◆第百二十季 葉月之参(8月3日)夕方 永遠亭
幻想郷の野生竹林地帯、その奥に位置する日本屋敷、その名を永遠亭。
必要最低限しか日光を取り込まないように竹林を伐採させてあるため、昼間でも薄暗いこの屋敷。
その屋敷に住むひとりの女性が、ついに新薬の開発に成功した。
永遠亭内部、通常はその女性以外立入禁止となっているその場所は、一般人が見れば奇妙と思える場所だった。
何故ならば、沢山の試験管に、乳棒と乳鉢、乾燥したヤモリ、その他様々な専門器具が置かれているのだから。
「学校」という建物を知っている者ならば、まず「理科室」を思い浮かべるような部屋。
この部屋こそ、幻想郷一の実力を誇る薬剤師、八意永琳の自室だった。
「出来た…。ついに完成したわ。これこそ私の傑作。
その名も『恋慕惚薬(れんぼほやく)』」
ありとあらゆる薬を作る能力を保有する彼女は、その能力を生かして薬局を営んでいた。
香霖堂経由でその存在が明らかになり、
幻想郷でも前々から設置された通信手段(幻想郷の住人はそれを「電話」とか「電電」と言う)が急速に広まったため、
直接永遠亭(この場合は八意永琳の連絡先)に物事を伝えることが出来るようになって以来、客足が急に増えていた。
当然だろう。直接永遠亭に行かずに要望品を伝えれば(これを注文という)、希望の薬を用意してくれる。
依頼人の住所さえ判明していれば、代金を振り込んだ後で薬が届く(これを通販という)。
これこそ画期的な買い物はないだろう。近年、幻想郷にも始まった宅配業の開始がそれを可能にした。
と同時に、永琳は客の要望に応えるべく、常日頃から新薬の開発に没頭していた。
そして出来たのが、この恋慕惚薬であった。
「さてと、これを広めないとね。…ふふ、ブンヤさん、頼むわよ」
不気味な笑みを浮かべつつ、彼女は呟いた。
◆第百二十季 葉月之四(8月4日)早朝 博麗神社
幻想郷は夏である。
その証拠に、7年間の長い時間を経て、地中から地上に上がってきたセミ達が、その存在を示すように鳴いていた。
セミの種類も様々だが、幻想郷では幼年向けの図鑑に載るようなセミ全てが生息している。
そのため、太陽が登ってから数時間しか経過していない現在、クマゼミの鳴き声がやかましく響いていた。
「暑いわ暑いわ暑くて死ぬわ…」
博麗神社の巫女、博麗霊夢は桶に水を張り、その水に両足を入れながら呟いた。
神社の縁側は屋根の日陰のために直接日光が当たることはない。
しかし、気温が35℃近くまで上昇しているため、暑いのであった。
打ち水はしたいが、暑いためにあまり動きたくない。強烈な日差しは年頃の少女にとっては大敵なのだ。
その時だった。
「朝刊だよーっ。幻想郷一早くて確かな真実の泉、『文々。新聞』の朝刊だよーっ」
今日も朝から御苦労様。
霊夢は上空で新聞を降下させるひとりの少女と鴉(カラス)を見上げた。
少女の名前は射命丸文。幻想郷で新聞配達を行う天狗である。
以前、号外でもないのに号外を出したお騒がせ新聞娘。
博麗霊夢とその親友、霧雨魔理沙にはそう認識されていた。
「で、今日の一面は何かしら?」
霊夢は『文々。新聞』を早速見た。
しかし、別に対した記事は載っていない。彼女が興味を持つような記事は、ほとんどなかった。
新聞を開くと、そこに一枚のチラシが入っていた。
誰かが宣伝目的で、射命丸文に同封を依頼したらしい。
霊夢はそれを見た。
そこには、八意永琳が新たな薬の開発に成功した事と、その薬の詳細が載せられていた。
「あら、去年の冬に何か作ったと思ったら、また作ったのね」
去年の冬、正確には第百十九季の師走之壱(12月1日)に、八意永琳は新たな薬を開発した。
胡蝶夢丸(こちょうむがん)と呼ばれるそれは、就寝前に数粒飲むだけでその日は悪夢にならず、
楽しい夢を見ることができる薬だった。
売れ行きはそれなりらしく、同時に悪夢を見ることができる「胡蝶夢丸ナイトメアタイプ」も購入する人がいるらしい。
霊夢の情報収集能力では、そういう詳らかなことは不透明であるが。
「ええとなになに。
『あなたの恋を一発で成就(じょうじゅ)させます。相手に飲ませれば必ずあなたを好きになる。
恋慕惚薬。これこそあればあなたのお悩み即座に解決!
お求めは永遠亭:八意薬局まで』」
………。
思わず霊夢は黙ってしまった。ご丁寧に、永遠亭に行くための地図や電話番号まで載っている。
永遠亭は自然の要害である野生竹林地帯が存在する奥の方に建てられているため、
そこに行こうとして遭難する人間や妖怪が続出していた。
なるほど、地図はそれを避けるために書いたのか。というか、その前に永遠亭を知らない連中もいるかもしれない。
ああ、神様。八意永琳という薬剤師は、ついにとんでもない薬を開発なさいました!
思わず霊夢はそう言おうとしたが、言わなかった。
そもそも恋愛というのは相手と付き合ってナンボのものであって、強引に相手に自分を好きにさせるようなものではない。
だとするとこれは恋の最終手段なのかと霊夢は思った。
「はぁ。こんな薬、誰が買うのかしら」
霊夢はそう呟きながらもチラシを隅々まで見ていた。
「おーい!」
その時である。
黒色に、白いリボンで装飾したウィッチキャップをかぶった、ひとりの少女が箒にまたがってやってきた。
霊夢の古くからの友人である霧雨魔理沙だった。
「おはよう魔理沙」
「ああ。それよか永琳の奴がまーた新薬を開発したんだってな」
「あんたも見たのね、このチラシ」
「そうそう、それだ」
魔理沙は覗き込むようにしてチラシを見た。
「しかし、相手に強引に飲ませて自分に惚れさせるなんて、どんな馬鹿が買うんだか」
「あら、魔理沙もそう思う?」
「当然だろ。恋っていうのは自分の思いを相手に伝えて口説き落とすのが最終目的だ。
そんな薬に頼る方が間違ってるぜ」
ほうほう、魔理沙は意外と良い言葉を言うじゃないか。
霊夢は長年付き合ってきて、親友がまともな発言をするのは恐らくこれが初めてだった。
「試供品が入ってるんだってな」
「ええ、私の所にも。永琳にしてはサービスいいわね」
霊夢の言う通り、チラシには恋慕惚薬2回分が入っていた。
「……何よ」
霊夢は親友が変な笑みを浮かべていることに疑問を持った。
「ま、まさか! 私に飲ませて効果を試すつもりじゃないでしょうね!!!」
「バレた?」
「バレたじゃないわよ! 私は絶対そんな物飲まないわよ!」
「別にいいじゃないか。私はただ、霊夢が私に惚れた姿を見たいだけだ」
「え゛?」
その時、魔理沙は霊夢が自分に惚れる様子を妄想で構築し、
自分で自分自身(魔理沙)と霊夢になりきって、小芝居をやってみせた。
『魔理沙、聴いてくれる?』
『あん? 何だ?』
『あ、あのね。じ、実はね、私、魔理沙のことがずっとずっと好きだったの!』
『…………ほ、本当か?』
『うん。魔理沙さ、アリスやパチュリーと仲良いでしょ?
だから、私なんか魔理沙に「好き」って言っても相手されないと思ってたの!』
『…れ、霊夢。そんなに私のことが好きだったのか?』
『魔理沙。…私、魔理沙が好き。魔理沙だけを愛したい…』
『ちょ、霊夢! いきなり抱きしめてくるなんて……。何か、恥ずかしいぜ』
『恥ずかしいことなんかないわ。 …それに、魔理沙の心臓、こんなに鼓動してる。
魔理沙も私のことが好きだから、反応してくれてるのよ』
『そうだよな。霊夢。わ、私も霊夢が好きだった…』
『本当? 魔理沙………私だけを、愛してくれる?』
『当たり前だぜ。霊夢のためなら何だってする。愛して愛して愛し尽くしてやるぜ!』
『あ、魔理沙。んっ、あっ、やめて! そ、そんな所、は、恥ずかしい…。それに、き、汚いよ…』
『霊夢のなら、汚くはないぜ。嗚呼、綺麗だぜ、霊夢。霊夢、好きだ。霊夢の全てを私に見せてくれ! 霊夢!!!!!』
「やめろーっ! この阿呆馬鹿ーっ!」
その罵声と共に、霊夢は博麗アミュレットを零距離で魔理沙の脳天に叩き込んだ。
「あべしっ!!!」
霊夢の攻撃を直撃された魔理沙は、転がりながら数m吹っ飛んだ。
石畳や砂利に体が当たったので、折角の服が台無しになっていた。
「な、何をするんだ霊夢! 人が演じてやったのに!」
「あのね。あんたね、現実を考えなさい! 私はあんたに恋愛感情なんか持ったことなんて一度もないでしょ!」
「だからお前に恋慕惚薬飲ませようとしたんだろ?」
「それとこれとは話が別でしょ!」
「ここにひとつの故事がある!」
「……………」
途端に語りだす魔理沙。
それに対して呆れてしまったのか、霊夢は黙り込んだ。
「大胆、大胆、常に大胆!
この言葉はな、ドイツのフリードリヒ大王が述べ、かの有名なジョージ・スミス・パットン大将が愛した言葉だ!」
「…だから、その言葉に何の意味があるのよ」
「戦いには疾風迅雷のような進撃が必要だ。だが、時として敵をおびき寄せるために勇敢なる後退も必要だ。
しかし、私の頭は常に進撃! 恋を行うのは、いかなる手を使っても辞さない!
神の放ったメギドの火に、必ずや彼らは屈するであろう!」
……もう、わけがわからない。
ただ、霊夢は魔理沙が喋っている時、ジオン公国の総帥が、魔理沙の後ろに見えたような感じがした。
「てなわけで恋慕惚薬を飲め」
「何が飲めよ! そんなに効果を試したいのならあんたが飲みなさいよ」
「この場合は霊夢が飲むのが妥当だろ?」
「だから何でそんな結論に達するわけ!?」
「それは私がハードレズだからだ! どうもぉー、ハードレズでーす。レイザーラモン霧雨でーす。フォ~ッ!」
「……………」
その瞬間だった。
霊夢は魔理沙の一瞬の隙を付いた。
魔理沙が喋っているのを逆手に取り、開いていた口に恋慕惚薬を投げ込んだのである。
ぽいっ、ごくん。
「え? あ、あ――――――っ!!! れ、霊夢っ! お、お前今何飲ませた!?」
「恋慕惚薬よ。飲むのはあんたが勝手に飲んだんでしょ? 吐き出さなかったのはあんたが悪いわよ」
「あ、あああああ……。の、飲んじゃったよーっ! れ、霊夢、助けて! 死ぬ! 殺される!」
「別に死にはしないでしょ。自業自得よ、魔理沙」
「あ……あああああ。やはり、私の夢は適わなかった!
高子(たかいこ)は草の露も見たことのない高貴な人なんだぞ! 私もあの露のように消えてしまったらよかったぁ!
お、鬼に食われるんだぞ! 基経が放った追手にさらわれるんだぞ!」
「高子とか基経って誰よ。それに鬼って…、萃香?」
「いや。追手に高子がさらわれることと、鬼に食われることを掛けているんだ。何だ霊夢。藤原基経を知らないのか?」
「……妹紅なら知ってるけど」
あーあ、こんなことになるんだったら、いっそのこと処分すべきだった。
霊夢がそう思った、まさにその時だった。
「ふ……ふふふふふ」
「え……?」
魔理沙の顔は真っ赤になり、目の焦点が全然合っていない。
されど、視線は自分に向けられていることに霊夢は気付いていた。
「霊夢。私は霊夢が好きだ…アリスよりもパチュリーよりもフランよりも愛してるぜ、霊夢」
「ちょ、冗談はやめてよ! って、これって本当に効き目あったの!?」
「私は霊夢のことが大好きなんだぜ。それに、やめてって言われると、余計にやりたくなっちゃうなぁ」
ダメだ。全然人の話を聞いていない。
霊夢は腰が抜け、縁側を後ずさりした。しかし、それでも魔理沙はじりじりと詰め寄ってくる。
「魔理沙、気を確かに持ってよ! 今からじゃ遅くは無いわよ!」
「関係ないぜ。ふふ、霊夢。私の愛を受け取ってくれぇ!!!」
それと同時、魔理沙は霊夢に向かってルパンダイヴを敢行した。
「ぎ、ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」
◆同時刻 博麗神社上空
博麗神社へ自分が執筆・構成・編集している『文々。新聞』を投下させた射命丸文は、
すぐさま次への配達先へ行こうとしていた。
しかし、彼女は博麗神社に霧雨魔理沙がやってきたので、その場に留まっていた。
理由は魔理沙に何か魔法についての突撃インタビューをするためである。
流石に魔理沙の自宅に配達すると同時に仕掛けるのは失礼なので、文はその場でしようと思っていた。
そう、文が思ったその時である。霧雨魔理沙は突然謎の暴走を行っていた。
「………彼女、何か様子が変よ」
以前、霧雨魔理沙に千里眼だと言われたが、千里眼というのは千里(400km)を見渡せる眼というわけではない。
本当の意味は遠隔地で起こっていることを直感的に感じ取る能力であり、文の眼が望遠レンズではないのであった。
ただし、音声は風にのってやってくる音を聞き取ることができるので、それに問題はない。
問題は、映像は直接見なければならないということだった。
そして、文は凄い物を見てしまった。
霧雨魔理沙が意味不明理解不可能なことを叫び、博麗霊夢を襲っていた。
彼女は思わずカメラのシャッターを切り続け、フィルム全てを使い切った。
魔理沙は霊夢に夢中であり、霊夢はそれに抵抗するために精一杯なので、気付かれることはなかった。
「こ、これはスクープだわ! これこそ号外になるっ!」
写真を撮り終えた文は、すぐさま上空へと身を隠し、自らの家へと戻っていった。
◆第百二十季 葉月之四(8月4日)昼 博麗神社
博麗霊夢はひとり、博麗神社の縁側でぼーっとしていた。
ああ、あの時は本当に犯される所だった。抵抗しなければ絶対に私は魔理沙に「あれ」を奪われていた。
「あれ」というのは別にスペルカードのことではない。「あれ」のことだ。まあ、別に他人が知る必要はないけれど。
魔理沙が襲い掛かってきた時、霊夢は本能的に陰陽玉を撃っていた。
それが今度は魔理沙の顔面に命中し、彼女は気絶したのであった。
その後、霊夢は魔理沙の体に御札を何枚も張った後、縄でぐるぐる巻きにして、森の中心部に放置した。
流石に井戸に投げ込むことや、沼に沈めてやるのはかわいそうだったので、陸地に放っておいた。
それだけありがたく思いなさい、魔理沙。
「号外だよーっ。幻想郷一早くて確かな真実の泉、『文々。新聞』の号外だよーっ」
号外?
霊夢はその言葉を聞いて、またあの新聞娘がろくでもない号外を発行したのかと思っていた。
博麗神社に投下された号外を見たとき、霊夢の顔面は真っ赤になっていた。
号外には、こう記されていた。
『早朝に堂々と破廉恥行為! 霧雨魔理沙、同性愛疑惑浮上!』
まず、でかでかとこう書かれていた。続けて号外にはこう書かれている。
『8月4日早朝、博麗神社でとんでもないことが発生した。
発行者がいつものように博麗神社に小新聞を配達した所、森に小汚い住まいを構える霧雨魔理沙容疑者(人間)が、
博麗神社の巫女、博麗霊夢さん(人間)に強襲行為を働いていたのを目撃した。
発行者が介入してその行為をやめさせようと思ったものの、新聞記者な血が勝手に騒いでしまったために、
救助より取材を先行して行ってしまった。
その行為自体は未遂に終わったものの、博麗の巫女に対しては、心よりお詫びを申し上げる。
さて、犯人である霧雨魔理沙容疑者は、博麗の巫女に対して自分をこう述べていた。
「それは私がハードレズだからだ! どうもぉー、ハードレズでーす。レイザーラモン霧雨でーす。フォ~ッ!」
発行者にとっては、いや、幻想郷の住人にとっても意味不明な発言である。
少々酒が入っていたのかどうだか不明ではあるが、発言は発言である。
発行者が辞書を用いて単語を調べてみた所、レズ(les)とはlesbianの意味であると突き止めた。
lesbianというのは「同性愛の女性」という意味で、
遠い昔、レスボス(Lesbos)島に住んでいた女性が、同性愛に耽ったために誕生した単語である。
また、レスボス島にはサッフォーという女性詩人が暮らしており、彼女の詩は高い評価を得ていたものの、
貴族の娘達を集めて詩や音楽を教えていたため、同性愛の噂が広まった。
そして、女性の同性愛を意味する「サフィズム」(sapphism)なる単語まで生まれている。
レイザーラモンについては情報力足りずで、発行者はその意味を知らない。ここにお詫びして申し上げる。
いずれにせよ、霧雨魔理沙がハードレズを自称したことは、同性愛者であることを告白(カミング・アウト)した事に等しい。
そして、私は犯人がこのような行動に走ってしまったことについて、犯人と親しい方々や犯人を知る方々に意見を求めた。
以下は、突然の取材にもかかわらず、快く取材に応じて下さった貴重な意見である。
「前々からやりそうだなとは思っていたけれど、まさか実際にやってしまうとは極めて遺憾であり残念です。
やってくれるのならわた―――――そんなことは絶対に許されることではありません。
私はその動機について、詳しく知りたいです」(Aさん:魔法使い)
「私に対してはそんなことしなかったけれど、博麗の巫女に対してはやってしまったのね。でも、残念だわ。
多分、私は体が弱いから、魔理沙はそのような力技は避けたのだと思うわね」(Pさん:魔女)
「あら、あの小娘があんなことをしてしまったのね。…力ずくとは彼女らしいわ。
でも、霊夢を襲うとはね。余程好きだったのかしら」(Yさん:妖怪)
「へぇー、魔理沙がそんなことをねぇ。
普段はあんな感じなのに、やる時は随分とやるのね」(Fさん:吸血鬼)
「ははは、魔理沙が霊夢をね…。
僕は彼女を小さい頃から知っているけど、まさか女の子を襲うような人間に育っていたとは。
でも、幻想郷は女の子ばっかりだから、女の子でも恋愛対象は女の子になるのだろうね」(Rさん:人妖)
犯人を知る方々のショックは予想以上のもので、この事件は、
恐らく一生忘れることの出来ないほどの衝撃的なものであった。
発行者は精神的ダメージが高いとされる博麗の巫女にはコンタクトを控えたが、近々詳細を聞いてみたいものである。
しかし、無理矢理このような行為は断じて許されるものではない。
幻想郷でも犯罪は犯罪であり、決して犯罪には手を染めてはならないのである。(射命丸 文)』
それは確かな号外であった。
以前、号外でもないのに号外を発行した射命丸文であるが、この記事は号外だった。
「あーらら、書かれてたのね。まさかあのことがフライデーされていたとは」
霊夢は記事を見るなり呟いた。
「でも、あれを私が飲んでいたら、私がこう書かれたのね。危ない、危ない。もうあの薬はこりごりね」
予断であるが、その後、霧雨魔理沙に対して、殆どの人間や妖怪が近寄らなくなったのは、言うまでもない。
◆第百二十季 葉月之五(8月5日)深夜 永遠亭
辺りは暗闇だろうが、日付が変わろうが、八意永琳なる人物には全く関係なかった。
『文々。新聞』の号外と夕刊を再度読みながら、永琳は良く冷えた紅茶を飲んでいた。
「恐らく、恋慕惚薬……、間違いないわね。チラシに入れといたサンプルを飲んだのね。
チラシにはちゃんと「容量・用法を守って正しくお使い下さい」と書いておいたのに。
まあ、薬のことは感付かれていないから、良かったというべきか」
カンテラの中に灯っている火を明かりとして、永琳は次なる薬を開発する。
寝る間を惜しんで作業に没頭するのも、薬の作り手として生まれた身のこともあるが、
客のニーズに応じるのも、作り手の仕事である。
「さてと、今度はどんな薬を作ろうかしら」
そもそもの元凶は、楽しそうに、そして愉快そうに呟いた。
(某はだけ板にてレイザー魔理沙ネタがあり、そのときの発言な気ガス)
…自機では使いたくないなぁ…