Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

不可説、不可説転

2005/12/31 22:08:01
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注意:捏造設定上等で。






















そして、私は生き続けた。
いや、生きるというよりこの幻想郷に『在り続けた』。
不死の力をこの身に宿し、いつまでも死なず、やがては生きず。

千年、万年、億、兆、京・・・・・・

無量大数?
そんな生易しい物ではない。無量大数など、私に言わせればたった68個のゼロの塊でしかない。
そんな数すら塵と化す不可説、不可説転。
世界は何度も廻り、命は何度も廻り、そして私は廻らず、ただここに在る。
輪廻という大きな大きな輪から追い出された、仲間外れ・・・・・・










慧音もまた不死たる存在だった。
『歴史の守護者』である彼女は、その身その魂を全て歴史に捧げたのだという。
ゆえに彼女もまた死なず、歴史と共に歩み続けるのだ。



そういえば遥か昔、忘れようにも忘れられない者達がいた。

結界を護る巫女と境界を創る妖怪。
魔の光を紡ぐ魔法使いと数多の人の形を繰る魔法使い。
幼き夜の眷属とその完全たる従者。
半人前の幽霊と完全なる幽霊。

彼女達は、私の不死にはついて来れなかった。
完全なる幽霊ならば私と同じかも知れない・・・・・・しかし彼女は成仏してしまうのかも知れない。



―――あいつらなら楽しくやっているようだよ。たまには遊びに来てくれればいいんだがな・・・・・



私の隣で慧音が微笑む。
彼女達は幽霊の住処、白玉楼とかいう所で毎日楽しく騒いでいるのだという。要するに皆死んでしまったのだ。
考えてみれば当たり前の事。人間だろうが妖怪だろうが吸血鬼だろうが、その命には限りがある。
人間と妖怪ではその長さがずいぶん違うようだが、私から見れば
どちらも取るに足らないほど短いものだ。





私と慧音も、その幽霊達の住処に行ってみようと試みた事がある。
場所は慧音が知っている。だが、遂に私達がそこへ乗り込む事は叶わなかった。
生と死を分かつという桜花結界。それが、私達を拒み続けたのだ。



―――こちら側は『生』の世界。向こうに行けば『死』の世界。

―――不死不生たる私達は、本来ならどちらの世界にも居てはいけないのだろう。

―――だからあの結界は私達を一層頑なに拒むんだろうな・・・・・・・・・



それが、慧音の出した推測だった。
今ではそこへ行く気すら起きない。どうせまた結界に拒まれて終わりだろうから。
でも私は構わない。慧音という無二の親友が傍に居てくれるのだから。
変わらぬ私を変わらぬ姿で見つめ続けてくれたのは彼女だけ。だから、私には慧音が居てくれればそれでいい。


穏やかな月明かりを背に、慧音は今日も穏やかな微笑を浮かべていた・・・・・・・・・






















そうだ、もう一人。
絶対に忘れてはいけない奴がいるのを思い出した。
蓬莱山 輝夜。私に不死をもたらした元凶にして因縁の仇敵。
久しく会っていないがどうしているのだろう・・・・・・


―――奴もまた不死だったな、今も変わらずあの屋敷に居るようだ。

―――・・・・・・妹紅殿、もしかして奴が恋しいのか?


悪戯っぽく慧音が微笑む。
冗談じゃない。アイツと私の関係は慧音だって知っているはずなのに。
顔を合わせれば殺し合い、その存在を感じれば殺しに行き、殺し殺され幾星霜・・・・・・・・・・・・


いつしか、私は輝夜と殺し合う事に飽き始めていた。
輝夜を消し炭にしてやろうと、思いつく限りの事は何でもやった。
輝夜もまた、私を殺そうとあの手この手を尽くしてきたに違いない。
しかし、私達は死に難いのではなく不死の存在。
あの薬師の力をもってしても、不死の呪いを破るには至らなかったと見える。





               生の躍動を許されず、死の忘却をも許されず。





それを真に悟った時、急に今までの熱が冷めていった。
輝夜の方から私を殺しに来ないという事は、アイツもこの殺し合いが不毛だという事に気付いたのだろう。
以降、私の背に宿る不死鳥が羽ばたく事はなくなった。もうその必要がなくなってしまったし、
もう私はアイツを憎いと思わなくなっていた。永過ぎる時が、そんな感情を平坦にしてしまったのだ。





無限に薄く引き延ばされた日々を歩む為だけにある命・・・・・・大いなる理に背いた罰、永遠の大罪。
私は死の忘却よりも辛い『生の忘却』を永遠に味わい続けるのだ・・・・・・・・・・・・・・・・





そう思っていた。
そう思っていたはずなのに。
なぜか輝夜の顔が頭から離れない。



―――それはやはり奴が・・・彼女が恋しいからだよ、妹紅殿。

―――暇つぶしだと思って冷やかしにでも行ってみたらどうだ?





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

恋しいかどうかはともかく、暇つぶしにはならない事もないだろう。
実に何年ぶりかも分からない。私はあの竹林へ向かう事にした。






















『永遠亭』という名前は伊達じゃないらしい。
この竹林もずいぶん地形が変わってしまったが、あの屋敷だけは変わらぬ姿でそこに在る。
まるで時を止められたみたい・・・・・・


「・・・・・・・・・あっ」



不意に、私の目の前に少女が飛び出した。
薄桃色のゆったりしたワンピース、幼い少女の顔立ち、そして兎の耳。
そうだ。あの時も、ここの屋敷では妖怪化した兎を使用人として使ってたっけ。
あの時は輝夜への道を阻む邪魔な奴程度にしか思ってなかったのに、こうして今見てみるとなかなか可愛らしい。



「・・・こっちだよ。きて」

一声残し、兎の少女が駆け出した。
その足は明らかに永遠亭へ、まるで私が誰かを知っているように、私の目的を知っているかのように誘ってる・・・・・・
・・・まさか。輝夜達の前から姿を消して、数えるのも面倒なほどの時が経っている。
その辺の妖怪兎の命など何万回廻っても全然足りないほどの時が空いているはずなのに・・・・・・・・・?
そういえばあの兎、どこかで見覚えがあるような・・・・・・





「ひめさま、おきゃくさん」

屋敷の玄関で兎が声を上げる。
『ひめさま』・・・・・・・・・・・・・・・・ひめさま、ひめさま、ひめさま。


姫様。
呪われし竹取の姫。
すなわち、蓬莱山 輝夜。


輝夜は確かにここに居るんだ。
でも、私はどんな顔でアイツに会えばいいんだろう・・・・・・・・・・・・





「お客さん?・・・・・あら」
「ほら、ずっとむかしのしなないニンゲン」
「またずいぶんと懐かしい・・・・・・変わってないわね、妹紅」



久しぶりに会った輝夜も、昔となんら変わっていない。
妖しい艶を放つ黒髪、足が隠れてしまうほど裾の長い着物、ほのかに狂気を帯びた微笑。
全て全て、毎日のように殺し合っていたあの時と何も変わっていない。
・・・・・・それにしても何なんだろう、この姫は。
まるで1日ぶりくらいに友達に会ったみたいに、感慨も何もなく呑気な顔で笑ってる。
私はどんな顔で会おうか少しは悩んだっていうのに・・・・・・



「ビックリしたでしょ?これ、あなたも知ってる『因幡 てゐ』なのよ」


兎の頭を撫で、兎もニコニコと笑みを浮かべている。
そうだ。あのウェーブがかかった黒髪は、かつて永遠亭の妖怪兎を率いていた兎に瓜二つ。
・・・・・まさか。そんな筈はない。
如何に妖怪といえども、如何に健康に気を遣うといえども、私達の不死について来れる筈がない。
あの吸血鬼も、あの大妖怪ですらも往生を遂げたというのに。

・・・・・・しかし、考えられる手が一つだけある。
かつて私や輝夜がそうしたように、禁忌中の禁忌とされる蓬莱の薬を使って・・・・・・・・・
でも、まさかそんな事・・・・・・・・


「もう一人のイナバ・・・鈴仙にも薬を飲ませた・・・・・・・ていうか、この子達は自ら不死の道を選んだの。
 『いつまでも姫様にお仕えしたい』、ってね」
「・・・・・・そう、私と姫は最初反対したんですけどね。『不死ほど辛い物はない、永遠ほど恐ろしい物はない』、そして不死になる事の罪と業の深さを・・・でも、この子達の意志はとても固かった。この子達は私達について来てくれた・・・・・・・・・」



青と赤の服に身を包み、見事な銀の縦ロールを従え。
輝夜と同じく元凶たる存在、月の頭脳、永遠亭の薬師。八意 永琳が現れた。そしてその横にはもう一人。
流れるような美しい銀髪、とって付けたような兎の耳。そして狂気を湛えた赤い瞳。
鈴仙・優曇華院・イナバ。彼女もまた、昔と変わらぬ姿でそこに居た。










輝夜が言う。

「・・・・・・もう、永遠亭は私達4人だけ。他のイナバ達は私達について来れず、或いはついて来ようとせず・・・・・・
 そしてたった100年程度で、私達以外は誰もいなくなった」



永琳が言う。

「私達は生き続けた。万、億、兆、京・・・・・それすら生ぬるい、那由多、不可思議、無量大数・・・・・・・・・
 いえ、それすら塵と化す不可説、不可説転・・・・・・そして未来永劫、これからも生き続ける・・・・・・・・・・・・
 でも、所詮それは空虚な『生』でしかない」



再び、輝夜が言う。

「私達は閉ざされた輪を作ってしまったの。誰とも相容れない、誰からも許されない、メビウスの輪よ。
 だけど、考えるのも馬鹿らしいほどの時の中で、私達の輪はいつしか止まっていた。
 そこに在り続ける目的、名分をすっかり見失っていた」



鈴仙が言う。

「輪は最初から動いていなかったのかも知れない・・・・・・だけど、不死不生という名の生き地獄から逃れるためには
 どうにかしてこの輪を回す必要があった。私達だけの力じゃ足りない、誰かの手を借りてでも・・・・・・・・・
 そして、姫はあなたを待ち続けた」



三度、輝夜が言う。

「妹紅・・・・・・・・あなたとの殺し合い、殺伐としてたけどとても楽しかったのに。
 どうしてあなたは来なくなってしまったの?私はあなたを信じてずっと待ち続けたのに・・・・・・・・・・・・
 あなたが私にとっての『生きる』希望だったのに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」





同じだ。
私も輝夜達も、全く同じ事を考えていた。私と輝夜は同じだった。
永い永い時の中を漂い続け、憎み合う相手を殺す事に己の生きる道を見出し。
ただ、私はいつしかそれを不毛と悟り。
ただ、輝夜はいつまでも私を信じ続け。

そして、今の今に至る。



こんな私を待っていてくれたの?
あんたを憎んでた私を信じていてくれたの?





てゐが言う。

「ひめさまだけじゃないよ、みんなまってたんだよ」



再び、永琳が言う。

「あなたの存在は姫だけじゃない・・・私やウドンゲ、てゐにも力を与えていたの。
 もがきながらも必死で『生』を証明しようとするあなたが、何百度打ち倒されても立ち上がるあなたが。
 私達の『生きる』希望となっていた・・・」



再び、輝夜が言う。

「あなたの背に宿った不死鳥はただの飾り・・・・・・・?
 ・・・そうじゃない筈よ、不死鳥は何度でも蘇る、あなたは何度でも羽ばたける。
 さあ、もう一度不死鳥を羽ばたかせて!もう一度『生きる』目的を見つけるの!
 私達の為に、そしてあなた自身の為にも・・・・・・・・・・!」










・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・体が、熱い。
冷え切ったはずの私の心と体。なのに、今は燃えるように体の芯が熱い。
この感じは、そう・・・・・・・・・・・・輝夜と殺し合っていた時の私。私が一番燃えに燃えていた頃。
兎達を蹴散らし、輝夜の使い魔を撃ち落とし、憎き輝夜との一騎討ち。

・・・あの時の私はまだ無知だった。無知ゆえに、仮初の『生の躍動』によって満たされていた。
ある時それを断ち切って、何の充足も得られぬまま時を過ごし・・・・・・・・それでも輝夜達は、私を待っていてくれた。
だったら・・・・・・・・










背より伸びる、紅蓮の翼。
腰より伸びる、焔の尾。

燃えるように熱い体。
溢れるほどに漲る力。

己が炎で己が身を焼き、
灰の中から蘇る・・・・・・





不死不生の中にいながら、本物の『生の躍動』をもぎ取ってやる。
『死の忘却』が許されないなら、跡形もなく吹き飛ばしてやる。
そして―――輝夜。
あの時の私が、あんたを殺す。いつか必ず、殺してやる・・・・・・・・・

だからあんたも。あんた達も。私を殺しに来て。
みんなが『生の躍動』を味わえるように。『死の忘却』すら忘れられるように。





「・・・・・・お帰り、妹紅・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


涙を流しながら輝夜は唯一のオリジナルだという神宝、蓬莱の玉の枝をかざし。
そして、確かに微笑んでいた・・・・・・・・・・・・・・





ただいま、輝夜。






















―――フェニックス・・・・・・・・・・

―――再 誕



(Imperishable Night...)
不可説不可説転:やたら巨大な単位。10の37218383881977644441306597687849648128乗。
一般的に最大の単位とされる無量大数は10の68乗でしかない。
数学的手法で説明される巨大数を除けば、ぶっちぎりで史上最強の単位とされている(らしい)。



     人間が語る『永遠』とはどれくらいだ?およそ一億年くらいか?
     だがそんな物、せいぜい10の8乗に過ぎない。無量大数にすら程遠い数字だ。
     10の2乗年程度しか生きられない人間が『永遠』を真に理解する事はできないんだよ・・・


とか慧音が言いそう。
ビッグバンにより宇宙は今も膨張し続けていますが、ある時膨張が止まったら逆にだんだん収縮して
最期には消えてなくなってしまう、という学説があるそうです。
それに従うなら、不死の人々はその時どうなっているんでしょうか?さりげない疑問。

最後の「フェニックス、再誕」の所は輝夜と慧音が心の声を合わせて呟くイメージで。
妹紅が我々に遺した最後の言葉、それは輝夜達にとっては連綿と続く『永遠』の始まりだった―――
とか。むしろ慧音が黒幕っぽいかと。歴史を創る程度の能力ですしねぇ。

ところでこれって輝夜×妹紅?それとも逆?(ぉ


ていうかこれ、最萌2の妹紅支援だし(駄
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コメント



1.れふぃ軍曹削除
幻想郷が星の寿命を超えてしまったら。(地球の寿命はあと50億年くらいらしいです)
妹紅や輝夜達はどうなるんだろう…。
って事を考えてちょっと怖くなりました。(汗)

それはともかく、幻想的とも思える描写。おみごとです。
2.ぐい井戸・御簾田削除
妹紅って蓬莱人として(輝夜や永琳と比べると)は普通の人間に近い感性を持ってるような気がする。自ら望んで人間やめちゃった永遠亭の人たちに生きる力を与えたのはそんなもこたんの人間臭さじゃあないかな