迷い込んだ者以外はほとんど来る事ができないマヨヒガ…
その家の主である八雲紫がお酒を飲んでいた
「…紫様…」
「何かしら?藍」
お酒を飲んでいる所に、自分の式である八雲藍が声をかけた
「よろしいのですか?…紅魔館の門番を冥界に行かせて」
その言葉に紫は静かにお酒を飲み干す
「…確か今夜は冥界で……」
「藍…」
続けて話をしようとした藍を紫が止める
「…大丈夫よ…あの門番が幽々子の投げ技を見ることなんてないんだから」
そう答えると、紫は藍にお酒を持ってこさせるように伝えた
「…そう……もし投げ技が見れるとしたら…」
藍が家の奥にお酒を取りに行っている間に、紫が考え込む
(…もし、あの技が見れるとしたら…死ぬわね…)
それが誰かとは言わずに、紫はお酒を飲み干した
どうもみなさん……紅美鈴です…
……ぜぇぜぇ…今は…ちょっと…疲れています…
今から少し前に、マヨヒガから冥界に続く門の前まで
隙間経由で連れてこられたんですけど…
隙間を作った張本人から
「冥界に行くならついでにこれも運んで~」
と言って渡されたものが問題であった
持って行くのは別にかまわないが…
「重い……」
自分以上に大きな籠を担いで、この階段を上るのは
正直言ってかなり辛い
まあ、これも修行と思って…そして犬に噛まれたと
思って諦めるしかないのだが
「……重い…」
…重たいと言う気持ちはけしてなくならないだろう
「仕方ありません…」
自分にそう言い聞かせると
「ぬりゃ~!」
目の前の階段を、三段飛ばしで駆け登って行く事にした
「ぜぇ…はぁ…ぜぇ…はぁ…」
かなり長い時間を美鈴が階段を駆け上がって行くと
「…み、見える…私にも見えるぞ!」
ようやく冥界の入り口が見えてきた
美鈴がその入り口に向かって一歩ずつ歩いていくと
「誰だ!?この冥界の門を超えてきた者は」
自分の目の前で誰かが入り口を塞いだ
両手に剣を構えた、自分より少し小さな勇ましい女の子の姿…
その人物が刀を構えて美鈴を睨みつける
「如何なる者も、今日は此処を通す事は許さない!」
そして、刀を構えて…
「ま、待ってください!妖夢さん!私ですよ!」
切りつけるよりも先に美鈴が声をかける
「…えっ?…その声は…美鈴さん?」
「はい!」
驚いた表情で刀を納めてくれた
美鈴がマヨヒガから持って来た物の事を話すと
妖夢も納得してくれ、奥の方に案内してくれる事に
その道を歩いている途中で、妖夢が美鈴に話しかけてきた
「今日は一体どのようなご用件で?」
「はぁ…実は……」
美鈴が修行のために色々な所に回っている事を話す
「という事で、幽々子さんに投げ技を見せてもらおうかと…」
その言葉を聞いて、妖夢が首を傾げる
「あの…」
「なんでしょう?」
妖夢が言いにくそうに美鈴に答えた
「…私も、ある程度は幽々子様の元で働いてきたんですが…
そのような話は今まで一度も聞いたことはありません…」
その言葉を聞いて、美鈴は考え込む
常に幽々子の傍にいる妖夢が言うのだから
信憑性はかなり高い……
(ですが、だからと言ってレティさんの話が嘘とは考えにくい)
だが、レティが言ってくれた事も嘘とは思えない
美鈴が荷物を担ぎながら、考えていると
「あっ、すいません此処に荷物を置いてもらえますか?」
気がついたら、荷物を置く場所までたどり着いていた
「あっ、はい…よい…しょっと…」
(ズズズズッ…)
荷物を地面に降ろすと、少しだけ地面が揺れた
それを見て、妖夢が少し顔を引きつらせて聞いてきた
「…美鈴さん…これ…一人で持って来たんですか?」
「はい…重かったです、今朝から背負いっぱなしで」
美鈴が頷くと妖夢も同情してくれた
「とりあえず、少し休んで行ってください…」
「あ、すいません」
妖夢が美鈴にお茶を渡すために少し離れてから
心の中で美鈴が移動した速度を計算する
「…あの荷物を持って…時速5キロ……」
そう呟いて、自分も修行を頑張ろうと心に誓った
「……さて…」
妖夢がお茶を用意している間、美鈴は考えていた
(妖夢さんの言っている事には嘘は無いですし…)
美鈴と同じで妖夢は嘘が苦手だ
それに、もし嘘をついたのなら
気に何らかの反応がでるので、美鈴には分かる
(でも、レティさんも嘘は言っていないんですよね…)
無論、レティが嘘をついているというのも
考えられない、もし嘘をついていたのなら
藍の投げ技の事も嘘になるはずだからだ
「…ん~…」
美鈴がこの矛盾を考えていると
(どたどたどた)
「妖夢~おやつまだ~?」
美鈴が相手になってもらうはずの本人が目の前にやってきた
そして、しばらく美鈴を見つめて
「…あら?妖夢…髪の毛染めたの?」
「それ、本人の前で言ったら家出されますよ…」
盛大にボケてくれた
美鈴がそれに突っ込むと幽々子が口元に扇子を当てて笑う
「いくらなんでも冗談よ…え~と…」
「紅美鈴です!」
絶対に名前を間違えて呼ばれると判断した美鈴は
それをさせる前に自分の名前を叫んだ
「そうそう、そんな名前だったわね…」
幽々子が少し考えてからそう答えた
(絶対に名前覚えてくれそうに無いですね…)
美鈴が半ば諦めてため息をつくと
「…あの…実は今日来たのは…」
この白玉楼に来た理由を問いかけようとした
「ええ、紫から聞いているわ」
だが、それよりも先に幽々子が答える
「それでは」
美鈴が戦ってもらえると思っていたら
「踊りを見に来たんでしょ?」
「えっ?」
全く思っていなかった事を言われた
「うれしいわ~…前は紫と二人で少し寂しかったけど
他にも見学してくれる人ができるなんて」
美鈴が何かを言う前に、幽々子がそう告げる
「あ、あの…幽々子さんが、強力な投げ技を
知っているって聞いてきたんですけど」
美鈴が、そう呟くと幽々子が首を傾げる
「あら?…残念だけど私はそんなの知らないわよ」
幽々子がそう答えると
「踊りなんだけど、夜まで待ってね?準備があるから」
美鈴の言葉を無視して幽々子は再び、
妖夢を探すために移動していってしまった
「……」
一人残された美鈴が考える
(…幽々子さんは、投げ技の事を知らない…)
先ほどの話から美鈴は考える
(だけど、もしそうなら此処に来る前に紫さんが何か言ってくれるはず)
もし、本当に投げ技が無いのなら
マヨヒガで送ってくれた八雲紫が何か言ってくれるはずだ
「…つまり、紫さんは何か知っているという事ですか?」
美鈴がそこまで結論を出すと
「すみません、お待たせしました」
妖夢がお茶とお茶請けを持って美鈴の前に帰ってきた
そして、美鈴にそれを渡すと
「すいません…申し訳ないのですが、少し
幽々子様の方へ行かないと行けないので」
と言って、頭を下げたので
「構いませんよ?それに主は大切ですから」
美鈴が笑ってそう言ったので
妖夢は、苦笑いをうかべて頷いた
お互い仕える者として、大変なのだ
しばらくの間、美鈴が出されたお茶とお茶請けを食べていると
妖夢が美鈴の元に再び現れた
「すいません美鈴さん、お時間よろしいですか?」
「はい、あいてますけど?」
美鈴が何事かと思っていたら
「よかったら、手合わせ願えますか?」
妖夢が練習用の木刀を持って姿を現した
それを見た美鈴が嬉しそうに答えた
「願っても無い事です」
本来なら、修行の為に旅をしているのだ
このように相手から勝負を告げられるのは願っても無い事だ
「では、表の方で」
それが、妖夢程の手馴れならば尚の事である
美鈴と妖夢は急いで縁側から出ると
「「勝負!」」
その場で試合を始めた
「今回は見てくれる人が多くて嬉しいわ~」
「ええ…そうね」
美鈴と妖夢が戦っている時
紫と幽々子は二人で冥界の庭を歩いていた
「うふふっ…でも、意外なお客が来てくれたわね」
幽々子がそういったのは
「紅魔館の門番の事?」
「ええ、え~と…」
幽々子が頭を押さえて、名前を思い出そうとしているのを
紫が隣で見ながら考えていた
(……最悪な事にならないようにしないと…)
今夜行なわれる、踊りが無事に終わる事を紫は願っていた
(…今夜の踊り……)
その本当の意味を知っているのは、今は紫だけだった
「…かり?…紫~?」
自分の名前を呼ばれた事に、ようやく紫が気がついた
「大丈夫?」
「ええ……ごめんなさい、ちょっと考え事してて」
紫がそう伝えると、幽々子もそれ以上は何も追及せずに
「それより、美味しいお酒は用意してくれたの?」
幽々子は今日の為に紫が持ってきてくれたであろう
お酒の事を聞いてきた
「…ええ、銘酒を大量に用意してきているわよ」
紫は嬉しそうなため息をついてそう答えた
(…大丈夫……幽々子は私が守るから…)
胸に、そういう思いを潜ませながら
「はぁ…はぁ…」
「ふぅ…ふぅ…」
美鈴と妖夢が肩で息をしながら
お互いの出方を見ていた
勝負は随分長い間行なわれていた
妖夢が木刀を構えて一気に駆け込むと
美鈴はそれを円を描くようにして避け
逆に、美鈴が気弾を放つと
妖夢はそれを全て手にした木刀で弾く
そして、お互いが最後を繰り出すために
呼吸を整えると
「「せいっ!」」
ほぼ同時のタイミングで二人とも攻撃を繰り出し
美鈴の手刀が妖夢の首筋に
妖夢の木刀が同じく美鈴の首筋に触れた所で止まっていた
「…相打ちですね」
美鈴がそう言いうと妖夢の首から手を下ろす
「…はい」
妖夢も美鈴の首に当てていた木刀を離した
「…ありがとうございました」
「いえいえ、こちらも良い体験をさせてもらいました」
試合を終えて美鈴と妖夢がお互いに礼をする
「ふぅ…美鈴さん凄いですね…」
肩で息をしながら、妖夢は美鈴にそう話しかけた
妖夢は弾幕が一切ない接近戦なら
そう簡単には負けないと思っていたが
美鈴と戦ってみて、まだまだ自分が未熟であると痛感した
「妖夢さんの方が凄いですよ…」
美鈴の方は、妖夢の攻撃の鋭さに驚いていた
本来なら、弾幕の完全に無い接近戦なら
美鈴の方には体力がある分
妖夢よりも美鈴の方が有利なのだが
妖夢の攻撃の鋭さはそれをほとんど気にしなかった
「…みょん…もっと強くならないと、師匠の妖忌お爺様に怒られそうです」
「妖忌さん?」
聞きなれない言葉を聞いた美鈴が
妖夢に問いかけると、妖夢が答えてくれた
「はい、私のお爺様で私に剣術を教えてくれた師匠です」
妖夢が自慢気に語る
「剣術を教わる時は凄い怖かったですけどね」
妖夢の話している顔を見て、美鈴は
その人物がいかに妖夢を可愛がっていたのかを感じた
「…今は何処にいるんですか?」
美鈴がそう伝えると、妖夢が寂しそうな顔になる
「分からないんです…ある日いきなり何処かに行ってしまいましたから」
妖夢がそう語ってから起き上がる
「…でも、お爺様はそう簡単には死にませんから、
お爺様がかえって来るまで、私が幽々子様を守りするだけです」
そう言い切った妖夢の顔は笑顔だった
「妖夢さんなら大丈夫ですね」
美鈴はそう言うと、自分も起き上がった
美鈴が足の砂を手で払いながら妖夢に問いかける
「妖夢さんはこれからどうするんですか?」
美鈴の問いかけに対して妖夢は笑いながら答えた
「はい、これから日課の素振りをして食事の準備ですね」
何気なくそう言うが、妖夢の素振りは
重たい刀を持って何千回も振るのである
「それと、今夜は幽々子様が特別な舞を舞うそうなので
少し豪勢にしようと思っています」
妖夢がそう付け加えると
「もしよかったら手伝いましょうか?」
美鈴がそう返す
「で、ですが…お客様にそのような事を…」
妖夢が少し申し訳なさそうにしていると
「そんな気にしないでくださいこちらが押しかけたんですから」
美鈴がそう言ってくれたので
「お願いしてもいいですか?」
「任せてください」
妖夢は美鈴に手伝いをお願いする事にした
「それでは、私はもう少し修行を続けます」
「はい、では私は少し考えたい事あるのでこれで…」
妖夢が素振りをする間、美鈴は先ほどの客間に向かった
「…さてと…」
美鈴が部屋の中に入ると、目を瞑って集中する
(妖夢さんの言っていた言葉に嘘はないですね…)
先ほどの戦いの中にも妖夢の性格は如実に現れていた
嘘をついたのならば、それは美鈴にはすぐに分かるだろう
(そして、幽々子さんの言葉…)
投げ技の事など本当に知らないようだった
知らないふりというのも考えられたが
それなら、一言断ればそれで済むのだから
(…ですがレティさんの言葉にも嘘はありません)
だが、レティ嘘をついているという事は無い
それなら、八雲藍の投げ技も嘘になるはずだからだ
(…これらを総合して考えられる事といえば…)
美鈴が頭の中で考え始める
いろんな可能性を考慮して考えて
(…うぅ…なんで投げ技修行のはずなのに頭使わなきゃいけないんですか)
考えすぎて頭が痛くなった
(はあ…もう考えるの止めたいな……)
美鈴がそう言って、縁側でごろんと横になろうとして
「…考えるの…止めたい?…」
ふと、何か考えれそうな事が思いついた
「…もしかして…」
美鈴がもう一度、頭の中で考える
そして、一つの考えが頭の中に浮かんだ
「そうです…この考えならレティさんと妖夢さんの矛盾も
そして、幽々子さんが投げ技を知らないのも…」
美鈴がそこまで考えたのだが
唐突にもう一つの欠点が浮かんできた
「…証拠がありません」
考えはあくまで考え、証拠も無い上に
(この考え方だと、幽々子さんに聞いても分からないですし…)
「はあ…八雲紫さん色々聞いておけば良かった」
もう打つ手無しと、美鈴が諦めてごろんと横になると
「呼んだかしら?」
「うわっ!?」
いきなり自分の背中から声が聞こえてきた
美鈴が思わず起き上がると
「や、八雲紫さん?」
「お久しぶりね」
そこに居たのは、この白玉楼に荷物を運ばせた
張本人…八雲紫の姿があった
「それで?嘘つきは誰かわかったかしら」
紫が面白そうに美鈴にそう話しかける
此処で言う、嘘つきとはすなわち…
「…レティさんか妖夢さん…そして幽々子さんの中からですね?」
美鈴の言葉を聞いて、八雲紫は
にやける口元を扇子で隠しながら首を縦に振る
それを確かめてから、美鈴は答えを出した
「皆本当の事を言っています」
「あら?それじゃあ矛盾が生じないかしら?」
そう、もし三人とも本当の事を言っているのなら
幽々子は投げ技を知らないで、妖夢も知らない
レティは幽々子が投げ技を使うと言う、矛盾が生じる事になる
「でも、それらの矛盾を無くす方法が一つだけあるんです」
「…面白そうね、ぜひ聞かせて?」
美鈴が自分の考えを紫に伝えた
「それは、幽々子さんが記憶を忘れている場合です」
そう、もし幽々子が昔の記憶を忘れていたら
三人の矛盾が全て消える
「幽々子さんが妖夢の来る前に投げ技を使っていたとしたら」
美鈴が言いたい事は簡単だ
妖夢が幽々子の下で長く働いているのは分かる
だが、もしレティが知っているのが
妖夢がまだここに来る前である
生前の幽々子であるとしたら……
「白玉楼に来る者は、生前の記憶が無くなると聞きます」
美鈴が八雲紫を見据えて伝えた
「…これなら皆が言っている事が完全に当てはまります」
「でも、所詮は想像でしょ?」
美鈴の言葉を聞いた紫は全く表情を変えないでそう返す
「はい、ですが幽々子さんが投げ技を持っていたという事は確信しています」
「…それはなぜかしら?」
紫の問いかけに対して美鈴は確信持って答えた
「そもそも、紫さんがここに運んでくれた事事態がおかしい事なんです」
紫がここに美鈴を運んだ、それだけで何かがあるという事である
「もし、本当に幽々子さんが全く関係なかったら
幽々子さんの親友である紫さんが
私をここに連れてくるはずがないんです」
八雲紫の親友である西行寺幽々子
もし、幽々子に関係無い事で迷惑がかかるとしたら
迷惑をかける相手を向かわせる事はないはずである
美鈴がそこまで話すと、紫と美鈴がお互いににらみ合う
そして、しばらくして
「…まいったわね」
紫がため息をついてそう呟いた
「と、いう事は?」
美鈴が紫に真意を問うと
紫は両手を上に上げて答えた
「降参よ、まさか真実にたどり着くとは思っていなかったけどね」
「それじゃあ、話してくれるんですか?」
「…ええ…と言っても、ほとんど貴方が想像したとおりなんだけどね」
降参した紫が、静かに話し始めた
初めて私が幽々子と合った時には
幽々子は名家である西行寺家の一人娘として
厳しく育てられていたの
そのために、遊びを知らずに厳しい作法を毎日していたわ
挨拶から始まって、茶道、和歌、舞踊…
幽々子が一番好きだったのは舞踊…
でも、一番上手かったのは
護身として教わった武道…古武術
「いえ、骨法と言ったほうがいいかしら?」
「骨法…」
美鈴がその言葉に反応した
相手の攻撃をそのまま攻撃に変えると言う
いわば当身技を基本とした徒手武術であり
完全な習得はそれこそ、長い時間が費やされる
美鈴が考えている間も、紫の話は続く
幽々子は争いごとは絶対に嫌だった
だけど、皮肉な事に
幽々子には武術の才能があったの
ついには教えてくれるはずの師範…
自分の父親も相手にならなくなってしまった
そして、誰にも会得できないとされた
古武術の奥義を完成させてしまったの
「…こういうのもなんだけど、本当に天才だと思ったわ」
「…才能は生まれた時からの物ですからね…」
美鈴はそう言うと自分が不器用である事を思い出して苦笑した
私と出会ってからは、武道の時間を削って
一緒に遊ぶ事ようになったわ
幸い、幽々子の父親も何も言わなかったみたいだった
そんなある日、幽々子に変な力が目覚めたの…
「…死を操る能力…ですか?」
「少し違うわね…」
始めは死霊を操る程度の能力だった
やがて、その能力が変化して行き死を誘う程度の能力になった
それは、人が持つにしては大きすぎる力だった
覚悟がある人ならともかく
箱入り娘で育ってきた幽々子には重過ぎる力だったわ
「…大きすぎる力…」
「ええ、人が持つには重過ぎるわ…」
紫の声を聞きながら、美鈴の頭には
瀟洒で完璧なメイド長の姿が浮かんだ
(…帰ったら、マッサージしてあげよう)
「話続けるわね?」
「あ、はい…」
そんな時だった、幽々子の能力に
とある大妖怪が目をつけたの…
私じゃないわよ?
……幽々子の能力と同じ
人を魅了して冥界に命を誘う妖怪桜…
「それが…この白玉楼にあるもっとも古いを持った妖怪桜…西行妖よ」
「西行…妖…」
名前を聞いただけで、美鈴の背中にぞくりと寒気が走った
……その妖怪桜が幽々子に目をつけた理由…
それは良くわからないけど、西行妖は
幽々子の体乗っ取ろうとしたの
そのためには幽々子の心が邪魔だったの
「…人の心を殺すのに簡単な事って何だと思う?」
「……絶望…ですか?」
美鈴の回答に、紫が頷く
「そう、そして絶望をさせるのに一番の方法は…」
その人の大切な人を殺す事…
一番始めに死んだのは幽々子の父だった
日に日に幽々子の周りの者が死んでいった
それによって、幽々子の心はドンドン削られていった
そして……ある日幽々子はこう言ったの…
『西行妖を封印する』と
「その場に居た私と、西行寺家の庭師にて剣術指南役であった
魂魄妖忌も一緒に手伝うと約束をして」
でも、幽々子は約束を破った…
その日の夜に私が幽々子の寝床に向かうと
そこに幽々子は居なかった
私が急いで西行妖の所に向かうと
そこには、自分の体を生贄にして西行妖を封印し
血まみれになっている幽々子が倒れていた…
紫がそこまで語ると話すのを止めた
「…ここから先は話すつもりは無いわ」
「はい…」
美鈴がここにやってきたのは、投げ技修行のため
八雲紫と西行寺幽々子の悲しい過去を聞く為ではない
「これだけは言えるわ…」
紫がどこかに向かう為の隙間を開きながら美鈴に話しかけた
「あなたの望むような技は、もうこの世にもあの世にもないわ」
「…そのようですね」
紫の問いかけに美鈴はただ頷いた
その投げ技は、もう二度と表に出さない方が良いと
美鈴は思ったからだ
「それじゃあ…」
紫が隙間の中に入って行こうとして
「そうね…せっかくだから幽々子の踊りを見て行くといいわ」
思い出したかのように、美鈴にそう告げて隙間の中に消えていった
紫が隙間に消えてから、美鈴はこれからどうするかを考えた
(今日はとりあえず泊めてもらって
また、別の所に修行に行くとしますか…)
とりあえず、そのような結論を出して
美鈴は自分が居る部屋から表に出ると
すでに表は夕暮れ時になっていた
「そういえば、妖夢さんと料理を作る予定でしたね」
約束を思い出した美鈴は、妖夢を探す為に表に出る事にした
白玉楼の庭は果てしなく広い
その庭の一角で妖夢は一人黙々と素振りをしていた
(984…985…)
先ほどの美鈴との試合の高揚感がいまだ抜けない
いろいろな人と戦う事で、自分に足りない物が分かり
それを、自らの手で少しづつ直していく
(998…999…)
最後の一振りをして、妖夢は素振りをするのを止めた
「…ふぅ…」
額についた汗を拭う
いまだ覚めやらぬ高揚感を落ち着かせるため
最後に自分の剣の師匠である妖忌から教わった
基本の型を一からゆっくり試していく
その型をしている最中、ふと妖忌から言われた
最後の言葉が思い出された
(…お爺様…私には、未だその言葉の意味がわかりません…)
「妖夢さん」
そんな時、妖夢の傍に美鈴が歩いてやってきた
「あ、美鈴さん?」
妖夢は急いで美鈴の方を振り向いた
「探しましたよ、そろそろ食事を作る時間かと思いまして」
美鈴に言われて、妖夢は今が夕方である事にようやく気がついた
「あ、はい…でも最後の練習を終えてから」
妖夢はそう言うと、残り数個の型を終えた
そして、最後にゆっくりと刀を鞘に収めると
「…綺麗な動きですね」
美鈴がその動作を褒めた
「うれしいですけどまだお爺様にはかないません」
妖夢は照れくさそうにしていたが、首を振った
「美鈴さん、この言葉の意味…美鈴さんならどう考えますか」
妖夢がそう言うと、美鈴に対して疑問を投げかけた
美鈴が何でしょう?と声をかけると、妖夢はゆっくり答えた
『全てを斬れる事よりも、斬れないものが有る方が強い』
魂魄妖忌が、白玉楼から姿を消す前に妖夢に教えた言葉
妖忌は刀によって、全てを断つことができた
だが、妖忌はそれではまだまだ弱い…そう、妖夢に教えたのだ
「……お爺様が最後に残した言葉…その意味が良くわからないのです」
妖夢が地面を見ながらそう告げた
美鈴もその言葉を考える
どんなものも切れる力があれば、それは最強であるはず
だが、切れない物があるものの方が強い
まるで禅問答のようであった
「…あはは…私の頭では良くわからないですね」
美鈴が妖夢にそう笑いかけると
「ただ、その斬れない物っていうのは、とても大切なような気がしますね」
「大切な…もの…」
その言葉は、不思議な事に妖夢の心に少しだけ残った
「そろそろ料理の準備しないといけないんじゃないんですか?」
「みょん!?」
妖夢と美鈴は大急ぎで台所に向かう事になった
「幽々子~…何処行っちゃったのかしら?」
美鈴と別れた八雲紫は、幽々子を探し回っていた
「…屋敷にはいないみたいね」
隙間の中から屋敷の中を探していたが
何処にも見つからなかった
(外かしら?)
時たま、幽々子が白玉楼の庭を歩く事を思い出す
「そうね…たまには私も歩いてみましょうかしら」
少しの気まぐれから紫も白玉楼の庭を歩く事にした
庭であるとは到底言い切れないほどの広さを誇る広さ場所に
桜の木が大量に埋められていた
どれもこれも、立派に手入れをされており
病気にかかっている物、歪な物などはほとんど無かった
(幽々子が言ってる通り、妖夢も立派に庭師をしているのね)
紫がそう思いながら、目的の場所に向かって歩き出す
(…まあ、まだ剪定は妖忌には程遠いみたいだけどね)
かつての白玉楼の庭師である妖忌を知っている紫としては
未熟な所が少しだけ見え隠れしていた
そんな事を考えながら、さらに死の匂いが強い方行に向かって歩く
(幽々子が居るとしたらあそこしかないわね)
紫が向かっている先は、この白玉楼にある有名な桜がある場所であった
幽々子が気に入っている、立派な老木の大桜
その大きな桜の木…西行妖の下に幽々子は立っていた
「やっぱりここに居たのね、幽々子」
紫が立っている幽々子に声をかける
声をかければ自分の事に気がついた幽々子が
こちらやってくると思って声をかけた
「……」
だが、幽々子にはそのような声が聞こえていていないみたいだった
「幽々子?」
おかしいと思った紫は、幽々子のすぐ傍に向かうとさらに呼びかけた
「幽々子!」
紫が幽々子の肩を掴んで名前を叫ぶと
幽々子が紫の顔の方を向いた
「…ゆ…かり…?」
幽々子はそう言うと、力を無くしたかの用に
全身の力が抜けて倒れそうになった
紫がそれを必死に抱きとめる
「幽々子!?どうしたの!?」
紫は生気が全くない顔の幽々子に必死に声をかける
「…ゆ…か…り…」
「幽々子!」
倒れた幽々子が、何かを必死に紫に伝えようとする
紫が幽々子の口元に耳を近づける
「にげ…て……私じゃない…誰かが…私…を…」
そこまで聞いた紫は、頭の中に一つの可能性が浮かんだ
(まさか!?)
紫が最悪な想像をした瞬間
倒れている幽々子の身体に力が入る
(……死ね)
「!?」
幽々子のものとは思えない声が放たれるのと同時に
その体から、農密度な死の気配を放ちながら
強力な掌底が放たれ、紫を遥か後方に吹き飛ばした
「妖夢さん、この材料使わないんですか?」
「捨てはしませんけど、賄いでしか使えませんね」
美鈴が妖夢と料理を作っていた
「…これと、これと…」
「美鈴さん?どうしたんですか…そんな色の悪い材料集めて…」
美鈴が手に取ったのは、色の悪い米や馬肉、鮒、鯰、豚肉…
料理として使うには、少々見栄えが悪い代物だった
「これだけあれば、久しぶりにあの料理が作れます」
美鈴が笑みを浮かべて、何かを作ろうとした時
得体の知れない変な気が、一瞬だけ発せられた
「妖夢さん!?」
「はい!何かあったみたいです」
常人でも、寒気がするほどの気
妖夢と美鈴ほどの者なら、すぐに気がついた
「あれは殺気です」
妖夢がそう叫ぶと同時に、妖夢が二振りの刀を装備して表に飛び出す
美鈴もほぼ同時に表に飛び出すと
「あっちの方です!」
殺気が感じられた方角に向かって
二人は全力で走り出した
「火は消してきましたか!?」
「大丈夫です!キッチリ火を消してきました!」
きちんと火の元も確かめる辺り
ふたりの料理の年季を物語っていた
幽々子の掌底を受けて後方に飛ばされた紫は
飛んだ際に、ぶつかったであろう木の根元で座り込み
無言のまま、掌底を放った幽々子…
否、幽々子を乗っ取った者を見つめていた
(ほう?流石だな八雲紫)
吹っ飛ばされた紫の方に向かって
幽々子がゆっくりと歩いてくる
(まさか、あの一撃を瞬時に理解して自ら後方に飛ぶとは)
「…ばれちゃったかしら?」
紫がおどけるようにそう伝える
いかに紫と言えど、殺す気で放たれた
幽々子の一撃を受ければ死なないにしても
怪我を負う事は免れない
故に、紫は自らの力で後ろの飛んだのだ
(だが、完全には避けれなかったみたいだな)
「……」
言われたとおり、紫の肩の部分は
何かに削り取られたかのようになっていた
(…今度は終わりだな、お前はこの娘には攻撃できまい)
幽々子を乗っ取った者が紫にそう告げる
そして、紫に対して手をかざし止めになる一撃を加えようとした時
紫が少し笑ってから、手をかざす
「攻撃はできないけど」
その瞬間、幽々子の体の周りに結界が張られる
(むっ!?)
「…動きを止めるぐらいならまだできるわ」
結界で身動きが取れない用にがんじがらめにする
(だが、時間稼ぎ程度にしかならぬみたいだな)
幽々子に取り付いた者がそう告げると
紫は笑みを浮かべて答えた
「あら?それで、十分よ幽々子…いえ、西行妖」
紫のがそう告げると後ろから二人分の足音が聞こえてきた
「紫さん!?」
「幽々子様!」
美鈴と妖夢が先ほどの気が発せられた場所を
目指して走ってきたら、そこには座り込んだ紫と
何時もの雰囲気が違う幽々子の姿があった
「遅かったわね」
「一体何があったんですか!?」
良く見ると、怪我をしている紫に対して
美鈴が何があったのかを問いかけた
「…最悪の事態よ」
紫が真剣な顔をして妖夢と美鈴に答えた
「幽々子があの西行妖に乗っ取られたわ」
「幽々子様が!?」
妖夢が叫ぶと、紫が頷いた
「幸い、まだ幽々子の体を完全に乗っ取ってはいないみたいだから
弾幕を放つ事はできないみたい」
紫が自分が受けた一撃などから、戦闘力の分析をした
「迂闊だったわ…西行妖の意識がでてくるのがこんなにも早まるなんて」
「どういう事なんですか?」
紫の言葉に美鈴が反応する
「…今夜の幽々子が行なう踊り…あれは西行妖にかかっている
封印の緩みを直すための、一種の儀式だったのよ」
数百年に一度、二度と西行妖が出てこないように
がんじがらめに封印をかけなおす為の儀式であったのだ
「だけど、今回はしばらく前の異変のせいで、思っている以上に
西行妖の封印が弱まるのが早かったみたい」
そのせいで、西行妖の意識だけが表に出ることができたのだ
「で、ですが…幽々子様ほどのお方がそう簡単に…」
妖夢がそう言うのを見て、紫が首を横に振る
「…西行妖に『死を操る能力』は効かない…同じ能力を持っているから」
紫がそこまで答えると、がんじがらめになっていた
幽々子に乗り移った西行妖の結界にヒビが入った
「どうすれば幽々子様を戻す事ができますか!?」
妖夢が震える手で刀を構えて紫に話を聞く
「…何とかして、幽々子の体から西行妖の意識…
魂みたいな物を引き剥がさないと」
「どうやってですか!?」
妖夢が怒鳴るように返す
「幽々子を気絶させないと無理ね」
紫がそう言うと、結界がさらに解れ始める
妖夢が刀を握り直した時
「妖夢さん下がってください」
「美鈴さん!?」
美鈴が妖夢の肩をポンと叩いた
「気絶させるのでしたら、私の方が適任です」
正論であった、妖夢の刀では下手な事をしたら
そのまま断ち切ってしまう
「それに、己の主に刀を向けるなんて事出来ないでしょう」
自分の主に刀を向ける…そんな事従事者としては
できるはずがない、それが操られていたとしても
妖夢は美鈴に道を譲った
「…幽々子様をお願いします…」
「分かりました!」
美鈴が構えを取ると同時に、
がんじがらめになっていた結界が完全に破壊された
結界の内側から現れた、幽々子…西行妖は
自分にとって一番の邪魔になるであろう紫に追撃をしようとしたが
「貴方の相手は私です」
目の前に現れたのは赤い髪をもつ妖怪の姿であった
(…小妖ごときがわが前に立つか)
全身から発せられる気だけで目の前の妖怪を威圧する
「小妖ですが、幽々子さんの体から貴方を除きます」
だが、その妖怪…美鈴は一切それに怯まなかった
自分を恐れぬ美鈴の態度が気に入らなかったのであろう
(小ざかしいわ!)
美鈴の簡単な挑発に西行妖は乗ってきた
(まずは相手の出方を見ないと)
美鈴はまず、相手の出方を伺う為に
牽制の為の攻撃を仕掛ける
「先手必勝です!」
美鈴は西行妖の前に進むと力を乗せた手刀を放つ
避けられたらそのまま後方に引く
防御されたとしてもそのまま攻める事ができる
(うまく当たれば、そのまま気絶してもらいます)
そのような考えの一撃を美鈴が放つ
だが、美鈴のその一撃は避けられも防御もされなかった
西行妖は、美鈴の一撃を軽く捌き
その手刀を放った手を掴むと、空中でさらに力を加え
(当身投げ!)
そのまま、美鈴を強烈に地面に叩きつけようとした
「くっ!?」
美鈴が地面に叩きつけられる前に体の捻りを使って
地面に足をつけると、そのまま後方に飛ぶ
(…ほう、当身投げから逃げるとはな…)
後方に自分から飛んだ美鈴を少し驚きながら見つめる西行妖
「…当身投げ…」
自分から後ろに逃げた美鈴は紫の話を思い出す
(幽々子さんは記憶をなくしているとはいえ
古武術の達人にして骨法の天才…それを考えれば当身投げも…)
美鈴が攻め方を考え始める
(…まずは…)
美鈴は西行妖に向かって高速で踏み込むと
「螺尖脚!」
そのまま拳を出して突っ込んでいく
(反撃しにくい中段突きなら!)
対応しにくい攻撃で西行妖に向かっていく
だが、その一撃を軽く捌くと
(上段当身!)
力を殺さずに、美鈴を真後ろに投げ捨てる
「まだまだ!」
美鈴が地面に叩きつけられる前に受身を取ると
今度は低い姿勢のまま突っ込んでいき
不意打ち気味に、足払いをかける
(下段攻撃なら!)
美鈴の体重をかけた下段の足払いが西行妖に決まる瞬間
(…おろかな)
美鈴の攻撃をそらし、その上で美鈴の足の裏に力を籠めて
(下段当身!)
横から力を加えて空中に浮かせる、身動きが取れない美鈴を固定すると
(いい加減失せろ!)
背中から地面に叩き付けた
(…痛たたっ…)
地面に全力で叩きつけられた美鈴は
今までの戦いからさらに考え込んでいた
(スピードの違う攻撃も、上段の攻撃も
下段の攻撃も…全て反撃してくるなんて…)
先ほど八雲紫から聞いた事を改めて、頭に思いだす
(…天才ですね)
いまだかつて、これほど綺麗に投げられた事は無かった
だが、あまりに綺麗であるからこそ
(受身が取りやすいですね)
美鈴にとっては地面に叩きつけられる事は余りダメージにならなかった
(ですが、攻撃が全て通用しないとなると…)
そんな時、美鈴の頭に一つの考えが浮かんだ
(ふん!…小妖風情が…)
地面に叩きつけて、気絶したと思った西行妖が
美鈴から目をそらそうとしたとき
「よい…しょっと…」
自分の目の前の相手が起き上がってきた
(…ほう?硬いな)
「随分長い間…門番をしてきましたから」
西行妖に対して、美鈴がそう告げると
(ならば完全に砕いてくれるわ!)
倒れている美鈴の元に歩み寄ってくる
(今です!)
自分より一~二歩程前の位置に西行妖が踏み込んだ瞬間
美鈴は体を起すと相手に全力で掴みにかかった
(むっ!?)
思わぬ攻撃に西行妖の動きが止まる
その間に美鈴は、相手を掴んだまま空中で反転
「レティさん直伝!未完成SPD(スクリューパイルドライバー)!」
(ぬおっ!?)
そのまま、垂直ではないが横回転を加えて背中から西行妖を落とす
一度しか受けた事が無い技なので、マネに過ぎなかったが
それでも、相手に対してダメージはあったみたいだった
「…痛たたっ…」
未完成な技のせいで、美鈴も受身をうまく取る事はできなかったが
相手の当身と言う攻撃方法に対して、有効な攻撃を得る事ができた
「もう一撃!」
美鈴が起き上がろうとしている、西行妖に対して止めとなる
投げ技をしようとする為に近づこうとした時
「いけない!倒れている幽々子に近づいては!」
美鈴の後ろから声が聞こえてきた
美鈴が一歩引こうと思っていたら
(もう遅いわ!)
「!?」
突然、美鈴の体の自由が利かなくなる
「か、体が!?」
美鈴が驚く間もなく、身動きが取れない体がふわりと宙に浮く
(…貴様に…この娘の最高の技で葬ってやろう)
空中に浮いた美鈴が軽く浮いた後
今度はゆっくりと地面に向かって落ちてく
その間、西行妖は深呼吸をし始める
そして、美鈴が自分の真正面に来ると目を見開き
「冥界門!」
身動きが取れない美鈴の体に、全力の殺気を叩き込んだ
かつて、幽々子が作り上げた奥義を完全に再現した
その技をまともに受けた美鈴は
一瞬空中で止まったかのようになると
「ごっ…はっ……」
その後、高速で後ろにあった桜の木に叩きつけられて崩れ落ちた
「美鈴さん!?」
少し離れた所で、美鈴が倒れるのをみていた者がいた
戦いを譲った魂魄妖夢…
そして、怪我を負っている八雲紫であった
「そんな…あの技が…」
あり得ない物を見たと、珍しく驚く紫
「紫様、あの技は?」
その驚きを見て、妖夢が紫に問いかけると
紫が、緊張しながら答え始めた
「…自分の間合いに居る相手を『殺気』を持って動けなくし
身動きが取れぬ相手に、呼気と共に『殺気』を込めて放つ技」
紫も一度だけその技を見たことがあった
自分の親友が生きていた頃に…
「相手の体の内部に威力を通す骨法の『徹し』と言うなの奥義
一撃で相手の魂を冥界まで送る…故に付いた名前が『冥界門』」
「そ、それでは…美鈴さんは!?」
妖夢の問いかけに、紫は一切首を振らなかった
「分からないわ…でも、少なくとも今は立てないはず」
「くっ…」
紫の言葉を聞いた妖夢が美鈴の前に向かおうとする
「行ってどうするつもり!?」
紫の言葉を聞いた妖夢が、一瞬だけ立ち止まる
下手に攻撃をする事は出来ない
そして、行った所で一撃で倒される可能性もある
「…せめて、美鈴さんを助けることぐらいはできます!」
だが、それでも妖夢は走り出した
(まさか…この冥界門まで使わせるとは…)
渾身の一撃を放った、西行妖はゆっくりと座り込んでいる
美鈴の傍に向かっていた
(…だが、今の一撃で終わったであろう)
西行妖が美鈴の前に立つ
(…せめてもの情けだ、止めを刺してやろう)
止めの一撃を放とうとしたその時
「覚悟!」
(むっ?)
何者かが西行妖の背後から攻撃をしてきた
完全に無防備なはずの背中を目掛けての一撃だが
西行妖はそれを背後に飛ぶ事でかわした
(…まだ、我に歯向かう馬鹿が…)
「美鈴さんに攻撃はさせません」
妖夢がそう言うと、白楼剣と楼観剣の刃を逆にして構えを取る
(よかろう…貴様も叩き伏せてくれよう!)
「幽々子様の体か出て行け悪霊!」
二人がそう叫ぶとお互いが攻撃を開始した
「…さて、せめて私ができる事は…」
体の回復に努めていた紫が妖夢と西行妖が戦っている間に
小さな隙間を開く、そしてその中に手を突っ込むと
「…死んでいるかもしれないけど…
これ以上怪我をさせるわけには行かないわ」
座り込んでいたはずの美鈴を隙間から引きずり出す
(はあ…紅魔館奴らから、本気で殺されそうね)
今でさえ、殺されそうになっているのに
そんなことを考えれるのがおかしくて、紫は笑いそうになった
そんな時…
「…あたたっ…」
「!?」
引きずり出した美鈴が起き上がって来たのだ
紫が驚きながら美鈴の方をみる
「そんな…あの技を受けて生きてるなんて!」
ありえないものを見たように紫が驚く
「あははっ…ギリギリで受身が間に合いました」
叩きつけられる寸前で、体の硬直が解けたおかげで
威力を殺す事に成功したのだ
「多分、SPDが少しは効いていたんでしょう」
あの冥界門は完全なものではなかった
未完成なSPDであったが、相手には確実に効いていたのだ
「…でも、もう打つ手が無いわ」
紫がそう言ったのにはわけがある
打撃は完全に捌かれる、そして間合い入れば一撃必殺である
冥界門が飛んでくる、いわば完全に詰みであった
「…いえ、幽々子さんから、西行妖を追い出す方法が浮かびました」
だが、美鈴には何か案ができたらしい
「あの技を受けてみて初めて分かりました」
美鈴が紫に対して、自分の作戦を告げる
「…そんな…でも、確かに貴方なら…」
「やるしかありません、追い出したら後は何とかできるのですか?」
美鈴の言葉を聞いて、紫が頷く
「追い出した後はまかせて」
「では、もう一度戦いに行きます、妖夢さんに作戦を伝えてください」
美鈴が再び戦いに出ようとしていた
(どうした?動きが遅いぞ)
「ぐっ…」
美鈴が紫につれていかれている間、妖夢は
なれない逆刃で西行妖の相手をしていた
(そのような刀では、我に傷一つ付ける事もできぬわ)
西行妖がそう言うと同時に、妖夢を地面に叩きつける
「っ!」
背中から地面に叩きつけられて、一瞬息ができなくなる
(どうした?たって見せよ)
その隙に攻撃ができるはずなのだが、西行妖は
ただ見つめるだけであった
「くっ!せいっ!」
妖夢が体のばねを使って起き上がると
西行妖に向かって刀を振るう
その一撃に対して、西行妖は
(打ってみよ?)
「!?」
一切反撃をしなかった
そして、妖夢の一撃が当たると思われたとき
「……」
妖夢の刀はギリギリで止まり
その手は震えていた
(どうした…切らぬか?やってみせよ?)
完全な挑発、だが妖夢には攻撃ができなかった
(ふはははっ!できぬよな?この身体はお前の主の物)
「くっ、卑怯な…」
目の前に居るのは、自分の主である西行寺幽々子
たとえ、その体が乗っ取られていても
妖夢には攻撃ができなかった
(では、死んでもらおうか?)
動けない妖夢の首に、西行妖がその手を伸ばす
「…幽々子様…」
妖夢が観念して目を瞑る…
そして、妖夢の首にその手がかかる寸前
(ぐっ!?)
突然西行妖が苦しみだす
いきなり、何が起こったのかはわからない
妖夢がおどおどしていると
「妖…夢…」
「ゆ、幽々子様!?」
突然、目の前の西行妖の動きが止まり
西行寺幽々子の声が聞こえてきた
「妖…夢…斬りなさい……」
「何をですか!?」
主の命令に妖夢が問いただす
その答えに幽々子が答える
「私の…体ごと……西行妖を…」
「!?」
覚悟はしていたが、目の前でそのような事を言われて
妖夢の体が震える
「早く……また…西行妖が…今しか…切れない」
今ここで、幽々子切る事が出来れば
西行妖は確実に退治することができる
だが、そうすれば確実に幽々子も死ぬ事になる
「妖夢!…早く!」
「…幽々子様」
主の言葉に妖夢が出した決断は
「できません!」
切らない事だった
それがたとえ、主の命令を裏切る事になっても
「妖夢!?」
「たとえ、幽々子様の命令に背くことになっても私にはできません」
妖夢はそう告げると刀を納めた
「妖…夢…」
「必ず…お救いします」
妖夢がそう告げると、幽々子の表情が変わる
そして、小さく口を動かすと
再び幽々子の口調が変わる
(ふふふっ…ははははっ!馬鹿めが!?
我を滅する最大のチャンスを逃し負って!)
再び、西行妖が幽々子の体を乗っ取る
(ふむ、この小娘の精神を完全に殺す為には
お前を殺した方が効果がありそうだな)
西行妖がそう告げると
再び、妖夢に攻撃を加えようとして
「黄震脚!」
(むっ!?)
いきなり地面が揺れた
突然のことに、西行妖が動きを止める
「…第二ラウンド目ですね」
(貴様!?冥界門を受けて!)
西行妖も目を見開く、必殺技を完璧に決めたはずなのに
(何故立てる!?)
「さあ?…守る者がない貴方には一生分からないと思いますけど?」
美鈴が挑発している間に妖夢が隙間に連れ去られる
だが、西行妖にとって、そんなことはどうでもよかった
それより、今の西行妖にとって重要な事は
「それよりも、こんな小妖一人壊す事ができないなんて
思ったよりたいした事無いですね」
(貴様!)
自分の必殺を耐え切った、目の前の妖怪を
完全に殺しきることだった
「さあ、貴方の必殺技、何度でも放ってみてください?」
(殺してやる…殺してやる!殺してくれる!)
「うわ!?」
「は~い、一名様隙間にごあんな~い♪」
突然隙間に落とされた妖夢を紫が抱きとめる
「ゆ、紫様?」
妖夢が驚きながらそう答えると
「紫様、幽々子様が…」
先ほど、幽々子と話した言葉を紫に話した
それを聞いた紫は、妖夢に伝えた
「…なるほど…最高のチャンスを貴方は潰したわけね?」
「…はい…」
妖夢が頭を垂れる、幽々子が作った一度のチャンスを
妖夢は自分の判断で無駄にしたのだ
どれだけ、文句を言われても仕方が無い
「…良くやったわ…」
「…えっ?」
だが、紫は笑っていた
「もし、貴方が幽々子を切っていたら、誰も救われなかった」
「……」
無言のまま妖夢に対して、紫が真剣な顔で答えた
「いい?これから作戦を教えるわ」
「作戦?」
妖夢の言葉に、紫が頷く
「ええ、幽々子の体からあの西行妖を追い出す作戦」
「!?」
驚いている妖夢に、紫は作戦の内容を話した
(…なぜだ…)
一撃目は背中から木に向かって叩き付けた
(…何故なのだ?)
二撃目は全力を持って地面に叩き付けた
三度、四度と必殺の冥界門を叩きつける
「…よい…しょ……っと」
だが、その度に目の前の相手は起き上がってきた
(ぐっ!冥界門!)
今度は空中に相手を飛ばすと、顔を狙って
冥界門を叩きつける
技を受けて、桜の木に叩きつけられる美鈴
だが、地面に叩きつけられ、木にぶつかり
顔面から出血していても
(何故貴様は倒れないんだ!?)
目の前の妖怪は起き上がってきた
西行妖は目の前の光景が信じられなかった
「…奥義…やせ我慢の…術ですよ…」
美鈴がそう言うと、再び立ち上がった
「どう…しました?…私一人倒せないようじゃ…幻想郷で
…や、やっていけませんよ?」
それどころか、余裕ありげな笑いを浮かべて挑発までしてくる
(…き、貴様は…不死身か?)
西行妖が美鈴に問いかける
「不死身?…それは妹紅さんと輝夜さん、それと永琳さんの専売特許です」
(え~い!わけのわからん事を!)
西行妖がイライラしているのを感じた美鈴が
さらに挑発を開始する
「私を倒すと言うのなら、貴方の本気の冥界門を撃ってください」
(なに?)
西行妖が驚く、必殺技を目の前の相手は
自分に打たせようとしてる事に
「それとも…怖いのですか?この小妖ごときに…」
(黙れ…)
「大妖怪と言われた西行妖も…たいした事ないですね!」
(黙れ!下等妖怪風情が!)
怒りと共に、前の物とは全く違うぐらいに膨れ上がった
『殺気』の塊が、美鈴の前に叩きつけられる
それにより、美鈴の体の自由が奪われる…
(喰らうが良い!冥界…)
はずだった、だが美鈴はその『殺気』を全て受け流し
「黄震脚!」
(うおっ!?)
渾身の震脚で逆に西行妖の地面ごと、空中に放り投げる
そして…自分に叩き付けられたはずの『殺気』の塊を
「覚えておいてください…私の能力は…」
自分の体の中に取り込み
「『気を操る程度の能力』という事を!」
そのまま、莫大な気を全て『闘気』に変換して
「冥界門改め『紅魔門』」
その闘気を全て目の前の西行妖に叩き付ける
冥界門とは違い、放たれた気はさらに凝縮され
まるで龍の鳴き声のような音を立てながら
西行妖が乗っ取っていた幽々子の体をすり抜け
(おごあっ!?)
西行妖をその本体である、桜の老木に叩き付けた
その衝撃で、幽々子の体から西行妖の気配が一瞬吹き飛ぶ
(ば、馬鹿な!?)
西行妖が、ありえない一撃を受けて一瞬だけ戸惑う
その一瞬の間に、その場に現れた人物がいた
「幽々子!」
(しまっ!?)
自分の意識のよりどころとしていた
西行字幽々子の体に
「…これで形勢逆転ね?…」
(き、貴様…八雲紫!?)
隙間妖怪…大妖怪である八雲紫が
がっちりと結界を張っていた
(…どうする…このままでは)
西行妖は考えた…
このまま居ては死ぬ事は無いだろうが
もう二度と、このようなチャンスは無いだろう
(せめて…せめて誰かに乗り移れば)
この場に居る誰かに乗り移る…
そうすれば、再び闘う事はできる
(八雲紫…)
即座に選択肢から消去する
そんなことしたら、完全に意識を乗っ取られる
(目の前の妖怪…)
乗っ取ろうとすればできるだろう…だが
時間がかかるうえ、全身ボロボロである
(西行寺幽々子…)
これも無理だ、なにせ八雲紫自身が結界を張っている
迂闊に寄り付けば、酷い目にあう
「詰みよ?…今の弱った貴方なら、完全に意識を消して
もう二度と、表に出れないように封印する事ができるわ」
(…ぐっ)
八雲紫の言葉を聞いて、西行妖が出した最後の回答は
(…意識を乗っ取ってくれるわ!)
「愚かね…」
紫が自分に向かってくる西行妖の魂に攻撃を放つ
だが、西行妖は紫や美鈴に向かわなかった
(その小娘の方にな!)
自分達から少し離れた所にいた、妖夢に向かって
西行妖が向かっていく
「妖夢!?」
紫の声が響く、だが、それよりも先に西行妖の魂は
妖夢の身体に向かって行き
(これで!再び形勢逆転!)
その中に入って行く
「……ふん!」
だが、妖夢が目を見開いて呼吸をすると
(ば、馬鹿な!?)
その体の中から西行妖が追い出された
(き、貴様!?いつの間に気を練っていた!)
「…幽々子様から追い出されたら、私の所来ると思っていた」
妖夢が、そこまで話すと改めて白楼剣と楼観剣を構える
「…そして、今まさに妖忌お爺様の言っていた意味がわかった」
(ま、待て!?)
物質でない魂は、刀では切れない
だが、西行妖の中の本能が叫んでいた
『あれは危険だ』と
恐れを感じた西行妖が、急いで自分の大本である
老木に逃げようとする、たとえ封印されても
目の前の刀よりはどれだけかましだと思ったからだ
「この白楼剣と楼観剣に…」
だが、妖夢の足の最速は逃げ出した西行妖よりも
圧倒的に早い、二百由旬にも渡る広い庭を
何時も当たり前のように動いているのだ
(に、逃げれる!これで…)
西行妖の魂が、あと少しで老木に逃げれると言うところで
「私と幽々子様との絆以外に!」
後ろから迫ってきた何者かによって
「斬れないものなど無い!」
意識を完全に断ち切られた
「…妖忌お爺様、ようやく分かりました」
妖夢がそう告げると、両手に持っていた白楼剣と楼観剣を鞘に収めて
「…切れないものがある者…護る者がある者の方が強いのですね」
そう呟いてから、緊張の糸が切れて
妖夢は真正面から倒れこんだ
(…よぉ…ぅ!)
倒れる寸前、妖夢は誰かに優しく抱きしめられた気がした
「妖夢…妖夢!」
「落ち着きなさい幽々子!」
「だって妖夢が!妖夢が~」
最後に、西行妖に止めを刺したのは
妖夢の一撃であった
目を覚ました幽々子が妖夢に抱きつこうとしたら
目の前で妖夢が倒れてしまった
「急いで永遠亭に…紫!隙間だして!」
「だから落ち着きなさいって…」
事、妖夢の事になると、幽々子は見境がなくなる
紫が必死に幽々子をなだめると
幽々子は妖夢を抱きしめて、一足先に屋敷に戻っていった
「…さて…貴方はどうかしら?」
「まあ…生きていますよ?」
紫は幽々子が居なくなってから
倒れていた美鈴に声をかけた
「…満身創痍ね」
「わかりますか?」
美鈴は笑っているが、その実身体はぼろぼろであった
「ねえ、貴方本当に化け物?」
「まあ、妖怪ですからね」
美鈴がそう言って、起き上がる
「いたた…」
「ねえ、どうやって『冥界門』をあれだけ受けて立ち上がれたの?」
紫が美鈴の手を掴んで起きるのを手伝う
そして、肩を貸すと屋敷に向かってゆっくり歩き出した
「『徹し』も突き詰めれば『気』…私には効かないんです」
全身を気が貫くダメージは美鈴にとっては致命傷にならない
それが、冥界門を尽く受けきる事が出来た正体であった
「でも、あれだけ強力に叩きつけられたらいくら貴方でも」
確かに凄まじい威力で叩きつけられる
その辺の妖怪なら、一撃で消し飛ばされる威力はあった
「あははっ…私は門番ですから」
「…どういう事かしら?」
美鈴が笑いながら答えた
「気まぐれに飛んでくる妹様のタックルとか
魔理沙さんのブレイジングスターとか…
お嬢様のドラキュラクレイドルを受けているんで
どんなタイミングでも受身が取れるようになってしまったんですよ」
その言葉を聞いた紫が額から汗を流して答えた
「…果てしなく過酷な部署ね…門番って」
紫の言葉に、美鈴が笑って答えた
「でも、楽しいですよ?」
「…これからは、もしかしたら貴方のような妖怪の時代かもしれないわね…」
「いえいえ…私は紅魔館を見ているだけで精一杯です」
そこまで話すと、紫と美鈴は屋敷にたどり着いた
「でも、流石に体がボロボロです」
「…まあ、私が見ただけでも…頭蓋骨骨折 及び 脳挫傷
鼻骨骨折、第7歯から第4歯欠損、
第1歯及び第2歯欠損、頚椎捻挫、左鎖骨不完全骨折…」
「いや、流石にそこまでは…」
「冗談よ…」
紫がそう言うと、美鈴を縁側に座らせた
「…ありがとう、貴方が居なかったら、幻想郷まで危険な事になっていたわ」
紫が美鈴にそう告げた
もし、西行妖が冥界から出ていたら
幻想郷の中の全ての生き物が危険にさらされていたであろう
「いえいえ…こちらも、投げ技を見ることができましたから」
美鈴の目的は投げ技修行、そのための怪我なら
仕方が無い事である
「ですが、この技は私には使えません」
「あら、なんでかしら?」
最後に美鈴が放って見せた一撃は
完璧な『冥界門』そのままであった
では、何故使いこなせないのか
「…威力が強すぎるんです、下手に使うと相手が死にます」
「それなら仕方ないわね」
この平和な幻想郷、相手が確実に死んでしまうような危険な技を
迂闊に放てる者はそうそういない
「…また、投げ技を会得する為に幻想郷を歩きます」
「そう、なにか面白い投げ技を会得できるように祈っておいてあげるわ」
紫がそう言って笑うと、美鈴が立ち上がり
「あたたたたたっ!?」
「…とりあえず、明日病院に行ったほうがいいわよ?」
「そ、そうします…」
美鈴が次に向かう場所が決まったようである
「今日は一旦眠るといいわ、明日隙間経由で送ってあげるから」
「うぅ…ありがとうございます」
その家の主である八雲紫がお酒を飲んでいた
「…紫様…」
「何かしら?藍」
お酒を飲んでいる所に、自分の式である八雲藍が声をかけた
「よろしいのですか?…紅魔館の門番を冥界に行かせて」
その言葉に紫は静かにお酒を飲み干す
「…確か今夜は冥界で……」
「藍…」
続けて話をしようとした藍を紫が止める
「…大丈夫よ…あの門番が幽々子の投げ技を見ることなんてないんだから」
そう答えると、紫は藍にお酒を持ってこさせるように伝えた
「…そう……もし投げ技が見れるとしたら…」
藍が家の奥にお酒を取りに行っている間に、紫が考え込む
(…もし、あの技が見れるとしたら…死ぬわね…)
それが誰かとは言わずに、紫はお酒を飲み干した
どうもみなさん……紅美鈴です…
……ぜぇぜぇ…今は…ちょっと…疲れています…
今から少し前に、マヨヒガから冥界に続く門の前まで
隙間経由で連れてこられたんですけど…
隙間を作った張本人から
「冥界に行くならついでにこれも運んで~」
と言って渡されたものが問題であった
持って行くのは別にかまわないが…
「重い……」
自分以上に大きな籠を担いで、この階段を上るのは
正直言ってかなり辛い
まあ、これも修行と思って…そして犬に噛まれたと
思って諦めるしかないのだが
「……重い…」
…重たいと言う気持ちはけしてなくならないだろう
「仕方ありません…」
自分にそう言い聞かせると
「ぬりゃ~!」
目の前の階段を、三段飛ばしで駆け登って行く事にした
「ぜぇ…はぁ…ぜぇ…はぁ…」
かなり長い時間を美鈴が階段を駆け上がって行くと
「…み、見える…私にも見えるぞ!」
ようやく冥界の入り口が見えてきた
美鈴がその入り口に向かって一歩ずつ歩いていくと
「誰だ!?この冥界の門を超えてきた者は」
自分の目の前で誰かが入り口を塞いだ
両手に剣を構えた、自分より少し小さな勇ましい女の子の姿…
その人物が刀を構えて美鈴を睨みつける
「如何なる者も、今日は此処を通す事は許さない!」
そして、刀を構えて…
「ま、待ってください!妖夢さん!私ですよ!」
切りつけるよりも先に美鈴が声をかける
「…えっ?…その声は…美鈴さん?」
「はい!」
驚いた表情で刀を納めてくれた
美鈴がマヨヒガから持って来た物の事を話すと
妖夢も納得してくれ、奥の方に案内してくれる事に
その道を歩いている途中で、妖夢が美鈴に話しかけてきた
「今日は一体どのようなご用件で?」
「はぁ…実は……」
美鈴が修行のために色々な所に回っている事を話す
「という事で、幽々子さんに投げ技を見せてもらおうかと…」
その言葉を聞いて、妖夢が首を傾げる
「あの…」
「なんでしょう?」
妖夢が言いにくそうに美鈴に答えた
「…私も、ある程度は幽々子様の元で働いてきたんですが…
そのような話は今まで一度も聞いたことはありません…」
その言葉を聞いて、美鈴は考え込む
常に幽々子の傍にいる妖夢が言うのだから
信憑性はかなり高い……
(ですが、だからと言ってレティさんの話が嘘とは考えにくい)
だが、レティが言ってくれた事も嘘とは思えない
美鈴が荷物を担ぎながら、考えていると
「あっ、すいません此処に荷物を置いてもらえますか?」
気がついたら、荷物を置く場所までたどり着いていた
「あっ、はい…よい…しょっと…」
(ズズズズッ…)
荷物を地面に降ろすと、少しだけ地面が揺れた
それを見て、妖夢が少し顔を引きつらせて聞いてきた
「…美鈴さん…これ…一人で持って来たんですか?」
「はい…重かったです、今朝から背負いっぱなしで」
美鈴が頷くと妖夢も同情してくれた
「とりあえず、少し休んで行ってください…」
「あ、すいません」
妖夢が美鈴にお茶を渡すために少し離れてから
心の中で美鈴が移動した速度を計算する
「…あの荷物を持って…時速5キロ……」
そう呟いて、自分も修行を頑張ろうと心に誓った
「……さて…」
妖夢がお茶を用意している間、美鈴は考えていた
(妖夢さんの言っている事には嘘は無いですし…)
美鈴と同じで妖夢は嘘が苦手だ
それに、もし嘘をついたのなら
気に何らかの反応がでるので、美鈴には分かる
(でも、レティさんも嘘は言っていないんですよね…)
無論、レティが嘘をついているというのも
考えられない、もし嘘をついていたのなら
藍の投げ技の事も嘘になるはずだからだ
「…ん~…」
美鈴がこの矛盾を考えていると
(どたどたどた)
「妖夢~おやつまだ~?」
美鈴が相手になってもらうはずの本人が目の前にやってきた
そして、しばらく美鈴を見つめて
「…あら?妖夢…髪の毛染めたの?」
「それ、本人の前で言ったら家出されますよ…」
盛大にボケてくれた
美鈴がそれに突っ込むと幽々子が口元に扇子を当てて笑う
「いくらなんでも冗談よ…え~と…」
「紅美鈴です!」
絶対に名前を間違えて呼ばれると判断した美鈴は
それをさせる前に自分の名前を叫んだ
「そうそう、そんな名前だったわね…」
幽々子が少し考えてからそう答えた
(絶対に名前覚えてくれそうに無いですね…)
美鈴が半ば諦めてため息をつくと
「…あの…実は今日来たのは…」
この白玉楼に来た理由を問いかけようとした
「ええ、紫から聞いているわ」
だが、それよりも先に幽々子が答える
「それでは」
美鈴が戦ってもらえると思っていたら
「踊りを見に来たんでしょ?」
「えっ?」
全く思っていなかった事を言われた
「うれしいわ~…前は紫と二人で少し寂しかったけど
他にも見学してくれる人ができるなんて」
美鈴が何かを言う前に、幽々子がそう告げる
「あ、あの…幽々子さんが、強力な投げ技を
知っているって聞いてきたんですけど」
美鈴が、そう呟くと幽々子が首を傾げる
「あら?…残念だけど私はそんなの知らないわよ」
幽々子がそう答えると
「踊りなんだけど、夜まで待ってね?準備があるから」
美鈴の言葉を無視して幽々子は再び、
妖夢を探すために移動していってしまった
「……」
一人残された美鈴が考える
(…幽々子さんは、投げ技の事を知らない…)
先ほどの話から美鈴は考える
(だけど、もしそうなら此処に来る前に紫さんが何か言ってくれるはず)
もし、本当に投げ技が無いのなら
マヨヒガで送ってくれた八雲紫が何か言ってくれるはずだ
「…つまり、紫さんは何か知っているという事ですか?」
美鈴がそこまで結論を出すと
「すみません、お待たせしました」
妖夢がお茶とお茶請けを持って美鈴の前に帰ってきた
そして、美鈴にそれを渡すと
「すいません…申し訳ないのですが、少し
幽々子様の方へ行かないと行けないので」
と言って、頭を下げたので
「構いませんよ?それに主は大切ですから」
美鈴が笑ってそう言ったので
妖夢は、苦笑いをうかべて頷いた
お互い仕える者として、大変なのだ
しばらくの間、美鈴が出されたお茶とお茶請けを食べていると
妖夢が美鈴の元に再び現れた
「すいません美鈴さん、お時間よろしいですか?」
「はい、あいてますけど?」
美鈴が何事かと思っていたら
「よかったら、手合わせ願えますか?」
妖夢が練習用の木刀を持って姿を現した
それを見た美鈴が嬉しそうに答えた
「願っても無い事です」
本来なら、修行の為に旅をしているのだ
このように相手から勝負を告げられるのは願っても無い事だ
「では、表の方で」
それが、妖夢程の手馴れならば尚の事である
美鈴と妖夢は急いで縁側から出ると
「「勝負!」」
その場で試合を始めた
「今回は見てくれる人が多くて嬉しいわ~」
「ええ…そうね」
美鈴と妖夢が戦っている時
紫と幽々子は二人で冥界の庭を歩いていた
「うふふっ…でも、意外なお客が来てくれたわね」
幽々子がそういったのは
「紅魔館の門番の事?」
「ええ、え~と…」
幽々子が頭を押さえて、名前を思い出そうとしているのを
紫が隣で見ながら考えていた
(……最悪な事にならないようにしないと…)
今夜行なわれる、踊りが無事に終わる事を紫は願っていた
(…今夜の踊り……)
その本当の意味を知っているのは、今は紫だけだった
「…かり?…紫~?」
自分の名前を呼ばれた事に、ようやく紫が気がついた
「大丈夫?」
「ええ……ごめんなさい、ちょっと考え事してて」
紫がそう伝えると、幽々子もそれ以上は何も追及せずに
「それより、美味しいお酒は用意してくれたの?」
幽々子は今日の為に紫が持ってきてくれたであろう
お酒の事を聞いてきた
「…ええ、銘酒を大量に用意してきているわよ」
紫は嬉しそうなため息をついてそう答えた
(…大丈夫……幽々子は私が守るから…)
胸に、そういう思いを潜ませながら
「はぁ…はぁ…」
「ふぅ…ふぅ…」
美鈴と妖夢が肩で息をしながら
お互いの出方を見ていた
勝負は随分長い間行なわれていた
妖夢が木刀を構えて一気に駆け込むと
美鈴はそれを円を描くようにして避け
逆に、美鈴が気弾を放つと
妖夢はそれを全て手にした木刀で弾く
そして、お互いが最後を繰り出すために
呼吸を整えると
「「せいっ!」」
ほぼ同時のタイミングで二人とも攻撃を繰り出し
美鈴の手刀が妖夢の首筋に
妖夢の木刀が同じく美鈴の首筋に触れた所で止まっていた
「…相打ちですね」
美鈴がそう言いうと妖夢の首から手を下ろす
「…はい」
妖夢も美鈴の首に当てていた木刀を離した
「…ありがとうございました」
「いえいえ、こちらも良い体験をさせてもらいました」
試合を終えて美鈴と妖夢がお互いに礼をする
「ふぅ…美鈴さん凄いですね…」
肩で息をしながら、妖夢は美鈴にそう話しかけた
妖夢は弾幕が一切ない接近戦なら
そう簡単には負けないと思っていたが
美鈴と戦ってみて、まだまだ自分が未熟であると痛感した
「妖夢さんの方が凄いですよ…」
美鈴の方は、妖夢の攻撃の鋭さに驚いていた
本来なら、弾幕の完全に無い接近戦なら
美鈴の方には体力がある分
妖夢よりも美鈴の方が有利なのだが
妖夢の攻撃の鋭さはそれをほとんど気にしなかった
「…みょん…もっと強くならないと、師匠の妖忌お爺様に怒られそうです」
「妖忌さん?」
聞きなれない言葉を聞いた美鈴が
妖夢に問いかけると、妖夢が答えてくれた
「はい、私のお爺様で私に剣術を教えてくれた師匠です」
妖夢が自慢気に語る
「剣術を教わる時は凄い怖かったですけどね」
妖夢の話している顔を見て、美鈴は
その人物がいかに妖夢を可愛がっていたのかを感じた
「…今は何処にいるんですか?」
美鈴がそう伝えると、妖夢が寂しそうな顔になる
「分からないんです…ある日いきなり何処かに行ってしまいましたから」
妖夢がそう語ってから起き上がる
「…でも、お爺様はそう簡単には死にませんから、
お爺様がかえって来るまで、私が幽々子様を守りするだけです」
そう言い切った妖夢の顔は笑顔だった
「妖夢さんなら大丈夫ですね」
美鈴はそう言うと、自分も起き上がった
美鈴が足の砂を手で払いながら妖夢に問いかける
「妖夢さんはこれからどうするんですか?」
美鈴の問いかけに対して妖夢は笑いながら答えた
「はい、これから日課の素振りをして食事の準備ですね」
何気なくそう言うが、妖夢の素振りは
重たい刀を持って何千回も振るのである
「それと、今夜は幽々子様が特別な舞を舞うそうなので
少し豪勢にしようと思っています」
妖夢がそう付け加えると
「もしよかったら手伝いましょうか?」
美鈴がそう返す
「で、ですが…お客様にそのような事を…」
妖夢が少し申し訳なさそうにしていると
「そんな気にしないでくださいこちらが押しかけたんですから」
美鈴がそう言ってくれたので
「お願いしてもいいですか?」
「任せてください」
妖夢は美鈴に手伝いをお願いする事にした
「それでは、私はもう少し修行を続けます」
「はい、では私は少し考えたい事あるのでこれで…」
妖夢が素振りをする間、美鈴は先ほどの客間に向かった
「…さてと…」
美鈴が部屋の中に入ると、目を瞑って集中する
(妖夢さんの言っていた言葉に嘘はないですね…)
先ほどの戦いの中にも妖夢の性格は如実に現れていた
嘘をついたのならば、それは美鈴にはすぐに分かるだろう
(そして、幽々子さんの言葉…)
投げ技の事など本当に知らないようだった
知らないふりというのも考えられたが
それなら、一言断ればそれで済むのだから
(…ですがレティさんの言葉にも嘘はありません)
だが、レティ嘘をついているという事は無い
それなら、八雲藍の投げ技も嘘になるはずだからだ
(…これらを総合して考えられる事といえば…)
美鈴が頭の中で考え始める
いろんな可能性を考慮して考えて
(…うぅ…なんで投げ技修行のはずなのに頭使わなきゃいけないんですか)
考えすぎて頭が痛くなった
(はあ…もう考えるの止めたいな……)
美鈴がそう言って、縁側でごろんと横になろうとして
「…考えるの…止めたい?…」
ふと、何か考えれそうな事が思いついた
「…もしかして…」
美鈴がもう一度、頭の中で考える
そして、一つの考えが頭の中に浮かんだ
「そうです…この考えならレティさんと妖夢さんの矛盾も
そして、幽々子さんが投げ技を知らないのも…」
美鈴がそこまで考えたのだが
唐突にもう一つの欠点が浮かんできた
「…証拠がありません」
考えはあくまで考え、証拠も無い上に
(この考え方だと、幽々子さんに聞いても分からないですし…)
「はあ…八雲紫さん色々聞いておけば良かった」
もう打つ手無しと、美鈴が諦めてごろんと横になると
「呼んだかしら?」
「うわっ!?」
いきなり自分の背中から声が聞こえてきた
美鈴が思わず起き上がると
「や、八雲紫さん?」
「お久しぶりね」
そこに居たのは、この白玉楼に荷物を運ばせた
張本人…八雲紫の姿があった
「それで?嘘つきは誰かわかったかしら」
紫が面白そうに美鈴にそう話しかける
此処で言う、嘘つきとはすなわち…
「…レティさんか妖夢さん…そして幽々子さんの中からですね?」
美鈴の言葉を聞いて、八雲紫は
にやける口元を扇子で隠しながら首を縦に振る
それを確かめてから、美鈴は答えを出した
「皆本当の事を言っています」
「あら?それじゃあ矛盾が生じないかしら?」
そう、もし三人とも本当の事を言っているのなら
幽々子は投げ技を知らないで、妖夢も知らない
レティは幽々子が投げ技を使うと言う、矛盾が生じる事になる
「でも、それらの矛盾を無くす方法が一つだけあるんです」
「…面白そうね、ぜひ聞かせて?」
美鈴が自分の考えを紫に伝えた
「それは、幽々子さんが記憶を忘れている場合です」
そう、もし幽々子が昔の記憶を忘れていたら
三人の矛盾が全て消える
「幽々子さんが妖夢の来る前に投げ技を使っていたとしたら」
美鈴が言いたい事は簡単だ
妖夢が幽々子の下で長く働いているのは分かる
だが、もしレティが知っているのが
妖夢がまだここに来る前である
生前の幽々子であるとしたら……
「白玉楼に来る者は、生前の記憶が無くなると聞きます」
美鈴が八雲紫を見据えて伝えた
「…これなら皆が言っている事が完全に当てはまります」
「でも、所詮は想像でしょ?」
美鈴の言葉を聞いた紫は全く表情を変えないでそう返す
「はい、ですが幽々子さんが投げ技を持っていたという事は確信しています」
「…それはなぜかしら?」
紫の問いかけに対して美鈴は確信持って答えた
「そもそも、紫さんがここに運んでくれた事事態がおかしい事なんです」
紫がここに美鈴を運んだ、それだけで何かがあるという事である
「もし、本当に幽々子さんが全く関係なかったら
幽々子さんの親友である紫さんが
私をここに連れてくるはずがないんです」
八雲紫の親友である西行寺幽々子
もし、幽々子に関係無い事で迷惑がかかるとしたら
迷惑をかける相手を向かわせる事はないはずである
美鈴がそこまで話すと、紫と美鈴がお互いににらみ合う
そして、しばらくして
「…まいったわね」
紫がため息をついてそう呟いた
「と、いう事は?」
美鈴が紫に真意を問うと
紫は両手を上に上げて答えた
「降参よ、まさか真実にたどり着くとは思っていなかったけどね」
「それじゃあ、話してくれるんですか?」
「…ええ…と言っても、ほとんど貴方が想像したとおりなんだけどね」
降参した紫が、静かに話し始めた
初めて私が幽々子と合った時には
幽々子は名家である西行寺家の一人娘として
厳しく育てられていたの
そのために、遊びを知らずに厳しい作法を毎日していたわ
挨拶から始まって、茶道、和歌、舞踊…
幽々子が一番好きだったのは舞踊…
でも、一番上手かったのは
護身として教わった武道…古武術
「いえ、骨法と言ったほうがいいかしら?」
「骨法…」
美鈴がその言葉に反応した
相手の攻撃をそのまま攻撃に変えると言う
いわば当身技を基本とした徒手武術であり
完全な習得はそれこそ、長い時間が費やされる
美鈴が考えている間も、紫の話は続く
幽々子は争いごとは絶対に嫌だった
だけど、皮肉な事に
幽々子には武術の才能があったの
ついには教えてくれるはずの師範…
自分の父親も相手にならなくなってしまった
そして、誰にも会得できないとされた
古武術の奥義を完成させてしまったの
「…こういうのもなんだけど、本当に天才だと思ったわ」
「…才能は生まれた時からの物ですからね…」
美鈴はそう言うと自分が不器用である事を思い出して苦笑した
私と出会ってからは、武道の時間を削って
一緒に遊ぶ事ようになったわ
幸い、幽々子の父親も何も言わなかったみたいだった
そんなある日、幽々子に変な力が目覚めたの…
「…死を操る能力…ですか?」
「少し違うわね…」
始めは死霊を操る程度の能力だった
やがて、その能力が変化して行き死を誘う程度の能力になった
それは、人が持つにしては大きすぎる力だった
覚悟がある人ならともかく
箱入り娘で育ってきた幽々子には重過ぎる力だったわ
「…大きすぎる力…」
「ええ、人が持つには重過ぎるわ…」
紫の声を聞きながら、美鈴の頭には
瀟洒で完璧なメイド長の姿が浮かんだ
(…帰ったら、マッサージしてあげよう)
「話続けるわね?」
「あ、はい…」
そんな時だった、幽々子の能力に
とある大妖怪が目をつけたの…
私じゃないわよ?
……幽々子の能力と同じ
人を魅了して冥界に命を誘う妖怪桜…
「それが…この白玉楼にあるもっとも古いを持った妖怪桜…西行妖よ」
「西行…妖…」
名前を聞いただけで、美鈴の背中にぞくりと寒気が走った
……その妖怪桜が幽々子に目をつけた理由…
それは良くわからないけど、西行妖は
幽々子の体乗っ取ろうとしたの
そのためには幽々子の心が邪魔だったの
「…人の心を殺すのに簡単な事って何だと思う?」
「……絶望…ですか?」
美鈴の回答に、紫が頷く
「そう、そして絶望をさせるのに一番の方法は…」
その人の大切な人を殺す事…
一番始めに死んだのは幽々子の父だった
日に日に幽々子の周りの者が死んでいった
それによって、幽々子の心はドンドン削られていった
そして……ある日幽々子はこう言ったの…
『西行妖を封印する』と
「その場に居た私と、西行寺家の庭師にて剣術指南役であった
魂魄妖忌も一緒に手伝うと約束をして」
でも、幽々子は約束を破った…
その日の夜に私が幽々子の寝床に向かうと
そこに幽々子は居なかった
私が急いで西行妖の所に向かうと
そこには、自分の体を生贄にして西行妖を封印し
血まみれになっている幽々子が倒れていた…
紫がそこまで語ると話すのを止めた
「…ここから先は話すつもりは無いわ」
「はい…」
美鈴がここにやってきたのは、投げ技修行のため
八雲紫と西行寺幽々子の悲しい過去を聞く為ではない
「これだけは言えるわ…」
紫がどこかに向かう為の隙間を開きながら美鈴に話しかけた
「あなたの望むような技は、もうこの世にもあの世にもないわ」
「…そのようですね」
紫の問いかけに美鈴はただ頷いた
その投げ技は、もう二度と表に出さない方が良いと
美鈴は思ったからだ
「それじゃあ…」
紫が隙間の中に入って行こうとして
「そうね…せっかくだから幽々子の踊りを見て行くといいわ」
思い出したかのように、美鈴にそう告げて隙間の中に消えていった
紫が隙間に消えてから、美鈴はこれからどうするかを考えた
(今日はとりあえず泊めてもらって
また、別の所に修行に行くとしますか…)
とりあえず、そのような結論を出して
美鈴は自分が居る部屋から表に出ると
すでに表は夕暮れ時になっていた
「そういえば、妖夢さんと料理を作る予定でしたね」
約束を思い出した美鈴は、妖夢を探す為に表に出る事にした
白玉楼の庭は果てしなく広い
その庭の一角で妖夢は一人黙々と素振りをしていた
(984…985…)
先ほどの美鈴との試合の高揚感がいまだ抜けない
いろいろな人と戦う事で、自分に足りない物が分かり
それを、自らの手で少しづつ直していく
(998…999…)
最後の一振りをして、妖夢は素振りをするのを止めた
「…ふぅ…」
額についた汗を拭う
いまだ覚めやらぬ高揚感を落ち着かせるため
最後に自分の剣の師匠である妖忌から教わった
基本の型を一からゆっくり試していく
その型をしている最中、ふと妖忌から言われた
最後の言葉が思い出された
(…お爺様…私には、未だその言葉の意味がわかりません…)
「妖夢さん」
そんな時、妖夢の傍に美鈴が歩いてやってきた
「あ、美鈴さん?」
妖夢は急いで美鈴の方を振り向いた
「探しましたよ、そろそろ食事を作る時間かと思いまして」
美鈴に言われて、妖夢は今が夕方である事にようやく気がついた
「あ、はい…でも最後の練習を終えてから」
妖夢はそう言うと、残り数個の型を終えた
そして、最後にゆっくりと刀を鞘に収めると
「…綺麗な動きですね」
美鈴がその動作を褒めた
「うれしいですけどまだお爺様にはかないません」
妖夢は照れくさそうにしていたが、首を振った
「美鈴さん、この言葉の意味…美鈴さんならどう考えますか」
妖夢がそう言うと、美鈴に対して疑問を投げかけた
美鈴が何でしょう?と声をかけると、妖夢はゆっくり答えた
『全てを斬れる事よりも、斬れないものが有る方が強い』
魂魄妖忌が、白玉楼から姿を消す前に妖夢に教えた言葉
妖忌は刀によって、全てを断つことができた
だが、妖忌はそれではまだまだ弱い…そう、妖夢に教えたのだ
「……お爺様が最後に残した言葉…その意味が良くわからないのです」
妖夢が地面を見ながらそう告げた
美鈴もその言葉を考える
どんなものも切れる力があれば、それは最強であるはず
だが、切れない物があるものの方が強い
まるで禅問答のようであった
「…あはは…私の頭では良くわからないですね」
美鈴が妖夢にそう笑いかけると
「ただ、その斬れない物っていうのは、とても大切なような気がしますね」
「大切な…もの…」
その言葉は、不思議な事に妖夢の心に少しだけ残った
「そろそろ料理の準備しないといけないんじゃないんですか?」
「みょん!?」
妖夢と美鈴は大急ぎで台所に向かう事になった
「幽々子~…何処行っちゃったのかしら?」
美鈴と別れた八雲紫は、幽々子を探し回っていた
「…屋敷にはいないみたいね」
隙間の中から屋敷の中を探していたが
何処にも見つからなかった
(外かしら?)
時たま、幽々子が白玉楼の庭を歩く事を思い出す
「そうね…たまには私も歩いてみましょうかしら」
少しの気まぐれから紫も白玉楼の庭を歩く事にした
庭であるとは到底言い切れないほどの広さを誇る広さ場所に
桜の木が大量に埋められていた
どれもこれも、立派に手入れをされており
病気にかかっている物、歪な物などはほとんど無かった
(幽々子が言ってる通り、妖夢も立派に庭師をしているのね)
紫がそう思いながら、目的の場所に向かって歩き出す
(…まあ、まだ剪定は妖忌には程遠いみたいだけどね)
かつての白玉楼の庭師である妖忌を知っている紫としては
未熟な所が少しだけ見え隠れしていた
そんな事を考えながら、さらに死の匂いが強い方行に向かって歩く
(幽々子が居るとしたらあそこしかないわね)
紫が向かっている先は、この白玉楼にある有名な桜がある場所であった
幽々子が気に入っている、立派な老木の大桜
その大きな桜の木…西行妖の下に幽々子は立っていた
「やっぱりここに居たのね、幽々子」
紫が立っている幽々子に声をかける
声をかければ自分の事に気がついた幽々子が
こちらやってくると思って声をかけた
「……」
だが、幽々子にはそのような声が聞こえていていないみたいだった
「幽々子?」
おかしいと思った紫は、幽々子のすぐ傍に向かうとさらに呼びかけた
「幽々子!」
紫が幽々子の肩を掴んで名前を叫ぶと
幽々子が紫の顔の方を向いた
「…ゆ…かり…?」
幽々子はそう言うと、力を無くしたかの用に
全身の力が抜けて倒れそうになった
紫がそれを必死に抱きとめる
「幽々子!?どうしたの!?」
紫は生気が全くない顔の幽々子に必死に声をかける
「…ゆ…か…り…」
「幽々子!」
倒れた幽々子が、何かを必死に紫に伝えようとする
紫が幽々子の口元に耳を近づける
「にげ…て……私じゃない…誰かが…私…を…」
そこまで聞いた紫は、頭の中に一つの可能性が浮かんだ
(まさか!?)
紫が最悪な想像をした瞬間
倒れている幽々子の身体に力が入る
(……死ね)
「!?」
幽々子のものとは思えない声が放たれるのと同時に
その体から、農密度な死の気配を放ちながら
強力な掌底が放たれ、紫を遥か後方に吹き飛ばした
「妖夢さん、この材料使わないんですか?」
「捨てはしませんけど、賄いでしか使えませんね」
美鈴が妖夢と料理を作っていた
「…これと、これと…」
「美鈴さん?どうしたんですか…そんな色の悪い材料集めて…」
美鈴が手に取ったのは、色の悪い米や馬肉、鮒、鯰、豚肉…
料理として使うには、少々見栄えが悪い代物だった
「これだけあれば、久しぶりにあの料理が作れます」
美鈴が笑みを浮かべて、何かを作ろうとした時
得体の知れない変な気が、一瞬だけ発せられた
「妖夢さん!?」
「はい!何かあったみたいです」
常人でも、寒気がするほどの気
妖夢と美鈴ほどの者なら、すぐに気がついた
「あれは殺気です」
妖夢がそう叫ぶと同時に、妖夢が二振りの刀を装備して表に飛び出す
美鈴もほぼ同時に表に飛び出すと
「あっちの方です!」
殺気が感じられた方角に向かって
二人は全力で走り出した
「火は消してきましたか!?」
「大丈夫です!キッチリ火を消してきました!」
きちんと火の元も確かめる辺り
ふたりの料理の年季を物語っていた
幽々子の掌底を受けて後方に飛ばされた紫は
飛んだ際に、ぶつかったであろう木の根元で座り込み
無言のまま、掌底を放った幽々子…
否、幽々子を乗っ取った者を見つめていた
(ほう?流石だな八雲紫)
吹っ飛ばされた紫の方に向かって
幽々子がゆっくりと歩いてくる
(まさか、あの一撃を瞬時に理解して自ら後方に飛ぶとは)
「…ばれちゃったかしら?」
紫がおどけるようにそう伝える
いかに紫と言えど、殺す気で放たれた
幽々子の一撃を受ければ死なないにしても
怪我を負う事は免れない
故に、紫は自らの力で後ろの飛んだのだ
(だが、完全には避けれなかったみたいだな)
「……」
言われたとおり、紫の肩の部分は
何かに削り取られたかのようになっていた
(…今度は終わりだな、お前はこの娘には攻撃できまい)
幽々子を乗っ取った者が紫にそう告げる
そして、紫に対して手をかざし止めになる一撃を加えようとした時
紫が少し笑ってから、手をかざす
「攻撃はできないけど」
その瞬間、幽々子の体の周りに結界が張られる
(むっ!?)
「…動きを止めるぐらいならまだできるわ」
結界で身動きが取れない用にがんじがらめにする
(だが、時間稼ぎ程度にしかならぬみたいだな)
幽々子に取り付いた者がそう告げると
紫は笑みを浮かべて答えた
「あら?それで、十分よ幽々子…いえ、西行妖」
紫のがそう告げると後ろから二人分の足音が聞こえてきた
「紫さん!?」
「幽々子様!」
美鈴と妖夢が先ほどの気が発せられた場所を
目指して走ってきたら、そこには座り込んだ紫と
何時もの雰囲気が違う幽々子の姿があった
「遅かったわね」
「一体何があったんですか!?」
良く見ると、怪我をしている紫に対して
美鈴が何があったのかを問いかけた
「…最悪の事態よ」
紫が真剣な顔をして妖夢と美鈴に答えた
「幽々子があの西行妖に乗っ取られたわ」
「幽々子様が!?」
妖夢が叫ぶと、紫が頷いた
「幸い、まだ幽々子の体を完全に乗っ取ってはいないみたいだから
弾幕を放つ事はできないみたい」
紫が自分が受けた一撃などから、戦闘力の分析をした
「迂闊だったわ…西行妖の意識がでてくるのがこんなにも早まるなんて」
「どういう事なんですか?」
紫の言葉に美鈴が反応する
「…今夜の幽々子が行なう踊り…あれは西行妖にかかっている
封印の緩みを直すための、一種の儀式だったのよ」
数百年に一度、二度と西行妖が出てこないように
がんじがらめに封印をかけなおす為の儀式であったのだ
「だけど、今回はしばらく前の異変のせいで、思っている以上に
西行妖の封印が弱まるのが早かったみたい」
そのせいで、西行妖の意識だけが表に出ることができたのだ
「で、ですが…幽々子様ほどのお方がそう簡単に…」
妖夢がそう言うのを見て、紫が首を横に振る
「…西行妖に『死を操る能力』は効かない…同じ能力を持っているから」
紫がそこまで答えると、がんじがらめになっていた
幽々子に乗り移った西行妖の結界にヒビが入った
「どうすれば幽々子様を戻す事ができますか!?」
妖夢が震える手で刀を構えて紫に話を聞く
「…何とかして、幽々子の体から西行妖の意識…
魂みたいな物を引き剥がさないと」
「どうやってですか!?」
妖夢が怒鳴るように返す
「幽々子を気絶させないと無理ね」
紫がそう言うと、結界がさらに解れ始める
妖夢が刀を握り直した時
「妖夢さん下がってください」
「美鈴さん!?」
美鈴が妖夢の肩をポンと叩いた
「気絶させるのでしたら、私の方が適任です」
正論であった、妖夢の刀では下手な事をしたら
そのまま断ち切ってしまう
「それに、己の主に刀を向けるなんて事出来ないでしょう」
自分の主に刀を向ける…そんな事従事者としては
できるはずがない、それが操られていたとしても
妖夢は美鈴に道を譲った
「…幽々子様をお願いします…」
「分かりました!」
美鈴が構えを取ると同時に、
がんじがらめになっていた結界が完全に破壊された
結界の内側から現れた、幽々子…西行妖は
自分にとって一番の邪魔になるであろう紫に追撃をしようとしたが
「貴方の相手は私です」
目の前に現れたのは赤い髪をもつ妖怪の姿であった
(…小妖ごときがわが前に立つか)
全身から発せられる気だけで目の前の妖怪を威圧する
「小妖ですが、幽々子さんの体から貴方を除きます」
だが、その妖怪…美鈴は一切それに怯まなかった
自分を恐れぬ美鈴の態度が気に入らなかったのであろう
(小ざかしいわ!)
美鈴の簡単な挑発に西行妖は乗ってきた
(まずは相手の出方を見ないと)
美鈴はまず、相手の出方を伺う為に
牽制の為の攻撃を仕掛ける
「先手必勝です!」
美鈴は西行妖の前に進むと力を乗せた手刀を放つ
避けられたらそのまま後方に引く
防御されたとしてもそのまま攻める事ができる
(うまく当たれば、そのまま気絶してもらいます)
そのような考えの一撃を美鈴が放つ
だが、美鈴のその一撃は避けられも防御もされなかった
西行妖は、美鈴の一撃を軽く捌き
その手刀を放った手を掴むと、空中でさらに力を加え
(当身投げ!)
そのまま、美鈴を強烈に地面に叩きつけようとした
「くっ!?」
美鈴が地面に叩きつけられる前に体の捻りを使って
地面に足をつけると、そのまま後方に飛ぶ
(…ほう、当身投げから逃げるとはな…)
後方に自分から飛んだ美鈴を少し驚きながら見つめる西行妖
「…当身投げ…」
自分から後ろに逃げた美鈴は紫の話を思い出す
(幽々子さんは記憶をなくしているとはいえ
古武術の達人にして骨法の天才…それを考えれば当身投げも…)
美鈴が攻め方を考え始める
(…まずは…)
美鈴は西行妖に向かって高速で踏み込むと
「螺尖脚!」
そのまま拳を出して突っ込んでいく
(反撃しにくい中段突きなら!)
対応しにくい攻撃で西行妖に向かっていく
だが、その一撃を軽く捌くと
(上段当身!)
力を殺さずに、美鈴を真後ろに投げ捨てる
「まだまだ!」
美鈴が地面に叩きつけられる前に受身を取ると
今度は低い姿勢のまま突っ込んでいき
不意打ち気味に、足払いをかける
(下段攻撃なら!)
美鈴の体重をかけた下段の足払いが西行妖に決まる瞬間
(…おろかな)
美鈴の攻撃をそらし、その上で美鈴の足の裏に力を籠めて
(下段当身!)
横から力を加えて空中に浮かせる、身動きが取れない美鈴を固定すると
(いい加減失せろ!)
背中から地面に叩き付けた
(…痛たたっ…)
地面に全力で叩きつけられた美鈴は
今までの戦いからさらに考え込んでいた
(スピードの違う攻撃も、上段の攻撃も
下段の攻撃も…全て反撃してくるなんて…)
先ほど八雲紫から聞いた事を改めて、頭に思いだす
(…天才ですね)
いまだかつて、これほど綺麗に投げられた事は無かった
だが、あまりに綺麗であるからこそ
(受身が取りやすいですね)
美鈴にとっては地面に叩きつけられる事は余りダメージにならなかった
(ですが、攻撃が全て通用しないとなると…)
そんな時、美鈴の頭に一つの考えが浮かんだ
(ふん!…小妖風情が…)
地面に叩きつけて、気絶したと思った西行妖が
美鈴から目をそらそうとしたとき
「よい…しょっと…」
自分の目の前の相手が起き上がってきた
(…ほう?硬いな)
「随分長い間…門番をしてきましたから」
西行妖に対して、美鈴がそう告げると
(ならば完全に砕いてくれるわ!)
倒れている美鈴の元に歩み寄ってくる
(今です!)
自分より一~二歩程前の位置に西行妖が踏み込んだ瞬間
美鈴は体を起すと相手に全力で掴みにかかった
(むっ!?)
思わぬ攻撃に西行妖の動きが止まる
その間に美鈴は、相手を掴んだまま空中で反転
「レティさん直伝!未完成SPD(スクリューパイルドライバー)!」
(ぬおっ!?)
そのまま、垂直ではないが横回転を加えて背中から西行妖を落とす
一度しか受けた事が無い技なので、マネに過ぎなかったが
それでも、相手に対してダメージはあったみたいだった
「…痛たたっ…」
未完成な技のせいで、美鈴も受身をうまく取る事はできなかったが
相手の当身と言う攻撃方法に対して、有効な攻撃を得る事ができた
「もう一撃!」
美鈴が起き上がろうとしている、西行妖に対して止めとなる
投げ技をしようとする為に近づこうとした時
「いけない!倒れている幽々子に近づいては!」
美鈴の後ろから声が聞こえてきた
美鈴が一歩引こうと思っていたら
(もう遅いわ!)
「!?」
突然、美鈴の体の自由が利かなくなる
「か、体が!?」
美鈴が驚く間もなく、身動きが取れない体がふわりと宙に浮く
(…貴様に…この娘の最高の技で葬ってやろう)
空中に浮いた美鈴が軽く浮いた後
今度はゆっくりと地面に向かって落ちてく
その間、西行妖は深呼吸をし始める
そして、美鈴が自分の真正面に来ると目を見開き
「冥界門!」
身動きが取れない美鈴の体に、全力の殺気を叩き込んだ
かつて、幽々子が作り上げた奥義を完全に再現した
その技をまともに受けた美鈴は
一瞬空中で止まったかのようになると
「ごっ…はっ……」
その後、高速で後ろにあった桜の木に叩きつけられて崩れ落ちた
「美鈴さん!?」
少し離れた所で、美鈴が倒れるのをみていた者がいた
戦いを譲った魂魄妖夢…
そして、怪我を負っている八雲紫であった
「そんな…あの技が…」
あり得ない物を見たと、珍しく驚く紫
「紫様、あの技は?」
その驚きを見て、妖夢が紫に問いかけると
紫が、緊張しながら答え始めた
「…自分の間合いに居る相手を『殺気』を持って動けなくし
身動きが取れぬ相手に、呼気と共に『殺気』を込めて放つ技」
紫も一度だけその技を見たことがあった
自分の親友が生きていた頃に…
「相手の体の内部に威力を通す骨法の『徹し』と言うなの奥義
一撃で相手の魂を冥界まで送る…故に付いた名前が『冥界門』」
「そ、それでは…美鈴さんは!?」
妖夢の問いかけに、紫は一切首を振らなかった
「分からないわ…でも、少なくとも今は立てないはず」
「くっ…」
紫の言葉を聞いた妖夢が美鈴の前に向かおうとする
「行ってどうするつもり!?」
紫の言葉を聞いた妖夢が、一瞬だけ立ち止まる
下手に攻撃をする事は出来ない
そして、行った所で一撃で倒される可能性もある
「…せめて、美鈴さんを助けることぐらいはできます!」
だが、それでも妖夢は走り出した
(まさか…この冥界門まで使わせるとは…)
渾身の一撃を放った、西行妖はゆっくりと座り込んでいる
美鈴の傍に向かっていた
(…だが、今の一撃で終わったであろう)
西行妖が美鈴の前に立つ
(…せめてもの情けだ、止めを刺してやろう)
止めの一撃を放とうとしたその時
「覚悟!」
(むっ?)
何者かが西行妖の背後から攻撃をしてきた
完全に無防備なはずの背中を目掛けての一撃だが
西行妖はそれを背後に飛ぶ事でかわした
(…まだ、我に歯向かう馬鹿が…)
「美鈴さんに攻撃はさせません」
妖夢がそう言うと、白楼剣と楼観剣の刃を逆にして構えを取る
(よかろう…貴様も叩き伏せてくれよう!)
「幽々子様の体か出て行け悪霊!」
二人がそう叫ぶとお互いが攻撃を開始した
「…さて、せめて私ができる事は…」
体の回復に努めていた紫が妖夢と西行妖が戦っている間に
小さな隙間を開く、そしてその中に手を突っ込むと
「…死んでいるかもしれないけど…
これ以上怪我をさせるわけには行かないわ」
座り込んでいたはずの美鈴を隙間から引きずり出す
(はあ…紅魔館奴らから、本気で殺されそうね)
今でさえ、殺されそうになっているのに
そんなことを考えれるのがおかしくて、紫は笑いそうになった
そんな時…
「…あたたっ…」
「!?」
引きずり出した美鈴が起き上がって来たのだ
紫が驚きながら美鈴の方をみる
「そんな…あの技を受けて生きてるなんて!」
ありえないものを見たように紫が驚く
「あははっ…ギリギリで受身が間に合いました」
叩きつけられる寸前で、体の硬直が解けたおかげで
威力を殺す事に成功したのだ
「多分、SPDが少しは効いていたんでしょう」
あの冥界門は完全なものではなかった
未完成なSPDであったが、相手には確実に効いていたのだ
「…でも、もう打つ手が無いわ」
紫がそう言ったのにはわけがある
打撃は完全に捌かれる、そして間合い入れば一撃必殺である
冥界門が飛んでくる、いわば完全に詰みであった
「…いえ、幽々子さんから、西行妖を追い出す方法が浮かびました」
だが、美鈴には何か案ができたらしい
「あの技を受けてみて初めて分かりました」
美鈴が紫に対して、自分の作戦を告げる
「…そんな…でも、確かに貴方なら…」
「やるしかありません、追い出したら後は何とかできるのですか?」
美鈴の言葉を聞いて、紫が頷く
「追い出した後はまかせて」
「では、もう一度戦いに行きます、妖夢さんに作戦を伝えてください」
美鈴が再び戦いに出ようとしていた
(どうした?動きが遅いぞ)
「ぐっ…」
美鈴が紫につれていかれている間、妖夢は
なれない逆刃で西行妖の相手をしていた
(そのような刀では、我に傷一つ付ける事もできぬわ)
西行妖がそう言うと同時に、妖夢を地面に叩きつける
「っ!」
背中から地面に叩きつけられて、一瞬息ができなくなる
(どうした?たって見せよ)
その隙に攻撃ができるはずなのだが、西行妖は
ただ見つめるだけであった
「くっ!せいっ!」
妖夢が体のばねを使って起き上がると
西行妖に向かって刀を振るう
その一撃に対して、西行妖は
(打ってみよ?)
「!?」
一切反撃をしなかった
そして、妖夢の一撃が当たると思われたとき
「……」
妖夢の刀はギリギリで止まり
その手は震えていた
(どうした…切らぬか?やってみせよ?)
完全な挑発、だが妖夢には攻撃ができなかった
(ふはははっ!できぬよな?この身体はお前の主の物)
「くっ、卑怯な…」
目の前に居るのは、自分の主である西行寺幽々子
たとえ、その体が乗っ取られていても
妖夢には攻撃ができなかった
(では、死んでもらおうか?)
動けない妖夢の首に、西行妖がその手を伸ばす
「…幽々子様…」
妖夢が観念して目を瞑る…
そして、妖夢の首にその手がかかる寸前
(ぐっ!?)
突然西行妖が苦しみだす
いきなり、何が起こったのかはわからない
妖夢がおどおどしていると
「妖…夢…」
「ゆ、幽々子様!?」
突然、目の前の西行妖の動きが止まり
西行寺幽々子の声が聞こえてきた
「妖…夢…斬りなさい……」
「何をですか!?」
主の命令に妖夢が問いただす
その答えに幽々子が答える
「私の…体ごと……西行妖を…」
「!?」
覚悟はしていたが、目の前でそのような事を言われて
妖夢の体が震える
「早く……また…西行妖が…今しか…切れない」
今ここで、幽々子切る事が出来れば
西行妖は確実に退治することができる
だが、そうすれば確実に幽々子も死ぬ事になる
「妖夢!…早く!」
「…幽々子様」
主の言葉に妖夢が出した決断は
「できません!」
切らない事だった
それがたとえ、主の命令を裏切る事になっても
「妖夢!?」
「たとえ、幽々子様の命令に背くことになっても私にはできません」
妖夢はそう告げると刀を納めた
「妖…夢…」
「必ず…お救いします」
妖夢がそう告げると、幽々子の表情が変わる
そして、小さく口を動かすと
再び幽々子の口調が変わる
(ふふふっ…ははははっ!馬鹿めが!?
我を滅する最大のチャンスを逃し負って!)
再び、西行妖が幽々子の体を乗っ取る
(ふむ、この小娘の精神を完全に殺す為には
お前を殺した方が効果がありそうだな)
西行妖がそう告げると
再び、妖夢に攻撃を加えようとして
「黄震脚!」
(むっ!?)
いきなり地面が揺れた
突然のことに、西行妖が動きを止める
「…第二ラウンド目ですね」
(貴様!?冥界門を受けて!)
西行妖も目を見開く、必殺技を完璧に決めたはずなのに
(何故立てる!?)
「さあ?…守る者がない貴方には一生分からないと思いますけど?」
美鈴が挑発している間に妖夢が隙間に連れ去られる
だが、西行妖にとって、そんなことはどうでもよかった
それより、今の西行妖にとって重要な事は
「それよりも、こんな小妖一人壊す事ができないなんて
思ったよりたいした事無いですね」
(貴様!)
自分の必殺を耐え切った、目の前の妖怪を
完全に殺しきることだった
「さあ、貴方の必殺技、何度でも放ってみてください?」
(殺してやる…殺してやる!殺してくれる!)
「うわ!?」
「は~い、一名様隙間にごあんな~い♪」
突然隙間に落とされた妖夢を紫が抱きとめる
「ゆ、紫様?」
妖夢が驚きながらそう答えると
「紫様、幽々子様が…」
先ほど、幽々子と話した言葉を紫に話した
それを聞いた紫は、妖夢に伝えた
「…なるほど…最高のチャンスを貴方は潰したわけね?」
「…はい…」
妖夢が頭を垂れる、幽々子が作った一度のチャンスを
妖夢は自分の判断で無駄にしたのだ
どれだけ、文句を言われても仕方が無い
「…良くやったわ…」
「…えっ?」
だが、紫は笑っていた
「もし、貴方が幽々子を切っていたら、誰も救われなかった」
「……」
無言のまま妖夢に対して、紫が真剣な顔で答えた
「いい?これから作戦を教えるわ」
「作戦?」
妖夢の言葉に、紫が頷く
「ええ、幽々子の体からあの西行妖を追い出す作戦」
「!?」
驚いている妖夢に、紫は作戦の内容を話した
(…なぜだ…)
一撃目は背中から木に向かって叩き付けた
(…何故なのだ?)
二撃目は全力を持って地面に叩き付けた
三度、四度と必殺の冥界門を叩きつける
「…よい…しょ……っと」
だが、その度に目の前の相手は起き上がってきた
(ぐっ!冥界門!)
今度は空中に相手を飛ばすと、顔を狙って
冥界門を叩きつける
技を受けて、桜の木に叩きつけられる美鈴
だが、地面に叩きつけられ、木にぶつかり
顔面から出血していても
(何故貴様は倒れないんだ!?)
目の前の妖怪は起き上がってきた
西行妖は目の前の光景が信じられなかった
「…奥義…やせ我慢の…術ですよ…」
美鈴がそう言うと、再び立ち上がった
「どう…しました?…私一人倒せないようじゃ…幻想郷で
…や、やっていけませんよ?」
それどころか、余裕ありげな笑いを浮かべて挑発までしてくる
(…き、貴様は…不死身か?)
西行妖が美鈴に問いかける
「不死身?…それは妹紅さんと輝夜さん、それと永琳さんの専売特許です」
(え~い!わけのわからん事を!)
西行妖がイライラしているのを感じた美鈴が
さらに挑発を開始する
「私を倒すと言うのなら、貴方の本気の冥界門を撃ってください」
(なに?)
西行妖が驚く、必殺技を目の前の相手は
自分に打たせようとしてる事に
「それとも…怖いのですか?この小妖ごときに…」
(黙れ…)
「大妖怪と言われた西行妖も…たいした事ないですね!」
(黙れ!下等妖怪風情が!)
怒りと共に、前の物とは全く違うぐらいに膨れ上がった
『殺気』の塊が、美鈴の前に叩きつけられる
それにより、美鈴の体の自由が奪われる…
(喰らうが良い!冥界…)
はずだった、だが美鈴はその『殺気』を全て受け流し
「黄震脚!」
(うおっ!?)
渾身の震脚で逆に西行妖の地面ごと、空中に放り投げる
そして…自分に叩き付けられたはずの『殺気』の塊を
「覚えておいてください…私の能力は…」
自分の体の中に取り込み
「『気を操る程度の能力』という事を!」
そのまま、莫大な気を全て『闘気』に変換して
「冥界門改め『紅魔門』」
その闘気を全て目の前の西行妖に叩き付ける
冥界門とは違い、放たれた気はさらに凝縮され
まるで龍の鳴き声のような音を立てながら
西行妖が乗っ取っていた幽々子の体をすり抜け
(おごあっ!?)
西行妖をその本体である、桜の老木に叩き付けた
その衝撃で、幽々子の体から西行妖の気配が一瞬吹き飛ぶ
(ば、馬鹿な!?)
西行妖が、ありえない一撃を受けて一瞬だけ戸惑う
その一瞬の間に、その場に現れた人物がいた
「幽々子!」
(しまっ!?)
自分の意識のよりどころとしていた
西行字幽々子の体に
「…これで形勢逆転ね?…」
(き、貴様…八雲紫!?)
隙間妖怪…大妖怪である八雲紫が
がっちりと結界を張っていた
(…どうする…このままでは)
西行妖は考えた…
このまま居ては死ぬ事は無いだろうが
もう二度と、このようなチャンスは無いだろう
(せめて…せめて誰かに乗り移れば)
この場に居る誰かに乗り移る…
そうすれば、再び闘う事はできる
(八雲紫…)
即座に選択肢から消去する
そんなことしたら、完全に意識を乗っ取られる
(目の前の妖怪…)
乗っ取ろうとすればできるだろう…だが
時間がかかるうえ、全身ボロボロである
(西行寺幽々子…)
これも無理だ、なにせ八雲紫自身が結界を張っている
迂闊に寄り付けば、酷い目にあう
「詰みよ?…今の弱った貴方なら、完全に意識を消して
もう二度と、表に出れないように封印する事ができるわ」
(…ぐっ)
八雲紫の言葉を聞いて、西行妖が出した最後の回答は
(…意識を乗っ取ってくれるわ!)
「愚かね…」
紫が自分に向かってくる西行妖の魂に攻撃を放つ
だが、西行妖は紫や美鈴に向かわなかった
(その小娘の方にな!)
自分達から少し離れた所にいた、妖夢に向かって
西行妖が向かっていく
「妖夢!?」
紫の声が響く、だが、それよりも先に西行妖の魂は
妖夢の身体に向かって行き
(これで!再び形勢逆転!)
その中に入って行く
「……ふん!」
だが、妖夢が目を見開いて呼吸をすると
(ば、馬鹿な!?)
その体の中から西行妖が追い出された
(き、貴様!?いつの間に気を練っていた!)
「…幽々子様から追い出されたら、私の所来ると思っていた」
妖夢が、そこまで話すと改めて白楼剣と楼観剣を構える
「…そして、今まさに妖忌お爺様の言っていた意味がわかった」
(ま、待て!?)
物質でない魂は、刀では切れない
だが、西行妖の中の本能が叫んでいた
『あれは危険だ』と
恐れを感じた西行妖が、急いで自分の大本である
老木に逃げようとする、たとえ封印されても
目の前の刀よりはどれだけかましだと思ったからだ
「この白楼剣と楼観剣に…」
だが、妖夢の足の最速は逃げ出した西行妖よりも
圧倒的に早い、二百由旬にも渡る広い庭を
何時も当たり前のように動いているのだ
(に、逃げれる!これで…)
西行妖の魂が、あと少しで老木に逃げれると言うところで
「私と幽々子様との絆以外に!」
後ろから迫ってきた何者かによって
「斬れないものなど無い!」
意識を完全に断ち切られた
「…妖忌お爺様、ようやく分かりました」
妖夢がそう告げると、両手に持っていた白楼剣と楼観剣を鞘に収めて
「…切れないものがある者…護る者がある者の方が強いのですね」
そう呟いてから、緊張の糸が切れて
妖夢は真正面から倒れこんだ
(…よぉ…ぅ!)
倒れる寸前、妖夢は誰かに優しく抱きしめられた気がした
「妖夢…妖夢!」
「落ち着きなさい幽々子!」
「だって妖夢が!妖夢が~」
最後に、西行妖に止めを刺したのは
妖夢の一撃であった
目を覚ました幽々子が妖夢に抱きつこうとしたら
目の前で妖夢が倒れてしまった
「急いで永遠亭に…紫!隙間だして!」
「だから落ち着きなさいって…」
事、妖夢の事になると、幽々子は見境がなくなる
紫が必死に幽々子をなだめると
幽々子は妖夢を抱きしめて、一足先に屋敷に戻っていった
「…さて…貴方はどうかしら?」
「まあ…生きていますよ?」
紫は幽々子が居なくなってから
倒れていた美鈴に声をかけた
「…満身創痍ね」
「わかりますか?」
美鈴は笑っているが、その実身体はぼろぼろであった
「ねえ、貴方本当に化け物?」
「まあ、妖怪ですからね」
美鈴がそう言って、起き上がる
「いたた…」
「ねえ、どうやって『冥界門』をあれだけ受けて立ち上がれたの?」
紫が美鈴の手を掴んで起きるのを手伝う
そして、肩を貸すと屋敷に向かってゆっくり歩き出した
「『徹し』も突き詰めれば『気』…私には効かないんです」
全身を気が貫くダメージは美鈴にとっては致命傷にならない
それが、冥界門を尽く受けきる事が出来た正体であった
「でも、あれだけ強力に叩きつけられたらいくら貴方でも」
確かに凄まじい威力で叩きつけられる
その辺の妖怪なら、一撃で消し飛ばされる威力はあった
「あははっ…私は門番ですから」
「…どういう事かしら?」
美鈴が笑いながら答えた
「気まぐれに飛んでくる妹様のタックルとか
魔理沙さんのブレイジングスターとか…
お嬢様のドラキュラクレイドルを受けているんで
どんなタイミングでも受身が取れるようになってしまったんですよ」
その言葉を聞いた紫が額から汗を流して答えた
「…果てしなく過酷な部署ね…門番って」
紫の言葉に、美鈴が笑って答えた
「でも、楽しいですよ?」
「…これからは、もしかしたら貴方のような妖怪の時代かもしれないわね…」
「いえいえ…私は紅魔館を見ているだけで精一杯です」
そこまで話すと、紫と美鈴は屋敷にたどり着いた
「でも、流石に体がボロボロです」
「…まあ、私が見ただけでも…頭蓋骨骨折 及び 脳挫傷
鼻骨骨折、第7歯から第4歯欠損、
第1歯及び第2歯欠損、頚椎捻挫、左鎖骨不完全骨折…」
「いや、流石にそこまでは…」
「冗談よ…」
紫がそう言うと、美鈴を縁側に座らせた
「…ありがとう、貴方が居なかったら、幻想郷まで危険な事になっていたわ」
紫が美鈴にそう告げた
もし、西行妖が冥界から出ていたら
幻想郷の中の全ての生き物が危険にさらされていたであろう
「いえいえ…こちらも、投げ技を見ることができましたから」
美鈴の目的は投げ技修行、そのための怪我なら
仕方が無い事である
「ですが、この技は私には使えません」
「あら、なんでかしら?」
最後に美鈴が放って見せた一撃は
完璧な『冥界門』そのままであった
では、何故使いこなせないのか
「…威力が強すぎるんです、下手に使うと相手が死にます」
「それなら仕方ないわね」
この平和な幻想郷、相手が確実に死んでしまうような危険な技を
迂闊に放てる者はそうそういない
「…また、投げ技を会得する為に幻想郷を歩きます」
「そう、なにか面白い投げ技を会得できるように祈っておいてあげるわ」
紫がそう言って笑うと、美鈴が立ち上がり
「あたたたたたっ!?」
「…とりあえず、明日病院に行ったほうがいいわよ?」
「そ、そうします…」
美鈴が次に向かう場所が決まったようである
「今日は一旦眠るといいわ、明日隙間経由で送ってあげるから」
「うぅ…ありがとうございます」
・・・ってとこは、「○イジング○トーム」を放てる!?
恐ろしい木!!
一食即解(くえばわかる)
ですね、なつかしすぎるわ!
つまり、めーりんは特級厨師か……