妖怪の山を登れば、まず最初に目につくのが厄神様の森であろう。
煌めく陽光も輝く月光も、魔砲の放つ閃光すらも全て空ろに霧散させる暗い土地。
風は澱み、水すら陰り、木々も全てが時を忘れて歪んでしまった、閉じた場所。
世の厄をその身に纏い、幻想郷のどこより暗いところから、世界の全ての為に祈る神のおわす此処にさえ。
毛玉は生息する。
否、其れは毛玉ですらない。
神の一部とも言うべき其れは、何時であれ同じ事を繰り返す。
今日も、今も、目の前でそれは繰り返されていた。
『ひなさまー。』『厄とってきましたー。』
全身から黒く零れる厄を抱えて、其れらはくるくると回る。
「ありがとう。それじゃあ、今からあなたの厄を引き受けるわ。」
鍵山雛は、厄神として其れらの厄を自らのものとする。
厄を全て渡した後も、本来のような白い姿にならない其れらは、
『ありがとー。』『いってきまーす。』
また厄を集めにふわりと飛ぶ。
毛玉ではなく、厄玉となった其れらを見て、
「行ってらっしゃい、無理しないでね。」
自らの役では無かった筈の、暖かな笑みで見送りの言葉と共に。
厄神は回る、くるくると。
『毛玉にも色々な生き方があるのだと、自分はこの目で見て知ることが出来た。
毛玉が何か名前を得たとき、その毛玉は何かの意味を得て、その意味のために生きていく。
しかし、名前が無いことは、役割や意味を持たないこととは違う。
紅魔館から離れることが無かった頃でも、名前は無かったが仕事と言う役割は有った。
未だに名前は無いが、この業務日誌を書いていると言うこと自体にも、必ず意味が有る筈だ。
吾輩は毛玉である。名前は未だ無い。
だが、名前が有ろうと無かろうと、自分がやる事は変わらない。
これからも、自分はこの日誌を書き続けよう。
今でこそ紅魔館からは離れているが、いつか帰ったら掃除をしよう。
掃除が終わったら食堂での仕事もあるだろうし、たまには妖精メイドが全身を綺麗に洗ってくれるかもしれない。
門番隊の活躍を日誌に書くのも悪くないだろう。
美鈴さんならきっと快諾してくれる。
妹様と一緒に遊んだり勉強したりするのも楽しいだろう。
最近はあの館にも客人が多い。失礼が無いようにするにはどうするべきか試行錯誤するのも価値が有るだろう。
館を離れてから、まだ一週間も経っていないが、今から帰った後の事が楽しみで仕方が無い。
今になってやっと実感した事。それは、たとえ名前が無かろうと自分が間違いなく紅魔館の一員であることだった。
全く、なんと今更な自覚であることか。
冥界・白玉楼にて 記録者:毛玉』
距離にして2メートル、毛玉がいる部屋の隣。
「幽々子様駄目ですってば!」
「あら妖夢、いきなり死亡フラグを連発しているものは食べてもいいのよ?それに毛玉は食べたことが無かったし、ちょうど良いわ。ねえ紫?」
「……zzz」
「毛玉逃げてー!?」
煌めく陽光も輝く月光も、魔砲の放つ閃光すらも全て空ろに霧散させる暗い土地。
風は澱み、水すら陰り、木々も全てが時を忘れて歪んでしまった、閉じた場所。
世の厄をその身に纏い、幻想郷のどこより暗いところから、世界の全ての為に祈る神のおわす此処にさえ。
毛玉は生息する。
否、其れは毛玉ですらない。
神の一部とも言うべき其れは、何時であれ同じ事を繰り返す。
今日も、今も、目の前でそれは繰り返されていた。
『ひなさまー。』『厄とってきましたー。』
全身から黒く零れる厄を抱えて、其れらはくるくると回る。
「ありがとう。それじゃあ、今からあなたの厄を引き受けるわ。」
鍵山雛は、厄神として其れらの厄を自らのものとする。
厄を全て渡した後も、本来のような白い姿にならない其れらは、
『ありがとー。』『いってきまーす。』
また厄を集めにふわりと飛ぶ。
毛玉ではなく、厄玉となった其れらを見て、
「行ってらっしゃい、無理しないでね。」
自らの役では無かった筈の、暖かな笑みで見送りの言葉と共に。
厄神は回る、くるくると。
『毛玉にも色々な生き方があるのだと、自分はこの目で見て知ることが出来た。
毛玉が何か名前を得たとき、その毛玉は何かの意味を得て、その意味のために生きていく。
しかし、名前が無いことは、役割や意味を持たないこととは違う。
紅魔館から離れることが無かった頃でも、名前は無かったが仕事と言う役割は有った。
未だに名前は無いが、この業務日誌を書いていると言うこと自体にも、必ず意味が有る筈だ。
吾輩は毛玉である。名前は未だ無い。
だが、名前が有ろうと無かろうと、自分がやる事は変わらない。
これからも、自分はこの日誌を書き続けよう。
今でこそ紅魔館からは離れているが、いつか帰ったら掃除をしよう。
掃除が終わったら食堂での仕事もあるだろうし、たまには妖精メイドが全身を綺麗に洗ってくれるかもしれない。
門番隊の活躍を日誌に書くのも悪くないだろう。
美鈴さんならきっと快諾してくれる。
妹様と一緒に遊んだり勉強したりするのも楽しいだろう。
最近はあの館にも客人が多い。失礼が無いようにするにはどうするべきか試行錯誤するのも価値が有るだろう。
館を離れてから、まだ一週間も経っていないが、今から帰った後の事が楽しみで仕方が無い。
今になってやっと実感した事。それは、たとえ名前が無かろうと自分が間違いなく紅魔館の一員であることだった。
全く、なんと今更な自覚であることか。
冥界・白玉楼にて 記録者:毛玉』
距離にして2メートル、毛玉がいる部屋の隣。
「幽々子様駄目ですってば!」
「あら妖夢、いきなり死亡フラグを連発しているものは食べてもいいのよ?それに毛玉は食べたことが無かったし、ちょうど良いわ。ねえ紫?」
「……zzz」
「毛玉逃げてー!?」
楽しみにしてます。
……ゆゆ様に(性的な意味で)食されないように逃げて、逃げて毛玉様。
中国土産で、龍須酥というビニールの外装の中に白っぽい毛が巻きもせずに大量に詰まっているものがあった。
この毛は飴を極限まで細くのばして作ったらしい。もちろん甘い。粉っぽい。たまに針状の飴があって痛い。
毛玉を食べたらあんな感じが……しないと思う。