Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

虹の血を浴びてしまった、花の好きな少女の話

2008/07/15 21:25:27
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  まえがき

 虹は今でこそ幸運や吉兆のシンボルであると考えられがちだが、地域や時代によっては異なる解釈が存在する。
 虹は万葉集では『ぬじ』と書かれており、『ぬし(主)』と同じ語源だとする説がある。この説に従えば当時の日本人
は虹を怪異や霊物と見なしていたことになるだろう。また淮南子の天文訓には『虹霓、彗星者、天之忌也。』という
一文がある。虹を虹(コウ)と霓(ゲイ)という雌雄の龍であるとした上で天災を呼ぶものとして忌み嫌っていたようで
ある。一部のネイティブアメリカンの間でも虹は不吉なものでありけして指さしてはならないものだと言われていたという。
 虹は飛び散った血が変化したものであると言い伝えている地域もあるという。色の概念が乏しい地域では虹の色数
も七色とはならず、ことに赤と青または赤と黒であると考えられている場所ではその色の組み合わせが血(動脈血と
静脈血)を連想させるのかこのような解釈も生じるようである。







        ****


 むかし、あるところに花の好きな少女が住んでいた。彼女には父親が無く、歌と楽器を愛する母親からもあまり構って
もらえなかった。父親ゆずりだという空色の瞳のせいで年の近い子供達からも気味悪がられ、少女はまいにちまいにち
野山の花を見て過ごしていた。


 ある雨上がりの朝、少女は空から虹が落ちてくるのを見た。虹はおぞましいもの、忌むべきもの、けして指さしては
ならないものであると母親から教えられていたにもかかわらず、おろかな少女はそれを見に行ってしまった。

 そこに居たのは一匹の傷ついた龍だった。沢山の怪我を負い、体中から血を流していた。少女は龍を見て立ち
すくんだが、その龍が怪我をしているのを見て放っておくことが出来なかった。

 彼女は母親から教えられた通りに野の薬草を集めて龍に施した。もとより大きな龍の多すぎる怪我に対して小さな
少女のか細い手で集められる薬草の量で追いつくはずもなかったが、全身に龍の血を浴びながら少女は手当てを
続けた。

 龍が水を飲みたい、と言ったので少女は走って川まで行った。川にうつる自分の姿は真っ赤だった。手で水をすくって
龍のところまで戻って飲ませてやると、龍はありがとう、すまない、と言って事切れた。

 少女が川で血を洗い流していると、皇の軍勢が龍の亡骸を持っていくのが見えた。きっと龍のためにお墓を作って
くれるのだろうと少女は思った。

 軍兵のひとりが少女を見とがめて言った。
「もはや龍といえども皇の前にはひれ伏すときがきたのだ。お前はなぜその皇の軍勢に対してひれ伏さない」
 少女はひれ伏して言った。
「その龍は怪我をしていたので私が手当てをしました。ですが命を救うことは出来ませんでした。どうかその龍のために
立派なお墓を建ててやってください」彼女がそう言うとすべての軍兵が笑い声を上げた。
「おろかな娘よ。虹はおぞましいもの、忌むべきもの、けして指さしてはならないものであると親から教わらなかったのか。
虹は嵐を呼び川を暴れさせる。我らは皇の命令でこいつを討伐したのだ。その命を救おうとしたお前は皇に背く者だ」
 軍兵が少女に矢を射かけた。矢はまごうかたなく少女に当たったが、彼女にはかすり傷一つ付かなかった。

 少女は逃げた。ただ走って逃げただけだったが誰も後を追うことは出来なかった。
 軍勢を引き離して村へと戻ると、少女は龍のことなぞまるで無かったかのように振る舞った。あいかわらず母親には
あまり構って貰えず、年の近い子供達ともろくに口をきくこともなかったが、野山の花もまた変わらず彼女を受け入れて
くれた。


 しばらくして少女の母親が異変に気が付いた。自分の娘が鳥と話をしているのを見たのだった。母親に問い詰められ
て、少女は自分が龍を、虹を救おうとしてその血を浴びたことを話した。

 母親は言った。
「馬鹿な子、私の言いつけを守らなかったのね。お前の力は歌やお話の中にしかない筈のもの。お前はけして人前で
その力を見せてはならない。こんど言いつけを守れなかったら、その時はもっと良くないことが起こるよ」

 母親は庭に小さな花畑を作り、少女にその世話をするように言いつけた。少女は野山に行くことは少なくなったがその
代わりに庭で花を育てることになったので特に不満はなかった。毎日水をやり下草を取っていると、一面に綺麗な花が
咲いた。


 数年が過ぎたころ、家の周りは花で埋め尽くされていた。少女が育てた花はとても綺麗だったので、彼女に近づこうと
しなかった子供達も一緒になって花に水をやったり花を使った遊びを教えてくれるようになっていた。少女は幸せだった。


 だがその幸せも長くは続かなかった。流行り病が辺り一帯を襲ったのだった。沢山の子供や年寄りや体の弱い者が
倒れた。そして少女の母親も。

 少女は床についた母親に聞いた。
「私は気付かない間にまた言いつけを破っていたのでしょうか。私は虹なぞ救おうとしなければ良かったのでしょうか」
 母親は答えた。
「泣くのはおよし。たとい虹がおぞましいもの、忌むべきもの、けして指さしてはならないものであるとしても、それを死なせ
まいとしたお前は私の自慢の娘なんだから」

 母親の亡骸を花畑に葬ると、少女は自分もその花畑の上で眠りについた。こうすれば母親もきっと寂しくないだろうと
思ったのだった。時が流れ、皇が何人も代わり、国の名が幾たびも変わったが少女は眠り続けた。今でも眠っているよ。
たったひとりぼっちで。
 こんばんは。覚えてらっしゃる方はお久しぶりです。しばらく小説のネタが思い浮かばなかったのでpixivに落書きを放り
込んでいたマムドルチァでございます。

 今回の文章は童話の体裁を取っては居ますが、実際は美鈴(名前出てませんが)の過去についてのねつ造です。
世間ではやれ龍の化身だの武術の達人が鍛錬の末に妖怪化しただのと勇ましい設定を考えてなさるというのに、
私ときたらそんなものはかけらもない話しか思いつきませんでした。むろん公式に過去設定のないキャラですから
想像は自由でしょうが、自分は恐らく少数派だろうという気はします。次回はもう少しいつもの雰囲気に近い内容
の作品を書ければと思います。











































        ****


 それからしばらくして、少女の夢の中に小さな吸血鬼の女の子が現れて言った。
「それで、あなたは何でそんなにさびしそうな顔をして笑っているのかしら?」
 それはやっぱりさびしいから、と答えようとして少女は目を覚ました。それから先のことは、このお話をお読みになった
みなさんの方がくわしいことでしょう。
マムドルチァ
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
美鈴を好いている人の数だけ設定が在ると思います、のでこの設定は良いモノです。
そういえば貴方は「セラギネラ」の方では?
1、2、3と全て楽しく読ませて頂きました。ありがとうございます。
2.名前が無い程度の能力削除
おお、お久しぶりです
美鈴といえば虹ですね、虹にまつわる伝承がたくさんあるのには驚きました
しかし、ZUNさんはどうして美鈴と虹を組み合わせようと思ったんでしょうね…
ともあれ、また新作かセラギネラの続きを楽しみにしております
3.芳乃奈々樹削除
新しい解釈ですね。
最後まで美鈴のことだとは分かりませんでしたが(汗
ほんわかした感じがよかったですww
4.マムドルチァ削除
嗚呼、覚えていてくださる方がいらっしゃって嬉しい限りです。確かにセラギネラを書いた者です。

>美鈴を好いている人の数だけ設定が在ると思います
美鈴のシエスタにもそれなりに由来はあるだろうと思って書きました。彼女の午睡の夢を妨げてはいけません。

>悪くないぜ。
ありがとうございます。ただただ読んでくださった皆さんの一言が聞きたいばっかりに執筆を続けております。

>しかし、ZUNさんはどうして美鈴と虹を組み合わせようと思ったんでしょうね…
これは憶測ですが、中華風のキャラを出そうと思った際に中国における龍=虹のイメージが浮かんだのかも知れません。
もし虹と血を同一視する地域があることをも知っていたとすれば、吸血鬼の館の住人としてもおかしくない事にもなります。


セラギネラの続きや、できればアリスや慧音など他の3ボス周りの話も書ければと思っています。
次のお話でまた皆様に会えますようにと願ってやみません。それでは。
5.マムドルチァ削除
>新しい解釈ですね。
>最後まで美鈴のことだとは分かりませんでしたが(汗

面目ありません、私の筆力の無さゆえです。精進いたします。

蛇足ついでに書けば龍の血を浴びて得た傷つかない体や超常の力のモチーフは、
邪龍ファーヴニルの血を浴びて無敵の身体を手に入れたジークフリート(の物語)です。
ただ私は美鈴にいわゆる英雄の資質や英雄になる気があるとは思えません。あくまで
花の好きな少女という程度で。
6.kagely削除
答1 ・・・・あれ?

紅魔郷のお話については色々な解釈を見ましたが、こういった解釈は初めてです
というか美鈴と虹の関係についての考察自体が初めてですね(私が見ている幻想郷が小さいだけか)
こういうお話は凄く好きです。有難う御座いました