Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

CELEBRATE NITE

2005/12/22 13:01:49
最終更新
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ページ数
1
注意:あるショートショートが原作。オリジナルキャラクター有り。










 クリスマス・イブ。神の涙も凍る夜。
 日付と関係なく神社の年末年始は慌しい。博麗霊夢は防寒結界を張った居間で炬燵に温もりながら作業に追われていた。
 夏の異変以降参拝客がそこそこ訪れるようになったものの、ここ最近紙価が下落。お御籤やお札の多売はできても薄利は避けられない。そこで性懲りもなく賽銭箱を持ち歩いていた因幡を捕らえて案を聞き出したところ、翌日に正方形に切られた大量の木片を抱えて境内に現れた。見れば隅に穴があり、片面に開運大紋の焼印が押されている。個性と低コストを両立した絵馬に思わず唸ったが、ぶら提げる紐について聞こうとした瞬間兎は脅威の跳躍力で森に潜った。
 紐通しは半分終わった。この調子で果たして大晦日に間に合うのだろうか。お札は弾として用いているものを流用するとしても、お御籤を小さく折る作業が丸々残っている。こうなったら明日のパーティーは欠席しようか、蝋燭はまだ残っていたっけ、そう思い霊夢は行燈に目をやったとき、思わず息を呑んだ。

 一人の少女がいつの間にやらそこに居る。
「メリークリスマス」
「喧嘩売ってるのかしら。ちなみにお賽銭箱はここよ」
炬燵から事も無げに賽銭箱を引き摺り出す。
「プレゼントを届に来ました」
「流したな」
行燈に照らされたその姿は赤い三角帽に赤いコート、赤いズボン。全て白の起毛で縁取られている。
「霖之助さんから聞いたのとはえらい違いね、サンタのおじさん、じゃないの?」
「サンタクロースは種族。私はニコル」
そう彼女は言うと、手に持っている小さな布の袋を見せつける。
 霊夢は作業の手を止め、改めて侵入者の姿を見た。恰幅のよい老人という噂はなんだったのか、紅魔の当主に負けじ劣らずの体型。それでいて不思議と見る者を安心させる魅力が滲み出ている。勘は危険を告げなかった。
「信じてもよさそうね。でも貴方達って聞いた話では住民が寝静まったのを見計らって靴下に」
「バラ撒き型の支援は非効率ということで、苦労の割に恵まれていない人を対象として、リクエストに応えた贈り物をと仕組みを改めました。ではご希望の品がありましたら」
 霊夢は大いに納得、すると同時に考え込んだ。あの袋は小さいが伊吹瓢の例もある。望めばそれこそ何でも出てくるだろう。新しい装束、新しい針、新しい陰陽玉、新しい亀、食糧はまだ困っていない…… と、そこである疑問が頭をかすめる。
「自分で言うのもなんだけど、どうして今まで私の所に来なかったの?」
「ふぉえ?」
いつの間にか炬燵に潜っていたニコルは、急な質問に目を泳がせた。
「……実はこの地域初めてでして、人? に尋ねたらまず神社に行くべきだと教えられたのですよ」
 心拍が、聴こえた気がした。
この幻想郷に自分の働きを正当に評価している人がいた。しかも幸運の宛先に第一指名。その事実が霊夢を内側から満たしだすと急に欲求の小ささが恥ずかしく感じられる。しばし思いを巡らせると、霊夢はある方向を指差した。
「この先にある魔法の森には家が二軒あるけれど」
ひと息、声を繋ぐ。
「散らかってるほうは日頃の行いが善くないから奇跡に縁がないはずよ。行ってあげて」
「それがお望みでしたら」
ニコルは炬燵から立ち上がる。
「でも本当にいいんですか?」
「神社の巫女が貴方から物を受け取れるわけないじゃない」
苦笑と微笑が交叉して、侵入者、いや訪問者は襖を通り抜けるごとく姿を消した。
霊夢はこれからニコルがやってくれることを想像すると楽しくなってきた。魔理沙は一体どんな顔をするのだろう
と思うと笑みが止まらない。だが、その前に。
「食料庫の結界固めないと」




 魔法の森、霧雨邸。
平積みの魔道書に囲まれたベッドで横になりながら、家の主は読書にふけっていた。
「メリークリスマス」
「待ってたぜ。一年間善行の限りを尽くしたんだ、当然の報いだな」
さも当然のように言いながら魔理沙は身を起こし、胡座をかく。ニコルはベッドの脇に立っていた。
「よしちょっと跳ねてみろ」
ぴょん
「って、そうじゃなくてご希望の品をお渡しします。袋以外で」
魔理沙は腕を組み真剣に考え込んだ。プチ八卦炉、ハンディ八卦炉、ポケット八卦炉、i八卦炉…… 到底一つに絞れそうにない。
「ちなみに何個まで貰えるんだ?」
「ひとつだけです」
「それじゃー明日も来てくれるかなっ」
「今夜限りです」
 どうやらとても貴重な権利が巡ってきたらしい。
そう自覚し始めると、今度はこれまでの経験から胸中に嫌な可能性がじわりと沸いてくる。
「あー、ひょっとしてお前さんもアレか、人の生活覗き見して周って、それで行く先を決めてるのか? だったらもっと貧しい奴が居そうなもんだぜ」
仄かな疑念。しかしニコルは慈眉善目で受け流す。
「名前は明かせませんが、もちろん最初は貧しそうな所に。そしたらお宅を伺うよう申し付けられまして」
「何だって! 霊夢の奴がそんなことを」
思わず膝を打つ。これでのうのうと物を受け取ったら気前のいい考古学者の沽券にかかわる。そう思うや魔理沙は軽く目を閉じて熟考、やがてある方角へと首を向けた。
「この権利、普通の魔法使いにはちぃーっと勿体無い」
「と、おっしゃいますと?」
ニコルが見たのは、悪戯を考えついたような笑顔。次の瞬間、魔理沙の立てた指先に小さな星が現れたかと思うと、尾を引いて窓の外に飛んでゆく。
「ヤク中で友達の少ない可哀相な人形遣いにこそ相応しいぜ」
「ではそのように」
少女の姿が霧のように掻き消えたのを見届けると、思わず笑いがこぼれた。明日の宴席でアリスがどんなアイテム自慢をするのか想像するだけで愉快でたまらない。音を立ててベッドに倒れこむ。
「そういえば、着地の音も振動もなかったな」




 机に向かい、藁を束ねて、一心不乱に人形を作っている少女がいた。その後ろに立ち、声をかける。
「メリークリスマス」

ギィン

「潰すのが時間だったら紅い所。潰すのが暇だったら紅白な所が吉よ」
「まあ落ち着いて、本物のサンタクロースですってば」
無数の人形に横薙ぎの剣を突きつけられながらも、ニコルは袋から一体の像を出す。その胸像は水晶のようなものを何本か生やしており、暖炉の火を映しこんで妖しい光を放っている。その魅力は誰ニモ渡シタクナイと思わずにいられない……
アリスが椅子から立ち上がり、手を伸ばしかけたところでそれは袋に仕舞われた。
「信じてくれました?」
「え? ええ、信じるしかなさそうね」
パチン、と指が鳴らされると人形たちは剣を収め棚に戻ってゆく。そして入れ違いに奥からは倫敦人形がティーセットを運んできて、2人分を机に並べる。
「どうぞおかけになって。メリーゴウランドには乗れないのでしょう?」
「本当に理解が早くて助かります。ご希望の品はありませんか?」
「あるわよ。あり過ぎるくらいよ」
客が口をつけるのを待って、カップを自分の口に運ぶ。そうしてる間にもアリスの頭には数々のレアアイテムが思い描かれていた。アグニラータ、ウアスの杖、スキーズブラズニル、乙女回路、ゆうじょうのゆびわ……
そこまでいくとさすがに自嘲せざるを得なかったが、一応確かめてみることにした。
「モノじゃなくて、もっとこう精神的なものは出せるのかしら」
「いえ、さっきは聞かれませんでしたが、モノ限定でお願いします」
「さっき?」
細かくも鋭い質問。
「誰とは言えませんが、さっきの人が貴方に権利を譲るよう仰いまして、えーと」
カップが皿に置かれた。一語一句思い出しているのか、ニコルは目が泳いでいる。
「いわく『ヤク中で友達の少ない可哀相な人形遣いにこそ相応しいぜ』と」
「マリスァ」
肩が震える。よりによってあの野魔法遣いが一枚かんでいた。パーティーの席で昨夜は何を手に入れたんだいとニヤニヤしながら近付く魔理沙が白黒なのにフルカラー1677万色で目に浮かぶよう。だが恥を忍べばレア中のレアアイテムをノーリスクで手に入れられる千載一遇の好機、それを易々と放り出すなんて一体何のメリットが、まさか夏の異変時のお詫びのつもりか、だとしたらあまりにもお釣りは大きすぎやしないか等々々。
「あのぅ、さっきから表情の喜怒哀楽が凄い勢いで切り替わって」

ダン

 アリスはブーツを踏み鳴らして勢いよく立ち上がると、驚いて固まっているニコルに目もくれず机の上にあった藁人形を全部掴み、暖炉の中に放り込んだ。猛る火力が、手の埃を払う人形遣いを白々と照らす。
「ここへ来る途中で、大きな湖を見かけなかったかしら」
ひどく淡々として、それでいて良く通る声。来訪者に向き直ったその表情は、要らないものを削ぎ落とした清々しさが溢れている。
「……ええ、ちらりと遠くに」
「その湖の辺に紅い紅い館があって、そこの門番はきっと今夜も寒空の下で仕事」
この短いやり取りの間に、服の色と相まって、いつの間にか空が生まれていた。
「確か名は紅美鈴。奇跡を届けに行ってあげて」




「昔我初遷、朱華未希、今我旋止、素雪云飛……」
 時として無限にも感じられる暇には慣れていた。侵入者さえ居ないならこんな気楽な仕事はないだろう。だが今夜は特に気を引き締め猫の仔一匹通すなと通達があった。何が行われているかは番兵に知る由もないが、ふらりと遊びに来る恐れがある人妖には翌日の夜に開かれる宴に招待するという念の入れよう。朝が来るまで時間と寒さとの戦いである。あいにくの曇天で月や星は読めない。気の流れに敏感な彼女が周辺の気配を探ることで、防衛はならずともせめて初動を早くという態勢がとられていた。一人で。
 そんなアナログ式センサーを意にも介さず、正門に向かって歩いてくる何者かがこれまた一人。接近の気配を一切感じさせなかったにもかかわらず、身を隠そうともしないのは自信の表れか。しかも遠目には紅白。紅魔の警備チーム全体を衝撃が走った。一人だが。
「君不垂眷、豈云其誠!」
重心を落として迎撃の構えを取る。針なら叩き落とすべく手に“火”の気を、札なら蹴り破るべく足に“金”の気を。陰陽玉が飛んできたら、陰陽玉なら、玉なら、玉……
「ジーザス!」
「メリークリスマス!」
五行相克で悩んでいる間に闖入者は眼前。慌てて飛び退き、相手を識る。いつもの巫女ではないことに気が付いたが、それはかえって相手の出方が完全に未知数になってしまったことを示す。まずは威勢だけでも。
「ここは気高き紅魔の館! 今宵ばかりは一歩たりとも足を踏み入れること罷り成らん!」
いつもは一歩どころかフリー、ともとれる。そこには触れることなく、闖入者は穏やかに声を。
「私はサンタクロースのニコル。紅美鈴さんに奇跡を届けに来ました」
「気安く職業で呼bぁ… って今なんと」
構えが緩くなる。
 改めてやってきた目的を話すと先程の威勢はどこへやら、美鈴はニコルの両手をしかと手に取り目を潤ませて感激し始めた。
「ああ! 言い伝えは本当だったのね! 私はいい子だったのね!!」
「いい子かはともかく貴方の所へ行くよう提案されたので。ところで言い伝えとは」
「一年間いい子にしてたらサンタさんが、悪い子の所には張遼が来るって」
「惜しい」
ニコルは正確にプレゼントのルールを話したが、もはや美鈴はモノなどどうでもよくなっていた。幻想郷のどこかに自分の不遇を憂えてくれる人が居た、その事実で一冬乗り切れそうな暖かさが沸いてきている。
「サンタさんが目の前に出現した、それだけで奇跡は十分です」
「ホントにいいんですか?」
「お構いなく。でも」
一呼吸。

「奇跡が必要なのは、むしろ貴方自身じゃなくて」
対峙した時からの予感、手を握ったときの確信。

彼女は生きていない。それどころか魂でさえない。
存在が嬉しかっただけに、感情を抑えられず、声をあげる。精一杯の声があがる。


「概念は… 死んだとき輪廻の輪に乗せてもらえるの?」










 時計台の鐘楼が鳴り響く。
ニコルの足は透けて、門前に敷かれたタイルが見え始めていた。




「粋な死神が2日待って下さったのですが、どうも時間切れみたいで」


 彼女が聞きたかったのはそんな言葉じゃなく


「概念の分際で魂の如く振舞えただけでも、愉快な百年でしたよ」


 彼女は言いたい言葉が出てこないのが悔しく


「それに私の分の奇跡、間に合っちゃったようです」


 彼女はせめて目に焼き付けた最後の姿と同じように空を見上げた。

 そのとき、虚空から降り注ぐ白い星。






 クリスマス。神の涙も凍る夜。








( fin )
 原作はショートショートの巨星、星新一の「ある夜の物語」。
初めて読んだときの感銘は読書嫌いを読書家に軌道修正するほど。それがこんなことに。
今月11日、教皇ベネディクト16世はクリスマスに対する商業主義の汚染を嘆いた。
クリスマスがいい子であり続けるための抑止力ではなく、物を得る為の契約になったときから汚染以上の深刻な事態が進んでいった。まして宗教意識の希薄なこの国においては……
なんにせよ幻想郷に来る以上は閻魔や鬼の例を出すまでもなく少女化が義務。

 ちなみに美鈴の詠んでいる詩は曹植の「朔風」だけど、遼来来って確か呉の言い伝え。
界隈は萃パッチの名前ネタを公式と認めているのか、ちょっと不安。
所々に見受けられる「夏の異変」とやらはまた別の機会に。


(25日↓追記)

 文花帳を読み返したら、紅魔館は島ではなく湖の辺(ほとり)とはっきり書かれていました。
一部表現を訂正し、下調べの不足をお詫び申し上げます。
また知り合いに見せたところ
「DQ4の『信じる心』のデザインを知ってる人って多くないのでは」
「萃夢想でアリスが幽霊の生前を見分けられる様になったネタはマイナーすぎる」
「漢詩の意味調べるのは面倒」
と指摘されました。詩の前半に大した意味はありませんが後半は下記の通りです。
「君不垂眷、豈云其誠」→「たとえ主に顧みられなくても、忠誠心を曲げやしない」
ショイン
コメント



1.床間たろひ削除
星新一、あんなに大好きだったのに、元ネタが思い出せねぇぇぇえええ!!!

だから改めてオリジナルとしてこの物語を読む。
とても暖かく優しい物語。堪能させて頂きました。
概念に過ぎなかったニコル、廻り廻って再び幻想郷に還ってくる事を心から
願いながら。
2.にゃる削除
やべ、これ読んで最後でマジ泣きしそうになりました。
星新一なんてもう10年以上読んでませんが、これを機会に読み直してみようかと思います。
すばらしい話をありがとう。
3.名無し妖怪削除
クリスマスは元々なんだったかなあ、ゲルマンのお祭りが
キリストを祝う祭りになったのが15世紀過ぎてからで。
何時ごろサンタがプレゼント持ってくるようになったのか
4.名無し妖怪削除
張遼・・・邪魔だァァァァッ・・・やまだぁぁぁぁっ・・・山田!
つまり悪い子のトコロには映姫様が来るということですね!
5.名無し妖怪削除
いい話や…
6.名無し妖怪削除
お…意外な展開にGJでさあ。

自分は悪い子だから、張遼に来てもらいたいなあw