ザーーー
その日は生憎の雨だった。空は黒い雲に覆われ、じとじとと生温い空気が漂う。
「雨・・かぁ・・。」
ミスティアが朝起きて、窓の外を見て呟いた最初の一言がそれだった。当然、ミスティアは雨は嫌いである。なぜなら夜に屋台を開いていてもお客が来ないのだ。だから、ミスティアは雨の日だけはたとえ夜までに雨が上がろうとも屋台を休み(梅雨の時期は大抵休みである。)にしていた。
「今日は何をしよう・・。」
一日、家でゆっくりまったりして過ごすことに決めたミスティアだったが、これといってすることがない。普段なら本を読んだり、部屋の掃除をしたり、お菓子を作ってみたりといろいろやることはあるのだが、どうもやる気が起こらない。
「これは・・まさか・・ゆっくり症候群!?」
心の奥底に『ゆっくり』が取り付いて、取り付いたものからやる気・元気・根気を奪う・・・・・あえて言おう。そんな病気はない。多分。
そんな『ゆっくり』を想像していたミスティアは余計に気だるい気分になり、床の上に仰向けになった。そして、床をごろごろと転がる。
ごろごろごろごろごろ・・・
ごろごろごろごろ・・・
ごろごろごろ・・・
ごろごろ・・・
ごつん!
「あいたー!?」
ミスティアの部屋の状態ついて説明しよう。部屋の大きさは畳5畳分くらいの大きさで、向かって右側に台所があり、正面には窓。
左側には押入れと本棚があり、部屋の真ん中にはちゃぶ台が置いてある至って普通の部屋である。床の上をごろごろと転がっていたらちゃぶ台の脚に頭をぶつけた・・ただそれだけ。
「・・転がらなきゃ良かった・・」
メソメソと泣くミスティア。そしてその時、家のドアを勢いよく叩く音が部屋中に木霊した。
ドドドドドンドドドドドドンドドドドドドン!!!!!!!!!!
「ひゃぁー!?」
驚き、飛び跳ねるミスティア。これだけ勢いよくドアを叩かれたら驚くのは当然だが・・。この勢いに負けず劣らずの勢いでミスティアは玄関に向かい、ドアを開けた。
「誰よ!?人ん家のドアを勢いよく叩くのは!?壊れちゃうじゃない!」
ドアを開けた先にいた者は・・
「あたいよ!!」 しゃきーん!!
「・・・・・・」
・・・バタン。
どこからか『しゃきーん!!』という効果音が聞こえたような気がしたミスティアは、ゆっくりとドアを閉め、それを見ないことにした。
「ちょ、ちょっと!?どうしてしめるのよ!?せっかくきたのに!」
ミスティアの家を訪れたのは黄色い合羽を着たチルノ。さらに赤い長靴まで装備していた。
「か・・かわいいじゃない・・。」
不覚にもミスティアはチルノに萌えていた。
「で・・何しに来たの?」
チルノを家の中へ迎え入れ、チルノに冷えたお茶を出しつつ、ミスティアは聞く。
「なにって・・あそびにきたんだけど?」
あたりまえじゃない、という顔をしてチルノは答える。
「雨の中をわざわざ?」
「そうよ。」
冷えたお茶をのんで一息入れるチルノ。チルノとは長い付き合いであるミスティアだが、いまだにチルノの考えがわからない時がある。普段、ミスティアの周りで起こる事件には大抵チルノが絡んでおり、その度にバカ騒ぎをする。
だが、今回は本当にただ遊びに来ただけのようで、現在、チルノは床でごろごろ転がっている。ミスティアにはその結末が見えた。
ごろごろごろごろごろ・・・
ごろごろごろごろ・・・
ごろごろごろ・・・
ごろごろ・・・
ごつん!
「あいたー!?」
デジャヴ。それはミスティアのときとまったく同じ。ミスティアは少し頭が痛くなり、チルノは知能指数が大幅にさがった。
「あー・・ところでさ、チルノ・・」
「な・・なによー・・」
頭をぶつけた部分を手で抑えながら、ミスティアの呼びかけに耳を傾けるチルノ。
「・・あんた、よく私の家の場所を覚えてたわね・・」
「!!」
チルノは驚いた。それも自慢の氷の羽が割れてしまうくらいに驚いた。そして頭に手を当て、勢いよく立ち上がり・・・言った。
「あたいはバカじゃない!!」
チルノはそう言い切った。現にチルノはミスティアの家にたどり着いているため、それなりの説得力?があった。そんなわけで今回ばかりは反論できないミスティアは、素直に謝ることにした。
「わ、悪かったわ。別に侮辱したわけじゃないから、とりあえず落ち着きなさい・・。」
そう言われたチルノもそれ以上何も言わず、素直にその場に座る。
「それと、あんた合羽なんて持ってたっけ?」
「ああ、アレ?このまえこーりんにもらったのよ。」
けっこうにあってたでしょ?・・そう言いながらにかっと自信満々に笑うチルノ。
「・・ぅ・・た、確かに・・」
先程の黄色い合羽を着たチルノを思い出したミスティアは、ニヤけた顔をブンブンと横に振って元に戻す。
「・・そ、それで・・何して遊ぶの?」
ミスティアは慌てて話題を変える。しかし、チルノは突然話題を変えられてもなんとも思わないようだ。
「えーと・・じゃあ・・とらんぷ!」
「二人で?」
「じ、じゃあ・・しりとり!」
「飽きるでしょ?二人じゃ。」
「な、なら・・おえかき!」
「子供ね・・。」
「むぅ・・プロレスごっこ!」
「やられたいの?(笑)」
「・・・・・・おおぐいたいかい!」
「そんなにたくさん材料ないわよ・・・。」
「・・・リアルおにごっこ!」
「わけわからん・・。」
「ひるね!」
「寝ちゃった!?」
それ以上遊びが思いつかなかったチルノは究極奥義?『昼寝』を使った・・・・・・当然却下。
「・・・じゃあ・・うた!」
「・・・・歌?」
意外なことだった。チルノの口から『歌』などという単語が出るとは・・。
というより・・
「チルノ・・何が歌えるの?」
「かえるのうた!」
・・・はい?
「・・他には?」
「・・ない!」
だめじゃん・・・予想通りの答えだった。しかし、折角なのできくことにした。
「・・じゃあ歌ってみてよ。」
「ふふん♪いいわ。きいておどろいてもしらないからね!」
自信満々に言うチルノ。残念ながらちっとも信用していない様子・・・のミスティアだったが、チルノの歌を聴いて絶句した。
「さーいた~♪さーいた~♪ちゅーりっぷーのはなが~♪」
・・すでにかえるではなかった。
--1時間後--
「かーえる~のうーたが~♪」
「・・・はぁ。」
1時間掛けてようやく「かえるのうた」をマスターしたチルノ。折角の休日なのに逆に疲れた私。
「たったの1じかんでますたーするなんて、さすがあたい!」
「たったの?1時間もかかったじゃないの・・。」
チルノの能天気な思考に私はため息がでる。
「でも」
「?」
話の合間に一息入れ、チルノは私に向かって心底楽しそうに笑い、言った。
「たのしかったでしょ?」
「・・・・・・。」
楽しい・・そう。それは確かだ。私にとって歌を歌うのは楽しいこと。それが1人ではなく、誰か親しい・・
そうチルノのような友達と一緒なら、なおさらのこと・・。
歌を作ることも・・
ともに歌うことも・・
そして
歌を教えることも・・
「まぁ・・暇つぶしにはなったわね。」
素直じゃない・・自分でもそう思う。本当は楽しくて仕方なかったのに。
それでもチルノは私に付き合ってくれる。
チルノのことだからこんな私の気持ちなんてほとんど理解していないだろうけど・・
でも、私はそれでいいと思う。
チルノには今のままでいて欲しい。無邪気なままでいつまでも。それは、私の本当の気持ち。
「みすちー!ほかのうたもおしえて!」
「・・・(今日は良く眠れそう・・)。」
そんなことを思いながら私は日が暮れるまでチルノに歌を教え続けた。
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チルノ「『levan poikka』をますたーしたわ!」
魔理沙&霊夢「すげぇ!?」
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・・・おかげで変な夢を見たものだ・・。
おしまい。
そう言うミスチー自身も、ごろごろしてちゃぶ台の脚にぶつかってメソメソと泣く姿は大変可愛らしゅうございました
だが何を考えて渡した霖乃助w
何か状況がありありと思い浮かんできますw
しかし、チルノに合羽は反則だw
冷凍かえるを振り回しながら歌うチルノを幻視したw
かえるの歌と言いつつチューリップを歌うセンスに脱帽wwww
みすちーとチルノでデュエットとか、考えただけで和むわぁ。