Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

END OF THE CENTURY

2006/01/01 08:18:39
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「♪ふろいでっしーねぅげってるふんけんとっほてるあうす えりーじうむ♪」

 それは年の瀬大晦日、夕闇が色を濃くする妖の時間。夜雀をはじめとした鳥類に見つからぬよう、低空を一心不乱に飛んでいくものあり。マントを翻し、小壺を片手に、向かう先は湖のほとり、禍の館。
館と合わせたように紅い髪の門番は、羽音を聞くや身構える。
「今宵館は厳かなる宴の場! 律を乱すものは虫一匹通さない!」
「これユズの蜂蜜漬けです、よかったら警備の皆さんで」


 たたかう
 スペル
→とる
 うたう


→つぼ


「ようこそドキドキ紅魔館へ! どなたにお取次ぎしましょう」
こうかは ばつぐんだ!
「いえ、中ではなく貴方に相談があって…」

 リグルの相談内容は友達のチルノについてである。
随分前からチルノは馬鹿にされ続ける人生だった。特に最近はマスコミの影響もあり、何かアクションを起こせばあっという間に面白おかしく広まってしまう。そして風評を聞いた本人は汚名を漱ごうと大きな事をやろうとして、また失敗する。本人の資質は手の施し様が無いかもしれないが、せめて悪循環は断ち切れないだろうか、と。
「そこで馬鹿にされ続けの私に相談、とか言わないわよねぇ」
美鈴の顔に青筋が浮かんだ瞬間、リグルはポケットから次のお土産を出す。
「これクモの糸で作った手袋です。きめ細かくフリーサイズなのでよかったら」


 たたかう
 スペル
→とる
 いのる


→てぶくろ


「大船に乗ったつもりで任せなさい!」
美鈴の頬に紅がさしたかと思うと、おもむろに帽子の星エンブレムを取り外し、リグルに渡す。着脱可能という点から面食らっていると、更に指示が与えられた。
「六回投げて六回キャッチ、裏と表がどう出たのか覚えておきなさい」

一回目、裏。
二回目、表。
三回目、裏。
四回目、裏。
五回目、裏。
六回目、表。

「陽陰陰陰陽陰… あっちゃー、笑うしかないわね」
返してもらったエンブレムを取り付けつつ、更に言葉を繋ぐ。その表情は苦笑い中の苦笑い。
「実は今ちょっと占いをしたの。とても大きな流れを読む古い術なんだけど、この卦は『山水蒙』、若いが故の愚かさってことね」
「そんなぁ」
リグルは頭を抱える。とても高いところから馬鹿にされてるとチルノは憤っていた、それがまさか占いでも出るなんて確定したようなもの。悲痛に声を絞り出す。
「でも占いなら何かこう、アドバイスがあるでしょ! せめて対処が」
「若いってのは努力次第でよくなるってことよ、でもこの結果だと派手に動いたら正面からぶつかるわね」
もう言葉もない。あの子が努力するところを見たことがあっただろうか、そして派手に動いて動いてぶつかった例なんていくつあっただろう。空を仰ぐ。僅かな月と星明り、風切り音に天蓋が瞬く。

 否。黒いのが飛んできた。
「ややっ! 紅魔館の警備隊が虫けらに買収されているとは要チェックです」
「虫けらって言うな!!」
「これはお歳暮!」
放たれた極彩の風と蝶弾を、ストロボで掻き消しながら静かに着地。相談しているそばからやってきた“マスコミの影響”。
「あ、私は来年用の記事を集めてるだけですのでお構いなく」
射命丸文に悪びれた様子はまるで無い。ある筈が無い。
「館に害を為すならば、貴方とて容赦はしない!」
「没です。いまいちインパクトに欠けます。さっきのでいきましょう」
手帖を開きながら他人の言葉を綺麗さっぱり流している。まさに天狗。リアル天狗。
「年の瀬ぐらいじっとしててよ! あんたみたいなのが居るからチルノは」
「いや、その氷精がじっとしてなかったんですねー『馬鹿にしやがって~、あたいの強さで一泡吹かせるんだから!』と言ってなんと直接大ガマに挑んでまさかあんなk」


 跳ねた高さは木立より高く、
 羽音を堂々響かせて、
 森を超えて最短距離。

 冬の大気は妖怪蛍に容赦しない。寒さは皮膚を剥ぎ取るように、双眸を貫くように攻め立てる。
それでもなお心の臓を炙って急き立てる“虫の知らせ”。派手に動いたら正面から…
予感に首を振る、彼女の頭はそこまで酷く無いはず。きっと今回も舌を巻いて逃げているに違いない。そう考えているうちにたどり着いた池の中、真ん中の島に誰かが居る。仰向けに夜空を見上げている格好。

それは泥に汚れた、水色の服。

「チルノォ!!!!!!!」
「あけおめぇぇぇぇぇ!!」

 音も無く墜落。
「あれ、まだ早かったっけ」
「無事… だったの」
柔らかな地面から体を起こす。改めてチルノを見ると、服の所々は泥に塗れているがその表情は
「よかった… いつものおめでたい顔だ」
「何よ! あたいはいつだってラッキー妖精なんだから!」
頬を膨らせた彼女を見た途端、全身を張り詰めていた気が抜ける。両手を広げ仰向けに倒れると、無駄に星が滲んだ。
「大ガマ、逃げきれたんだ」
「何言ってるのよ! 今寝てるでしょ!」
 慌てて身を起こす。今居る場所は起伏もざらつきもあるが、押せば弾力がある。島でも地面でもない、紛う事無き大ガマの背中。
「蛙は冬眠前で動きがトロい! そして“目”が強いバケモノなんていないわ! あたいってば天才!」
驚く蛍の前で、爪先立ちで得意げに回転する氷精。無邪気に笑うその姿は、冗談で作られたオルゴールのようでもあり。
「もう、その強さは冬だけなんだから無茶しないでよ」
「失礼ね、いつだって最強よ! ブン屋が見たんだから、これで幻想郷中に私の強さが広まるわー」


 オルゴールの役割は宝石箱。
中身が無ければ、これから多くの宝物を入れることができるだろう。














(正月の文々。新聞は配達をお休み致します。)


 八卦プラス1、年末といえばナンバー9合唱付き。ちなみにミスティア歌っていた冒頭“エリジウム”は“エリュシオン”つまり楽園のこと。第九の歌詞で検索すると得した気になれます。
 東京で探していた易経の本が見つかったので、さっそく勝敗を占った結果が今作です。山水蒙について美鈴はネガティブなことばかり言ってますが、実際の意味は
「最初はもやもやしているが、身軽にして、努力し続ければ好転する」
と言ったところ。もっとも“蒙”の意味を見た瞬間噴きましたが。
 近代養蜂が確立するまで蜂蜜の回収は巣の破壊を伴う筈ですが、きっと時間をかけて滴下したのでしょう。絹糸は蚕を煮殺すので蜘蛛の糸に。縦糸など粘り気の無い糸も吐けるので、かつて王侯貴族が靴下を作らせたとか。虫の知らせより稼げるかと。

 東京で文花帖は手に入りませんでしたが風邪は手に入りました。よいお年を。
ショイン
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