えと、6月の給料で、今年のボーナスが無いことを知らされました。
・・・絶望したので書きました。
オチは無いかもしれませんが。
紅魔館―――
言わずと知れた吸血鬼の館であり、外観が真紅なことでも有名だ。
主人が吸血鬼ということもあってか、主に忙しくなるのは夕刻から深夜にかけて。
・・・となれば、昼間は暇―――
「・・・ですねー。」
・・・欠伸交じりで返答してきたのは、門番の紅 美鈴である。
(うれしい!ちゃんと本名d)なんか五月蠅い。
一部、中国という通称(愛称?)が浸透しているようだけど、本人に失礼なので本名で。
しかし、彼女は根っからのサボり魔である。
いや、彼岸にいる死神といい勝負ができそうなくらい昼寝頻度が高い。
そして、そのたびに怒られる度合いも、一様に高い。
「め~~いり~~~ん? それは今日何回目の欠伸かしらね~~~??」
「ひ、ヒイッ!!?」
音もなく美鈴の背後に出現し、これまた無音でナイフを突き付けるこの銀髪のメイドは
紅魔館のメイド長、十六夜 咲夜その人である。
完全にして瀟洒という称号(?)を与えられた人物である。
怠惰な姿など見せようものなら、明日の朝日が拝めないかもしれない。
サクッ
「あああああ、や、やめてくださいよ・・・さ、さ、咲夜さん~。」
「だったら、最初から起きてればいいのよ。それとも、気合のために一本逝っとく?」
「もう刺さってますよ~~」
おもむろに美鈴の眉間にナイフを突き立てる咲夜。
紅魔館の昼下がりには、もはやおなじみとなってしまった光景だが。改めてみると、かなり怖い。
そして―――
「これで、今月23回目の昼寝と、職務怠慢ね。給金が出るのかしらね?」
「あ、そういえば・・・今日、お給料の日!!」
そう。
いくら紅魔館に住んでいるとはいえ、主人であるレミリア・スカーレットの血縁ではないのだから、一応ではあるが勤務体制をとっている。
30日に一度、給料という形で金銭が授与される。
しかし、1ヶ月ではないので、31日ある月は末の1日前に。
2月などは無償奉仕になってしまう。
・・・それでも衣食住は足りているので、さしたる不満もないのだが。
「咲夜さんは・・・かなり稼いでますよね?」
「私? 1日30時間労働に、お嬢様付きの手当が付いて、美鈴の粛清料も乗るし、買い出しは経費で落ちるし。」
「・・・うわ。」
通常、1日は24時間である。
しかし、咲夜は能力を使って、時を止めながら仕事をする場合が多々あると判断したレミリアが
時を止めたときでも動くような銀時計を咲夜に与え、なおかつその時計の針は、何周したかまで記録されるという精巧なものだった。
それによって、特殊な勤務時間を持つ咲夜の正確な労働時間を把握できているのである。
「美鈴は・・・楽そうでいいわよね~。」
「・・・うっ」
美鈴は言葉に詰まった。
確かに、屋敷の中のほぼ全ての家事をまかなっている咲夜に比べて、美鈴の担当場所と言えば、この正門だけ。
しかも、幻想郷に来た今となっては、攻め込んでくる馬鹿な連中はいない。
いや、いるにはいるが、あれはちょっかいを出しに来ているだけだ。
なにも紅魔館を乗っ取ろうとか、レミリアを亡き者にしようなどと考えているわけではない。
しかも、シフト表で動いている門番隊は、第4部隊までいるので、交代制で休めるのだ。
昼夜を問わずに必死で働く咲夜に比べれば、圧倒的に楽な職場である。
「1日7時間労働に、魔理沙突破回数は月10回以上。昼寝もし放題で、給料もらえるなんて、うらやましいわ~」
「うぅぅ・・・」
美鈴がちっちゃくなっていく。
労働者という目で見るなら、美鈴などとうに放り出されているに違いない。
門番という警護に携わる身分でありながら、軽々と突破されていくザルっぷり。
かと思えば、穏やかな昼下がりには堂々と居眠りをしているのである。
「まぁ、いいわ。今夜が楽しみね。」
「はぅぅ~~・・・」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
<同日、深夜>
「じゃあ、咲夜と美鈴にはあとで渡すわ。他の連中のはいつものように配って。」
「「はっ」」
待ちに待った給料の時間。
2人の部下たちの給料をまとめて机の上にならべるレミリア。
なぜだかいつもよりも目つきが厳しいように思える。
その威圧感に美鈴がビクビクしっ放しだ。
(お、お嬢様。なんか怒ってる?もしかして、私のことですかぁ・・・?)
十数分後、給料を配り終えた2人が再びレミリアの自室に入る。
そこにはパチュリーと小悪魔がすでに居た。
「あら、2人とも。遅かったじゃない。」
「いえ、部下への配布をしていたもので。」
「そう。」
そういうと、レミリアが4人の方へ向き直る。
顔が先ほどよりも険しい。
「じゃあ、今月の払いだけども。残念な知らせがあるわ。」
一同が固まる。
いまだかつてこんな事態はありえなかったはずだと言わんばかりに、レミリアの表情が変化する。
それを見ていた全員が違うことを考えていた
(収入についてはお嬢様が一手に引き受けているから、実入りが少なかったとか?)
(はうぅ~、もしかして・・・お給料カットとかですかっ!?)
(レミィにしては珍しいわね。それほど苦しい事態になるなら、相談しに来そうなものだけど。)
(ま、まさか、使い魔契約を破棄させろって言うんじゃ・・・ぱ、パチュリー様ぁ!!)
そして、その全員の思惑を全て外れて、とんでもないことを口走った。
「いままで、ぼーなす とやらを渡していなかったようね!?」
・・・
「は?」
「え?」
「?」
「ふぇ?」
全員が全員マイナス方向の考えをしていただけに、ボーナスというプラス方向の話を振られて、あっけにとられてしまう。
当のレミリアはといえば・・・
「いままで尽くしてくれた皆に、いつもの給金だけじゃ足りないと思ったのよ。それで―――」
事の顛末はこうだ。
いつものように支払のために、現金を数えていると
そこへフランドールが入ってきて、こう告げたそうだ。
「ねぇねぇ、今週末のお給料はさ。いつものだけじゃ少ないと思うんだけどー。」
最初、レミリアはいつもの通りにやってくれているのだから、いつも通りでいいのだと言っていたが
そのうち、フランと会話しているうちに、考えが変化していった。
「だってさー。お姉さまは宴会によく行くけど、酔いつぶれちゃって、咲夜がおんぶして帰ってくるときがあったじゃない?」
(そういえば、宴会や異変があったときでも私は給料の額は変えなかった。)
「他のメイド達だってさ、ほんとはもっといろんな物が欲しかったりするんじゃないのかなー?」
(経費という形での出費は認めていたが、私がチェックするという決まりがある以上、気軽には出しにくい)
「パチュリーなんか、本ばっか買うから、服とか買って無いかも。」
(やはり、なんらかの制約があったのかもしれない。)
「特に、あの・・・なんだっけ。門番! 魔理沙が来るのは嬉しいけど、その度に黒コゲじゃ可哀そうだよー。」
(皆が日ごろから忠誠を示しているというのに、主がそれに応えないで、なにが主か!)
「わかったわ、フラン。」
「お姉さま?」
そう言うと、レミリアはフランの手を取り、こう言った。
「フラン?週末は、頑張った皆へのご褒美に、ちょっぴりドッキリ形式で、ぼーなす とやらを支払いましょう。」
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
・
「――――というわけなのよ。無論、あなたたち2人の部下の給料も若干アップ済みよ。」
「まったくもって、気づきませんでしたわ。」
いち早く冷静になったのは、やはり咲夜だった。
しかし、ここへきてボーナスというのは、言葉だけでもなんだか期待してしまう。
「そういうわけだから、さっさと渡すわよ。あぁ、額面を口頭で伝えるのもいつもと変わらないから。」
(ぎっくーん!!)
その言葉で、一気に理性を取り戻した美鈴は、逆に恐怖に震えることになった。
(ま、待てよ。いつもの通りってことは。もらう順番は・・・
1・小悪魔
2・パチュリー様
3・咲夜さん
4・私
って事にー!!まずい・・・さぼってボーナス査定ゼロとかだったらどーしよー!!!)
「じゃ、いつものように、小悪魔からね。」
「は、はいっ!」
差し出される封筒。
いつもより厚みが違うようにみえるのは、錯覚ではない。今日は、ボーナスなのだ。
「いつもは1万3000くらいだったわね? 今日は5万7000よ。」(現在の13万、及び57万程度である)
「こ、こんなに・・・・・・ありがとうございますっ!!」
眼尻にうっすらと涙を浮かべてぺこりとお辞儀をして、いつもよりも重たい封筒を受け取る小悪魔。
この瞬間だけでも、ボーナスとやらの魔力は凄いものだと3人は思う。
「パチェだけど・・・まぁ、友人のよしみってことでね。 10万9000で足りるかしらね?」(現在の109万程度d
「れ、レミィにしては奢ったわね。」
「パチェ、それは憎まれ口として成立してないわ。むしろ可愛いさレベルが4くらい上よ。」
気恥ずかしさと、嬉しさが同居した、なんとも言えない表情を浮かべながら、封筒を受け取る。
そんなパチュリーを見ながら、美鈴は絶望感に襲われていた・・・。
(まずい・・・ここへきてパチュリー様が10万となれば、咲夜さんはその上。)
「次は、咲夜ね。 いつものことだけど、本当によくやってくれていると思うわ。日ごろからの感謝と、尽くしてくれた返事。」
次の瞬間には、あきらかにレベルの違う厚みのモノが出てきた。
その物体を見るやいなや、咲夜はあせった。
「お、お嬢様!?その・・・ボーナスはありがたいのですが、そんなにしていただくわけには・・・!!」
「何を言っているの?咲夜。いつも私の傍にいるのだから、当然の事でしょう。それともなに?私からの感謝の気持ちじゃ、足りないって言うのかしら?
「うっ!!・・・」
それ以上何も言えなくなってしまった。
狩人として生きてきた自分に、別の生きる意味と場所を与えてくれた、大切な主である。
その感謝の気持ちを無下にできるほど、咲夜は落ちぶれてなどいなかった。
「いいわね?咲夜。 今回は、27万6000という額にしたのだけど。不満はある?」
「・・・いえ、不満などあるはずがありません。」
「そう。ならば、いっそうの忠義と真心を注いで頂戴。」
「仰せのままに」
なんでこの2人の語り口調は、こんなにもカリスマっぽい響きなんだろうかと遠巻きから考えて(現実逃避して)いた美鈴であったが
次の一言で、奈落へと叩き落されることになる。
「さて・・・最後になるわね。・・・ねぇ?美鈴・・・。」
レミリアの瞳の赤が一層赤みを増す。
ギラリというSEがこれほどピッタリな状況もないだろう。
美鈴は、目が合った瞬間に、身動きできなくなってしまった。
「咲夜からの報告書、読ませてもらったわ。・・・ひどい状況。よくもまぁ、のこのことこの部屋に入れたものね?」
「え・・・あの・・・その・・・」
なんとかその場を取り繕おうとする美鈴だったが・・・
「言い訳など、聞きたくはないわ!!」
なんとも威厳あふれる、主の怒号により、先を制されてしまう。
「・・・あまりにも不甲斐ない。美鈴、あなたはこの紅魔館の門番としての誇りは無いのかしら?」
「・・・」
反論できない。
まだ幻想郷に来る前は、レミリアの命を狙った刺客が何度も送り込まれて来た為に
幾度となく、門前で戦い続けた美鈴。
だが、幻想郷に来てしまってからは、堕落した日々。
鍛練・訓練はするものの、すべておざなり。
魔理沙に門前を突破されても、図書館から脱出する魔理沙を地の果てまで追って倒し・・・などという事はなかった。
「あなたの実力を見込んで門を任せているのに・・・見立て違いだったかしらね?」
「・・・・・・」
美鈴は、レミリアの言葉が、胸に抉り込まれるグングニルのように思えていた。
忠誠を誓ったあの日は、一体なんだったのだろうかと。
そして、まさか自分がこんなに堕落していようとは。
自らの行動を悔いて尚、この紅魔館から叩き出されるであろうことを覚悟した。
「美鈴。顔をあげなさい。」
「・・・・・・・・・!!! お嬢様・・・これは・・・?」
まともに見ることすらできなかったレミリアの方に向き直ると、レミリアが先ほどとは打って変わって、やわらかな表情をしていた。
その両手には、咲夜と負けず劣らずの厚みの封筒が握られていた。
「いつからなのかしらね。幻想郷では、平和を謳歌することこそが大事だというのに、あなたに頑なに命令を続けてしまっていたのは。」
「・・・お、お嬢・・・様」
「知っているのよ?あの色々と足りない氷の精やら夜雀やらの相手をしてあげてるってこと。」
「!!見ていらしたんですか・・・」
「ふふ、いつもなら職務怠慢で減給だけど。今回は託児手当ってことで、上乗せしてあげたわ。20万よ。」
「っ!!」
美鈴は感動のあまり、声が出なかった。
見てくれていた。
自分のことを。
そう、美鈴とて、無意味に昼寝をしているわけではない。
チルノやミスティアといった、ちびっこの相手をするには、なかなかにエネルギーが必要なのだ。
それに、魔理沙には歯が立たないまでも、マスタースパークの威力を極力殺すために、これまた膨大なエネルギーを必要とする。
とどめとなるのは、やはりフランの存在だ。
美鈴は面倒見がいいことから、フランも十分懐いており、たまに遊び相手になってあげているのだが・・・
「あはははっ、さすがめーりん。そういう強い女の人になりたいなー。それっ、もう1回だっ!!」
・・・遊びというよりかは、命をかけているような。
そんな危険な遊びを繰り返しているのだ。しかも、確実にフランが勝利するように気を使って負けてあげているのである。
それも、なるべく手加減に見えないように。
「美鈴、最近昼寝の頻度が増えているわ。シフトを組みなおすから、1週間ほど休養をとりなさい。」
「えっ!?・・・で、ですがそれでは・・・」
「いいのよ。それともなに?こっちが有給使って良いって言ってるのよ?それを蹴るの??」
「・・・ありがとうございます」
「ん。以上よ!解散して。」
・・・絶望したので書きました。
オチは無いかもしれませんが。
紅魔館―――
言わずと知れた吸血鬼の館であり、外観が真紅なことでも有名だ。
主人が吸血鬼ということもあってか、主に忙しくなるのは夕刻から深夜にかけて。
・・・となれば、昼間は暇―――
「・・・ですねー。」
・・・欠伸交じりで返答してきたのは、門番の紅 美鈴である。
(うれしい!ちゃんと本名d)なんか五月蠅い。
一部、中国という通称(愛称?)が浸透しているようだけど、本人に失礼なので本名で。
しかし、彼女は根っからのサボり魔である。
いや、彼岸にいる死神といい勝負ができそうなくらい昼寝頻度が高い。
そして、そのたびに怒られる度合いも、一様に高い。
「め~~いり~~~ん? それは今日何回目の欠伸かしらね~~~??」
「ひ、ヒイッ!!?」
音もなく美鈴の背後に出現し、これまた無音でナイフを突き付けるこの銀髪のメイドは
紅魔館のメイド長、十六夜 咲夜その人である。
完全にして瀟洒という称号(?)を与えられた人物である。
怠惰な姿など見せようものなら、明日の朝日が拝めないかもしれない。
サクッ
「あああああ、や、やめてくださいよ・・・さ、さ、咲夜さん~。」
「だったら、最初から起きてればいいのよ。それとも、気合のために一本逝っとく?」
「もう刺さってますよ~~」
おもむろに美鈴の眉間にナイフを突き立てる咲夜。
紅魔館の昼下がりには、もはやおなじみとなってしまった光景だが。改めてみると、かなり怖い。
そして―――
「これで、今月23回目の昼寝と、職務怠慢ね。給金が出るのかしらね?」
「あ、そういえば・・・今日、お給料の日!!」
そう。
いくら紅魔館に住んでいるとはいえ、主人であるレミリア・スカーレットの血縁ではないのだから、一応ではあるが勤務体制をとっている。
30日に一度、給料という形で金銭が授与される。
しかし、1ヶ月ではないので、31日ある月は末の1日前に。
2月などは無償奉仕になってしまう。
・・・それでも衣食住は足りているので、さしたる不満もないのだが。
「咲夜さんは・・・かなり稼いでますよね?」
「私? 1日30時間労働に、お嬢様付きの手当が付いて、美鈴の粛清料も乗るし、買い出しは経費で落ちるし。」
「・・・うわ。」
通常、1日は24時間である。
しかし、咲夜は能力を使って、時を止めながら仕事をする場合が多々あると判断したレミリアが
時を止めたときでも動くような銀時計を咲夜に与え、なおかつその時計の針は、何周したかまで記録されるという精巧なものだった。
それによって、特殊な勤務時間を持つ咲夜の正確な労働時間を把握できているのである。
「美鈴は・・・楽そうでいいわよね~。」
「・・・うっ」
美鈴は言葉に詰まった。
確かに、屋敷の中のほぼ全ての家事をまかなっている咲夜に比べて、美鈴の担当場所と言えば、この正門だけ。
しかも、幻想郷に来た今となっては、攻め込んでくる馬鹿な連中はいない。
いや、いるにはいるが、あれはちょっかいを出しに来ているだけだ。
なにも紅魔館を乗っ取ろうとか、レミリアを亡き者にしようなどと考えているわけではない。
しかも、シフト表で動いている門番隊は、第4部隊までいるので、交代制で休めるのだ。
昼夜を問わずに必死で働く咲夜に比べれば、圧倒的に楽な職場である。
「1日7時間労働に、魔理沙突破回数は月10回以上。昼寝もし放題で、給料もらえるなんて、うらやましいわ~」
「うぅぅ・・・」
美鈴がちっちゃくなっていく。
労働者という目で見るなら、美鈴などとうに放り出されているに違いない。
門番という警護に携わる身分でありながら、軽々と突破されていくザルっぷり。
かと思えば、穏やかな昼下がりには堂々と居眠りをしているのである。
「まぁ、いいわ。今夜が楽しみね。」
「はぅぅ~~・・・」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
<同日、深夜>
「じゃあ、咲夜と美鈴にはあとで渡すわ。他の連中のはいつものように配って。」
「「はっ」」
待ちに待った給料の時間。
2人の部下たちの給料をまとめて机の上にならべるレミリア。
なぜだかいつもよりも目つきが厳しいように思える。
その威圧感に美鈴がビクビクしっ放しだ。
(お、お嬢様。なんか怒ってる?もしかして、私のことですかぁ・・・?)
十数分後、給料を配り終えた2人が再びレミリアの自室に入る。
そこにはパチュリーと小悪魔がすでに居た。
「あら、2人とも。遅かったじゃない。」
「いえ、部下への配布をしていたもので。」
「そう。」
そういうと、レミリアが4人の方へ向き直る。
顔が先ほどよりも険しい。
「じゃあ、今月の払いだけども。残念な知らせがあるわ。」
一同が固まる。
いまだかつてこんな事態はありえなかったはずだと言わんばかりに、レミリアの表情が変化する。
それを見ていた全員が違うことを考えていた
(収入についてはお嬢様が一手に引き受けているから、実入りが少なかったとか?)
(はうぅ~、もしかして・・・お給料カットとかですかっ!?)
(レミィにしては珍しいわね。それほど苦しい事態になるなら、相談しに来そうなものだけど。)
(ま、まさか、使い魔契約を破棄させろって言うんじゃ・・・ぱ、パチュリー様ぁ!!)
そして、その全員の思惑を全て外れて、とんでもないことを口走った。
「いままで、ぼーなす とやらを渡していなかったようね!?」
・・・
「は?」
「え?」
「?」
「ふぇ?」
全員が全員マイナス方向の考えをしていただけに、ボーナスというプラス方向の話を振られて、あっけにとられてしまう。
当のレミリアはといえば・・・
「いままで尽くしてくれた皆に、いつもの給金だけじゃ足りないと思ったのよ。それで―――」
事の顛末はこうだ。
いつものように支払のために、現金を数えていると
そこへフランドールが入ってきて、こう告げたそうだ。
「ねぇねぇ、今週末のお給料はさ。いつものだけじゃ少ないと思うんだけどー。」
最初、レミリアはいつもの通りにやってくれているのだから、いつも通りでいいのだと言っていたが
そのうち、フランと会話しているうちに、考えが変化していった。
「だってさー。お姉さまは宴会によく行くけど、酔いつぶれちゃって、咲夜がおんぶして帰ってくるときがあったじゃない?」
(そういえば、宴会や異変があったときでも私は給料の額は変えなかった。)
「他のメイド達だってさ、ほんとはもっといろんな物が欲しかったりするんじゃないのかなー?」
(経費という形での出費は認めていたが、私がチェックするという決まりがある以上、気軽には出しにくい)
「パチュリーなんか、本ばっか買うから、服とか買って無いかも。」
(やはり、なんらかの制約があったのかもしれない。)
「特に、あの・・・なんだっけ。門番! 魔理沙が来るのは嬉しいけど、その度に黒コゲじゃ可哀そうだよー。」
(皆が日ごろから忠誠を示しているというのに、主がそれに応えないで、なにが主か!)
「わかったわ、フラン。」
「お姉さま?」
そう言うと、レミリアはフランの手を取り、こう言った。
「フラン?週末は、頑張った皆へのご褒美に、ちょっぴりドッキリ形式で、ぼーなす とやらを支払いましょう。」
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
・
「――――というわけなのよ。無論、あなたたち2人の部下の給料も若干アップ済みよ。」
「まったくもって、気づきませんでしたわ。」
いち早く冷静になったのは、やはり咲夜だった。
しかし、ここへきてボーナスというのは、言葉だけでもなんだか期待してしまう。
「そういうわけだから、さっさと渡すわよ。あぁ、額面を口頭で伝えるのもいつもと変わらないから。」
(ぎっくーん!!)
その言葉で、一気に理性を取り戻した美鈴は、逆に恐怖に震えることになった。
(ま、待てよ。いつもの通りってことは。もらう順番は・・・
1・小悪魔
2・パチュリー様
3・咲夜さん
4・私
って事にー!!まずい・・・さぼってボーナス査定ゼロとかだったらどーしよー!!!)
「じゃ、いつものように、小悪魔からね。」
「は、はいっ!」
差し出される封筒。
いつもより厚みが違うようにみえるのは、錯覚ではない。今日は、ボーナスなのだ。
「いつもは1万3000くらいだったわね? 今日は5万7000よ。」(現在の13万、及び57万程度である)
「こ、こんなに・・・・・・ありがとうございますっ!!」
眼尻にうっすらと涙を浮かべてぺこりとお辞儀をして、いつもよりも重たい封筒を受け取る小悪魔。
この瞬間だけでも、ボーナスとやらの魔力は凄いものだと3人は思う。
「パチェだけど・・・まぁ、友人のよしみってことでね。 10万9000で足りるかしらね?」(現在の109万程度d
「れ、レミィにしては奢ったわね。」
「パチェ、それは憎まれ口として成立してないわ。むしろ可愛いさレベルが4くらい上よ。」
気恥ずかしさと、嬉しさが同居した、なんとも言えない表情を浮かべながら、封筒を受け取る。
そんなパチュリーを見ながら、美鈴は絶望感に襲われていた・・・。
(まずい・・・ここへきてパチュリー様が10万となれば、咲夜さんはその上。)
「次は、咲夜ね。 いつものことだけど、本当によくやってくれていると思うわ。日ごろからの感謝と、尽くしてくれた返事。」
次の瞬間には、あきらかにレベルの違う厚みのモノが出てきた。
その物体を見るやいなや、咲夜はあせった。
「お、お嬢様!?その・・・ボーナスはありがたいのですが、そんなにしていただくわけには・・・!!」
「何を言っているの?咲夜。いつも私の傍にいるのだから、当然の事でしょう。それともなに?私からの感謝の気持ちじゃ、足りないって言うのかしら?
「うっ!!・・・」
それ以上何も言えなくなってしまった。
狩人として生きてきた自分に、別の生きる意味と場所を与えてくれた、大切な主である。
その感謝の気持ちを無下にできるほど、咲夜は落ちぶれてなどいなかった。
「いいわね?咲夜。 今回は、27万6000という額にしたのだけど。不満はある?」
「・・・いえ、不満などあるはずがありません。」
「そう。ならば、いっそうの忠義と真心を注いで頂戴。」
「仰せのままに」
なんでこの2人の語り口調は、こんなにもカリスマっぽい響きなんだろうかと遠巻きから考えて(現実逃避して)いた美鈴であったが
次の一言で、奈落へと叩き落されることになる。
「さて・・・最後になるわね。・・・ねぇ?美鈴・・・。」
レミリアの瞳の赤が一層赤みを増す。
ギラリというSEがこれほどピッタリな状況もないだろう。
美鈴は、目が合った瞬間に、身動きできなくなってしまった。
「咲夜からの報告書、読ませてもらったわ。・・・ひどい状況。よくもまぁ、のこのことこの部屋に入れたものね?」
「え・・・あの・・・その・・・」
なんとかその場を取り繕おうとする美鈴だったが・・・
「言い訳など、聞きたくはないわ!!」
なんとも威厳あふれる、主の怒号により、先を制されてしまう。
「・・・あまりにも不甲斐ない。美鈴、あなたはこの紅魔館の門番としての誇りは無いのかしら?」
「・・・」
反論できない。
まだ幻想郷に来る前は、レミリアの命を狙った刺客が何度も送り込まれて来た為に
幾度となく、門前で戦い続けた美鈴。
だが、幻想郷に来てしまってからは、堕落した日々。
鍛練・訓練はするものの、すべておざなり。
魔理沙に門前を突破されても、図書館から脱出する魔理沙を地の果てまで追って倒し・・・などという事はなかった。
「あなたの実力を見込んで門を任せているのに・・・見立て違いだったかしらね?」
「・・・・・・」
美鈴は、レミリアの言葉が、胸に抉り込まれるグングニルのように思えていた。
忠誠を誓ったあの日は、一体なんだったのだろうかと。
そして、まさか自分がこんなに堕落していようとは。
自らの行動を悔いて尚、この紅魔館から叩き出されるであろうことを覚悟した。
「美鈴。顔をあげなさい。」
「・・・・・・・・・!!! お嬢様・・・これは・・・?」
まともに見ることすらできなかったレミリアの方に向き直ると、レミリアが先ほどとは打って変わって、やわらかな表情をしていた。
その両手には、咲夜と負けず劣らずの厚みの封筒が握られていた。
「いつからなのかしらね。幻想郷では、平和を謳歌することこそが大事だというのに、あなたに頑なに命令を続けてしまっていたのは。」
「・・・お、お嬢・・・様」
「知っているのよ?あの色々と足りない氷の精やら夜雀やらの相手をしてあげてるってこと。」
「!!見ていらしたんですか・・・」
「ふふ、いつもなら職務怠慢で減給だけど。今回は託児手当ってことで、上乗せしてあげたわ。20万よ。」
「っ!!」
美鈴は感動のあまり、声が出なかった。
見てくれていた。
自分のことを。
そう、美鈴とて、無意味に昼寝をしているわけではない。
チルノやミスティアといった、ちびっこの相手をするには、なかなかにエネルギーが必要なのだ。
それに、魔理沙には歯が立たないまでも、マスタースパークの威力を極力殺すために、これまた膨大なエネルギーを必要とする。
とどめとなるのは、やはりフランの存在だ。
美鈴は面倒見がいいことから、フランも十分懐いており、たまに遊び相手になってあげているのだが・・・
「あはははっ、さすがめーりん。そういう強い女の人になりたいなー。それっ、もう1回だっ!!」
・・・遊びというよりかは、命をかけているような。
そんな危険な遊びを繰り返しているのだ。しかも、確実にフランが勝利するように気を使って負けてあげているのである。
それも、なるべく手加減に見えないように。
「美鈴、最近昼寝の頻度が増えているわ。シフトを組みなおすから、1週間ほど休養をとりなさい。」
「えっ!?・・・で、ですがそれでは・・・」
「いいのよ。それともなに?こっちが有給使って良いって言ってるのよ?それを蹴るの??」
「・・・ありがとうございます」
「ん。以上よ!解散して。」
地の文での説明が大目で、リズム感的には前作のほうが良かったかも。
ボーナスって もう 幻想入り
してたんじゃ
ないの か
なんでしたっけ、それ。
(給料あるだけましだという話)
2>リアルでしたか。すいません。
3>いえ、かろうじて3人ほど生き残ったようです。
4・5>わかりました。精進します。
6>どうなんでしょう。少なくとも私の仕事場からは消えましたが。
7>もらえない前提でも、いくらかの期待を寄せてしまう、幻想の金ですよ。
8>今回は勤労義務が発生した紅魔館にしてしまいましたが・・・そうですよね。
ただ、具体的な数字はやっぱり…
ああ、焼くとおいしいよね
あっ、お盆の時に必要な物でしたっけ??
・・・(現実逃避