Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

ヴワル図書館閲覧禁止書架~未完の章~

2008/07/27 11:15:16
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 ああ、肩が痛い。腰も痛いし首も痛いし手首も痛い。ついでにさっきぶつけたばかりの額も。
「むきゅー」
 でも心は晴々よ。何故なら私は大偉業を成し遂げたんだもの…ふふふ。

「おーい、今日も来たぜって、これはあんまりな出迎えだな」
 声はすれども姿は見えず。五月蝿いのが入って来たのは分かるけど、体が痛くて動かせないので確認できない。まあ魔理沙だけど。
「パチュリーどうした。こんな所で寝るな。寝たら死ぬぞー」
「生憎と起きてるわ…」
 床に口づけてる状態だから、若干喋りにくい。大体図書館の床の上で寝たくらいじゃ死なないわよ。
「それから、寝たら死ぬぞな時は人肌で温め合うものよ」
「裸でか?ここでは嫌だぜ」
 そうね、私の部屋でが良いわ。今は体中痛いから遠慮するけど。
「…とりあえずそこの椅子まで連れて行ってくれないかしら。体が動かないのよ」
「おいおい、寝てなくて良いのか?どうせなら部屋まで連れて行ってやるぜ?」
 いつもならそれも魅力的なお誘いだけど。それに魔理沙が居るのに寝てたら何されるか分かったもんじゃないわ。
「せっかくあなたが来てるのに、寝てたんじゃ勿体ないでしょう。座っていれば大丈夫よ」
 魔理沙が来たのなら、見せたいものもあるしね。
「そうか。それならしょうがないな…よいしょっと」
 魔理沙が私の体と床の間に手を差し込んで来た。かと思うとあっさり体が持ち上げられる。腕と足がだらりと垂れ下がった。
「んー。また軽くなったか?」
「そうかも。ここ最近ろくに食事もしてない気がするから」
「ほんとに大丈夫かよ・・・」

 なんだかんだ言いつつも椅子に到着。私は背もたれにもたれかかって楽な姿勢を取る。首に背もたれが食い込んで気持ちが良い。
「しかし久しぶりだな、パチュリー」
 魔理沙も隣の椅子に座って話しかけてくる。
「そうね、久しぶり…最後に合ってからどのくらい経つのかしら」
「一ヵ月半くらいだぜ」
 そんなに。する事があったとは言え、ちょっと集中しすぎたみたいね。
「…寂しかった?」
「そりゃ寂しかったぜ。本借りるぜって言っても反応無しじゃ張り合いも無いし」
 あら、そうだったの。それは良い事を聞いたわ。今後の魔理沙対策の参考になるわね。
「で、だ。その一月半も何やってたんだ?ずっと自室に引き籠ってただろ?新しい魔法でも作ってたのか?」
 ふふふ。その言葉を待ってたのよ。
「あれ」
 私は指…は腕が上がらないので無理だから、目とか顎とかを動かしてなんとか魔理沙の後ろにある本棚を指し示した。
「本か?まさかただ本を読んでただけってわけでも…」
 魔理沙は立ち上がり、その本棚に近づいて行く。
「いや、これはファイルか。書類整理でもしてたのか?」
 私が示した本棚は一般的なサイズ(と言ってもこの図書館内で、と言う事だが)で、一面同じような背表紙が並んでいる。魔理沙はファイルと表現したが、私はリング式バインダーと言いたい。
「そんなわけないでしょ。中も見て良いわよ」
「じゃ、遠慮なく」
 本棚の左上から一つバインダーを抜き取って、魔理沙が席に戻ってきた。ペラペラとバインダーの中の紙束をめくる音が聞こえてくる。
「えーと、何々…イギリス…隕石…湖の住人…グラーキとの接触について・・・グラーキ?」
 魔理沙はバインダーを閉じ、表紙を確認する。残念ながら古いバインダーってだけで、特に書名を表す表記は無いのよね。魔理沙は少しの間斜めにしたり明りにかざしたりと表紙を調べたけど、諦めたのか元のページまで戻って内容を読み直し始めたわ。
「少しだが、魔力を感じるぜ…そうか、こいつがグラーキの黙示録か」
 グラーキの黙示録。ある島国の邪神とそれに関する呪文やアイテムについて書かれた、どこにでもある魔導書よ。でもその一番の特徴は、書かれた内容ではなく込められた呪い。
「て事は、あれはパチュリーが、全部?」
「ええ、そうよ。元からあった十二巻まで以外はね」
 グラーキの黙示録の呪いとは、読んだ者がそれを完成させようとしてしまう呪い。続きを書きたくなると言うわけ。
「それで引き籠ってたんだな。どれ」
 魔理沙はもう一度本棚まで行き、今度は下の方から一冊バインダーを取って戻ってきた。
「うわ、ほんとにパチュリーの字だ。よくやるなぁ。一月でこんなに書けるもんかね」
「ヘイストとか色々使ってなんとかね」
 で書き終えて、休む前に久々に本でも読もうって出てきた所で力尽きちゃったわけよ。体に一気にガタが来たわ。
「すごいぜ」
 私の書いたものを見て、魔理沙が喜んでくれるのは単純に嬉しい。魔理沙の手元を見れるほど首を動かせないので、どの部分を読んでるか分からないのは残念だけど。

「…なぁ、パチュリー」
「ん・・・あ、ごめんなさい。何かしら」
 目的を達成して安心したせいか、うとうとしてしまったみたい。
「これ、書き足しても良いよな?」
「えっ?え、ええ、良い…けど。もしかして?」
 驚いた。魔理沙もグラーキの黙示録の呪いにかかってしまったようね。
「なんか、モヤモヤして…書かずに居られそうに無い」
 完全に呪いの症状だわ。と言う事は、魔理沙が私の書けなかった呪いの対象となる知識を持ってると言う事よね。なんだか意外。
「ちょっと待って…はい、これ」
 魔理沙の目の前の机に、複製の魔法でバインダーと紙、それにペンを出してあげた。この一月で、予備動作が必要ないくらいに使い慣れてしまったわ。
「さんきゅ。よーし!」
 腕まくりをした魔理沙はペンを手に取り、紙に向かってそれを走らせる。こうなってしまうと、あとは書くばかりだ。
(うーん、それにしても魔理沙が…幻想郷内の知識で、グラーキの黙示録に書き込めることは全部書いたと思ったんだけど)
 私と魔理沙の魔法の質の違いが原因だろうか。魔理沙は黒魔法を使うから、私が知らない知識を持ってるとか…。
(何を書いてるのか見たい…!)
 必死で首を動かしてみる。けど、やっぱり先ほどと同様、魔理沙の手元を見るには至らない。気になる。
「魔理沙ー、一枚書き終わったら私にも見せてくれる?」
「おう、任せろ」
 魔理沙がスピードアップした。流石に素早い。そのまま待つことしばし。
「出来たぜ。ほら」
 顔も上げずに魔理沙がこちらに紙を滑らせた。それでも見れないので、魔法を使って顔の前に紙を巻き上げ、固定する。そこには…
「ちょ、魔理沙!これ何書いてるのよ!」
 パチュリー・ノーレッジの章が追加されていた。内容に至っては「可愛い奴だぜ」とか「ダメージを受けるとむきゅーってなる」とかふざけた事ばっかり…!
「書くのやめてー」
「いや、しかしだな。これを書かなきゃって気持ちがモヤモヤと…それに手が止まらない」
 確かに私もそうだったから分からなくもないけど。ふざけて書いてるわけではないようね。
「それにしても、どうして私の情報がグラーキの黙示録の呪いの対象になってるのかしら?」
「あー?そりゃ、執筆者だからだろ。こいつの」
 それは思いつかなかったわ。確かに私は自分の知識を書き終えた時点で、グラーキの黙示録に執筆と言う形で関わったと認識されるわけだから、中で書かれて然るべきと言う事ね。
「どうすれば良いのかしら…」
「分からん。とりあえず私はこのまま書き続けるぜ。モヤモヤして死にそうだ」
 好きにして…私は心の中で頭を抱えた。

 どうやらまた眠っていたみたい。体がかなり楽になっているわ。
「ふわ…魔理沙は」
 伸びをしながら隣を見ると、魔理沙が机に突っ伏して眠っていた。紙がバインダーにまとめられてる所を見ると、満足いくまで書き終えられたのかしらね。
「どれどれ…」
 グラーキの黙示録の最新刊となるそのバインダーを持ち上げ、中身に目を通してみる。あらかた読み終えた後、私は今度こそ物理的に頭を抱えた。そして…
 私は小悪魔を呼び出した。
「どうしましたーパチュリー様。あ、昨夜はお楽しみでしたね」
「何がよ。ここのバインダーと、それからあっちのバインダーも全部、閲覧禁止書架に入れておいて」
 私の言葉に小悪魔が不満そうな顔をする。
「えー、毎日毎日パチュリー様の部屋から運んできたのに、もう移動させるんですか?せっかくパチュリー様が書いた本なんですから、見せやすいようにここで良いじゃないですか」
「見やすいと困るから言ってるのよ。閲覧禁止って言ってるでしょ」
 小悪魔はこの本の怖さをあまり理解していないようね。
「とにかく、私は食事をとってくるから、その間によろしく」
「分かりましたよぉ。もう」
 小悪魔はまだぶつぶつ言っているようだったが、まあ仕事はしっかりしてくれるでしょう。私はまた少し痛みだした腰を叩きながら、咲夜を探しに図書館から出た。

 食事を終えて戻ってくると、魔理沙はまだ寝ていた。しばらく眺めてたけど起きてくる気配が無いから、小悪魔の仕事の様子を見に閲覧禁止書架に向かう。
(こっちを見る限り、もう運び終えたようだけど…あら)
 閲覧禁止書架の一角で、小悪魔が蹲っている。後ろから覗き込むと、グラーキの黙示録のパチュリー・ノーレッジの章、弱い所の項目に追記をしている所だったから、後頭部を最近お気に入りのルルイエ異本で殴ってやった。
「痛っ!?」
「何してるのかしら?」
 小悪魔が怯えた様子で振り返る。どうやらそれほど影響は受けていないみたいね。
「いやですね、司書としては図書館にある本の内容は押さえておかないと駄目じゃないですか。なので読んでたらですね、こう、手が勝手に…」
「はあ…もう良いわ。閲覧禁止にした理由がちょっとは分かったでしょ」
「そ、そうですね、はい!」

 グラーキの黙示録…自らを完成させようとするあまり、永遠に完成することの無い未完の書。かの書はこれからも永遠に、書き上げてくれる者を待ち続けるのだろう。誰にも見られることの無い、閲覧禁止書架の奥で…。




「ところでこの巻、途中から魔理沙さんの事が書かれてるんですが」
「魔理沙も執筆者になったんだもの。呪いに抗えなかったわ」
 いあいあ。二作目はオーソドックスに。CTHULHU神話はこういう使い方をすると便利ですよね。
 未完の章、とありますが、別段続きものと言う訳ではありません。今後ヴワル図書館閲覧禁止書架を題材にいくつか書いていこうと考えておりますので、このようなタイトルとなりました。
 パチュリーは体中痛くなったようですが、私は文章を書いているとまず頭が痛くなってきます。語彙が少ないため、普通の会話などを考えるのに苦労してしまうからですね。精進いたします。
C神話語り
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
とりあえずパチュリーの弱いところに関してkwsk
2.智弘削除
この手の伝染するお話って終わりが見えなくて怖いんですよね。
同じ単語を何度使ってもいいしりとりみたいに終わらない。
3.名前が無い程度の能力削除
面白かったです。クトゥルフ神話はエロ小説で読んだくらいなんですが、
この作品はその辺りの知識無しでも楽しめました。
それとパチェさんのインドアなのにアクティブな雰囲気が良かったです。
4.名前が無い程度の能力削除
ルルイエ異本で殴られてもダメージは少なく、グラーキの黙示録の影響も浅い小悪魔凄い

で、何故魔理沙と小悪魔はパチュリーの弱い所を知っているのかな?
5.C神話語り削除
ご感想ありがとうございます。

>1首筋とかじゃないでしょうか…?                                喘息持ちですし。

>2無限ループのような感じでしょうか。SANチェックに失敗されませんよう。

>3実は私も初めてCTHULHU神話に触れたのはエロゲだったりします。まああれはタイトルだけでしたケド。

>4恐らく小悪魔は書くことがあまり無かったので、影響少なかったんですよー。
6.名前が無い程度の能力削除
パチュリー・魔理沙・小悪魔の中で、小悪魔の章が凄く読みたいです