「それではよろしくお願いします」
「ああ、任せておけ」
里人が慧音に頭を下げて帰っていく。
慧音の隣には馬が一頭。
男にひかれてきたときは大人しかったのだが、慧音のそばだと落ち着かないのか細かく動いている。
それを見た男は本当に大丈夫なのか一瞬心配になったが、慧音ならば大丈夫悪いようにはならないと信頼の想いが湧き上がる。
その信頼は、慧音と里人との今までの積み重ねの証なのだろう。
馬が落ち着かないのは慧音が半獣だからかもしれない。本当にそうなのかは馬に聞かないとわかりはしない。
「久しぶりに乗ってみるのもいいかと思ったが、この様子だと止めておいたほうがいいか」
そう言って小さく溜息を吐く。
空を飛ぶのとはまた違った移動の楽しさがある乗馬を少し楽しみにしていた。
けれども隣にいるだけで落ちつかないこの様子では、乗ったら暴れるかもしれないと諦める。
「そうだ。妹紅は乗れるのかな?」
竹林に住む友人を思い浮かべた。
このあとの用事はないと確認した慧音は、家から自前のあぶみと鞍とくつわを持ち出し、馬をひいて妹紅の家へとむかった。
馬の蹄鉄が出すパカラパカラという音がのんびりとした雰囲気を醸し出し、ちょっと変わった散歩気分を味わえた。
「妹紅いるか?」
馬を竹に繋いで、名前を呼びながら戸を叩く。
中から音が聞こえてくるのでいるのだろう。
すぐに戸が開いた。
「慧音、今日はなんの用?」
「まずはこんにちはだ」
「ああ、こんにちは」
「それでな、用事は特にないんだ。ただ時間ができたから来た。迷惑だったか?」
「いやいや! そんなことないよ!」
「それはよかった」
慧音が来たことに嬉しがる妹紅を見て、慧音はほっとした笑顔を浮かべる。
とりあえず上がってもらおうと思って声をかけようとしたとき、妹紅は繋がれた馬に気付いた。
「馬? 馬に乗って来たの?」
「いや、おそらく私を乗せないだろうあの子は。
今日明日にも子供を産む牝馬がいてな? あいつはその牝馬のつがいなんだ。
出産で気が立った牝馬に近づけないほうがいいだろうと、今日明日私が預かることになったんだ。
久々に乗ろうと思ったが、私とは相性が悪そうで諦めたとき、妹紅ならどうだろうと思って連れてきた。
妹紅は乗馬できるのか?」
「公家のお嬢様だったとき、何度か乗って遠出したことあるよ」
「そうか、では乗るか? 道具はあるから」
手提げに入れていた鞍などを妹紅に差し出す。
「そうだね。久しぶりに乗ってみようかな」
妹紅は手提げを受け取って馬に近づいていく。
そっと首に触れた妹紅を馬は嫌がることなく大人しくしている。
撫でながら久々の感触を楽しむうちに、不老不死ではなかった頃のことを思い出し少しだけしんみりとする。
そういった雰囲気を察したのか馬は妹紅に顔を寄せる。
「うわっ! 元気付けてくれるのか? お前いい奴だな」
二度ほど軽く首を叩いて、礼を言う。
鞍などをつける間も馬は大人しくしていて、妹紅のことを気に入っているようだ。
「よっと」
掛け声一つ出して馬に飛び乗り、妹紅は馬上の人になる。
軽く腹を蹴って家の周りを歩いてもらう。
「様になっているじゃないか」
そつなく馬に乗る妹紅を見て慧音が感心している。
「久々でもなんとかなるもんだね」
慧音の近くで馬を止めて答える。
「慧音、後ろに乗ってみない?」
「タンデムか。
しかし私が乗っても大丈夫だろうか?」
「一回乗ってみたらわかるよ。
無理そうなら止めればいいし」
「そうだな」
「それじゃ、はい」
妹紅は左のあぶみから足を外して、左手を差し出す。
ありがとうと言って慧音は手を握りあぶみに足をかけ、妹紅の後ろに乗る。
馬は嫌がるそぶりを見せたが、妹紅が落ち着くように首を撫でると大人しくなる。
「大丈夫みたいだな」
「それじゃドライブに行こうか」
竹林の出口へと馬を向けて、馬を歩かせる。
じょじょにスピードを上げ、全速力に及ばないもののわりとスピードを出す。
笹の葉が光を遮ってひんやりとした空気が、二人をすり抜けていく。
空を飛ぶのとはまた違った風を感じて、二人はドライブを楽しんでいる。
振り落とされないようにぎゅっと妹紅に抱きつく慧音。
いつもは頼ることが多い慧音に頼られているように感じられて、妹紅は上機嫌になる。
途中でなにかにぶつかったような衝撃がしたが、そのことに気付かないくらいには上機嫌だった。
「なにかぶつからなかったか?」
「え? あ~……わからない。ちょっとぼーっとしてた。
でもここらへんにいるのは永遠亭の奴らだろ。あいつらは馬に当たったくらいじゃどうにもならないさ」
「まあ、そうだな」
慧音も上機嫌らしく、普段なら確かめに戻ろうと言うだろうに、そういった提案をしない。
二人はそのまま三十分ほどドライブを楽しみ続けた。
次の日には持ち主に馬を返したが、ときどき借りて二人で乗るようになる。
妹紅に喧嘩を売ろうとした輝夜がリザレクションしている。そばでは、一部始終を見ていたてゐが爆笑していた。
馬の前に出たはいいが、妹紅に気付かれずに轢かれたのだった。
ただぶつかられただけでは怪我だけで終るが、運の悪いことにぶつかれて倒れたところを踏まれてしまった。
人の恋路を邪魔するものは馬に蹴られて死んでしまえ、という諺を体現した輝夜にてゐは爆笑していたのだった。
恋路かどうかはわからない。しかし楽しんでいるところを邪魔しようとしたのだから似たようなものだ。
妹紅と慧音が馬に乗るたびに、これを繰り返すことになる。
馬に乗っているときにちょっかい出さないほうがいいと学習するまでに、五回ほど馬に殺されたらしい。
「ああ、任せておけ」
里人が慧音に頭を下げて帰っていく。
慧音の隣には馬が一頭。
男にひかれてきたときは大人しかったのだが、慧音のそばだと落ち着かないのか細かく動いている。
それを見た男は本当に大丈夫なのか一瞬心配になったが、慧音ならば大丈夫悪いようにはならないと信頼の想いが湧き上がる。
その信頼は、慧音と里人との今までの積み重ねの証なのだろう。
馬が落ち着かないのは慧音が半獣だからかもしれない。本当にそうなのかは馬に聞かないとわかりはしない。
「久しぶりに乗ってみるのもいいかと思ったが、この様子だと止めておいたほうがいいか」
そう言って小さく溜息を吐く。
空を飛ぶのとはまた違った移動の楽しさがある乗馬を少し楽しみにしていた。
けれども隣にいるだけで落ちつかないこの様子では、乗ったら暴れるかもしれないと諦める。
「そうだ。妹紅は乗れるのかな?」
竹林に住む友人を思い浮かべた。
このあとの用事はないと確認した慧音は、家から自前のあぶみと鞍とくつわを持ち出し、馬をひいて妹紅の家へとむかった。
馬の蹄鉄が出すパカラパカラという音がのんびりとした雰囲気を醸し出し、ちょっと変わった散歩気分を味わえた。
「妹紅いるか?」
馬を竹に繋いで、名前を呼びながら戸を叩く。
中から音が聞こえてくるのでいるのだろう。
すぐに戸が開いた。
「慧音、今日はなんの用?」
「まずはこんにちはだ」
「ああ、こんにちは」
「それでな、用事は特にないんだ。ただ時間ができたから来た。迷惑だったか?」
「いやいや! そんなことないよ!」
「それはよかった」
慧音が来たことに嬉しがる妹紅を見て、慧音はほっとした笑顔を浮かべる。
とりあえず上がってもらおうと思って声をかけようとしたとき、妹紅は繋がれた馬に気付いた。
「馬? 馬に乗って来たの?」
「いや、おそらく私を乗せないだろうあの子は。
今日明日にも子供を産む牝馬がいてな? あいつはその牝馬のつがいなんだ。
出産で気が立った牝馬に近づけないほうがいいだろうと、今日明日私が預かることになったんだ。
久々に乗ろうと思ったが、私とは相性が悪そうで諦めたとき、妹紅ならどうだろうと思って連れてきた。
妹紅は乗馬できるのか?」
「公家のお嬢様だったとき、何度か乗って遠出したことあるよ」
「そうか、では乗るか? 道具はあるから」
手提げに入れていた鞍などを妹紅に差し出す。
「そうだね。久しぶりに乗ってみようかな」
妹紅は手提げを受け取って馬に近づいていく。
そっと首に触れた妹紅を馬は嫌がることなく大人しくしている。
撫でながら久々の感触を楽しむうちに、不老不死ではなかった頃のことを思い出し少しだけしんみりとする。
そういった雰囲気を察したのか馬は妹紅に顔を寄せる。
「うわっ! 元気付けてくれるのか? お前いい奴だな」
二度ほど軽く首を叩いて、礼を言う。
鞍などをつける間も馬は大人しくしていて、妹紅のことを気に入っているようだ。
「よっと」
掛け声一つ出して馬に飛び乗り、妹紅は馬上の人になる。
軽く腹を蹴って家の周りを歩いてもらう。
「様になっているじゃないか」
そつなく馬に乗る妹紅を見て慧音が感心している。
「久々でもなんとかなるもんだね」
慧音の近くで馬を止めて答える。
「慧音、後ろに乗ってみない?」
「タンデムか。
しかし私が乗っても大丈夫だろうか?」
「一回乗ってみたらわかるよ。
無理そうなら止めればいいし」
「そうだな」
「それじゃ、はい」
妹紅は左のあぶみから足を外して、左手を差し出す。
ありがとうと言って慧音は手を握りあぶみに足をかけ、妹紅の後ろに乗る。
馬は嫌がるそぶりを見せたが、妹紅が落ち着くように首を撫でると大人しくなる。
「大丈夫みたいだな」
「それじゃドライブに行こうか」
竹林の出口へと馬を向けて、馬を歩かせる。
じょじょにスピードを上げ、全速力に及ばないもののわりとスピードを出す。
笹の葉が光を遮ってひんやりとした空気が、二人をすり抜けていく。
空を飛ぶのとはまた違った風を感じて、二人はドライブを楽しんでいる。
振り落とされないようにぎゅっと妹紅に抱きつく慧音。
いつもは頼ることが多い慧音に頼られているように感じられて、妹紅は上機嫌になる。
途中でなにかにぶつかったような衝撃がしたが、そのことに気付かないくらいには上機嫌だった。
「なにかぶつからなかったか?」
「え? あ~……わからない。ちょっとぼーっとしてた。
でもここらへんにいるのは永遠亭の奴らだろ。あいつらは馬に当たったくらいじゃどうにもならないさ」
「まあ、そうだな」
慧音も上機嫌らしく、普段なら確かめに戻ろうと言うだろうに、そういった提案をしない。
二人はそのまま三十分ほどドライブを楽しみ続けた。
次の日には持ち主に馬を返したが、ときどき借りて二人で乗るようになる。
妹紅に喧嘩を売ろうとした輝夜がリザレクションしている。そばでは、一部始終を見ていたてゐが爆笑していた。
馬の前に出たはいいが、妹紅に気付かれずに轢かれたのだった。
ただぶつかられただけでは怪我だけで終るが、運の悪いことにぶつかれて倒れたところを踏まれてしまった。
人の恋路を邪魔するものは馬に蹴られて死んでしまえ、という諺を体現した輝夜にてゐは爆笑していたのだった。
恋路かどうかはわからない。しかし楽しんでいるところを邪魔しようとしたのだから似たようなものだ。
妹紅と慧音が馬に乗るたびに、これを繰り返すことになる。
馬に乗っているときにちょっかい出さないほうがいいと学習するまでに、五回ほど馬に殺されたらしい。
たった7行しかない輝夜に力が入ってるように思うのは、私だけだろうかw
それは神の御業だwww
よかった、そうならなくって本当によかったw