますからね。無理なく子どもっぽさを出すには、これが一番よかったんですよね。監督が「子どもになりきらないように」と言っておられましたけど、ああ、そういうことかと気付きました。台詞との整合が取れていないと、異様さばかりが際立ってしまいますから。台本では「そうなのか」だったんですけど、過剰に演出するぐらいで丁度いいかなって。だからそう言ってもらえるのは凄く嬉しいです。
森近:台詞自体あまり多くないですからね。台本はあくまで手本ですから。僕としては、もっといいのがあればどんどん差し替えてもらって構わないんで。
――そしてチルノといえば「あたいったら最強ね」ですね。
チル:さっきの話にあったように、“あたい”っていうのは監督のイタズラから生まれたものなんですよ。私がこれを気に入っちゃって、「チルノの一人称はこれにしましょう!」って監督に持ちかけたんです。でもこれだけじゃまだちょっと足りない感じがして、何かないかなあと考えていたんです。そうやって堂々巡りになっていたところに、霊夢ちゃんと魔理沙ちゃんの会話が耳に入ってきたんですよ。「紅魔郷のキャラの中で誰が一番強いか」って話をしてたんですね。その時ピンときたんです。子どもって、強さに憧れるものだってこと。強さとか勝ち負けにこだわるキャラクターにすれば、もっと子どもっぽくできるんじゃないかなって。
ルミ:それで“最強”ってフレーズが生まれたわけですね。
チル:本当は『紅魔郷』の台本にはない台詞なんですけどね。私もルーミアさんの「そーなのかー」のインパクトに匹敵するものが欲しいなあと思って。いつかまた出演する機会があれば、ぜひとも公式化させてもらいたいです(笑)。
森近:チルノは当初のキャラとは随分変わりましたよね。監督として言わせてもらうならば「いいぞ! もっとやれ!」の一言に尽きますよ。
――脚本も演出も臨機応変に、というわけですか。
ルミ:良く言えば、ですけどね。監督は大抵のことは受け入れちゃいますからね。私達も悪ノリしすぎないようにするのが大変なんです(笑)。
■平穏の象徴
ルミ:私たち二人の戦闘シーンって、他の方々とは趣向が違いますよね。
森近:お二人は『紅魔郷』の癒しですから。
――癒し、ですか。わかるような気がします。
チル:紅魔館突入の辺りから映画の雰囲気が変わりますからね。幻想郷の日常の部分を描いていかないと、異変が起こっているんだ、というのが伝わりにくいですから。
ルミ:手加減するのもなかなか大変なんですよ。主人公の二人は飛びぬけた強さを持っているという設定ですから、ルーミアやチルノが弱すぎると迫力も盛り上がりもなくて、ただの退屈な場繋ぎになってしまいますからね。
チル:ところどころ笑いを交えつつ、主人公の強さを引き立てる。難しいですよね。
森近:ベテランのお二人にこの役をお願いしたのは、こういう裏事情があったというわけなんだ。
――出番の少ないキャラにベテランを起用したのにもちゃんと意味があったわけですね。
森近:土台がしっかりしていないと、他がよくても全部ダメになっちゃうから。
ルミ:異変には直接関わっていないですから、遊びで済まされるんです。まさに“弾幕ごっこ”って感じですよね。
チル:紅魔館勢は死力を尽くして行く手を遮る必要がありますから。異変自体お遊びみたいなものですけど、映画なんだから大げさでもいいと私は思うんですよね。あ、紅魔館の人たちは本当はみんないい子ばかりなんですよ、誤解されている視聴者の方も多いみたいですけど。
――それだけ紅魔館のインパクトが強烈だったということですよ。今回のお二人のインタビューを見た方も驚かれると思いますが。
ルミ:いつまでも隠し通せるものじゃないですからね。今回の件は丁度いいきっかけになりました。
チル:そうですね。子役以外の仕事が増えるかもしれないですし(笑)。決して悪いことばかりではないと思いますよ。
■幻のラストシーン
――噂では、お蔵入りになったラストシーンがあったそうですが。
ルミ:監督は序盤の敵が実は最大の敵だった、というのがやりたかったらしいんですよ。でも私ももう年ですし、派手なスタントシーンはきついかな、と。
森近:妖怪って年をとるごとに強くなっていくものじゃないんですか? 僕にはよくわからないですけど。
チル:モチベーションの問題じゃないですか? 実力はついても、急なテンションの切り替えが上手くできないというか。演技と同じですよ、その辺は。年をとると緩急つけた演技は苦手になってくるんです。そういう意味では子役も老人役も本質は同じなんですよ、高いか低いかの違いだけで。それにフランちゃん登場時のインパクトは凄いですからね。あれを越えろというのは酷ですよ。
森近:越えなくてもいいんですよ。好きにやってもらって構わないのに。
ルミ:そう言って頂けるのは嬉しいんですが、やっぱり最大の山場は一番最後にあったほうがいいですよ。アプローチを変えればそれなりのものにはなったのかもしれないですけど、それだと消化不良気味でしょ?
森近:うーん、そうかもしれませんね。映画の作り自体はオーソドックスですからね。でもリボンの設定をボツにするのは、ちょっともったいなかったかなあ。
――結局あのリボンってなんだったんですか? 色々と噂が立ちましたよね。結局本編では明かされずじまいでしたが。
森近:なんだろ、強いてあげるなら、個性? 本当はあれを解くと封印が解けるとかやってみたかったんだけど。
ルミ:前に言ってた変身ってやつですか? 私そんなのできませんよ。
森近:え? できるでしょ? 宵闇の妖怪なんですから。
チル:「闇」とか「影」とかって言葉は想像をかき立てられますよね、監督が勘違いする気持ちもわかりますよ。いわゆる「ジャパニーズ・ニンジャの法則」というやつですか。忍術の仕組みはわからないけど、忍者だからできるんだ、みたいな。
――私も何か裏があるんじゃないかと疑って映画を見てました。そういえば、今はリボン外されてるんですね。
ルミ:あくまで子どもっぽさの演出の一環ということで、封印設定がなくなってからもつけてました。子どもたちの前ではなるべくつけるようにしてますよ。夢を壊しちゃいけないですからね。かといって、いつもつけたままにしておくと、大人の中にも本気で信じちゃう人が出てくるものですから、難しいですよね。「あれは本物の御札が使われているんだ!」なんて噂がまことしやかに囁かれるわけですから。
チル:監督がそれを面白がって否定しないもんですから、余計に、ね。
森近:僕が否定しても信じる人は信じますよ。そんなもんですって。だったら野放しにしていたほうが面白くなりそうでしょ? 夢を与える仕事をしてますからね、その辺は寛大にいきましょうよ。
ルミ:面白くなるのは構わないですけど、変身だの大剣だの暗黒の力だの言われても難しいんですよ!(笑) 監督はもうちょっと演じるほうの身にもなってください、大変なんですから。
■インターナショナル幻想郷
――チルノさんと一緒に出てきた大妖精って誰なんですか?
森近:撮影スタッフだよ。ほら、そこにいるでしょ。
――え、あ、本当ですね、気付きませんでした。彼女の名前はなんていうんですか?
ルミ:大妖精ですよ。
――いえ、役名ではなく、本名を……。
チル:通称、大妖精の大ちゃん。本名は大妖精(ダー・ヤオジン)と言うんです。
――中国の方でしたか。台詞がないのはそういう理由からでしょうか?
森近:今では結構喋れるようになったんだよ。
大妖精氏(以下大):ホンさんかラ日本語習いましタ。ちょとだけなら話せまス。
――おお、すごい……って、そういえばルーミアさんやチルノさんも日本語話してますよね。
ルミ:長いこと生きてますから。
チル:英語だろうがなんだろうが大抵の言語は話せますよ。大ちゃんだって英語できますし。
大:英語ハ日本語より得意でス。
What a terrific audience.Too much pressure! I need coffee! Screw you guys, I'm going home!
――皆さん多国籍語話者なんですね。なんだか凄いなあ。……ん? いや、でもそんなことって……。国? 国籍?
森近:あまり深く考えちゃダメだ。というか君も英語話せるだろ。“Phantasmagoria of Flower View”ではペラペラだったじゃないか。
――あれは翻訳……ゲフンゲフン、なんでもないです。
大:じゃア中国というのもダメでハないですカ?
チル:中国は国だよ。「国って何?」という質問は受け付けないよ。
――皆さん随分と外の世界にお詳しいようで。それ以上知るとスキマ妖怪さんに消されますよ。
ルミ:何だか「理不尽な点を強引に解釈するスレ」みたいな流れになってきましたね。
大:“スレ”っテ何ですカ?
森近:やめろ! 消されるぞ!
■大妖精に愛の手を!
――今回映画に出演して一番変わったことはなんですか?
チル:ファン層が広くなりましたね。演劇はファンの年齢層高めですから。最近では子どもたちからの声援も増えて、嬉しい限りです。
ルミ:子役の仕事も増えましたね。仕事の幅が広がったのは嬉しいです。演劇の頃にやってた大人っぽい役もまたやってみたいですね。
大:特にナいでス。
森近:香霖君が有名になったんじゃない? 僕と勘違いしている人もたまにいるけど、それはそれで面白いよね。
――大妖精さんのコメントが涙を誘いますね……。新たにキャラ付けしてあげたらどうです、監督?
森近:そうだね、じゃあ、リボンを外すとEX大妖精に……。
ルミ:どこかで聞いた設定ですね。とりあえず話だけでも聞きましょうか。
森近:封印が解かれ、暗黒の力を操り、大剣を振り回し……。
チル:もう結構です。ありがとうございました。
森近:幻想郷のみんな! 僕にちょっとずつアイデアを分けてくれーっ! ではこちらの“ぼくの考えたEX大妖精”係のほうまでお願いします。
――出ませんよそんな情報。もはやインタビューでもなんでもないですね。
森近:最初のほうはまだまともだったのにね。
ルミ:霊夢ちゃんがいないとこうなっちゃうんですよ。こうなったら誰も監督の暴走を止められません。
――あなたたちも一緒になって悪ノリしてませんでした?
チル:止められないというのは、まあ、つまり、そういう意味です。
――この調子だと第3回はどうなってしまうんでしょうか。
森近:真面目にやるよ。話すことがなくなったら暴走すると思うけど。
ルミ:紫ーっ! はやくきてくれーっ!
■
――では皆さん、最後に一言ずつお願いします。
ルミ:私達は演劇出身ですからね。この映画を通じて演劇のほうにも興味を持ってもらえると嬉しいです。凛々しいルーミアとチルノが見たいという方は是非!
チル:映画のファン、演劇のファン両方とうまく付き合っていきたいですね。両者とも求めるものが違いますから、難しいとは思いますが。
大:出番増エるよニ、もっト日本語勉強しまス。
森近:見事な軌道修正だな。一体どんな魔法を使ったのかね? 例によって僕は第3回にも出るから以下同文。
――最後の最後でぶち壊してくれましたね……。ともかく、皆さん本日はどうもありがとうございました!
実に落ち着いた語りで、雑誌の特集でも読んでいる感じでした。
続きも楽しみにしてまっせ
こういう試みはあまり例がないから、とっても面白い。
次回も楽しみに待ってます!
いつものリボンを外すと奇跡の力が使えて、赤いリボンをつけると魔界の神になるとか~。
・・・すみません自重しますorz
続き待ってます
これを破綻させないように続編を面白く書くってのは大変だろうけど、楽しみにしてるよ!
面白い、続き はやく 読みたい うぎぎ。