「なあ、霊夢。三日坊主って言葉はお前さん知ってるか?」
うちにやって来て早々、魔理沙はいきなりそんな事をのたまった。
「知ってるけどそれが何よ? そして人の煎餅を勝手に食うな」
魔理沙に言わせれば『相変わらずそっけない態度』らしいけれど、私とっては普通の返し。ちなみに右手に湯のみを持ちながら、左手でスッと菓子入れを魔理沙の手から遠ざける。
魔理沙の手がスカッと空を斬った。
「今じゃすっかり、飽きっぽくてすぐ物を投げ出す事の例えになっちゃ……いるが! 元は坊さんになる修行が三日で投げ出す……! 位にとても辛いって事を表してたはずなんだ……がな!」
何気ない世間話のフリをしながら隙をついて煎餅を狙う魔理沙の手を、最小限の動きでスカスカかわす。『撃ったら動く』なんて魔理沙は言ってるけど、たくさん動きゃ良いってもんでもないし。
「巫女なんだものそれくらい知ってるって」
ズズ……とお茶を飲む音が縁側に響く。
「巫女だってのと坊主の話は関係ないと思うが……じゃあお前さんに聞くが、アレは何なんだ?」
どうやら諦めたらしい魔理沙が、肩をすくめて指さしたのは……うちの庭。
秋風吹く中、落ち葉でぎっしり。
「落ち葉が多いわね」
「エントロピーも絶賛増加中だぜ。じゃなくて。こないだ来た時に『これからは落ち葉も多くなるし、ちゃんと庭の掃除を毎日やろうかしら』って言ってたのは誰だったかと思ってな」
あー、そう言えばそんな事も言った気がする。
「大丈夫よ、三日坊主どころかそれ言って、次の日さえ掃除やってないもの」
「うむ。それなら納得だ」
「納得するの?」
ズズ……と二人でお茶をすする。そろそろ秋風が木枯らしに変わる季節だ。
「そういえば、人のこと言ってないであんたも部屋の掃除くらいしなさいよ」
「うちは掃除すればするほど部屋が汚くなるから良いんだよ」
「まあそれなら納得ね」
「納得するなって」
そしてまたズズ……という音だけが縁側を支配した。魔理沙の手が、菓子入れにひょいとのびる。今度は妨害しなかったら、煎餅を手に魔理沙がちょっとだけ物足りなそうな顔をしていた。なんでよ。
「そろそろ今年も終わり……か。来年くらいは何事も無く……んで、お賽銭もそれなりに入りますように。お札だったらなおよし」
空を見上げて、誰に言うとも無く私は呟いた。
とりあえず、最後に『まとも』な参拝客が来たのがいつだったか、私も覚えちゃいないけど。
「来年の事を言うと鬼が笑うって言うぜ霊夢。まあ、今のは鬼じゃなくても大笑いだが」
はっはっは、とわかり易い笑いをする魔理沙。ほっとけ。
その時だった。軒下から何かがにょきっと、それこそ沸いて出てきた。
「うぉぅ! びっくりしたぜ」
「なんだ、萃香じゃない。何の用よ」
何となく出てくるんじゃないかと思ったら、やっぱり出てきた。つか、どこにいたんだか。
「いやー。来年の事なんか言わなくたって、霊夢は見てるだけで面白いって言いに来ただけ、あはははは~。んじゃねー」
相変わらずの酔っ払い状態で、唐突に現れて唐突に去って行った萃香。……何だか凄い失礼な事を言われた気がする。
「あのさ、魔理沙。一つ質問だけど、そんなに私って見てて面白いかしら?」
「はっはっは。死ぬまで見ててもきっと飽きないぜ」
即答された。
まあとりあえず…………明日こそは庭の掃除をしようか。
プロポーズ?(違。
時々作品読ませてもらってました。
お帰りなさいませ~。
おかえりなさい