手のひらにすくった水が、指の間を抜けて落ちていく。
どんなに留めておこうと思っていても、いつのまにか、水滴だけを残して消える。
色のついた君はセピアに変わり、ピントがズレた写真のようにぼやけてしまった。
透き通る宝石のような君の声、歌う鳥のような笑い声。
けれどいつしか、映像からは音が、消えた。
こうして書き留めていても、それ自体を忘れてしまうのだろうか。
今の僕には、笑顔の眩しかった頃しか浮かんでこないのだからしょうがない。
素晴らしい日々だった。
一度も口には出さなかったけれど。
君が訪れ、巫女が訪れ、妖怪たちが訪ねてくる。
むくれた頬が、赤みがかった頬が。
風に揺れるブロンドの髪が、生意気な口ぶり、活力溢れた青い瞳。
コロコロと変わる表情に、傍若無人な振る舞いに、けれどほんの少し、寂しがり屋で小柄な君に。
たしか、いつまで経っても背が伸びないとぼやいていたっけ。
紅魔館の魔法使いに、人間を辞めろと迫られたときも
魔法の森の人形遣いと大喧嘩をしたときも
博麗神社を誤って消し飛ばしたときも
笑い飛ばして、なんとかしてみせるって言っていたっけ。
素晴らしい日々はとうに過ぎて、君もいつか大人になった。
最後に会ったのはいつだったろう。
さっさと嫁さん見つけろよ、だったかな、最後に交わした言葉は。
本当に、余計なお世話だよ。
それから何年もしてから、おせっかいな妖怪から真実を聞いた。
霧雨魔理沙は、森近霖之助が好きだったと。
だからどうした、そう僕は声を荒げた。
みっともないぐらいに涙を零して。
その日以来、おせっかいな妖怪は顔を見せなくなった。
来客が極端に減ってから、幾年経ったろうか。
外出も減り、日がな1日本を読んで過ごすことが多くなった。
こういうときに、天狗の新聞というのは非常に役に立った。
新聞を見ていなければ、知ることもなかっただろうから。
霧雨魔理沙が、急な病に倒れたということも。
だから僕はペンを持つ。
穴だらけになった記憶が埋まらない。
満天の星空が色を失っている。
どれだけ多くのものを捨ててしまったのだろう。
溜めていたはずだったのに、気づかないうちに零れてしまっていた。
そのことに今になって気づいた愚かさ。
結局、逃げていただけじゃないか。
すべて失ってから、手遅れになってから気づいてしまった。
手のひらには、水滴しか残っていない。
すべて間を抜けて、零れ落ちてしまったから。
これをプロローグとして本編を作ってほしいな
でもその後、あの方が「一つ言って置く、こぼれた水は又汲めば良い」
プロローグ風だけど、プロローグの割りには自己主張してるなぁーと思う、GJ!
>これをプロローグとして本編を作ってほしいな
出来るなら、本編と言うよりは、一冊の文庫本(合同問わず)作るまで行って欲しい...かな?