プチ創想話ミニの作品集27にある「森の中で」のノリです。
※ ※ ※
時刻は夕方。
今日も、いつもと同じ時間に、妖怪の樹海の中を厄を漂わせながら歩く影がひとつ。
ただ、いつもと違っていたのは、その漂っている厄がいつもよりちょっぴり少なかった事である。
「はぁ……」
溜息ひとつ。
その影は、ガックリと肩を下げながら、気落ちしている様に元気なく歩いていた。
「今日の厄は少なかったなぁ……」
里の近くに居た農家や商人の一行から厄を取ろうと手をかざしても、ちょっぴりしか手元に厄が集まってこないの。
別にノルマとかはないんだけど、なんかこうも厄が少ないと自分自身で本当に仕事をしたのか?って疑問に思っちゃうの。
「ふぅ……」
大きく溜息をついて、歩みを止めてから目を瞑り、腕を組んでジッと何かを考える。
「そうだわ! やってみる価値はあるかもしれないわ!」
私はある事をひらめいたの。
それは、いつぞやの博麗神社での宴会での風景よ!
あの場所にいた鬼の伊吹 萃香の能力よ!!
「おつまみ、集まれ~!!」って言ったら、どこからともなくおつまみが飛んできたっけ……
ま、まあ彼女の場合は、なんでも集められるけど……
私だったら厄を集められるかもしれないわ!
だって、私は厄神じゃない!
やってみる価値はあるわ!!
そう思い、まず注意深く周囲を確認したの。
そう、射命丸対策よ。
あの天狗も神出鬼没。
どこで盗撮しているか分かったものじゃないわ。
まあ、いままで私は被害にあったことはないけど、あの新聞の記事を見る限り、
被害にあった人は、そうとう根に持つでしょうね……
そんな事を考えながら、私は自分の周りをゆっくりと見渡し、念を入れて森の中の木々の上の方まで確認したの。
だって、相手は天狗よ。
空からの盗撮なんでお手の物じゃない?
そして、じっくりと念には念をいれて調べた結果、近くに射命丸は居ない事が分かったわ。
私は目を瞑り、気を落ち着かせる。
聞こえてくるのは、風に吹かれて擦れ合う木々の枝の音や、落ち葉の舞い散る音だけ。
足を肩幅に開き、背筋を伸ばして大きく深呼吸をひとつ。
「よしっ!」
そして、私は両手を真上に思いっきり伸ばす。
「厄よ! 集まれ~!!」
空に向けて伸ばした腕の先には、大きく開いた手が見えるわ。
「幻想郷のみんな! 私にちょっぴり厄を頂戴!!」
……
………
…………
「シーン」という静寂が辺りを支配していたわ。
伸ばした手の先には、さっきとまったく変わらない景色が見えていたわ。
わ、私は誰も居ない森の中で何をやっているのよ!!
あ~恥ずかしい!!
私は空に向けて伸ばしていた手を元に戻したわ。
そして、再度射命丸が居ないかどうかを確認したわ。
……よかったわ、どうやら居ないみたいね……
……けど、その時……
「何?」
私がいる所からちょっとだけ離れた所に、何かが居るという気が感じられたの。
それはこっちにゆっくりと近づいてきているわ。
私は胸元からスペルカードを出して、いつもで戦える様に準備したの。
ま、ここら辺で出てくる妖怪だったら、「ミスフォーチュンズホイール」辺りで充分でしょ?
カードを右手の人差し指と中指とで挟み、いつもでカードを発動できる体制を作る。
その間も、森の中にある何かの気はドンドンこちらに近づいてきてたわ。
『一体誰?』
カードを持つ指に汗がにじむ。
私は意識を集中して、近づいてくる何かの方向に視線を集中する。
私が視線を集中している先の方で、森の木々からザワザワと何かが移動している音が聞こえてきたの。
「来る!」
私の緊張がピークに達する。
が、その近づいてきていた何かは、その前で進むのをやめてしまったの。
……しばらく膠着状態が続いたわ……
額から流れてきた汗が目に入る。
拭き取りたい!
けど、拭いている瞬間に、森の中にいる何かの襲われたら?
そう思うと、今その何かに向けている視線を外すのは得策ではないわね。
そして、茂みの中から聞いたこともない様な声? が聞こえたの。
何かの獣の様な鳴き声なんだけど、「ブウブウ」って聞こえたわ。
さらに、木々の陰に真っ黒い塊がユッサユッサと揺れているのが見えたの。
「毛玉にしては……大きすぎるわね?」
そう思った時、私はハッとしたわ。
目の前の物にだけ気を取られ過ぎていたわ!
気が付くと、四方をすべてその何かで囲まれているのよ!!
「いけない! 囲まれたわ!!」
もう逃げ道はなかったの。
スペルカードを持つ手にもさらに冷や汗がにじむ。
呼吸も緊張と恐怖で荒くなる。
気を配りながら慎重に周りを見ると目の前の物と同じように、黒い塊がユッサユッサと揺れながら
こちらに近づいてくるのが見えるわ。
「誰よ! 私に何か用なの!!」
私は叫んだわ。
けど、返事はなかったわ。
そうしているうちに、その何か達はゆっくりと私のいる所に近づいてきたわ。
向こうも警戒しているのかしら? その姿はまだ全部は見えていないけど、
泣き声と時折見える黒い毛の塊からして、何かしらの獣の様ね……
妖怪の類ではないとしたら……、このスペルカードは使えないわ。
だって、妖怪とかならともかく、獣達を無闇に傷つけたくはないし……
そう思った私は、スペルカードを胸元へとしまったの。
『さて……どうしましょうか?』
私は警戒しながら、少し考えてみたわ。
『獣としたら……、相手を少し驚かせればいいだけなんだけど……』
肉食獣とかだったら、もうすでに襲ってきているはずよ。
けど、私を四方から囲んでいる割には一向に襲ってこない所を見ると、
何か気の弱い獣なのかもしれないわ。
だったら、少し驚かせれば、相手は逃げていくかもしれないわ。
あ、そうよ!
厄よ厄!
獣だって生き物じゃない!
見た目で驚くわ!
……あ、でも今日は厄が少なかったんだっけ……
だったら、目の前にいる獣達から厄を吸い取ってから私の体の周りに展開させて驚かせればいいのよ!
うん、我ながらグッドアイデア!!
そう思って、私は右手を空にかざし気を込める。
そして威嚇の意味も込めて叫んだの。
「厄よ集まれ!!」って。
……
………
ええ、厄は確かに集まったわ。
けど、その私の声を合図に、私を囲んでいた獣達も一斉に私の所へ突進してきたの。
本当に一瞬の出来事だったわ。
そこからの記憶が……ポッカリと抜けているのよ。
一体何が起こったのかしら?
※ ※ ※
【人間の里】
「おい、慧音! 里の外に何かの大群がいるぞ」
「何だって?」
里の守護者として里を守る勤めのある慧音が妹紅の報告を受けて急いでその現場へ向かっていった。
里の入り口から妖怪の山に向かう開けた場所を見た慧音は、その中に真っ黒い塊がゆっくりとどこかへ移動している姿を発見した。
「ん? あれは……」
「あれは何なんだよ、慧音……」
しばらくそれを眺めていた慧音がフゥと溜息をつきながら妹紅に教えた。
「ああ、あれは大丈夫だ。 まったくの無害だよ」
「で? あれは一体なんなんだよ!」
「ああ、あれは牛の仲間の『ヤク』っていう動物の群れさ……」
「なんだ……妖怪とかじゃないんだ」
「ああ、だから大丈夫。 おとなしい気質だし人を襲うこともない」
それを知った妹紅は、安堵の表情を浮かべ、その大群を見つめた。
「けどさ……あれは誰かが飼っているものなのか?」
ある物に気が付いた妹紅が慧音に聞く。
「ん? いやこの里でヤクを大量に飼っている人はいないはずだが…… なんでだ?」
疑問に思った慧音が逆に妹紅に聞く。
「だってさ……あの群れの中心にいる大きな一頭に真っ赤な鞍の様な物が載っているんだよ」
「ん? どれだ…… あ、あれか……」
慧音もその赤い鞍の様な物が背中に乗っている大きな一頭を確認した。
「まあ、誰かが降ろし忘れたんじゃないか? 元々ヤクは高山の荷物運びとかに重宝する生物だからな」
「なんだ、そっか!」
里に危害は加えないという事が分かった2人は、笑いながら里の中へ帰って行った。
※ ※ ※
……赤い鞍……
遠くからではよく分からないが、一部分が緑色で、その緑色の先端からは、真っ赤なリボンが垂れ下がっていた。
まるで本当に鞍の様にそのヤクの背中に体を「く」の字に折り曲げられて載せられた赤い鞍……
……そのヤクの大群がどこへ向かうのか……
それはヤクのみぞ知る。
ヤク補足
チベット高原に生息するウシ科ウシ属の動物。
体長2.9m、体重500kg程度。高地に適応しており、体表は蹄の辺りまで達する黒く長い毛に覆われている。
換毛はしないため暑さには弱い。肩がコブ状に盛り上がっている。
オス、メス共に長い角をもち、長さは1mに達する。鳴き声は低いうなり声であり、ウシの様に「モー」とは鳴かない。
野生のヤクはカシミール高原からチベット高原にかけての標高6000m程度の高地に生息している。野生での生息数は少ない。
(Wikiより)
薬丸裕英が集まってきちゃったら落としようにも困りますねw
そして、呼ばれたものの何をしたら良いのか分からず途方に暮れている姿。
そんな大きな自然を感じる様に、何故か少しばかり感動してしまったのは私だけでしょうか?
苦有楽有さんの雛がもう見られないのかと思うと残念でなりません。
次回からの主役キャラは、水橋嬢とか如何でしょう?
(念のために言っておきますが、冗談ですw)
いや。誰も心配してないから。せめて形だけでも叫んでおこうと。
ありがとう。そしてさようなら…
貴女の事は忘れない…(敬礼)
(ゴメンナサイ、冗談デスw)
どんどん「ヤク」が集まってくる・・・(カオスな意味でwww
森の中で牧場暮らしもさぞ楽しかろうに。
終わりませんよぉ~!!w