※緋想天ネタバレあるような気がしないでもない。ご注意ください。
日差しが暖かで、吹く風も緩やかで、木々が青々と茂り、広々とした過ごしやすい場所。
そこは天界。
そのどこかに天子と衣玖はいる。二人以外に人の姿は見えない。
そこで天子は正座をさせられ、衣玖に説教されていた。
地上に下りて、好き勝手やったことを怒られているのだ。
「人には人の都合というものがあるのですから、そのことを考えて我侭は控えてください」
「そんなこと知らない!」
天子はぷいっと顔をそらす。
「また博麗の巫女や隙間妖怪がやってきて負かされますよ?」
「今度は勝つもんっ」
顔をそらしたまま答える。
「負かされたとき、こんな痛い思いはもうしたくないって言ってたじゃないですか」
「言ってない! 衣玖の聞き間違いよっ」
天子は立ち上がり、歩き出す。
「どこに行く気ですか?」
「説教ばかりで面白くないから、また地上に行くの」
「で、また騒ぎを起こすと」
「そうよ。またいろんな人がやってきて楽しいじゃない」
その答えに衣玖は溜息一つついて、羽衣を伸ばし天子の足の絡めた。
べちゃりと顔からこける天子。幸い草に突っ伏しただけで怪我はない。
それでもそれなりの痛さに顔をしかめて、衣玖へと勢いよく振り向いた。
「なにするのよ!」
「ていっ」
文句を言うために開いた口に衣玖が何かを放り込む。いや叩き込んだ?
けほけほとむせながら、自身の体に起きた変調に気付く。
手足の先から感覚が鈍くなっていき、それは徐々に体全体に及んでいく。
体の自由が奪われることに恐怖が浮かび、それでもそれをできるだけ表に出さず気丈に衣玖を睨む。
「な、なにを……のませ……たのっ」
「永遠亭というところにいる薬師に頼んで作ってもらった痺れ薬です」
「ど……うし……て?」
「なぜ飲ませたか知りたいと?」
天子はこくりと小さく頷いた。
「それはですね。お仕置きするのに、暴れられると困るからです」
くくくっと笑い少しずつ近づく衣玖の表情になにを感じたのか、動かない体を必死に動かそうとしている。
怯えた雰囲気に満足した衣玖は、雰囲気をころっと変えて天子を担ぐ。
ふわりと地を蹴って向かうは地上。
少しばかり空中遊泳を楽しみ、里に降り立つ。
衣玖の目の前には寺子屋がある。目的地はここだ。
天子を担いだまま戸を開け中に入る。授業中で、慧音が教壇に立って本を読み聞かせていた。
「少し遅れました。面倒ごとを頼むのに申し訳ありません」
「いや、始めたばかりだ気にしないでいい。
それで、その担がれているのが?」
「ええ、そうです。
どこに置きましょうか?」
「一番前の列に開いてるところがあるだろう? そこに座らせてくれ」
「わかりました」
自分に注目する子供たちに笑みと礼を送り、衣玖は天子を正座させる。
そして天子の口を開け、麻痺解きの薬を飲ませた。
「それではよろしくお願いします。
わがまま言うようなら遠慮なくしばいてかまいません。
意外と頑丈ですから」
「わかった」
衣玖はもう一度礼をすると寺子屋を出て行った。
当たり前だが天子には事情がさっぱりだ。
「どうして私はここに連れてこられたのよ?」
「常識を叩き込んでほしいそうだ」
「常識って、そんなもの教えてもらわなくても知ってるわ!」
「聞いた話で判断する限り、常識あるようには思えなかったな」
「不愉快よ、帰るっ」
立ち上がる天子の肩を押さえ、座らせる。
「まあ待て、帰ってもどうせすることなくて暇なんだろ?
一日くらい暇つぶしがわりに授業受けていったらどうだ。
それに今帰ると緋想の剣はもどってこないぞ?」
「なに言ってるのよ。緋想の剣は……あれ?」
ぱたぱたと体中を叩いてようやく緋想の剣がなくなっていることに気付く。
さあっと天子の顔から血の気が引いていく。ただでさえ勝手に持ち出したものだ。それをなくしたとなったらどうなることか。
両目の端に、焦りと怖さでじわりと水滴が浮かぶ。
「衣玖からの伝言だ。
緋想の剣はお預かりしています。授業をきちんと受けてきたら返しますよ。
だそうだ」
「本当に?」
「私に確認されてもな。お前のほうが付き合いは長いだろう?
こんな時に嘘をつく人か判断できるはずだ」
「…………」
天子は黙って考え、しぶしぶながら授業を受けることを受け入れた。
その表情にやる気は少しもない。
慧音が授業を再開してもそれに変化はなく、しだいに机にだれて寄りかかり、しまいには眠りだす。
子供たちは慧音からなにか切れる音が聞こえたらしい。
天子は頭にものすごい衝撃を受けて目が覚める。
ずきんずきんと痛い部分を両手で押さえ、今度は痛みで目に涙が浮かぶ。
「なんなのよ!」
精神上よくないいい笑顔で天子の前に立つ慧音に怒鳴る。
「授業がつまらなくて寝るのは、まあ私にも少しの非はあるのだろう。私の教え方が堅苦しかったりな。
だが最初からやる気なくそんな態度でいられると、さすがに怒っていいだろう?
寝たらまた頭突きだからな?」
次は本気で頭突くと慧音の目が語っていた。
それに勢いよく首を縦にふることで天子は答えた。
「ちょうどいい、一度休憩しよう」
慧音は本を机に置いて寺子屋を出て行く。
慧音がいなくなると、天子の周りに子供たちが集まる。
「大丈夫?」
「先生の頭突きは痛いからなー」
「ハンカチ濡らしてきたから当てるといいよー」
「ねえ、里じゃみかけないけどどこからきたの?」
「帽子についてる桃って本物?」
「名前はー?」
口々に話しかけてくる。
無邪気な子供の勢いに押されて、天子は気圧される。
なんとか最後の質問だけ答えることができた。
「……天子」
「じゃあ天ちゃんだね。よろしくー」
これにほかの子供たちも続く。
「……よろしく」
今日限りだからよろしくもないだろうとは思っていたが、子供の言うことだしと気にせず返す。
子供たちは新しい友達に興味津々で、慧音が帰ってくるまで天子と話していた。
いつもより長い休憩に疑問を感じる子もいたが、たまにはこんなこともあると気にせず話し続ける。
外で中の様子を見ていた慧音が寺子屋に入ったのは、天子がそれなりに子供たちと打ち解けた頃だった。
授業が再開される。
今度は天子も寝ずに授業を聞いている。寝ているときの頭突きは怖いからだ。
授業を聞き流しているかと思った人もいるかもしれない。しかし天子は真面目に慧音の話を聞いていた。
なぜなら面白かったからだ。
天子の知っていることは、天界のことと時々覗き見た幻想郷のことだけ。自分の知らない話は、退屈な天界暮らしよりも魅力的だった。
そんな天子の様子を慧音は意外に思っていた。もう一回くらいは頭突きをする必要があるんじゃないかと思っていたから。
やがて午前の授業が終る。
そして昼食の時間だ。
皆、家から持ってきた弁当を広げる。天子だけは弁当を持っていなくて手持ち無沙汰だった。
慧音が天子を呼ぶ。
「天子は弁当がないのか。
こっちにこい。私の弁当を半分食べるといい」
「いいの?」
「ああ」
それを聞いた子供たちが、自分たちもおかずあげると言い出して、昼食には十分な量が集まった。
天子は顔を紅くして、視線をあちこちに向け、口を開いたり閉じたりと何か言いたそうにしている。
少しして恥ずかしそうに小さな声で、ありがと、と礼を言う。それに子供たちはどういたしましてと笑顔で応えた。
授業が終わり、子供たちは遊ぶため外に出て行く。
その中に手を引かれて一緒に外に出る天子の姿もある。
連れてこられたときと違って表情は、楽しげなものだ。退屈だと不満を感じさせるところは一片もない。
「上手くいったようで安心ですわ」
寺子屋の入り口に立つ慧音の横に衣玖がふわりと降り立つ。
「迎えにきたのか? まだまだ帰らないと思うが」
「あんなに楽しげな総領娘様を、無理矢理連れて帰る気はありませんよ」
上手くいったとはどういうことか?
常識を叩き込むというのは嘘だ。
幻想郷には非常識が服を着て歩いているような奴が何人もいる。それらを見ているのに天子だけ常識的になれというのは、理不尽だと二人はわかっている。
衣玖が天子を寺子屋に連れてきたのには、いくつかの理由があった。
一つ目は、天子の退屈を解消すること。二つ目は、最低限の社会的ルールを学んでもらいたかった。三つ目は、安易な能力使用を控えさせるため。
「子供同士で遊ぶことによって学べることは多いですからね。
総領娘様の周囲には同年代の子がいなくて、そういったことを学ぶ機会がなくて、自分勝手になりました。甘やかされたことも原因ですけどね。
友達を作ることで、自分の能力の危険性を自覚できるはずです。安易に地震を起こせば、友達が傷つくと簡単に想像できるでしょうし」
「友を作るという点でわからないことがあるのだが?」
「博麗の巫女たちでもいいじゃないかと聞きたいのですね?
総領娘様は能力に絶対の自信がありますから、実力者たち相手だと張り合うんですよ。
それは友ではなく、ライバルです。
それだと退屈は紛れますが、能力を使うことに躊躇いは感じません。むしろ積極的に使います。
そしていつか幻想郷中に大地震を起こすようなことをしでかすかもしれません。
そんなことは、あなたも私も名居守様も望みません。
だから実力的に張り合うことのない、人外に慣れているここの子供たちと仲良くなってもらいたかったんです。そのために緋想の剣を取り上げ、なるべく普通の子供に近づけさせました」
面倒くさがりなところのある衣玖が、こんな回りくどいことをしたのは名居守に頼まれたからだ。
正確には、名居守に地震など起こさないように言い付かった比那名居一族の長が、すでに事を起こした天子をどうにかするように衣玖に命じた。
こういった経緯で衣玖は行動を起こし、色々な人に相談し今回の計画を思いついた。
ただ行動の全てが、命じられたことからきているわけでもなかった。
天子に、天人とか関係のない遊び相手を作ってあげたかった、という想いも多少はあったりもした。
それは楽しそうに笑う天子を見れば、成功したといえるだろう。
次の日、衣玖の作った弁当を片手に、寺子屋へと向かう天子がいた。
日差しが暖かで、吹く風も緩やかで、木々が青々と茂り、広々とした過ごしやすい場所。
そこは天界。
そのどこかに天子と衣玖はいる。二人以外に人の姿は見えない。
そこで天子は正座をさせられ、衣玖に説教されていた。
地上に下りて、好き勝手やったことを怒られているのだ。
「人には人の都合というものがあるのですから、そのことを考えて我侭は控えてください」
「そんなこと知らない!」
天子はぷいっと顔をそらす。
「また博麗の巫女や隙間妖怪がやってきて負かされますよ?」
「今度は勝つもんっ」
顔をそらしたまま答える。
「負かされたとき、こんな痛い思いはもうしたくないって言ってたじゃないですか」
「言ってない! 衣玖の聞き間違いよっ」
天子は立ち上がり、歩き出す。
「どこに行く気ですか?」
「説教ばかりで面白くないから、また地上に行くの」
「で、また騒ぎを起こすと」
「そうよ。またいろんな人がやってきて楽しいじゃない」
その答えに衣玖は溜息一つついて、羽衣を伸ばし天子の足の絡めた。
べちゃりと顔からこける天子。幸い草に突っ伏しただけで怪我はない。
それでもそれなりの痛さに顔をしかめて、衣玖へと勢いよく振り向いた。
「なにするのよ!」
「ていっ」
文句を言うために開いた口に衣玖が何かを放り込む。いや叩き込んだ?
けほけほとむせながら、自身の体に起きた変調に気付く。
手足の先から感覚が鈍くなっていき、それは徐々に体全体に及んでいく。
体の自由が奪われることに恐怖が浮かび、それでもそれをできるだけ表に出さず気丈に衣玖を睨む。
「な、なにを……のませ……たのっ」
「永遠亭というところにいる薬師に頼んで作ってもらった痺れ薬です」
「ど……うし……て?」
「なぜ飲ませたか知りたいと?」
天子はこくりと小さく頷いた。
「それはですね。お仕置きするのに、暴れられると困るからです」
くくくっと笑い少しずつ近づく衣玖の表情になにを感じたのか、動かない体を必死に動かそうとしている。
怯えた雰囲気に満足した衣玖は、雰囲気をころっと変えて天子を担ぐ。
ふわりと地を蹴って向かうは地上。
少しばかり空中遊泳を楽しみ、里に降り立つ。
衣玖の目の前には寺子屋がある。目的地はここだ。
天子を担いだまま戸を開け中に入る。授業中で、慧音が教壇に立って本を読み聞かせていた。
「少し遅れました。面倒ごとを頼むのに申し訳ありません」
「いや、始めたばかりだ気にしないでいい。
それで、その担がれているのが?」
「ええ、そうです。
どこに置きましょうか?」
「一番前の列に開いてるところがあるだろう? そこに座らせてくれ」
「わかりました」
自分に注目する子供たちに笑みと礼を送り、衣玖は天子を正座させる。
そして天子の口を開け、麻痺解きの薬を飲ませた。
「それではよろしくお願いします。
わがまま言うようなら遠慮なくしばいてかまいません。
意外と頑丈ですから」
「わかった」
衣玖はもう一度礼をすると寺子屋を出て行った。
当たり前だが天子には事情がさっぱりだ。
「どうして私はここに連れてこられたのよ?」
「常識を叩き込んでほしいそうだ」
「常識って、そんなもの教えてもらわなくても知ってるわ!」
「聞いた話で判断する限り、常識あるようには思えなかったな」
「不愉快よ、帰るっ」
立ち上がる天子の肩を押さえ、座らせる。
「まあ待て、帰ってもどうせすることなくて暇なんだろ?
一日くらい暇つぶしがわりに授業受けていったらどうだ。
それに今帰ると緋想の剣はもどってこないぞ?」
「なに言ってるのよ。緋想の剣は……あれ?」
ぱたぱたと体中を叩いてようやく緋想の剣がなくなっていることに気付く。
さあっと天子の顔から血の気が引いていく。ただでさえ勝手に持ち出したものだ。それをなくしたとなったらどうなることか。
両目の端に、焦りと怖さでじわりと水滴が浮かぶ。
「衣玖からの伝言だ。
緋想の剣はお預かりしています。授業をきちんと受けてきたら返しますよ。
だそうだ」
「本当に?」
「私に確認されてもな。お前のほうが付き合いは長いだろう?
こんな時に嘘をつく人か判断できるはずだ」
「…………」
天子は黙って考え、しぶしぶながら授業を受けることを受け入れた。
その表情にやる気は少しもない。
慧音が授業を再開してもそれに変化はなく、しだいに机にだれて寄りかかり、しまいには眠りだす。
子供たちは慧音からなにか切れる音が聞こえたらしい。
天子は頭にものすごい衝撃を受けて目が覚める。
ずきんずきんと痛い部分を両手で押さえ、今度は痛みで目に涙が浮かぶ。
「なんなのよ!」
精神上よくないいい笑顔で天子の前に立つ慧音に怒鳴る。
「授業がつまらなくて寝るのは、まあ私にも少しの非はあるのだろう。私の教え方が堅苦しかったりな。
だが最初からやる気なくそんな態度でいられると、さすがに怒っていいだろう?
寝たらまた頭突きだからな?」
次は本気で頭突くと慧音の目が語っていた。
それに勢いよく首を縦にふることで天子は答えた。
「ちょうどいい、一度休憩しよう」
慧音は本を机に置いて寺子屋を出て行く。
慧音がいなくなると、天子の周りに子供たちが集まる。
「大丈夫?」
「先生の頭突きは痛いからなー」
「ハンカチ濡らしてきたから当てるといいよー」
「ねえ、里じゃみかけないけどどこからきたの?」
「帽子についてる桃って本物?」
「名前はー?」
口々に話しかけてくる。
無邪気な子供の勢いに押されて、天子は気圧される。
なんとか最後の質問だけ答えることができた。
「……天子」
「じゃあ天ちゃんだね。よろしくー」
これにほかの子供たちも続く。
「……よろしく」
今日限りだからよろしくもないだろうとは思っていたが、子供の言うことだしと気にせず返す。
子供たちは新しい友達に興味津々で、慧音が帰ってくるまで天子と話していた。
いつもより長い休憩に疑問を感じる子もいたが、たまにはこんなこともあると気にせず話し続ける。
外で中の様子を見ていた慧音が寺子屋に入ったのは、天子がそれなりに子供たちと打ち解けた頃だった。
授業が再開される。
今度は天子も寝ずに授業を聞いている。寝ているときの頭突きは怖いからだ。
授業を聞き流しているかと思った人もいるかもしれない。しかし天子は真面目に慧音の話を聞いていた。
なぜなら面白かったからだ。
天子の知っていることは、天界のことと時々覗き見た幻想郷のことだけ。自分の知らない話は、退屈な天界暮らしよりも魅力的だった。
そんな天子の様子を慧音は意外に思っていた。もう一回くらいは頭突きをする必要があるんじゃないかと思っていたから。
やがて午前の授業が終る。
そして昼食の時間だ。
皆、家から持ってきた弁当を広げる。天子だけは弁当を持っていなくて手持ち無沙汰だった。
慧音が天子を呼ぶ。
「天子は弁当がないのか。
こっちにこい。私の弁当を半分食べるといい」
「いいの?」
「ああ」
それを聞いた子供たちが、自分たちもおかずあげると言い出して、昼食には十分な量が集まった。
天子は顔を紅くして、視線をあちこちに向け、口を開いたり閉じたりと何か言いたそうにしている。
少しして恥ずかしそうに小さな声で、ありがと、と礼を言う。それに子供たちはどういたしましてと笑顔で応えた。
授業が終わり、子供たちは遊ぶため外に出て行く。
その中に手を引かれて一緒に外に出る天子の姿もある。
連れてこられたときと違って表情は、楽しげなものだ。退屈だと不満を感じさせるところは一片もない。
「上手くいったようで安心ですわ」
寺子屋の入り口に立つ慧音の横に衣玖がふわりと降り立つ。
「迎えにきたのか? まだまだ帰らないと思うが」
「あんなに楽しげな総領娘様を、無理矢理連れて帰る気はありませんよ」
上手くいったとはどういうことか?
常識を叩き込むというのは嘘だ。
幻想郷には非常識が服を着て歩いているような奴が何人もいる。それらを見ているのに天子だけ常識的になれというのは、理不尽だと二人はわかっている。
衣玖が天子を寺子屋に連れてきたのには、いくつかの理由があった。
一つ目は、天子の退屈を解消すること。二つ目は、最低限の社会的ルールを学んでもらいたかった。三つ目は、安易な能力使用を控えさせるため。
「子供同士で遊ぶことによって学べることは多いですからね。
総領娘様の周囲には同年代の子がいなくて、そういったことを学ぶ機会がなくて、自分勝手になりました。甘やかされたことも原因ですけどね。
友達を作ることで、自分の能力の危険性を自覚できるはずです。安易に地震を起こせば、友達が傷つくと簡単に想像できるでしょうし」
「友を作るという点でわからないことがあるのだが?」
「博麗の巫女たちでもいいじゃないかと聞きたいのですね?
総領娘様は能力に絶対の自信がありますから、実力者たち相手だと張り合うんですよ。
それは友ではなく、ライバルです。
それだと退屈は紛れますが、能力を使うことに躊躇いは感じません。むしろ積極的に使います。
そしていつか幻想郷中に大地震を起こすようなことをしでかすかもしれません。
そんなことは、あなたも私も名居守様も望みません。
だから実力的に張り合うことのない、人外に慣れているここの子供たちと仲良くなってもらいたかったんです。そのために緋想の剣を取り上げ、なるべく普通の子供に近づけさせました」
面倒くさがりなところのある衣玖が、こんな回りくどいことをしたのは名居守に頼まれたからだ。
正確には、名居守に地震など起こさないように言い付かった比那名居一族の長が、すでに事を起こした天子をどうにかするように衣玖に命じた。
こういった経緯で衣玖は行動を起こし、色々な人に相談し今回の計画を思いついた。
ただ行動の全てが、命じられたことからきているわけでもなかった。
天子に、天人とか関係のない遊び相手を作ってあげたかった、という想いも多少はあったりもした。
それは楽しそうに笑う天子を見れば、成功したといえるだろう。
次の日、衣玖の作った弁当を片手に、寺子屋へと向かう天子がいた。
心が暖まりました。
天子SSもっとふえないかなぁー
天子にほんわかしました。
天子が幼すぎる気がしないでもないがそれを補って余りある面白さでした。
表情が実に初々しい。