** 警告:このSSは、ちょっと暗めなIfのお話です **
まっとうな死に方をしたい奴は、魔族と契約なんてするもんじゃない。
たとえ、どんな条件を提示されたとしてもだ。
自分だけは大丈夫、なんて思っていると……私のようになる。
等価交換とは程遠い、払う代償はでかすぎる。
……もう一度だけ言う。
まっとうな死に方をしたい奴は、魔族と契約なんてするもんじゃない。
【契約の代償】
……魔法の森には、今日も雨が降っていた。
長年住んできたのだ。雨音は聞こえなくても、薄暗さと冷たく湿気った空気でそれと分かる。
窓がどこか開けっ放しになっているのかもしれない。
だが確かめようにも、今の自分にはそれさえも無理な話だった。
ベッドから起き上がれない。
相当強い鎮痛剤を効かせているはずなのに、全身の痺れと痛みが止まらないのだ。
のたうち回る事さえままならない、もう末期的だ……。
若い頃から魔法に物言わせ、無茶して生きてきた。
欲しいモノは全て手に入れてきた、邪魔する奴は全て魔砲で吹き飛ばしてきた。
こんな日が来るとは思っても見なかった、いや、思いたくなくて目を逸らしてきた。
だがツケは確実にやってきた、ついに私にも焼きが回ったのだ。
魔法の使いすぎで溜りまくった歪みが、激痛となって全身を蝕んでいる。
まずは魔砲が撃てなくなった。
次に空を飛べなくなった。
そしてついには日常生活さえも送れなくなった。
……もう光も音も良く分からん。
取れる限りの対抗手段は試した、手に入る限りの魔法も薬も全てだ。
しかしそのいずれも空振りに終わった。
これは、ある意味寿命と同じなのだ……使えば無くなるのは物の道理。
魔法使い、魔法無ければ只の人。
普段から素行の悪かった私は、次第に周囲から相手にされなくなっていった。
まあ自業自得ってやつだ、仕方ない。
……でもそんな中、アイツだけは契約に従って、常に傍に居てくれた。
私がどんな無茶な事を言っても、何だかんだ言いながら受け入れてくれた。
好き勝手生きた挙句、こんなザマになってもまだ生きてられるのは、アイツのお陰だ。
もうどれだけ寝たきりだったかは覚えていない、だがそれも今日で終わるだろう。
くたばるタイミングは自分が一番良く知っている。
昔、誰かに『長生きしそうに無い』と言われた気がするが、実際その通りだった。
ベッドの上で死ねるだけでも御の字というべきなのだろう。
……思い残す事が無いわけではない、もう一度大空を飛びたかった。
だが私は十分に生きた、生涯に悔いなど無い。
私の死を持って契約は満了する、報酬は私の魂だ。
どうやら最期の一時もアイツと二人きりらしい。
もう良く見えないし聞こえないが、その温もりから傍に居るのは分かる。
雨と魔に看取られながら逝く、ははっ、まさに私にぴったりじゃないか。
静かに眠らせてくれないのは、お節介なアイツらしいが。
「……?」
本当にそれでいいのかって? 何を言っているんだ、お前は。
今更契約を反故になんて出来ないだろうに。お前が困るだけなんだぞ?
いいさ、あの時から覚悟は決めていたんだ。人並みに死のうなんて思っちゃいない。
「……」
何でお前が謝る必要があるんだ、ちゃんと約束を果たしてくれたじゃないか。
今度はこっちが果たす番だ。私は満足しているんだ、気が変わる前にやってくれ。
でも……しくじるんじゃないぜ?
「……!」
この温かい物は何だ……ああ、涙か。何でお前が泣く必要があるんだ?
いいから早くやってくれ、痛いんだ。いい加減苦しくなってきたんだ。
もたもたしていると、先に天国へ逝っちまうぜ?
ああ、それでいいんだ。それで……
くたびれきった身体がその機能を停止させる、全てが闇に沈んでいく……。
死に優しく抱かれる前に、私の魂は掴み取られていた。
「……魔理沙」
最初に感じたのは声。
「……起きて、魔理沙」
そして光、一面の白。
「具合はどう? 私が分かる?」
眩しすぎて目が開けられない。だが声だけ聞けば分かる、誰がお前を忘れるものか。
「……ああ……何……とか……」
声が出た。私の声にしては少し甲高かった気もするが……あれ?
無くしたはずの感覚が戻っている、痛みはもう無い。
見えたのは自分の手足。いや、似ているがほんの少し違う。これは……
「よかった……」
目の前には、巨人のようになったアイツの泣き笑いした顔。
いや違う、周囲を見渡せば分かる。
私のミニ八卦炉も、今や両手持ち八卦炉になっている。
アイツは元のままだ、つまりそれは私が小さくなったという事で……
「お帰り、魔理沙!」
「……ただいま、アリス」
そしてさよなら、人間の私。
「絶対こうすると思ってたよ」
「だって、約束したじゃない。……何でもするから、ずっと傍に居てって」
「分かった分かった、居てやるからそろそろ離せって」
「嫌」
心底嬉しそうに私を抱きしめながら頬ずりするアリス。その仕草は本当にガキっぽい。
……ああ、全然ダメだ。やっぱりこいつは、私が居なけりゃ何も出来ん。
昔はもうちょい澄ました奴だったのに、どこで壊れてしまったのだろう?
これが、後で人形にされると分かっていても、契約せざるを得なかった理由だ。
後追いしかねん奴を放ってはおけない、惚れてしまった弱味である。
「魔理沙……魔理沙……えへへ……」
私がくたばるまでずっとこうだったんだ、これからもこんな調子なんだろうな……。
今から気が重くなる、本当に世話が焼けるったらありゃしない。
でもいいさ、居てやるよ。
お前が独り立ち出来るようになるまで、望むならお前の命が尽きるその時まで。
全く、これじゃオチオチ死んでられん……。
END
まっとうな死に方をしたい奴は、魔族と契約なんてするもんじゃない。
たとえ、どんな条件を提示されたとしてもだ。
自分だけは大丈夫、なんて思っていると……私のようになる。
等価交換とは程遠い、払う代償はでかすぎる。
……もう一度だけ言う。
まっとうな死に方をしたい奴は、魔族と契約なんてするもんじゃない。
【契約の代償】
……魔法の森には、今日も雨が降っていた。
長年住んできたのだ。雨音は聞こえなくても、薄暗さと冷たく湿気った空気でそれと分かる。
窓がどこか開けっ放しになっているのかもしれない。
だが確かめようにも、今の自分にはそれさえも無理な話だった。
ベッドから起き上がれない。
相当強い鎮痛剤を効かせているはずなのに、全身の痺れと痛みが止まらないのだ。
のたうち回る事さえままならない、もう末期的だ……。
若い頃から魔法に物言わせ、無茶して生きてきた。
欲しいモノは全て手に入れてきた、邪魔する奴は全て魔砲で吹き飛ばしてきた。
こんな日が来るとは思っても見なかった、いや、思いたくなくて目を逸らしてきた。
だがツケは確実にやってきた、ついに私にも焼きが回ったのだ。
魔法の使いすぎで溜りまくった歪みが、激痛となって全身を蝕んでいる。
まずは魔砲が撃てなくなった。
次に空を飛べなくなった。
そしてついには日常生活さえも送れなくなった。
……もう光も音も良く分からん。
取れる限りの対抗手段は試した、手に入る限りの魔法も薬も全てだ。
しかしそのいずれも空振りに終わった。
これは、ある意味寿命と同じなのだ……使えば無くなるのは物の道理。
魔法使い、魔法無ければ只の人。
普段から素行の悪かった私は、次第に周囲から相手にされなくなっていった。
まあ自業自得ってやつだ、仕方ない。
……でもそんな中、アイツだけは契約に従って、常に傍に居てくれた。
私がどんな無茶な事を言っても、何だかんだ言いながら受け入れてくれた。
好き勝手生きた挙句、こんなザマになってもまだ生きてられるのは、アイツのお陰だ。
もうどれだけ寝たきりだったかは覚えていない、だがそれも今日で終わるだろう。
くたばるタイミングは自分が一番良く知っている。
昔、誰かに『長生きしそうに無い』と言われた気がするが、実際その通りだった。
ベッドの上で死ねるだけでも御の字というべきなのだろう。
……思い残す事が無いわけではない、もう一度大空を飛びたかった。
だが私は十分に生きた、生涯に悔いなど無い。
私の死を持って契約は満了する、報酬は私の魂だ。
どうやら最期の一時もアイツと二人きりらしい。
もう良く見えないし聞こえないが、その温もりから傍に居るのは分かる。
雨と魔に看取られながら逝く、ははっ、まさに私にぴったりじゃないか。
静かに眠らせてくれないのは、お節介なアイツらしいが。
「……?」
本当にそれでいいのかって? 何を言っているんだ、お前は。
今更契約を反故になんて出来ないだろうに。お前が困るだけなんだぞ?
いいさ、あの時から覚悟は決めていたんだ。人並みに死のうなんて思っちゃいない。
「……」
何でお前が謝る必要があるんだ、ちゃんと約束を果たしてくれたじゃないか。
今度はこっちが果たす番だ。私は満足しているんだ、気が変わる前にやってくれ。
でも……しくじるんじゃないぜ?
「……!」
この温かい物は何だ……ああ、涙か。何でお前が泣く必要があるんだ?
いいから早くやってくれ、痛いんだ。いい加減苦しくなってきたんだ。
もたもたしていると、先に天国へ逝っちまうぜ?
ああ、それでいいんだ。それで……
くたびれきった身体がその機能を停止させる、全てが闇に沈んでいく……。
死に優しく抱かれる前に、私の魂は掴み取られていた。
「……魔理沙」
最初に感じたのは声。
「……起きて、魔理沙」
そして光、一面の白。
「具合はどう? 私が分かる?」
眩しすぎて目が開けられない。だが声だけ聞けば分かる、誰がお前を忘れるものか。
「……ああ……何……とか……」
声が出た。私の声にしては少し甲高かった気もするが……あれ?
無くしたはずの感覚が戻っている、痛みはもう無い。
見えたのは自分の手足。いや、似ているがほんの少し違う。これは……
「よかった……」
目の前には、巨人のようになったアイツの泣き笑いした顔。
いや違う、周囲を見渡せば分かる。
私のミニ八卦炉も、今や両手持ち八卦炉になっている。
アイツは元のままだ、つまりそれは私が小さくなったという事で……
「お帰り、魔理沙!」
「……ただいま、アリス」
そしてさよなら、人間の私。
「絶対こうすると思ってたよ」
「だって、約束したじゃない。……何でもするから、ずっと傍に居てって」
「分かった分かった、居てやるからそろそろ離せって」
「嫌」
心底嬉しそうに私を抱きしめながら頬ずりするアリス。その仕草は本当にガキっぽい。
……ああ、全然ダメだ。やっぱりこいつは、私が居なけりゃ何も出来ん。
昔はもうちょい澄ました奴だったのに、どこで壊れてしまったのだろう?
これが、後で人形にされると分かっていても、契約せざるを得なかった理由だ。
後追いしかねん奴を放ってはおけない、惚れてしまった弱味である。
「魔理沙……魔理沙……えへへ……」
私がくたばるまでずっとこうだったんだ、これからもこんな調子なんだろうな……。
今から気が重くなる、本当に世話が焼けるったらありゃしない。
でもいいさ、居てやるよ。
お前が独り立ち出来るようになるまで、望むならお前の命が尽きるその時まで。
全く、これじゃオチオチ死んでられん……。
END
少なくとも私には会心ヒット。
暗めの確かな幸せが垣間見えるオチ。
もっと読みたくなりました!
結末も通常ならゾッとしない話なんですけど、
なんか救いがある感じがあってイイです。
>名無し妖怪さん
あぅ、あの、初心者にその評価は照れちゃいます^^;
でもこれは不意討ち狙いの邪道SS(死亡ネタ使用)なので、
単発で収束するべきじゃないかと私は思ってます。
続けちゃうと東方から離れていく気が…う~ん(TT)
>紅狂さん
色々と文頭に注意書きが必要そうな内容なのですけど、
びっくりして欲しくて、あえてあんな書き方にしました。
ホラーのはずが何か別の物が見えてしまったなら、名伏の狙い通りです~。
>2番目の名無し妖怪さん
感想欄にて失礼します(TT)
『傍に居てやるよ(中略)お前の命が尽きるその時まで』なので、
アリスが死去すると魔理沙も居なくなります。
魂を繋ぎとめていた魔力が消え、また本人が留まる理由も消えてしまうので。
抜け殻になった人形は…同じ墓で眠りたがるでしょう。
後日談、必要だったかも…う~ん。
魔理沙のほうも納得してるから話が暗くならなくって素敵。
そもそも魔法使いは求道者であり、通常の寿命なんかで満足しないと思う。
これはこれでマリアリのベストエンドっぽいですね。
読めて良かった。
惜しむらくは、内容が短いこと。
ボリュームを充実させれば、さらに面白くなりそうです。