※東方創想話にて投稿させていただいた「hoffnungslos」の別ルートの話です。
※創想話、作品集23「hoffnungslos -letzter Teil-」にて、レミリアが消えた直後からの分岐となります。
※
※今までに自分の作品を読んでいただいた方ならば解ると思いますが“いつも通り”です。
※ご使用の際には全て自己責任でお願いします。
──全ての人が幸福になれる結末なんて、ある訳がない──
終わった……最初に頭に浮かんできたのはそんな言葉だった。
そしてそれを理解した途端に体の力が抜けて、仰向けに倒れこんだ。
大の字に手足を広げて天井を見上げる。
乱れた呼吸も心持ち穏やかになり、ようやく今の状況が身に染みて体感できた。
もう考えるのも面倒になって暫くぼんやりとしていると、上から落ちてきた小さな天井の破片がこつんと額に当たった。
「あ……魔理沙。そうよ、魔理沙……」
霊夢がその身を起こそうとするが、今まで必死に忘れようとしていた体中の傷が容赦なくその痛みを全身に伝えていく。
既にほとんど上がらない左腕を力なく下げたまま、右手で御幣を掴み、それを杖代わりにしてもたれかかるように立ち上がった。
大穴の開いた壁とは逆、太陽の光が照らす先を目指して一歩一歩、足をひきずって歩いていく。
動く度に全身の骨が軋み、筋肉が、全ての細胞が、一つ残らず悲鳴を上げた。
床に高く積み上げられた瓦礫を回り込んでいくと、ようやく倒れたままの魔理沙の姿が見えた。
その事で少し気が緩んでしまったのか、御幣を瓦礫に取られて盛大に転んだ。
「っつ……」
転んだ勢いで全く関係ない方向へと飛んでいった御幣を恨めしげに睨む。
うつ伏せ倒れたまま起き上がる事も敵わず、仕方なく辛うじて動く右腕と右足を動かして這っていく。
しかし、実質腕一本で自分の体を引きずっていく事は予想以上に体力を消耗させ、一回這う毎に霊夢は立ち止まる事を余儀なくされた。
きっと顔を上げて、右腕を軸に体を前に押し出す。
休憩。
またきっと顔を上げて、歯を食いしばって体を前に押し出す。
休憩。
またきっと顔を上げて、その目に映った友人に向かって体を前に押し出す。
休憩。
どれほどそれを繰り返しただろうか。
振り返ってみると、歩き始めた時にはまだ半分も出ていなかった太陽が、既に山間からその身を離して全身を晒していた。
「もう……少し」
汗と、血と、粉塵と、様々なものに塗れた巫女装束はいたる所が破れ、解れ、切り刻まれ、汚れは純白を成していた部分を茶黒く染めていた。
最後のひと踏ん張り。やっとの思いで魔理沙の横まで這ってきた霊夢は、べちゃっと押し潰されるように床に顔を突っ伏せた。
そこに広がった血の池がまだ乾ききっていなかったのか、つんと鼻を刺すような匂いがした。
乱れた呼吸を整えようともせずに、首だけを左に回して魔理沙の方へと向ける。
先ほどは上から見下ろしていたために見えなかったが、うつ伏せに倒れた魔理沙の首は右を向いていたために、向かい合う形となった。
「魔理沙……やっと終わったわよ」
霊夢が搾り出すようにその名を呼ぶが、魔理沙は眠るように閉じた瞼を開きはしなかった。
口から流れ出た血の痕は既に乾いて、赤黒い筋が出来ていた。
対照的にその顔はどこまでも白く、ひょっとしたら自分の巫女装束の白かった部分よりも白いんじゃないかと思えるほどだった。
「魔理沙ってば……起きなさいよ。宴会…やるんでしょ? 帰らないとできないわよ……」
だが、魔理沙は変わらずその目を閉じたまま動かない。
その時、今までで一番大きいと思われる地鳴りと揺れが霊夢を襲った。
いよいよ館がその形を保つ事が出来なくなったのだろう。
初めは遠かった崩壊のその音が、だんだんと近づいてくるのがよく解った。
「でもまぁ、あんたも頑張ったみたいだし……今回は私も流石に疲れたわ」
響くように聞こえていた音が、はっきりとその耳に届いてきた。
それと共に揺れが一層激しくなり、遮る物が完全に無くなった太陽の光が、二人を明るく照らす。
「帰る前に、ちょっと休憩していっても……いいわよね」
目を閉じると、すぐに暖かい闇が私を包んでくれた。
一瞬、魔理沙の笑った顔が見えたような気がしたが、それも崩壊を告げる音にかき消され、そのまま私の意識は真っ暗な闇へと落ちていった。
※創想話、作品集23「hoffnungslos -letzter Teil-」にて、レミリアが消えた直後からの分岐となります。
※
※今までに自分の作品を読んでいただいた方ならば解ると思いますが“いつも通り”です。
※ご使用の際には全て自己責任でお願いします。
──全ての人が幸福になれる結末なんて、ある訳がない──
終わった……最初に頭に浮かんできたのはそんな言葉だった。
そしてそれを理解した途端に体の力が抜けて、仰向けに倒れこんだ。
大の字に手足を広げて天井を見上げる。
乱れた呼吸も心持ち穏やかになり、ようやく今の状況が身に染みて体感できた。
もう考えるのも面倒になって暫くぼんやりとしていると、上から落ちてきた小さな天井の破片がこつんと額に当たった。
「あ……魔理沙。そうよ、魔理沙……」
霊夢がその身を起こそうとするが、今まで必死に忘れようとしていた体中の傷が容赦なくその痛みを全身に伝えていく。
既にほとんど上がらない左腕を力なく下げたまま、右手で御幣を掴み、それを杖代わりにしてもたれかかるように立ち上がった。
大穴の開いた壁とは逆、太陽の光が照らす先を目指して一歩一歩、足をひきずって歩いていく。
動く度に全身の骨が軋み、筋肉が、全ての細胞が、一つ残らず悲鳴を上げた。
床に高く積み上げられた瓦礫を回り込んでいくと、ようやく倒れたままの魔理沙の姿が見えた。
その事で少し気が緩んでしまったのか、御幣を瓦礫に取られて盛大に転んだ。
「っつ……」
転んだ勢いで全く関係ない方向へと飛んでいった御幣を恨めしげに睨む。
うつ伏せ倒れたまま起き上がる事も敵わず、仕方なく辛うじて動く右腕と右足を動かして這っていく。
しかし、実質腕一本で自分の体を引きずっていく事は予想以上に体力を消耗させ、一回這う毎に霊夢は立ち止まる事を余儀なくされた。
きっと顔を上げて、右腕を軸に体を前に押し出す。
休憩。
またきっと顔を上げて、歯を食いしばって体を前に押し出す。
休憩。
またきっと顔を上げて、その目に映った友人に向かって体を前に押し出す。
休憩。
どれほどそれを繰り返しただろうか。
振り返ってみると、歩き始めた時にはまだ半分も出ていなかった太陽が、既に山間からその身を離して全身を晒していた。
「もう……少し」
汗と、血と、粉塵と、様々なものに塗れた巫女装束はいたる所が破れ、解れ、切り刻まれ、汚れは純白を成していた部分を茶黒く染めていた。
最後のひと踏ん張り。やっとの思いで魔理沙の横まで這ってきた霊夢は、べちゃっと押し潰されるように床に顔を突っ伏せた。
そこに広がった血の池がまだ乾ききっていなかったのか、つんと鼻を刺すような匂いがした。
乱れた呼吸を整えようともせずに、首だけを左に回して魔理沙の方へと向ける。
先ほどは上から見下ろしていたために見えなかったが、うつ伏せに倒れた魔理沙の首は右を向いていたために、向かい合う形となった。
「魔理沙……やっと終わったわよ」
霊夢が搾り出すようにその名を呼ぶが、魔理沙は眠るように閉じた瞼を開きはしなかった。
口から流れ出た血の痕は既に乾いて、赤黒い筋が出来ていた。
対照的にその顔はどこまでも白く、ひょっとしたら自分の巫女装束の白かった部分よりも白いんじゃないかと思えるほどだった。
「魔理沙ってば……起きなさいよ。宴会…やるんでしょ? 帰らないとできないわよ……」
だが、魔理沙は変わらずその目を閉じたまま動かない。
その時、今までで一番大きいと思われる地鳴りと揺れが霊夢を襲った。
いよいよ館がその形を保つ事が出来なくなったのだろう。
初めは遠かった崩壊のその音が、だんだんと近づいてくるのがよく解った。
「でもまぁ、あんたも頑張ったみたいだし……今回は私も流石に疲れたわ」
響くように聞こえていた音が、はっきりとその耳に届いてきた。
それと共に揺れが一層激しくなり、遮る物が完全に無くなった太陽の光が、二人を明るく照らす。
「帰る前に、ちょっと休憩していっても……いいわよね」
目を閉じると、すぐに暖かい闇が私を包んでくれた。
一瞬、魔理沙の笑った顔が見えたような気がしたが、それも崩壊を告げる音にかき消され、そのまま私の意識は真っ暗な闇へと落ちていった。
でも、笑って死ぬ事が出来るなら……それを求める事は無駄じゃない。
我儘を聞いて下さり、本当にありがとうございました。