注:私的解釈を含んでおります
――夢を見ていた、それは私と貴女が出会った頃の夢。
私が初めて幻想郷に来た時の頃の夢、貴女が呼び出してくれた頃の夢――
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様々な書物が山のように積まれ、その奥の机で一冊の書物と格闘していた少女――パチュリー・ノーレッジはそこにいた。
「おかしいわ、この術式を再現した筈なのにどうしても作れないなんて……この本の情報もガセだったのかしらね」
右奥に置かれていた実験機器を眺める。自身の使い魔を用いて調達した鉛を使って金に変える、今回もこの方法で賢者の石の真贋を確かめたのだが、失敗に終わった。
持っていた本を閉じて机の隅に置いて立ち上がって、積み上げられた大量の書物をあさり始める。
「これは……違う、これも………違う、これも………そういえば、どの程度まで読破したのかしらね」
ため息をついて机に戻り、パチュリーは突っ伏してしまう。山のように積み上げられた書物は全て錬金術に関する代物だったが、
読み終わったものを適当に積んでしまっていたために、どの本をまだ読んでいないのかは流石に憶えていなかった。
「賢者の石の生成、これが私が魔女になった目的だったけれどもう諦めたほうがいいのかしらね………」
突っ伏したまま右手でのの字を書いて、今日何度目かもわからないため息をついた。
「賢者の石を使って、思いつく限り色々なものを作る……これのためだけに、魔女になるための知識を吸収してなったはいいけれど」
賢者の石の力の凄さに魅了されて、魔女になるための努力をしたというまだパチュリー自身が青かった頃の色褪せた記憶が甦る。
しかし魔女となって多くの時間と過ごすにつれて、憧れは今のパチュリーにとってただの苦い記憶になってしまっていた。
「練成する術式は憶えている限り全て試した、でもどれもこれも金に変えることができない。
魔法には自信があったけれど、金の練成はいまだにできてない。別の目的でも見つけたほうがいいのかしら………
――時間を跳躍する魔術でもあれば、昔の自分を説得させてこんな無駄な時間を過ごさずに済んだだろうにね」
脳裏に浮かぶのは苦い数々の失敗の光景、自分の得意分野である魔法でさえどうしようもならなかった事が拍車をかけてパチュリーを落ち込ませていた。
「賢者の石の術式はどれも違う、一つとして同じ術式が存在しない。虱潰しにやってこのザマ、
共通点から術式を組み上げようにも最初から存在しないから、組み合わせのパターンが膨大すぎて生きてる間に出来るものかどうか………」
実験機器を眺め、手をバタつかせる。うー、と唸り声を上げて今度は実験機器を睨んだ。
「せめて精製するための術式だけでも解れば―――ん、術……式?――――そうよ!!」
立ち上がってパチュリーは練成陣に向かった。
「簡単じゃない。そう、術式さえ解れば……」
―――――
貴女が私を呼んでくれる前、不安な気持ちでいっぱいだった頃の事。
私は、外の世界の認識では悪魔らしくないと言われたせいで焦りを感じていたというのも何だか懐かしい。
確かに私は呪術や魔術の類はそれほど得意では無かったからに引け目を感じていたけれど、
外の世界から戻ってきた仲間達の話を聞いたりして余計にへこまされたこともありました。
けれどそんな私でも貴女が必要としてくれた、それがとても嬉しかったことは憶えています――
―――――
パチュリーは相当の魔力を込めてクリスタルを精製する、それは魔力媒体としては紛れも無い一級品だった。
「練成する術式をわざわざ知っている必要なんて無い、そんな必要なんて無かった」
これがパチュリーの答えだった。そして――
「あとは『頭脳』を呼び寄せるだけ、となると手っとり早いのは……」
幻想郷の各地にいる使い魔から送られてきた数多くの映像の中で、特に計算に関する能力の優れた存在がいたかどうかを思い出そうとするが――
「誰かも知らない人間の命を犠牲にしたところで大したものになりそうもないのは明白、そういった能力に優れた人間よりも妖怪の方が計算を素早く済ませられるだろうし。
かといってそれ程優秀な妖怪を従わせようとなると、それも相当強い存在を相手にする必要がでてくるかもしれない………命が惜しいからできれば避けたいわね」
手元に悪魔召喚に関する書物を寄せ、そこから高位の悪魔の召喚に関する記述を読む。
だが、その召喚に関する記述も決してパチュリーを喜ばせる内容が書かれていたわけではなかった。
「召喚のためには多くの人間・妖怪問わず命が必要とされる、尚自身に関する記憶を代償にし呼び出す例もある、か……
結局、何か犠牲にしないと無理、か……それも命とかそういったものを代償にしなきゃいけないなんて。
すぐに呼び出すならレミィか私自身を犠牲にでもしない限り無理。
妖怪と人間を均等に集めるとすると、多くの妖怪の拘束と人間の誘導に魔力を多く使うのは目に見えている。
かといって妖怪か人間片一方を集めてでもして、もし幻想郷のバランスを崩しかけたらあの『博麗の巫女』とやらに殺されかねない――」
と他の召喚に関する記述を読むと――
「一つの行為に特化したものなら、なんとか呼び出せるわね……まぁ、仕方ないか。今思いつく方法で最善だろうし」
そして魔方陣に向かって歩き、クリスタルを依り代として魔方陣を起動させる――
「知を司りし者よ、我が命に応えよ。我は更なる知を求むる者、パチュリー・ノーレッジ也。
その知を我に差し出せ。汝が望み、我が肉で叶えん。汝は――」
―――――
貴女に呼び出された時、何か違和感を感じましたたね。意識が何かに閉じ込められていて、自分の身体を遠巻きに見ているような感じが。
だけどすぐにこの違和感の正体を理解できました、貴女は『このかたち』で私を必要としたということを。
それがとても嬉しかった。必要とされずに寂しさを感じる事無く、私が今も生きていられるのだから。
だけど、同時に哀しくなってしまった。いくら決まりごとに則ったとはいえ、貴女は代償を払ってしまったということが、
悪魔らしくはないだろうけれどせめて償わせて欲しい、こんな私を必要としてくれた貴女のために。そう決意した事は、今も忘れていませんよ―――
―――――
「うぐ………かはぁ……」
吐血、元来人並みの健康な体であったパチュリーが契約で差し出したのは『自身の活力』。
これを差し出したために今にも倒れかねないほど顔色が悪くなり、身体も小刻みに震えているほどパチュリーは衰弱してしまっていた。
「召喚は……成功、ね」
パチュリーの目の前にあったクリスタルの中に真紅と薄い黒の靄が現れ、そこから怪しい光を放ち、
頭の両脇と背中から悪魔のそれと思われる羽を生やし、真紅の髪が美しい裸体の少女がクリスタルの代わりに姿を現した―――
「貴女が……私が呼び出した存在ね?」
「――はい。何を、お望みですか?」
「貴女の頭脳が必要なのよ、きっと貴女しかできないわね」
「私に出来る事ならばなんなりと」
「導き出してほしいものがあるのよ、私の生きる目的の答えをね」
「それは、一体……?」
「完全なる錬金、よ」
そしてパチュリーは少女に近づき、そっと――
「ぁ、ん―――」
「契約、完了……」
少女の唇を奪った―――
―――――
「なぁ、パチュリー」
「どうしたの、魔理沙」
「お前が本を読む目的ってなんなんだ?」
藪から棒に魔理沙は前から気になっていた事を口にする。
「じゃあ聞くけど、貴女が本を持って行ってでも成し遂げたい目的は何?」
「決まっているだろ、弾幕に応用できる魔法を探しているだけだ」
「そう……真偽がどうあれ、貴女が答えたのだから私も答えさせてもらうわ」
そう言ってパチュリーは本を読むのを止めて、こう呟いた――
――賢者の石を作るため、よ
「クス……」
パチュリー達のいるテーブルの近くの本棚の裏で小悪魔は微笑んだ。
「もう既にできてるのに、やっぱり私じゃ不満でしょうか」
ふぅ、とため息をついて、
「でもまだ私は『見つけて』ませんし、仕方ありませんね。でもあと少しの時間があれば見つけられますよ、
塵すら金に変える方法が。それにもしかすると、あの頃の元気な貴女を取り戻す霊薬もきっと。
もし見つけてくれたなら、貴女は微笑んでくれますか―――」
悪魔らしからぬ微笑みを浮かべて、小悪魔――『賢者の石』となった悪魔は二人の許へと歩いていった―――
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