お待たせ致しました　こちら、ご注文のレタスの粉末入り紅茶です

-パチュリー・ノーレッジ-

魔女、パチュリー・ノーレッジにはひどく憂鬱になる時間が存在する。

親友の我侭？
NO
苦い薬を飲む時間？
NO
最近焦らしなどというテクニックを覚えた司書との蜜時？
NO

それらなどこの問題に比べれば瑣末に過ぎない。
いやしかし、最後のものは早急に対策を考えておきたい。下克上などあってはならない事態なのだ。行為のときは私が下だが。


話がそれた。


とにかく、私にはその時間に対する手立てがない。
それもこれもこの館のネズミ駆除がなっていないせいだ。
妖精メイドは塵芥。役立ちそうな銀猫は門番との語らいに忙しく、当主には知的好奇心が決定的に足りていない。ネズミでなくとも館の奥まで行けそうだ。
全くもってだらしのない。
悪魔の住まう館、紅魔館とは名ばかりではないか。しかし名の通り、真っ赤な嘘ではあるようだ。

そこまで考えていると、ふと風の唸りが耳に届いた。
どうやら問題の解決を棚上げにして八つ当たりの対象の選定に勤しんでいる内に、時間切れとなったようだ。やはりこの問題は私の頭を悩ませる。
胸が軋むように痛むし、本のページも思うように進まない。
机の上にあるティーカップの中の液体も私の胸中を示すかのように先程から波紋を広げている。
そうして件の問題は、もう目の前にやってきていた。

「よお、パチュリー。トリックオア･･なんだっけ、まあいいや。
お菓子か本かイタズラか本か、好きなの一つ選ばせてやるぜ。それ以外の全部、貰っていくから」

黒と白の魔法使いはそんな時期外れの文句を言った。
憂鬱である。
重いため息と共に図書館内の温度が二度ほど下がった、気がした。





-小悪魔-

小悪魔こと私は、自分の主に可聴域を超えた鳴き声をあげさせたいなあそうしたら泣き声になっちゃうかなあ、と思慮に耽っていた。
発展性のある議題に対して、仕事の手は長期休暇に入っている。
主に見つかればまずおしおきは免れないだろう。
だが、私には今の主の悩みを解決する秘策があるのだ。言い訳にすれば、効果は覿面であろうことは間違いない。
よって、私はこの至福の時間を心行くまで堪能できる。

「ああ、パチュリー様。そんな上目遣い、どこで覚えたのですかっ」

私の中の主の、許しを乞う回数が二桁を超えたところで、この至福を終えた。
丁度、私の秘策の効果を試す機会に恵まれたからだ。





-霧雨魔理沙-

カシャン、と。
小気味のいい音が、大図書館に響いた。

パチュリーが返事代わりにティーカップが投げつけてきたので、私は半歩半身を動かして避けた。
得物は放物線を描き、そのまま本棚にぶつかったと同時に喝采。
見るとティーカップは見事に割れていた。これが返事だとすれば即ち交渉は決裂ということか。

「なかなか回りくどい返事だな」
「……急がば回れという言葉があるわ」
「急がば、回れ？ ああ、そうか。回転した方が速度も増すからな」
「貴方は頭の回転が足りていないわ」
「なら糖分をくれ」

パチュリーはうっ、と呻きながら顔を伏せた。自分が墓穴を踏んだことに気付いたようだ。
少しの間、こちらを睨みつけていたが観念したのか、小悪魔に紅茶とそのお供を持ってくるように言いつけた。
言われる前から準備でもしていたかのような早さで小悪魔はやってきた。
一家に一人欲しいタイプだな。
私の家だと定員オーバーだけど。

「魔理沙さんにはレタスの粉末入り紅茶をプレゼントですよ」
「レタス？ 食物繊維が足りてないのはそっちの主の方じゃないのか」
「いいえ、魔理沙。ネズミの貴方にはピッタリよ」
「ネズミ呼ばわりとはひどいな」

心外だぜ。
一口、二口。紅茶を舌の上に流す。
悪くないなと言いつつクッキーをひょいひょい頬張る私に何故だかパチュリーも小悪魔も頬のゆるんだ表情を向ける。
してやったりというその余裕たっぷりの表情に、私はあまり気にせず糖分の摂取に勤しむことにした。





-大図書館-

この図書の所有者とその従者は、ぐっすり眠っている黒と白の魔法使いを前に喜んだ。
パチュリーの中での魔理沙のネズミ度は大幅にアップしたのと同時に。
今度のネズミ対策が決定したのだから。

なにかのTV番組でレタスには快眠の効果があるという特集をやっていました。
その実験で、レタスの粉末をネズミに投与した結果、ネズミはすぐに眠ってしまったという。

そんなことを唐突に思い出したので書いてみましたが。
アレ、デマなんでしたっけ？