里の守護神である上白沢慧音は寝込んでいた
随分と長い間、里を守護してきて
随分と長い間、人の生き死にを看取ってきたので
慧音は自分の死期を悟っていた
「…私も…もうすぐ逝くんだな…」
「慧音!そんなこと言うなよ!」
慧音の呟いた言葉に怒ったのは
「…頼むから…そんなこと言うなよ…」
「ああ…すまない…少し気弱になっていたみたいだ…妹紅」
慧音の身の回りの世話をしている妹紅であった
慧音が倒れた時、妹紅は大急ぎで慧音を背負うと永遠亭に向かった
医者である、八意永琳の言葉は非情だった
「…老衰ね…良くこの状態で生きていられるわ」
すでに人なら寝たきりに近い状態になっていたのだ
だが、慧音は半妖半人だから体力があり
まだ立って移動する事もできるのである
そして、慧音に告げられた診断は
「私の見立てで…もってあと一年」
余命一年であった
家に帰ると、妹紅は慧音の傍で生活すると伝えた
慧音にはその意味が良くわかっていた
「…妹紅…色々迷惑をかけるが頼めるか?」
「…私の方が迷惑をかけてきたんだ、少しぐらい甘えろ」
その日から、妹紅は慧音の身の回りの世話をするようになった
まず始めに、慧音は里の皆に自分の死が近い事を話した
里を混乱させないように、里の重鎮の方をまず集めて
そして、自分のしてきた事の役割の分担を改めて話し合った
妖怪の退治は妹紅が請け負ってくれた
それ以外は、全てその重鎮の一人一人に頭を下げてお願いすると
皆、口々に『慧音様のお願いだ、命に代えてもその役目御守します!』と答えた
次に、知り合いの妖怪達に、自分の死期が近い事を伝えた
マヨヒガに、山の神と天狗に、吸血鬼が住む屋敷の住人に
そして、魔女達と博麗神社の巫女にも…
伝えた相手の反応は様々だったが
皆、寂しくなるという事を口々に言ってくれた
これで、自分の代わりの引継ぎも終わり
慧音は寝ながら最後の問題を考えていた
最後の問題…それは親友の妹紅の事である
(何とかして、妹紅を悲しませる事だけは避けたいのだが…)
自分が死ぬのは仕方がない…だがそれによって妹紅が悲しむのは辛い
一度、自分の歴史を食べてしまう事も考えた
だが、それをしたら今までの妹紅との楽しい記憶もなくなってしまう
それを考えると歴史を食べる気にはなれなかった
慧音がそんなことを考えてから、さらに2ヶ月が過ぎた…
「慧音…外、雪が降っているよ?」
「…ああ…綺麗だな…だが、少し冷える」
「ちょっと待ってろ?今火を出すから」
妹紅がそう言うと、不死鳥を少しだけ出し辺りを暖めた
慧音はそれを見て、頭に一つの考えが浮かんだ
次の日、慧音は手紙をしたためると
永遠亭の医師である永琳に送った
その手紙を見た永琳は、急いで慧音の元に現れた
「…あの手紙の事なんだけど…」
慧音は手紙の内容を改めて、永琳に伝える
「…できる薬はあるわ…でも…いいのそれで?」
「ああ、常に妹紅の傍に居てやれる…それが一番良い」
慧音の笑顔を見て、永琳も頷いた
「三途の河原を渡れなくなるわよ?」
「構わない、それに三途の河原に居る死神はサボリ症だからな」
慧音がそう伝えると、永琳も一緒に笑った
そして、去り際にそっと告げた
「一ヶ月はかかると思うわ…それまで死なないように」
そして、慧音の余命があと一ヶ月を過ぎた…
すでに立ち上がる事すら困難な状態であったが
慧音の元に二本の特別な薬は届いた
それを手にした慧音は、片方を飲み干すと
「…妹紅、久しぶりに料理を作りたいのだが」
「慧音!?無理したら駄目だ」
久しぶりに自分の力で起き上がった慧音に驚く妹紅をなだめて
昔、妹紅にしてやっていたように、料理を作り始める
「今日は鍋だぞ」
慧音がそう言うと、囲炉裏の傍に鍋を置く
しばらくすると、鍋の中の野菜や肉の良い匂いが立ちこめはじめる
「「いただきます」」
久しぶりに、慧音と妹紅が同時に手を合わせると鍋をつついた
鍋を食べている途中で、妹紅の手が止まった
「どうした?美味しくなかったか?」
慧音が心配すると、妹紅が首を横に降った
「…もう…慧音の料理は…食べられないと…」
泣きそうな顔で妹紅がそう伝えると
慧音は後ろから妹紅を抱きしめた…
しばらくの間そうしていると
慧音が妹紅に背中から伝えた
「なあ…妹紅…お願いがある」
「…なに?…なんでも言ってくれ」
妹紅が、抱きつかれた慧音の手に自分の手を乗せながら答えると
「…もう、私は死ぬ…」
「慧音!?」
妹紅が振り向こうとするが、それを慧音の手は許さなかった
「あと一ヶ月の間で、身体は動かなくなり、意識も無くなる…だから…」
慧音の腕にさらに力が入る
「妹紅…お願いだ…私をお前の鳳凰の炎で燃やしてくれ…」
残酷なお願いだった
親友に自分を殺せというのだ…
「できるわけが無いじゃないか!」
妹紅が怒りながら慧音にそう伝える、だが慧音は少し笑うと
「頼む…もう…動くのも辛いんだ…」
「慧…音…?」
慧音の腕の力が弱まる…
「…頼む…私の意識が無くなる前に…」
永琳からもらった薬によって、少しだけの力を戻したが
それでも、もって半日程度…
すでに、腕の力はなくなりかけていた
「…わかった…慧音…」
これ以上、慧音に辛い思いはさせたくないと思った妹紅は
「…表に出てくれ慧音」
泣き顔を見せまいと、一足先に外に出た
それを見た慧音は、用意してあったもう一つの薬を飲むと
「…すまんな…妹紅」
テーブルに一つの手紙を置いて、表に出た
表に出ると、外は少し遅い雪が降っていた
「…寒いな…」
妹紅がそう言うと、慧音は動きづらい体を引きずり
「ああ、だが…」
妹紅の身体に真正面から抱きついた
「…後は…お前が暖めてくれるのだろう?」
「……ああ…」
妹紅がそう言うと、慧音を抱きしめて声も無く泣き始める
泣いている妹紅の頭を慧音が優しく撫でると、呟いた
「…ありがとう…妹紅…私の最大の親友…」
「…ああ…お疲れ様…偉大な里の守護者にして…私の親友…」
二人がそう話した次の瞬間…
『フェニックス再誕』
二人の身体は死ぬ事の無い不死鳥に包まれた
里の守護者である、上白沢慧音の人生は…
親友の腕に抱かれて…幸せに見取られて逝った…
燃えた灰等は、全て天まで上がっていったのか
骨すらも残る事は無かった
その次の日…慧音の家に里中の人達
そして、その死を惜しんだ妖怪達が集まり
偉大な里の守護者に対して黙祷と今までの感謝を述べていった
人里の偉大な守護者は…その歴史に幕を閉じた…
いい感じな話でした。
だがそれがいい。
感想を書いてもらって、すぐに近くの本屋に見に行きましたら
確かに、この話とほとんど同じでした……
もう少し捻ればよかったと反省する事にします
なるほど・・・永遠に燃え上がる「友情の炎」ですね。
この炎は何人も消せはしない!!
これからも、古参の重鎮として、恥じぬ素晴らしいシリアスストーリを沢山遺して下さい。
姿形を変えても、友の側に永遠に寄り添う...良い話でした
死後も慧音が妹紅と共にあることができるとは永琳の薬はすごいですw
良い物語をありがとうございました!