『いい? この区間には絶対に近づいてはだめよ』
あなたは親が子に間違いを諭すように言った。
『何故ですか、パチュリー様』
『ここにある蔵書は全て魔女に対抗するために書かれたものだからよ』
遠い昔の愚かな人々は魔女を殺すのに必死だったのよ、と付け足した。
『魔力に反応して魔女の存在を消してしまうものだってある。勿論、封印はかけてあるけれど、普段はここに近づかないようにね』
念を押すように慎重に、私は言われた。
それは、私がまだ封印の解呪も出来なかった頃のこと。
『よぉ、パチュリー』
いつも通り、遠慮なく彼女はやって来た。
『あら、魔理沙。いらっしゃい』
あなたもいつも通り笑って出迎えた。
笑って。
そのときのあなたの笑顔がとても綺麗でいつもいつまでも見ていたかった。
けれど、叶わなかった。
彼女が、魔理沙さんが、来たときでないと見られなかったから。
少しだけ視界が滲んだ。
それは、私がまだ美味しい紅茶を淹れられなかった頃のこと。
『ごきげんよう、パチュリー』
いつも通り、静かに彼女はやって来た。
『こんにちは、アリス』
あなたもいつも通り紅茶の入ったカップを置いて出迎えた。
紅茶は役目を終えた。
アリスさんとの語らいに忙しいあなたは、今日の紅茶にはもう手を出さない。それはいつも通りのことだった。
カップを片付ける手はあなたの制止の声をずっと待っていた。
勿論、仕事は順調に終わってしまった。
少しだけ顔を伏せた。
私にはせめて紅茶を美味しく淹れることしかできないから。
それは、私の髪がまだ肩まで届いていなかった頃のこと。
「パチュリー様、紅茶をお持ちしました」
本のページをめくる手を止め、パチュリー様はテーブルに置かれたカップをすぐ手に取った。一口分、琥珀色の液体がカップからなくなった。
「いつも通り、美味しいわ」
「ありがとうございます。パチュリー様」
あの頃のような笑顔が私に向けられる。
あの頃のように紅茶は私に向けられない。
「今日はクッキーも作ってみました」
持ってきた皿の上の星型の塊はバターの香りを漂わせる。
パチュリー様はクッキーを手にとって、角度を変えながら眺めた。
「綺麗な星型ね」
「そうですかっ、ありがとうございます。自分でも結構上手く出来たと思ったんですよ。ほら、この星なんて魔理沙さんの弾幕みたいに……っあ」
「……」
「すみません……」
「……いいのよ。魔理沙もアリスも、あの区間の蔵書に、私に何も言わず勝手に手を出しただけ。自業自得よ」
「……」
「……」
「……」
「……」
「でも、パチュリー様。あれからは外出もされず、滅多に人にも会わずに……」
「あなたがいるわ」
「そう、ですね」
「そうよ」
「はい。私、パチュリー様のことが大好きです」
「ふふ、そう。私もあなたのことが好きよ」
「……じゃあ、パチュリー様のなかで私は何番目なのでしょうか?」
「さて、ね。順番なんてないからわからないわ」
「それは奇遇ですね。私もありません。パチュリー様しかいないので」
「あら、それは奇遇ね。私もよ」
「ああ、よかったです」
二人をあの区間にご案内したかいがありました
あなたは親が子に間違いを諭すように言った。
『何故ですか、パチュリー様』
『ここにある蔵書は全て魔女に対抗するために書かれたものだからよ』
遠い昔の愚かな人々は魔女を殺すのに必死だったのよ、と付け足した。
『魔力に反応して魔女の存在を消してしまうものだってある。勿論、封印はかけてあるけれど、普段はここに近づかないようにね』
念を押すように慎重に、私は言われた。
それは、私がまだ封印の解呪も出来なかった頃のこと。
『よぉ、パチュリー』
いつも通り、遠慮なく彼女はやって来た。
『あら、魔理沙。いらっしゃい』
あなたもいつも通り笑って出迎えた。
笑って。
そのときのあなたの笑顔がとても綺麗でいつもいつまでも見ていたかった。
けれど、叶わなかった。
彼女が、魔理沙さんが、来たときでないと見られなかったから。
少しだけ視界が滲んだ。
それは、私がまだ美味しい紅茶を淹れられなかった頃のこと。
『ごきげんよう、パチュリー』
いつも通り、静かに彼女はやって来た。
『こんにちは、アリス』
あなたもいつも通り紅茶の入ったカップを置いて出迎えた。
紅茶は役目を終えた。
アリスさんとの語らいに忙しいあなたは、今日の紅茶にはもう手を出さない。それはいつも通りのことだった。
カップを片付ける手はあなたの制止の声をずっと待っていた。
勿論、仕事は順調に終わってしまった。
少しだけ顔を伏せた。
私にはせめて紅茶を美味しく淹れることしかできないから。
それは、私の髪がまだ肩まで届いていなかった頃のこと。
「パチュリー様、紅茶をお持ちしました」
本のページをめくる手を止め、パチュリー様はテーブルに置かれたカップをすぐ手に取った。一口分、琥珀色の液体がカップからなくなった。
「いつも通り、美味しいわ」
「ありがとうございます。パチュリー様」
あの頃のような笑顔が私に向けられる。
あの頃のように紅茶は私に向けられない。
「今日はクッキーも作ってみました」
持ってきた皿の上の星型の塊はバターの香りを漂わせる。
パチュリー様はクッキーを手にとって、角度を変えながら眺めた。
「綺麗な星型ね」
「そうですかっ、ありがとうございます。自分でも結構上手く出来たと思ったんですよ。ほら、この星なんて魔理沙さんの弾幕みたいに……っあ」
「……」
「すみません……」
「……いいのよ。魔理沙もアリスも、あの区間の蔵書に、私に何も言わず勝手に手を出しただけ。自業自得よ」
「……」
「……」
「……」
「……」
「でも、パチュリー様。あれからは外出もされず、滅多に人にも会わずに……」
「あなたがいるわ」
「そう、ですね」
「そうよ」
「はい。私、パチュリー様のことが大好きです」
「ふふ、そう。私もあなたのことが好きよ」
「……じゃあ、パチュリー様のなかで私は何番目なのでしょうか?」
「さて、ね。順番なんてないからわからないわ」
「それは奇遇ですね。私もありません。パチュリー様しかいないので」
「あら、それは奇遇ね。私もよ」
「ああ、よかったです」
二人をあの区間にご案内したかいがありました
大人で良かった、おかげで楽しく読めたからな。
女の恋愛って恐ろしいんですね
……ィアアアアアア!
短いながらビクッとさせられたよ…
それを作った人も魔女だと思うのだが、これは素晴らしいトラップだな
魔女なら本を見ずにはおれまいて
なにかこの一節にセンスを感じました。
小悪魔ってれべるでもねえ!?
最後の一言にだけ句読点がないのがヒヤリ。
女の情念は恐ろしい……大人用も見てみたいですね。
深い・・・。
ブッラクな小悪魔が見えてしまうなんて!ちょっとめがね買ってくる。
GJでしたー
落差が心臓にスピアザグングニルした。