Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

文霖。新聞 第2刊

2008/07/08 01:38:00
最終更新
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1

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「……とはそもそも……であって。…うーん」


 香霖堂の店主、森近霖之助は悩んでいた。

 コラムの連載を請け負ったのはいいが、締め切り間近になっても、中々満足のいく原稿が出来上がらないのだ。

 大好きな薀蓄も、文章にすると、どうしてか普段の調子が出ない。

 原稿を書いては捨て、書いては捨てを繰り返していた。


「何を書いてるんだ香霖?」

「うわっ!? ……ってなんだ、魔理沙か」

「なんだと言われても、私だよ」


 不意に窓から現れた少女に、霖之助は少し驚いた。

 彼女、霧雨魔理沙は魔法の森に住む、ごく普通の人間の魔法使いである。

 霖之助は、魔理沙が生まれる前、彼女の実家である霧雨道具店で修行していたことがあり、霧雨家とは家族ぐるみの付き合いだった。

 (といっても、霖之助の家族を見たものはいないが)

 魔理沙は数年前、突如実家を飛び出し、魔法の森に居を構えた。

 以来、香霖堂を最も頻繁に訪れている人間である。

 ただし、彼女は『客』ではない。


「ナポリタンにでもなって遺書でも書いてたのか? 私の取り分は全部でいいからな」

「それを言うならメランコリックだ。店に入るのなら玄関からにしなさい」


 へぇーいと、返事をして、魔理沙は表口に向かった。


 来て欲しくないときに限って、一番来て欲しくない人間が来るものだ。

 丁寧に扱えと言えば、壊す。手を上げろといったら、ほれほれと上げる。その奇妙な行動原理をどう理解すれば良いのだろう。

 『魔理沙の法則』とでも題して、これもいつかコラムに載せるべきだなと、霖之助は思った。


―― カランカラ…


「ごめんくださいませ、店主の香霖さんいらっしゃいますでしょうか?」


 気味の悪い声色を使い、おおよそ似合わない挨拶をする魔理沙。

 …ほら、これだ。霖之助はため息で挨拶を返した。


「ほれ、待望のお客様だぞ。メトロポリタンな香霖のために、素敵な茸を沢山採ってきてやったんだからな」

「念のため聞くが、食べれない茸なんだろうな」

「勿論、全部食べれる茸だぜ。毒さえ我慢すればな」


 その答えは霖之助の予想の範疇だった。


「まぁ食えばわかるさ。焼いて酒でも呑もう」

「生憎、今日は手が離せないんだ。悪いが茸祭りは神社のほうでやってくれ」


 霖之助は、何やら書いていた紙をくしゃくしゃと丸め、後ろに放り捨てた。

 カウンターの周囲には、同じ物体が何十と転がっている。


「あー? さっきから何を書いてるんだ?」


 誘いを断られ、魔理沙は少し不満げである。

 霖之助は特に理由も無く、面倒だからと誘いを断ることが良くあった。

 魔理沙はそれが少々気に食わない。


「新聞に載せるコラムの原稿だよ。締め切りが近いんだ。しかし、これが、中々思うように進まなくてね」


 新聞? それって、と魔理沙が言いかけたとき、もう一人、香霖堂に来訪者がやってきた。


――カラン


「毎度お馴染み、射命丸です。今日はご主人の調子を見に来ました…って、あら、泥棒さんもこんにちは」

「なんだ、ブン屋か」

 
 文と魔理沙は顔見知りである。特別親しいわけではないが、文は何度か魔理沙の泥棒行為を新聞で取り上げていた。
 

「ちょっと、その茸、山から採ってきたんじゃないでしょうね?」

「こいつは正真正銘この森で採った茸だぜ。泥棒扱いたぁ人聞きの悪い」

「ならいいんだけど…。もう、何度言ったかわからないけど、あんた自警隊にマークされてるんだから気をつけなさいよ? 捕まっても、私は何もしてあげられないからね」


 魔理沙は、はいはいと、やる気のない返事を返す。文の忠告など、どこ吹く風である。

 山に神様が越してきた事件以来、魔理沙は度々、妖怪の山に侵入するようになっていた。

 専ら守矢神社や河童の住処なんかにお邪魔して、ついでに山の茸を採っていく。

 いや、どちらかというと、茸こそが本命だろう。

 その用途は主に食用ではなく、薬や魔法の触媒だ。必要とあらば、自身で効果を試すことも躊躇わない。

 ただの人間である魔理沙が、並居る豪妖達と対等に渡り合えるのは、そんな地道で危険な研究の積み重ねの結果である。

 幼い少女が実家を捨ててまで選んだ道だ。曲げる気など毛ほどにも無かった。


「ところで香霖が書いてるコラムって、お前の新聞に掲載するのか?」

「ええ、そうです。……ああ、そうでした、ご主人、原稿の仕上がり具合はどうですか?」


 文は本来の用件を思い出し、霖之助に問う。


「あまり芳しくないな。締め切りが間近というのに、この有様だ」


 新聞用のコラムを書くのがこんなに難しいとは思わなかったよ。

 そう言って霖之助は、参ったとばかりに手を広げてため息をつく。

 周囲に転がる原稿用紙達が、悪戦苦戦の末の産物だ。


「締め切りは多少延びても構いませんので、ご主人のやりたいようにやってください」


 一応、締め切りは明日となっているが、文は特にこだわるつもりはなかった。

 『文々。新聞』は不定期発行で作っているため、多少遅れても問題はない。

 また、原稿を落とすことを考えて、代わりのコラムを数回分用意してある。

 できるだけ長く連載してもらうつもりでいたので、一定のスタイルが確立されるまでは、霖之助のペースに合わせていこうと考えていた。


「いきなり迷惑をかけるね。だが、なるべく間に合わせるよ」

「ははっ、新聞作るのも大変だな。どれ、私が香霖の代わりに書いてやってもいいぜ」

「あんたのコラムを載せたら私の立場が危ないわよ。それにどうせ三日坊主でしょう」

「天狗は細かいこと気にしすぎなんだよ。こんなヤツらと一緒に住んでりゃ、河童だって禿げるわな」


 茸の詰まった帽子を被ると、つまらんから神社にいくぜと言って、魔理沙は香霖堂を後にした。


「魔理沙は山にまで出かけているのか」

「はぁ…。ご主人からも何か言ってやってくださいよ。妹みたいなものでしょう?」

「そうだな…」


 霖之助は入り口を見て呟いた。

 尤も、言ってやめるとは思えないが、もしも山で天狗に捕まったなら、タダではすまないだろう。

 天狗は無断で山に侵入されることを、何よりも嫌う。相手が八百万の神々であっても、簡単には迎え入れなかった。

 一体何がそこまで天狗達を駆り立てているのか、麓に住むものには見当もつかない。

 そのため、『天狗は山に地下都市を隠している』とか、『外の世界と通じている』など、様々な憶測が飛び交っている。

 憶測の中には、天狗達自身が面白半分で流した噂も混じっているだろう。

 山の真実を知っているのは、天狗だけだ。







「さて、ちょっとコラムの原稿見せてもらえませんか?」

「どうぞ」


 書きかけの原稿を文に渡す。

 霖之助が、記念すべき第一回目の題材に選んだのは『地震』だった。

 コラムを書く遠因にもなった、外の世界の地震。そして幻想郷の地震。

 新聞の日付から時系列を調べてみると、外の地震から少しの時間をおいて、幻想郷での地震騒ぎがあったらしい。

 霖之助は、この二つの地震に何らかの因果関係があるのではないかと考えた。

 もし、外の地震のニュースを逃さずキャッチできれば、その地震が幻想に到達するまでの時間を、ある程度予測できるかもしれない。

 現段階では仮説の域を出ないが、もっと過去の資料や、長い時間をかけて観測すれば裏づけが取れるだろうと考えていた。


「や、第一回目は『地震』ですか。ふふ、思えばこれが縁でしたね」

「完成稿ではないが、率直な感想を聞かせて欲しい」

「わかりました、ではでは」


 …ほう、ふうん、へぇ、なるほど。うんうんと頷きながら、文は霖之助のコラムを読み進める。


「ご主人、これ…なかなかどうして、面白いじゃないですか!」


 文は目を輝かせて霖之助を賞賛する。コラムの内容は、文の予想以上に面白かった。

 ちょっと褒めすぎじゃないか?と言いつつも、霖之助も内心、満更ではなかった。


「この題材だと、コラム一回分の文字数じゃ到底足りませんね。二回か三回に分けましょうか」

「そのつもりだよ。しかし、もう少し推敲したい」

「え? これだけ出来上がってるのに、一体何が足りないんです?」

「色々とね。読者は僕達のような妖怪だけじゃないんだろう? なら、もう少し人にもわかりやすい文章にしたいんだ」

「はぁ、本当に凝り性ですね……」


 このままでもいいのになぁ、と文は苦笑する。

 しかし、あまり乗り気でなかった霖之助が、『読者のため』を考えてコラムを書いていたのことが無性に嬉しかった。

 ならば、ただ褒めるよりも、少し注文をつけたほうが、霖之助には丁度良いのかもしれない。


「でも、確かに少しお堅い印象はありましたね。読者に語りかけるような口調に直すのも、良いかもしれません」

「考えてみるよ。なるべく明日までに仕上げてみるが……」

「頑張ってくださいね、私も楽しみにしてますから」


 では、これ以上お邪魔するといけないので。そう言って、文も香霖堂を後にした。







「まぁ…こんなものか…」


 結局、霖之助が原稿を書き上げたのは、真夜中だった。床には紙玉の雪が積もっている。

 その日霖之助は、カウンターに伏したまま眠ってしまった。







―― ぉーい、香霖ー、起きろー!昼だぞ。


 妹分の声で、霖之助は起こされた。

 寝すぎたせいか、体が少し重い。

 大きな欠伸をして、目をこすると、魔理沙の顔がはっきりとしてきた。


「眠い…」

「まさか夜中まで書いてたのか? よくやるぜ」


 気が付くと、背中には毛布が掛けられており、紙玉の雪も綺麗に解けて消えていた。


「ん…。魔理沙がやってくれたのか…。ありがとう」

「あん? 何のことだ?」

「毛布とかゴミとか ――あれ?」


 書き上げたはずの原稿が見当たらない。原稿のあったはずの場所には代わりに『文々。新聞』が置かれていた。


「さっぱり話が見えないぜ」

「いや、いいんだ。何でもなかった」


 魔理沙はわけがわからないといった顔をして、霖之助の顔をみていた。







(続く)
とりかたによっては、自己投影にもとられかねない、ちょっと鼻に付く話になってしまったかもしれません。

誤字脱字、批判感想なんでもくださいね

修正できたわー
千と二五五
コメント



1.ティファーリア削除
では、遠慮なく誤字報告させてもらいますね。

霧雨道具点>店ですね。

といっても、見えた誤字はこれだけです。
物語も続きが気になる構図ですね。 見習いたいです。
2.ミヤギ削除
いや、本当におもしろいです。続きがかなり気になりますね。
楽しみにしています。
3.名前が無い程度の能力削除
こういう雰囲気好きだ
続きが楽しみです
4.名前が無い程度の能力削除
5.千と二五五削除
>ティファーリアさん

誤字の指摘有難う!

と、修正しようとおもったらパスワードが変わっていて修正できない…何故だ
6.時空や空間を翔る程度の能力削除
テーマを「地震」ですか~。
最近たしかに地震が多いですかね~。
中々読んでいて面白いです。