Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

果てしない時間の中で

2005/12/23 07:23:44
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 彼女はいったい何時、生まれ変わるのか。何時まで冥界にいるつもりなのか。死んでから今までの長い年月、そしてこれかも続いていくであろう月日を思うと、そんな日は永遠に訪れないように思われる。いや、そもそも、死者でありながら地上の人間と係わり合いを持ち、その気になればいつでも地上に降りられる彼女を『死んでいる』と言って良いものなのだろうか。
 
 いずれにせよ、もう彼女に死の恐怖はない。では、彼女は何を思い、何に苦しむのか。その答えは一つしかなかった。

 西行寺幽々子は屋敷の中で、静かに時を刻む砂時計を食い入るように見つめていた。
 砂の一粒一粒が落ちていく様を確認するかのように、砂のざわめきに耳を澄ますように、全く隙の無い様子であった。その表情は真剣で、余裕がない。
 西行寺に仕える魂魄妖夢は、初めて見る西行寺の面持ちを息を呑んで見つめていた。西行寺が醸し出す雰囲気は、魂魄を微動だにさせない。嫌な汗と、精神を削る心拍が魂魄を襲っていた。
 だが、それ以上に、西行寺は心の中の葛藤に苛まれていた。身体の中で巻き起こる欲望の爆発を、なけなしの理性で押さえ込む。欲望を奮わせる誘惑は止め処なく彼女を刺激し、もはや理性が失われるのは時間の問題である。この理性が時間まで耐えられる保障はどこにもない。
 
 砂一粒が落ちる一瞬は、西行寺の今までの年月を嘲笑うかのように膨張し、果てしない時間の中へと彼女を引き込んでいた。
 
 死は西行寺に恐怖を与えない。しかし、この時間こそ彼女に死してなお恐怖を与え得る唯一のものだった。
 いくらもがいても、抗っても、近寄らせる事も遠ざける事も出来ない。無力感。
 不死の人間、藤原妹紅と遭遇した時にも、西行寺は似たような感情を覚えた。だが、その時は僅かに苦手意識を持っただけであった。それもそのはずだ。不死の人間は避ければ会う事はない。この時間は回避のしようがないのだ。

 時の出口を開けるのも、時の仕業。砂時計は最後の砂を落とすと同時に、西行寺の理性は弾け飛んだ。理性が欲望の負けたのではなく、理性が欲望を容認したのだ。それが許される時を、西行寺はようやく迎えたのだ。

 蓋をはがすと、湯気が香ばしい匂いを伴って一斉に舞い上がった。箸で軽く麺をほぐす。過不足のない待ち時間は、麺を十分に潤しつつも、程よいコシを残していた。
 「う、うまい・・・」
 苦しい待ち時間こそ、カップラーメンを極上のラーメンへと昇華させる。今の西行寺ほど、それを顕著に表しているものはない。

 苦しみの先に待っている味が至極のものであればあるほど、苦しみは大きくなる。
 しかし、至極の味を知ってしまった故に、西行寺はカップラーメンを食べる度に苦しみと向き合わなくてはならない。待ち時間を短縮して、硬い麺を口に入れた時の失望など、考えたくもないのだ。
 そしてそれは、西行寺が『西行寺幽々子』である限り、カップラーメンの苦しみを背負わなければならない事を意味しているのだ。
 
~カップラーメンエンド~
幽々子にカップラーメンをあげないでください。
ぐーん
http://www.geocities.jp/kitakantougunma/
コメント



1.名無し妖怪削除
カップラーメン吹いた。
どうしてくれる
2.月影蓮哉削除
すみません。笑いました。
つか、ゆゆ様、3~5分くらい我慢しましょうよ(ぇ
3.まっぴー削除
ちなみに。
その苦しみを忘れるとまた苦しみになります。
(訳:カップ焼きそばを5分以上放置してまずくした経験があります)
己の時間感覚を憎んだのはこれが初めてでした。(というか体内時計がないし
4.七死削除
日本の誇る発明品、カップラーメンは偉大だ。
普段まずしい僕の舌と胃袋を満たしてくれるだけではなく、今この作品を通じて、たった三分と言う時間を大いに哲学させてくれた。

待ち通し 湯を入れてからの 三分間 生きても喰えず 死しても喰えず