七月七日。それは短冊に願いを書き、笹に飾る日。
その日の夜では永遠亭で大きな宴会が開かれた。幻想郷に住む殆どの人妖が集まり、酒や食べ物を食べ、そして迷いの竹林から持ってきた一際大きい笹に皆で短冊を飾りそれぞれが楽しんだ。
そんな宴会から翌日の夜のお話。
ここは人里。慧音の家から少し離れた原っぱである。
そこで藤原妹紅はぶすっとしていた。
原っぱに体育座りをして、ホッペを膨らまして不機嫌さをよりアピールしている。
その隣には上白沢慧音が少し困ったように苦笑いをして、こちらは正座をして座っている。
「なあ、妹紅。いい加減に機嫌を直してくれないか?」
「…」
(困ったもんだな…)
先ほどからこの調子で、妹紅は一向に口を利いてくれる様子が無い。それなのに先程からじっと此方の目を逸らさずに見てくる。
「なあ妹紅…。なにか私が気に触るような事をしたならば謝りたいんだ。まず妹紅が不機嫌な理由を教えて欲しい」
これで何度目かの質問をする。これでも駄目かな?と思った矢先に、少し妹紅の唇が動いた。
「……………………………………たの?」
「え?」
妹紅には珍しく小さい声でぼそぼそっと喋ったので、聞き逃してしまった。もう一度聞きなおそうとして口を開こうとした時、妹紅の口がもう一度開く。
「どうして昨日の宴会に慧音きてなかったの?」
それはもう物凄く不機嫌そうな声で、その目は慧音を非難するように、妹紅は言った。
そこで慧音は初めて妹紅の不機嫌の理由を悟る。
まさか自分が来なかっただけで、ここまで妹紅が機嫌を悪くするとは思ってもみなかったから。
「ねえ、どうしてさ?」
「え!?あ、あぁ…。里の子供が勝手に遊びに出かけたまま帰ってこなくて、里の外まで探しに行ってたんだ」
思わぬ妹紅の不機嫌の理由に動揺しながらも、返答を返す。
「そっか…」
理由を聞いた妹紅は慧音から視線を外し、前を向いてため息を吐く。
「それならしかたないか…」
そしてボソっと呟いた。
そのしぐさは遊びに行く予定を邪魔された子供のような、普段妹紅からはめったに見られない仕草。
その様子を見た慧音は少し微笑ましく思えてしまった。
「む、なに笑ってるの?慧音」
その様子に気がついた妹紅は、少し怒った表情で慧音の正面に回りこむ。
「いや、すまない。なあ妹紅、確かに昨日宴会に行かなかったのは悪かった。でも里の人達をほっとくわけには行かないんだ。それにまた来年もあるじゃないか。だから、ゆるしてくれないか?」
「むぅ…」
「な、時間はたくさんあるんだし。今度の宴会は参加するから」
両手を合わせ、頭に持っていって謝る慧音。
「…わかったよ、約束だからね」
「恩に着る!」
そこでやっと妹紅は気を許したのか、先ほどとはうって変わって明るい表情になった。
「ところで妹紅。昨日の宴会は短冊を飾るのがメインだったのだろう?妹紅はなんて書いたんだ?」
「いや、私は書いてないよ」
「書いてないのか」
「うん、輝夜の奴が覗こうとするから止めてきた。…それに私の願いは叶うものじゃないもの」
最後のほうは慧音に聞こえないほど小さく呟く。少し寂しそうに言った妹紅を見て、慧音は少し考える。そして、手をポンっと叩いて立ち上がる。
「なあ、妹紅。昨日短冊を飾ってないのなら、昨日里の者から貰った笹に一緒に飾りにいかないか?」
「へ?」
「昨日迷子になった子供の親にお礼としてもらったんだが、どうしようと思っていたところなんだ。さあ、いくぞ妹紅」
「ちょ、ちょっとまってよ慧音!それに七夕は過ぎちゃったよ!?」
「大丈夫、過ぎたことを無かった事にしてやるから」
「いや、いいよ!大丈夫だから!ねえ、まってよ慧音―!」
「なあ妹紅、なんて書いたんだ?」
「秘密、慧音は?」
「…秘密だ」
二人が短冊を庭先で飾り、部屋に戻る。
その後風で揺れる笹に、寄り添うように短冊が二枚ゆらゆらと揺れていたそうな。
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┃ 出 ┃ ┃ 妹 ┃
┃ 来 ┃ ┃ 紅 ┃
┃ る ┃ ┃ の ┃
┃ 限 ┃ ┃ 願 ┃
┃ り ┃ ┃ い ┃
┃ 慧 ┃ ┃ が ┃
┃ 音 ┃ ┃ 叶 ┃
┃ と ┃ ┃ い ┃
┃ 一 ┃ ┃ ま ┃
┃ 緒 ┃ ┃ す ┃
┃ に ┃ ┃ よ ┃
┃ 居 ┃ ┃ う ┃
┃ ら ┃ ┃ に ┃
┃ 藤 れ ┃ ┃ 上 ┃
┃ 原 ま ┃ ┃ 白 ┃
┃ す ┃ ┃ 沢 ┃
┃ 妹 よ ┃ ┃ ┃
┃ 紅 う ┃ ┃ 慧 ┃
┃ に ┃ ┃ 音 ┃
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てるよさんが影で泣いてそうだが