ちゅるり卵を食み。
くちゃり小虫を踏み。
ぷちゃり若芽を摘み。
然るに衆生は、廻り回る末路を見遣りはせず──
草履の裏にへばる竈馬に通ずる事など、期すべきも無かった。
八つの刻、骸、向日葵──童の戯れと同列に論じましょうかしらん?
「直、夕餉の頃合ね」
境にて落日を愛でる少女に、妖怪が囁いた。
常盤緑に金糸雀乗せて、傘をくるくる向日葵映す。
紅湛える唇がついと裂ければ──
鴉が死んだ!
「食わせないわよ」
「食わないわよ」
「……あらぁ?」
口ずさみ、目を留めにやける紅白少女。
曰くは恐らく、ははあ、またまた、色めきなさって。
少女の目が語るお門違いに赤く縁取られた向日葵が笑む!
「ふふん、ああ、根の捻くれた人間は駄目ね。
酸っぱ過ぎて、とぉても食べられた物じゃないわ」
「酸っぱいの?」
「そう。酸っぱいの。とても酸っぱいの。神の采配よ」
もごもご、もごもご。
だから、ねえ。
もごもご、もごもご
やはり、ねえ。
噛み締めた言葉は、いかにも絞り粕で──
「人間は中身よ」
「あんたにだけは言われたくないわ」
「そうね、間違えたわね」
眦掠め、見遣るは稜線。
陽光の残滓、尽き欠けても陽炎絶えず。
傘をくゆらす妖怪の顎先から滴る汗で、羽虫が溺れていた。
はたと──
「忘れ物」
少女の頭にぽふんと覆し。
落ちる影が、ちょこんと伸びる。
かぶりを撫でてみると、あら……まあ、それは帽子だった。
「……どうしてあんたが持ってるの?」
「ああ、ん……たまたま、たまたま」
黒い尖り三角帽子、茜がするりと羽休め。
ぴしとすそ野をつま弾くと、息吐く間も無く薄暮に舞う。
羽音が響いて──
「あっ」
呻きを掻き消す、絹肌弾いた掌の音。
じわりと広がる赤い染み、ひしゃげて潰れた蚊の骸。
えぇ、覗き込んだ妖怪はとても御機嫌宜しそうなお顔を浮べまして、
(骸、向日葵、想い出語る、生娘の如く)
「あはは! なんて暗合! 震え、笑え!」
俯き紅葉見詰める少女に寄り、すぼめ、寄せ、
「ん──────」
「ん─────!」
やわらかに影、交わり──。
ぬたりと柵残した糸が、柘榴の逢瀬に紅露添える。
思い及ばず刹那の静寂、ぺろりと撫ぜると錆びた鉄。
「……腐爛?」
「ふふ!!!!!!」
白練覗かす花唇が裂けて、伝い落ち行く雫を啜り。
融け縺れ絡む黒淵に浮く、哂顔のお飾り、下弦の弦月。
稜線、金糸雀を食む様が、ああ……、ありありと……。
因果は応報!
然すれば──
(始原の波間に夢路を辿り 踏み締め拉げた小虫と一様)
──横一線を唱えた現に柵は溶けたか?
行末問わずに答を零せば、仰向く彼処に時経た光。
見上げた息吹の隙間を巡り、きららと尾を引き藻屑が流れた。
擦違う二針は畳を見詰め、束の間寄り添い仲睦まじく。
それは丁度、紅差す悪魔の御犬様が、騙くらかした父無子の息の根を止めた折でもあったそうで──
[ 星屑幻想、終焉 ]
痛い。
ああ、新聞記者さん、あの帽子は一体どこへいったんでしょうね。
魔理沙?
あなたの描く幻想郷が大好きです。