──小町蜘蛛──
『身身となり 言い得ぬ痛みに 伏す女』
畳を焦がした暁逸らして 襖を劈く慟哭喧々
皺手が拭き取る薄赤残滓は 稚児の目蓋に滴り舐める
拱き見ている貴方はぼんやり 白布に包んで相好崩し
光の振り落つ彼方を見遣れば 真綿がくるくる解けて乱麻
桜
「かわいいね! おんなのこ!」
見開く哂顔に煌く明珠が 見据えた彼方に行末暴き
逃がした目玉を掠めた灯篭 燈る灯りが障子を破って 堕とした私を締め付ける
(飛び交う景色に瞼を塞いで漏らす嗚咽に傾げて狼狽)
女
「紫千切れて飛び散り舞い舞い 染み出した紅に花筏と化し
囲んで息尽く有象無象枯れ ザワザワ笑えば跡形も無く」
眼底引き摺り駆けずる景は 虚実綯交ぜ先行き冥漠
(嘘 嘘 嘘 嘘 嘘 嘘 嘘 嘘 嘘 嘘 嘘 嘘!)
囲んだ烏合がじりじり迫って上面塞いで蔑む木偶共
婆
「忌子なり! 忌子なり!」
衆人
「忌子捨ててしまえ!」
桜がぐるぐる頭を振って 貴方の門出をお祝いしてる
桜がざわざわ哂って散って 貴方の御顔に御飾りしてる
(よかったねおんなのこ! おともだちができたよ!)
鼓膜に沁み込む叫びを掻き抱き 私の後に伸びる径路に思い巡らせ痛み 入 る
……
[ 瞑目 ]
・ ・ ・
『夢……蝶』
ひらひら ひらり♪
ゆらゆら ゆらり♪
桜下にぼんやりお嬢さん♪
しくしく泣いてるお嬢さん♪
お久し振りね お嬢さん そうよ私よ ひらひらひらり♪
私はちっとも気にしてないわ だから滴る泪をお拭き♪
綺麗な御顔が台無しよ お気に為さらず泪をお拭き♪
だけどだけどねお嬢さん♪ 可愛い可愛いお耳を貸して♪
桜!!!!!! 貴様に裂かれた此の一身!!!!!! 輪廻の海でも忘れはせぬぞ!!!!!!
「そして 蝶の溶けた空に 明かり差す」
・ ・ ・
『若者と桜』
(踏み拉かれた瑞枝に 青年は娘を写した)
「離して」
必定である弾劾を嘆いてみても 叫ぶ声は届かなくて
「離して!」
己が身の今を嘆いてみても 嘲笑う声しか聞こえなくて
「離して!!」
ようやく青年は、母鶏の心中を察したのであった。
(糅てて加えて
悔恨の淵に沈む折
生害と小耳に挟んだのが
唯一つの慰撫というから
まったく。)
あ
ああ
あああ
あああああああああああああああ!!
ひらり
ひらり
ひらり
ひらり
ひらり
ひらり
ひらり
ひらり
ひらり
骸
(あああああ!) 桜が哭いている! (あああああ!)
愛人亡くした桜が懇ろ 震える百枝が大口開く
紫千切れて飛び散り舞い舞い 染み出した紅に花筏と化し
「叫び声」
囲んで息尽く有象無象枯れ ザワザワ笑えば跡形も無く
押し付け擦って嘆いて哭いて 禍因の在り処を知らん振り
行く先亡くした憶念ぽろぽろ 散華に紛れて背に降り積もる
揺れ落つ名残が足元埋めて 紫彩り雪白に染め
「叫び声」
儚身揺さ振り掻き抱きたくとも 為せるは死化粧唯其一つ
散らして包んで隠して哭いて 禍因の在り処を知らん振り!
(あああああ!) 桜が哭いている! (あああああ!)
あああああああああああああああ!!
あああああああああああああああ!!
あああああああああああああああ!!
ばさ
あああ
ばさ
ああ
ばさ
ばさ
あ……
ばさ
ばさ
ばさ ばさ ばさ
ばさ ばさばさ ばさ
ばさばさばさばさばさばさばさばさばさ
桜
「ちかくに いるのに こんなに とおい」
死蝶
「あらあら かわいそうに♪
だいすきなあのこをなくした 桜さんは
うきよをうれいて 枯れてしまいましたと
さ♪」
・ ・ ・
『故知らぬおんなのこ』
(こんど
「……あら? こんな巻物、何処に隠れてたのかしら」
あえたら
「……これは……」
もう
(雪景色、牡丹)
どこにも
「──ああ、居た居た。ねえ、妖夢、ちょっといいかしら?」
いかせ
「実はね──」
ない
「──ちょっと、春を集めてきて欲しいんだけど──」
よ)
まあー……ふふうと吐く息は白く煙りまして……
……
あっ! これというのが、桜に魅入られたおんなのこの顛末でございました!
[ おちまい ]
ああいやしかし、ふと口ずさみたくなるような音色で御座いました。
イメージの奔流、奏でる悲哀、沸き立つ慟哭。
まさに妖ノ夢。
ただ俺の頭では、作者様の中のイメージを五分でも浮かべることができたのか
すら理解出来ず。ただそれが誤りだとしても心奪われました。
お見事。それしか浮かびません。
この手の装飾を凝らした文章は、私はあんまり好きではないはずなのに。それなのに。……素晴らしかったです、素敵な物を観させて頂きました。とりあえず、あとがきで笑ったのはさておきw
でも、これはプチより創想話で見たかったです(苦笑)
というか、凄まじい。
頭の中へ、淀みなく文章が流れ込んでくる。脳直に話しかけられているかの如く。
一度あなたの頭の中身をのぞき込んでみたいです、本当。
氏の書く壊れ系SSは非常に好みですが、ソレとは一線を画するこの作風でも好み直撃。
まさしくこれぞ氏の真骨頂、そう思わせるに足る一作です。
幻視するはどこの聲?
ああ、咎桜が嗤っている・・・
なんていうか衝撃です、下っぱさんのギャグの壊れ系も凄いですが、
こっちの壊れ系も凄く素敵、なんていうか只々惹き込まれます。
そのうち作品に飲まれてしまうと感じるくらいに、御見事に御座います。
ラストまで行ったときに全てが繋がりました。グオゴゴゴ!
故に、鳥肌が。
これはやばすぎる。
もうなんていうか尊敬します。