Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

養殖

2005/11/23 09:35:47
最終更新
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2.12KB
ページ数
1





天狗
『やや! 佳人薄命とはよく言ったものでして!』




(恵風)

踏迷う少女は蒲柳の質で 花間の妖怪に見えても消沈
どこに行くのと尋ねる妖怪に当所無くと少女は答え
さざめ舞う花弁が頬を伝う雫をたおやかに拭い取る



「あらまあ なんて昏々とした目をしているのかしら」


「この気息奄々たる五体 曙光差す隙間も皆無」



在るだけの生には耐えられぬと目伏す少女の頤を妖怪がつと撫ぜて
目尻を下げて指差した先にはぷくりと腫れた若芽の如き思われにきび



「死出三途には まだ早い」



生とは如何様と尋ねる少女に妖怪は生きている事よと答え
踵を返したその跡に躙られた車前草が賛歌を口遊んでいる



「幽冥境を 異には」



剥がれ落ちた絶望を嘲りながら振り返れば伸びる彼の人の影
生きてみようと少しだけ大きなその手を取り歩み出していく


並び歩む睦まじき背を見遣り


妖怪が 


くすりと 笑う





天狗
『風情はまるで鵞鳥の腸!』





(葉落月)

風の川に花筏浮かぶ丘で相見える瀬を重ね幾月
波間に佇む妖怪の瞳に浮かぶのは幸せの偶像
幽かにこけた頬に紅散らす少女が契ったとささめく



「そうね 残念ね これでお別れね」



漏れ出でた言の葉は切なげな吐息に塗れて地に落ち
少女は呟きを受け止めて小首を傾げ再応の逢瀬を語る


その林檎色の柔肌を撫ぜながら


妖怪は


ふわりと 笑い





「残念なのは」





(靫葛に落ち行く蝿はぶんぶん騒いで少女を投影!)





「ここで貴女が」





風を凪ぐ音に空を仰げばぽたりと雫が落ちて
雨かしらと呟くとも少女の音は心と乖離





少女
「私のおべべを着ている貴女は何方?」





転がる事 椿の如く





天狗
『潮垂れる血族に思い馳せる事も無く!
風に吹き崩れる白磁の末路を見遣る事も無く!』




ボタボタと滴る紅が妖怪の花唇を一入煌々と染め上げて
二百六の白磁は七彩の彼岸で墓標となり拾い合わせる事叶わず
吐き捨てた生肝の蠢きに合わせ揺れる向日葵が笑っている
歯を剥き出してケタケタと頭を振って笑っている





妖怪
「幸せの味って とても甘いのね♪」





(風寒)

天狗
『──────終始斯様な具合であります故に!
どこぞの人里に遺骨の無い墓が立てられた事など
彼女にとっては至極どうでも良かったのであった!』














                        [ 発売禁止処分 ]

コメント



1.名前が妖怪削除
紅のモノトーン背景や、ロマンポルノ(見たこと無いけど)なんかが浮かびました。 椿のくだりでかな
2.床間たろひ削除
ぞ く り としました。

流れるように淡々と紡がれる言の葉に、鮮烈な紅が混じる。
幻想郷の本当の姿を見た気がします。

これからも色々な世界を見せて貰えればと。
お願いさせて頂きます。
3.紅狂削除
命短し恋せよ乙女。
ゆうかりんは果実の熟れ時を心得ているようで…

前回の作品もそうですが、独特な韻を踏んだ氏のSSにすごく惹かれます。
4.世界爺削除
―――貴方は一体どれほどの才を有しているというのか。

花より団子、恋に影、笑う姿は女郎蜘蛛。
迂闊に触れるな喰われるぞ。
怖い怖い、されど怖いからこそ妖怪なり。
都合悪しもまた幻想だということを再認識させていただきました。
5.初心者削除
興味深い。
文に惹きこまれそうになったのは久しぶりです。感心しました。
これからも頑張ってください。
6.名前が無い程度の能力削除
ああ、これ読んでると不思議な気分になる。
素晴らし過ぎる。お見事でした。