「今年も順当なスタートってところか?」
「わかりやすい皮肉をありがとうねえ」
「皮肉じゃないぜ。ここがいきなり参拝客でいっぱいになってたらむしろ凶兆だ」
これが、今年一番の魔理沙の言葉。
元旦だというのに、ここ博麗神社に参拝に来る者など、一人としていない。ここにこの日現れる者がいるとすれば、今日がどんな日なのかも知らずたまたま遊びに来た一部の妖怪か、そうでなければ魔理沙くらいのものだ。
霊夢は、わざわざやってきてはそんな言葉を吹っかけてくる魔理沙を冷ややかに睨む。
「あんたも、おみくじくらい買っていってくれれば、少しは役に立つこともあるのねえって褒めてあげるのに」
「私が買うわけないじゃないか。わかってるんだろう?」
悪びれもせず答える魔理沙の声を聞き流しつつ、霊夢は大げさにため息をついてみせた。
魔理沙は魔法使いだ。魔法使いは、困ったときだろうと、行き詰ったときだろうと、願うときだろうと、いついかなるときでも決して神頼みはしない。自分の持つ力だけを信じ、求める結果も奇跡でさえも自分で起こしてしまうのが魔法使いというものだ。故に魔法使いは孤立する。どんな時代でも世界に受け入れられることはない。宗教家と魔法使いは必然的に宿敵同士であり、そしてどんな時代でも魔法使いは防戦一方になることを強いられてきた。
言うまでもなく、巫女という存在も、魔法使いとは決して相容れないものだ。本来ならば、このように普通に話し合える間柄ではありえない。まして、この二人が友達同士であるとなれば、二人ともが双方から裏切り者と指差されその命を狙われることになりかねない。
現実、もちろんそんな状況になってはいない。その理由はいくらでも挙げられる。博麗神社という場所の特殊性、霊夢の性格、そもそもここ幻想郷で人間で魔法使いなどやっているのが魔理沙(および霧雨の系譜)くらいであるということ。
魔理沙が霊夢と仲良くやっていることを快く思わない者は、魔理沙の実家の者を除けば、まあどちらかのファンだけといったところだろう。とりあえず問題なく、二人は友達だった。
だからといって、魔法使いとしてやはり譲れない一線はあるわけで。
言うなれば、おみくじを引かせて、出た結果を真剣に受け止めることが巫女の役割であり、どんな結果が出ようとも勝手に大吉に書き換えてしまえばいいだろう、というのが魔法使いの発想である。
だから、魔法使いはおみくじなど決して買わない。
「金なんて持ってきてないからな」
――というわけでもなく、純粋に払うものがなかったから、なのかもしれない。
「元日に一銭も持たずに神社に来る神経を疑うわ」
「お? 物乞いにしちゃでかい態度だな。こう、アレだ。金がほしいときは芸を見せるもんだ」
「見せても何も出さないでしょ」
「出さないぜ」
「帰れ」
などと、いつもと大差の無い会話を繰り広げていると。
「ほら、やっぱりここにいた」
「なるほど。さすがね、アリス」
二人の後方から、聞きなれた声が二つ。
ん、と魔理沙が振り向くと、ちょうどアリスが地面に足を下ろした瞬間だった。
魔理沙は軽く首を傾げる。
「なんだ。二人して、こんな辺鄙なところまで何の用だ?」
「辺鄙なところ言うな。この日に神社に来るのは普通のことだって言ってるでしょ――って、言いたいところだけど……なんで魔法使いばっかり集まってくるのよ!」
アリスの後に続いて、もう一人も魔法使いというか魔女、パチュリーも地面に降り立つ。
降り立ったとき、少しけほけほと咳き込むのを見て、アリスは心配そうに背中をさすっていたりする。
「ああ、ほら、あんまり無理しないほうが……」
「大丈夫よ。ちょっと疲れただけ。心配してくれてありがとう」
「あ、うん……」
こほん。
礼を言われて少し赤くなっているアリスの顔を眺めつつ、魔理沙は軽く咳払いをする。
「二人して、まさか巫女に貢ぎに来たのか? 一人は体調も優れないみたいだってのに」
「貢ぐって言うな。捧げるって言いなさい」
霊夢がぽそりと突っ込み。
「そんなわけないでしょ。魔理沙に用事があって来たのよ」
「そんなわけないとか言われた……」
霊夢がぽそりと落ち込み。
「なんだ? 金なら貸さないぜ」
「借りはしないけど、取り立てに来たのよ。あなたが持ってった本の一つを、すぐに返せって、パチュリーが」
パチュリーは、アリスの言葉にこくこくと頷く。
「ほほう。それで、一人で奪いに来るのが怖いからアリスと組んで二人がかりで襲いにきたってわけか」
「なんでやりあうことが前提になってるのよ!? 大人しく返すって選択肢はないの!?」
「今脳内に浮かんだ13の選択肢の中には残念ながらなかったぜ」
「13もとっさに浮かぶのに1つも大人しいのがないのー!?」
「無駄よ、アリス。わかっていたことでしょう。無駄な時間を使わないで、さくっと押し倒して奪いましょう」
「うわあなんか微妙な台詞」
「そうそう、それでいいぜ。あんまり大事にしすぎてると他のやつに奪われたりするもんだからな」
「だから何の話よっ!?」
「本の話だけど」
「本の話だぜ」
「……そ、そうよねわかってるわよああもうっ! とにかく! そっちがそのつもりなら遠慮はしないわよ!」
「望むところだぜ。なんでアリスが普通にそっちの味方してるのか謎だが」
「え? あ……あれ、なんでだろ……えーとほらそれは人情とかそういう」
「隙あり」
閃光。
アリスのそれはもう目の前で生み出された魔法が、そのまま容赦なくアリスを完全に飲み込んでいくのだった。
戦闘開始からわずか数瞬で、バイバイアリス。
魔理沙は、さっぱりしたいつもの笑顔で、パチュリーに振り向いた。
「ハンデはいるか?」
パチュリーは、その余裕の笑みを、きっと睨みつけて。
強気の瞳で逆に威嚇して。
「……20メートル以上距離を離してから開始したいわ」
言葉は正直に、自分の有利な状況を要望していた。
で、結局。
「神社で暴れない。私を無視しない。賽銭くらいは落としていく。これがあなた達にできる善行よ」
「うあ、そっくりだし……あいつの真似なんかするなよぅ」
「……誰?」
「……?」
三人仲良くロープでぐるぐるに縛られてお札で固く封印されていたりする。
霊夢が見せた一発芸に魔理沙は冷や汗を流したが、他の二人はただ疑問符を顔に浮かべるだけなのだった。
そんなこんなで、今年の博麗神社も一部が破損した状態で始まった。
ちなみに、霊夢の芸に対しては、やはり何も出なかった。
「わかりやすい皮肉をありがとうねえ」
「皮肉じゃないぜ。ここがいきなり参拝客でいっぱいになってたらむしろ凶兆だ」
これが、今年一番の魔理沙の言葉。
元旦だというのに、ここ博麗神社に参拝に来る者など、一人としていない。ここにこの日現れる者がいるとすれば、今日がどんな日なのかも知らずたまたま遊びに来た一部の妖怪か、そうでなければ魔理沙くらいのものだ。
霊夢は、わざわざやってきてはそんな言葉を吹っかけてくる魔理沙を冷ややかに睨む。
「あんたも、おみくじくらい買っていってくれれば、少しは役に立つこともあるのねえって褒めてあげるのに」
「私が買うわけないじゃないか。わかってるんだろう?」
悪びれもせず答える魔理沙の声を聞き流しつつ、霊夢は大げさにため息をついてみせた。
魔理沙は魔法使いだ。魔法使いは、困ったときだろうと、行き詰ったときだろうと、願うときだろうと、いついかなるときでも決して神頼みはしない。自分の持つ力だけを信じ、求める結果も奇跡でさえも自分で起こしてしまうのが魔法使いというものだ。故に魔法使いは孤立する。どんな時代でも世界に受け入れられることはない。宗教家と魔法使いは必然的に宿敵同士であり、そしてどんな時代でも魔法使いは防戦一方になることを強いられてきた。
言うまでもなく、巫女という存在も、魔法使いとは決して相容れないものだ。本来ならば、このように普通に話し合える間柄ではありえない。まして、この二人が友達同士であるとなれば、二人ともが双方から裏切り者と指差されその命を狙われることになりかねない。
現実、もちろんそんな状況になってはいない。その理由はいくらでも挙げられる。博麗神社という場所の特殊性、霊夢の性格、そもそもここ幻想郷で人間で魔法使いなどやっているのが魔理沙(および霧雨の系譜)くらいであるということ。
魔理沙が霊夢と仲良くやっていることを快く思わない者は、魔理沙の実家の者を除けば、まあどちらかのファンだけといったところだろう。とりあえず問題なく、二人は友達だった。
だからといって、魔法使いとしてやはり譲れない一線はあるわけで。
言うなれば、おみくじを引かせて、出た結果を真剣に受け止めることが巫女の役割であり、どんな結果が出ようとも勝手に大吉に書き換えてしまえばいいだろう、というのが魔法使いの発想である。
だから、魔法使いはおみくじなど決して買わない。
「金なんて持ってきてないからな」
――というわけでもなく、純粋に払うものがなかったから、なのかもしれない。
「元日に一銭も持たずに神社に来る神経を疑うわ」
「お? 物乞いにしちゃでかい態度だな。こう、アレだ。金がほしいときは芸を見せるもんだ」
「見せても何も出さないでしょ」
「出さないぜ」
「帰れ」
などと、いつもと大差の無い会話を繰り広げていると。
「ほら、やっぱりここにいた」
「なるほど。さすがね、アリス」
二人の後方から、聞きなれた声が二つ。
ん、と魔理沙が振り向くと、ちょうどアリスが地面に足を下ろした瞬間だった。
魔理沙は軽く首を傾げる。
「なんだ。二人して、こんな辺鄙なところまで何の用だ?」
「辺鄙なところ言うな。この日に神社に来るのは普通のことだって言ってるでしょ――って、言いたいところだけど……なんで魔法使いばっかり集まってくるのよ!」
アリスの後に続いて、もう一人も魔法使いというか魔女、パチュリーも地面に降り立つ。
降り立ったとき、少しけほけほと咳き込むのを見て、アリスは心配そうに背中をさすっていたりする。
「ああ、ほら、あんまり無理しないほうが……」
「大丈夫よ。ちょっと疲れただけ。心配してくれてありがとう」
「あ、うん……」
こほん。
礼を言われて少し赤くなっているアリスの顔を眺めつつ、魔理沙は軽く咳払いをする。
「二人して、まさか巫女に貢ぎに来たのか? 一人は体調も優れないみたいだってのに」
「貢ぐって言うな。捧げるって言いなさい」
霊夢がぽそりと突っ込み。
「そんなわけないでしょ。魔理沙に用事があって来たのよ」
「そんなわけないとか言われた……」
霊夢がぽそりと落ち込み。
「なんだ? 金なら貸さないぜ」
「借りはしないけど、取り立てに来たのよ。あなたが持ってった本の一つを、すぐに返せって、パチュリーが」
パチュリーは、アリスの言葉にこくこくと頷く。
「ほほう。それで、一人で奪いに来るのが怖いからアリスと組んで二人がかりで襲いにきたってわけか」
「なんでやりあうことが前提になってるのよ!? 大人しく返すって選択肢はないの!?」
「今脳内に浮かんだ13の選択肢の中には残念ながらなかったぜ」
「13もとっさに浮かぶのに1つも大人しいのがないのー!?」
「無駄よ、アリス。わかっていたことでしょう。無駄な時間を使わないで、さくっと押し倒して奪いましょう」
「うわあなんか微妙な台詞」
「そうそう、それでいいぜ。あんまり大事にしすぎてると他のやつに奪われたりするもんだからな」
「だから何の話よっ!?」
「本の話だけど」
「本の話だぜ」
「……そ、そうよねわかってるわよああもうっ! とにかく! そっちがそのつもりなら遠慮はしないわよ!」
「望むところだぜ。なんでアリスが普通にそっちの味方してるのか謎だが」
「え? あ……あれ、なんでだろ……えーとほらそれは人情とかそういう」
「隙あり」
閃光。
アリスのそれはもう目の前で生み出された魔法が、そのまま容赦なくアリスを完全に飲み込んでいくのだった。
戦闘開始からわずか数瞬で、バイバイアリス。
魔理沙は、さっぱりしたいつもの笑顔で、パチュリーに振り向いた。
「ハンデはいるか?」
パチュリーは、その余裕の笑みを、きっと睨みつけて。
強気の瞳で逆に威嚇して。
「……20メートル以上距離を離してから開始したいわ」
言葉は正直に、自分の有利な状況を要望していた。
で、結局。
「神社で暴れない。私を無視しない。賽銭くらいは落としていく。これがあなた達にできる善行よ」
「うあ、そっくりだし……あいつの真似なんかするなよぅ」
「……誰?」
「……?」
三人仲良くロープでぐるぐるに縛られてお札で固く封印されていたりする。
霊夢が見せた一発芸に魔理沙は冷や汗を流したが、他の二人はただ疑問符を顔に浮かべるだけなのだった。
そんなこんなで、今年の博麗神社も一部が破損した状態で始まった。
ちなみに、霊夢の芸に対しては、やはり何も出なかった。
今年も一ファンとして応援しておりますよ。と挨拶させていただきました♪
元日でも変わらない日常、しかし参拝客まで日常状態の神社はともかく
挙句に一部壊されちゃった・・・霊夢カワイソス(ノ∀T)
パチュリーとアリスの魔理沙との掛け合いが可愛く面白いです。
つ ミ ◎
本当に可哀想なのは、何もしていないのに不意打ちで吹き飛ばされた挙句、
一緒に縛られたアリスの模様。本当にお人好しというか何というか(^^;
でもほんわかばっかりでなく、何気に『宗教家vs魔術師』の重たい設定が
紛れ込んでいて、しかも違和感無いのが面白かったです~。
それはさておきやっぱり不幸なアリスと意外にセメントなパチェラヴ。