Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

契約の代償

2005/11/03 20:11:10
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 ** 警告:このSSは、ちょっと暗めなIfのお話です **


 まっとうな死に方をしたい奴は、魔族と契約なんてするもんじゃない。
 たとえ、どんな条件を提示されたとしてもだ。
 自分だけは大丈夫、なんて思っていると……私のようになる。
 等価交換とは程遠い、払う代償はでかすぎる。

 ……もう一度だけ言う。
 まっとうな死に方をしたい奴は、魔族と契約なんてするもんじゃない。




【契約の代償】

 ……魔法の森には、今日も雨が降っていた。

 長年住んできたのだ。雨音は聞こえなくても、薄暗さと冷たく湿気った空気でそれと分かる。
 窓がどこか開けっ放しになっているのかもしれない。
 だが確かめようにも、今の自分にはそれさえも無理な話だった。
 ベッドから起き上がれない。
 相当強い鎮痛剤を効かせているはずなのに、全身の痺れと痛みが止まらないのだ。
 のたうち回る事さえままならない、もう末期的だ……。

 若い頃から魔法に物言わせ、無茶して生きてきた。
 欲しいモノは全て手に入れてきた、邪魔する奴は全て魔砲で吹き飛ばしてきた。
 こんな日が来るとは思っても見なかった、いや、思いたくなくて目を逸らしてきた。
 だがツケは確実にやってきた、ついに私にも焼きが回ったのだ。
 魔法の使いすぎで溜りまくった歪みが、激痛となって全身を蝕んでいる。
 まずは魔砲が撃てなくなった。
 次に空を飛べなくなった。
 そしてついには日常生活さえも送れなくなった。
 ……もう光も音も良く分からん。
 取れる限りの対抗手段は試した、手に入る限りの魔法も薬も全てだ。
 しかしそのいずれも空振りに終わった。
 これは、ある意味寿命と同じなのだ……使えば無くなるのは物の道理。

 魔法使い、魔法無ければ只の人。
 普段から素行の悪かった私は、次第に周囲から相手にされなくなっていった。
 まあ自業自得ってやつだ、仕方ない。
 ……でもそんな中、アイツだけは契約に従って、常に傍に居てくれた。
 私がどんな無茶な事を言っても、何だかんだ言いながら受け入れてくれた。
 好き勝手生きた挙句、こんなザマになってもまだ生きてられるのは、アイツのお陰だ。

 もうどれだけ寝たきりだったかは覚えていない、だがそれも今日で終わるだろう。
 くたばるタイミングは自分が一番良く知っている。
 昔、誰かに『長生きしそうに無い』と言われた気がするが、実際その通りだった。
 ベッドの上で死ねるだけでも御の字というべきなのだろう。
 ……思い残す事が無いわけではない、もう一度大空を飛びたかった。
 だが私は十分に生きた、生涯に悔いなど無い。


 私の死を持って契約は満了する、報酬は私の魂だ。


 どうやら最期の一時もアイツと二人きりらしい。
 もう良く見えないし聞こえないが、その温もりから傍に居るのは分かる。
 雨と魔に看取られながら逝く、ははっ、まさに私にぴったりじゃないか。
 静かに眠らせてくれないのは、お節介なアイツらしいが。

 「……?」

 本当にそれでいいのかって? 何を言っているんだ、お前は。
 今更契約を反故になんて出来ないだろうに。お前が困るだけなんだぞ?
 いいさ、あの時から覚悟は決めていたんだ。人並みに死のうなんて思っちゃいない。

 「……」

 何でお前が謝る必要があるんだ、ちゃんと約束を果たしてくれたじゃないか。
 今度はこっちが果たす番だ。私は満足しているんだ、気が変わる前にやってくれ。
 でも……しくじるんじゃないぜ?

 「……!」

 この温かい物は何だ……ああ、涙か。何でお前が泣く必要があるんだ?
 いいから早くやってくれ、痛いんだ。いい加減苦しくなってきたんだ。
 もたもたしていると、先に天国へ逝っちまうぜ?


 ああ、それでいいんだ。それで……





 くたびれきった身体がその機能を停止させる、全てが闇に沈んでいく……。
 死に優しく抱かれる前に、私の魂は掴み取られていた。



























 「……魔理沙」

 最初に感じたのは声。

 「……起きて、魔理沙」

 そして光、一面の白。

 「具合はどう? 私が分かる?」

 眩しすぎて目が開けられない。だが声だけ聞けば分かる、誰がお前を忘れるものか。

 「……ああ……何……とか……」

 声が出た。私の声にしては少し甲高かった気もするが……あれ?
 無くしたはずの感覚が戻っている、痛みはもう無い。
 見えたのは自分の手足。いや、似ているがほんの少し違う。これは…… 

 「よかった……」

 目の前には、巨人のようになったアイツの泣き笑いした顔。
 いや違う、周囲を見渡せば分かる。
 私のミニ八卦炉も、今や両手持ち八卦炉になっている。
 アイツは元のままだ、つまりそれは私が小さくなったという事で……

 「お帰り、魔理沙!」
 「……ただいま、アリス」

 そしてさよなら、人間の私。

 「絶対こうすると思ってたよ」
 「だって、約束したじゃない。……何でもするから、ずっと傍に居てって」
 「分かった分かった、居てやるからそろそろ離せって」
 「嫌」

 心底嬉しそうに私を抱きしめながら頬ずりするアリス。その仕草は本当にガキっぽい。
 ……ああ、全然ダメだ。やっぱりこいつは、私が居なけりゃ何も出来ん。
 昔はもうちょい澄ました奴だったのに、どこで壊れてしまったのだろう?
 これが、後で人形にされると分かっていても、契約せざるを得なかった理由だ。
 後追いしかねん奴を放ってはおけない、惚れてしまった弱味である。

 「魔理沙……魔理沙……えへへ……」

 私がくたばるまでずっとこうだったんだ、これからもこんな調子なんだろうな……。
 今から気が重くなる、本当に世話が焼けるったらありゃしない。
 でもいいさ、居てやるよ。
 お前が独り立ち出来るようになるまで、望むならお前の命が尽きるその時まで。


 全く、これじゃオチオチ死んでられん……。


 END

 「何で、こんなに小さな身体なのさ?」
 「ごめんね、私と色々共有してるから」

 「これじゃ箒に乗れないぜ」
 「私が後ろに乗せてあげる」

 「これじゃお前を抱けやしない」
 「……馬鹿」



**

 個別設定1:アリスは魔界の住人である(旧作準拠)
 個別設定2:アリスは人の魂を封じた生き人形が作れる(維持費は自分の寿命)
 個別設定3:マリアリである(妄想全開です、ごめんなさいorz)

 初めまして、名伏(なふせ)と申します。もしハンドル重複がありましたら改名します、ご一報下さい。
 マリアリに憧れてSSを書いてしまいましたが、何分初めての経験なので見苦しい点も多いかと思います。
 なお履歴は一通り調べたつもりですが、もしネタ重複がありましたらご容赦下さい。宜しくお願いします。

 バッドエンドのSSです、魔理沙ファンの皆さんごめんなさい(TT)
 人は人らしく生きて死ぬべきであり、寿命の差をこうやって埋めるのは最悪の手です。
 ……と、理屈は分かっているつもりでも、それは先に死ぬ方の勝手な都合な気もする名伏は、やっぱり⑨なのかもしれません。
 日が経ってからちょこちょこ手を入れてきましたが、やっぱりまだまだ荒が多い気が……要勉強ですね。

 ※11月07日、若干加筆。
 ※11月14日、若干加筆、…を……に修正。
名伏
コメント



1.名無し妖怪削除
凄まじく良かった。
少なくとも私には会心ヒット。
暗めの確かな幸せが垣間見えるオチ。
もっと読みたくなりました!
2.紅狂削除
うひゃ、いい意味で期待を裏切られましたw
結末も通常ならゾッとしない話なんですけど、
なんか救いがある感じがあってイイです。
3.名伏削除
感想どうもありがとうございます、感謝感激です~。

>名無し妖怪さん

あぅ、あの、初心者にその評価は照れちゃいます^^;
でもこれは不意討ち狙いの邪道SS(死亡ネタ使用)なので、
単発で収束するべきじゃないかと私は思ってます。
続けちゃうと東方から離れていく気が…う~ん(TT)

>紅狂さん

色々と文頭に注意書きが必要そうな内容なのですけど、
びっくりして欲しくて、あえてあんな書き方にしました。
ホラーのはずが何か別の物が見えてしまったなら、名伏の狙い通りです~。
4.名無し妖怪削除
アリスが死去したあと遺された魔理沙人形の行方は
5.名伏削除
レス遅れて大変申し訳ありませんorz

>2番目の名無し妖怪さん

感想欄にて失礼します(TT)

『傍に居てやるよ(中略)お前の命が尽きるその時まで』なので、
アリスが死去すると魔理沙も居なくなります。
魂を繋ぎとめていた魔力が消え、また本人が留まる理由も消えてしまうので。
抜け殻になった人形は…同じ墓で眠りたがるでしょう。
後日談、必要だったかも…う~ん。
6.名無し妖怪削除
永夜抄の時から魔理沙依存症のアリスが可愛い!とか思ってたんで、なんだか満足。
魔理沙のほうも納得してるから話が暗くならなくって素敵。
そもそも魔法使いは求道者であり、通常の寿命なんかで満足しないと思う。
これはこれでマリアリのベストエンドっぽいですね。
7.名無し妖怪削除
こりゃ凄い。
読めて良かった。
8.名前が無い程度の能力削除
基本設定や展開がとても面白く、また納得できるもので楽しんで読めました。

惜しむらくは、内容が短いこと。
ボリュームを充実させれば、さらに面白くなりそうです。