プチ創想話ミニの作品集25にある「友達だから」の設定を使っています。
先に、そちらをお読みいただくと、オチがよくわかると思います……多分。
※ ※ ※
「厄神様~! またね~!!」
「にとりちゃんも、またね~!!」
里の近くの小川で寺子屋の子供達と一緒に遊び、夕刻になったので
それぞれの家路につく。
私とにとりは、妖怪の山に向かって一緒に歩いていく。
それを子供達が橋の所で手を振って見送ってくれる。
それに私達も、時折立ち止まり手を振り返す。
すでに日は沈み、一歩一歩踏み出すごとに周りの風景が暗くなっていく。
すでに夏に近いといっても、もう遅い時間。
冬だったら、もう辺りは真っ暗ね。
そう思い振り返ると、今さっきまで子供達がいた橋はすでに夕刻の闇に包まれおぼろげにしか見えなくなっていたわ。
田んぼの方からは、蛙の鳴き声が聞こえ、草むらからは、虫たちの合奏が聞こえる。
偶に草むらの中に弱々しくフラフラと浮かぶ小さな光が見える。
「ねぇ、にとり! 蛍よ」
「どれ? あ、本当だ!!」
蛍がいるって事は、水が綺麗な証拠。
まだまだ幻想郷には、自然が一杯あるのね。
私達は、すでに夜の空気に包まれた畦道を歩く。
もうすぐ妖怪の樹海の入り口。
その時、にとりが突然私に声を掛けてきたの。
「ねえ……、雛ちゃん……、昔っからどうしても気になっている事があるんだ……」
「なあに?」
「へ、変な事を聞くかもしれないけど……、いいかな?」
「いいわよ、いまさらそんなの気にする程の仲じゃないでしょ?」
「う、うん……、そうだね……」
おかしなにとりね。
「じ、じゃあ聞くね」
「ええ、どうぞ」
「そ、その雛ちゃんのスカートにある模様って一体何の意味があるの?」
その言葉を聞いて、私は愕然としたわ。
本当は聞きたくなかった言葉。
その言葉が親友のにとりの口から出てしまうなんて……
私は目を瞑り、歩みを止め、気落ちした表情を浮かべたわ。
暗い夜道でも、その表情の変化はわかるくらいに。
私は意を決して、そのにとりの問いに答えようとしたの。
ものすごい後悔と、無念の思いが交錯しているわ。
だから、さっきまでの明るい声は出ないわ。
深く溜息を一つ付いて、にとりの問いに答えたわ。
「……この模様? これはね…… 『厄神』としての、免許みたいなものなの」
「へぇ~、そうなんだ」
「そうよ、厄神って私だけじゃないの。 いろいろな地域にそれぞれの担当を持った厄神がいるの。
私は幻想郷の担当の厄神。
それ以外にも外の世界には、数え切れない位の厄神がいるのよ」
「初耳だねぇ」
「だから、その厄神としての地域を担当する為の免状の役割をしているのが、この模様……『厄』の文字なのよ……」
明らかにさっきとは違う私の声のトーン。
それに、にとりも気が付いたのか?
何か聞いてはいけない事を聞いてしまったのか? という様な表情になっていたわ。
けど、私は話を続けたの。
「この『厄』の文字はね、色によって階級が異なっているのよ。
自分の髪の毛の色と同じ色ってのが、一番階級が高いの」
「……へぇ、じゃあ雛ちゃんは一番階級が高いんだね」
「まあ、他にはもっと階級が高い厄神もいるんだけど、まあ私の場合は厄神ランキングで言ったら、
結構上位の方って感じかしら?」
「ふぇ~、じゃあ気軽に『雛ちゃん』なんて呼べないね」
「そんなに偉そうな物じゃないから……」
しゃべると、しゃべった分だけ私の声のトーンが落ちていく。
にとりがこの話題を振った時から、もう流れは決まってしまったの。
もう、変更はできないわ。
ああ、私は一体どうすればいいのかしら?
刻々と迫る、「ある時」を思いながら、私はどうしたものか? と、天を仰いだの。
天には、とても綺麗な星空があったわ。
そして、これから起こる非情な結末なんて、まったく関係のない様に、星が綺麗に輝いているの。
私は恨んだわ。
『……なんで、にとりが……』
ってね。
暗くなってしまった雰囲気を消そうと、にとりがまた私に話題を振ってきたの。
「じゃあさ、その厄の字についている3つのバッテンは何か意味があるの?」
ついに来てしまったわ。
ああ、神様はとても意地悪。
にとりがその話題さえ振らなければ、あんな事はしなくっていいのに……
「え? この3つのバッテン?」
「うん、そう。 これも何か意味があるのかな?ってさ」
「ええ、ちゃんと意味はあるのよ」
私は覚悟を決めたわ。
もう話すしかない。
たとえ、この先にどんなに辛い事が待ち構えていようとも!
「このバッテンはね……、厄神同士で戦って勝った証なの」
「え? 厄神同士で戦うの!」
「ええ、滅多にないんだけどね……
さっきも言ったけど、いろいろな所に厄神がいるの。だから担当先に厄の元になる物がなければ、
いくらがんばっても厄は取れないの。
そういう所の担当になった厄神が厄を取るためにする行動というのが……
他の厄神の担当場所を横取りするって事なの。
ここの弾幕ごっこみたいなものではなくって、本当の殺し合いに近い戦いなの。
で、その戦いに勝った証として、厄の字の所に一本線を入れるの。
こうしておくと、また違う厄神が私の所に来ても、その証を見て、私が強いのか弱いのかてのが一目瞭然って事なの。
つまり、無駄な戦いを避ける為の印でもあるのよ」
その話を聞いたにとりが、指をその模様の所に指し、本数を数える。
「バッテンが3つって事は……、え~っと6回も戦ったって事?」
にとりは、私のスカートの厄の文字のバッテンを指差しながら、その本数を数える。
「雛ちゃんすごいね、6回も勝ったんだ……」
「厳密に言うと、私の方からどこかに攻めるって事はないから、幻想郷の担当を防衛したって事ね」
「じゃあ、今なら違う厄神が来ても、そのバッテンの数を見て逃げていくでしょ?」
「まあ、いい脅しにはなるわよね」
……
………
…………
私は、このバッテンのもう一つの意味を言わなかったの。
確かに、他の厄神と戦って勝った時の証なんだけど、もうひとつ意味があるの。
けど、もう言うしかないわ。
これも、厄神の掟。
たとえ親友でも、この掟に背くわけには行かないの。
それが、厄神としての私の使命!
……
………
「……けどね、そのバッテンには、もうひとつ意味があるのよ……」
先程よりも、もっと声のトーンを落として私は苦しんでいる様に声を絞り出す。
『一体どんな意味があるんだろう?』
その今までに見たことがない様な私を見て、にとりは生唾を飲み込む。
「確かに私が幻想郷の厄神の担当を防衛した証として、このバッテンがあるんだけど、
その防衛でのバッテンって、実は4本だけなの……」
にとりは思った。
4本って事は、3つあるバッテンの内、2つのバッテンに相当する。
じゃあ、残りの2本は一体?
今までに見たことがない私を見て、にとりの背中に何か嫌な汗が流れてくる。
にとりの目の前には、うつむいて肩を震わせて、泣いているかの様な厄神の私の姿が映っているはず。
にとりは必死に声を出す。
この今まで雛と一緒にいて味わった事がない重たい空気を払拭する為に。
「じ、じゃあ……残りの2本は一体?」
絞り出す様なかすれた声。
にとりの声は、かすかに震えている。
……
………
はぁ、とうとうこの時が来てしまったのね。
言いたくはないわ。
けど……、私が厄神で居続ける為には……
少しの沈黙の後、私は顔を上げる。
何かを決意したかの様な表情。
そして、大きく溜息をひとつ。
「じゃあ、答えるわ……、本当は言いたくないの。
けど、私が厄神である以上、これは避けて通れない事なの!
にとり……、ごめんね!」
目に涙を浮かべながら、悔しそうな表情のまま、私はにとりを見つめる。
その異様な空気ににとりは動けなかった。
「ごめんね……、本当にごめんね……」
私はにとりから目線を外して、何度も小声で謝ったの。
「……え? 雛ちゃん?」
呆然とした表情のにとりが何とか声を出す。
そして、私はついにソレを始めたの。
にとりから外していた目線をにとりに戻しにらみつける。
「貴女がいけないのよ!」
「え? 何? 何のこと!!」
「貴女がそれさえ私に聞かなかったら、こんな事にはならなかったの!!」
「何? 何を言っているの雛ちゃん! 私わからないよ!!」
突然の私の豹変にとまどうにとり。
「貴女が聞いた事はね……、厄神の中ではタブーとされている事なの!」
一体何を聞いたっけ?
にとりは必死に思いかえす。
……あ、スカートの模様の事じゃない! けど、それがなんでタブーなの?……
しかし、にとりは次の私の言葉ですべてを理解した。
「この残りのバッテンの2本はね……
『厄神にこの模様の事を聞いてきた人を抹殺した数』なのよ!」
その言葉を聞いて、にとりは後悔した。
だから、雛ちゃんは急に暗くなったんだ。
そっか……、聞いてはいけない事だったんだ。
「ごめんね、にとり…… これも厄神の掟なの…… 親友の貴女を手にかけるなんて、私もしたくないわ!
けど……、けど聞いてきた貴女が悪いのよ!!」
その言葉と同時に私は体内に収納していた厄をにとりが逃げない様ににとりの周りに展開する。
呆然としていたにとりは、その厄の渦の中でガタガタと震えていた。
「い、嫌だよ……、雛ちゃん……、嘘でしょ? 嘘だと言ってよ!」
「ごめんね、にとり……、神様は嘘は言わないわ」
『殺される!』
自分の周りの漂っている厄の圧迫感から、にとりは今までにない恐怖を味わっていた。
「ヒ、ヒィ!!」
にとりはその場でしゃがんで頭を抱える。
逃げられないという圧迫。
そして一歩ずつ近づいてくる雛ちゃんの足音。
いやだ! こんなの嫌だ!!!
「ごめんね、にとり」
にとりの頭上から、冷酷な雛ちゃんの声が響く。
「な~んてね! えへ」
「は?」
「や~い、引っかかった~!!」
もう泣く寸前のにとりは、何がなんだかわからなかった。
見上げると、お腹を抱えて笑いを堪えている雛ちゃんの姿があった。
「この前、にとりに河に落とされたでしょ! そのお・か・え・し!」
さっきまでの威圧感のある雛ちゃんはいなかった。
目の前にいるのは、いつもの明るい雛ちゃんだった。
にとりは安心した……、と、同時に怒りがこみ上げてきた。
「ひどいよ! 本当にビックリしたんだから!!」
「ごめん、ごめん」
「もう! 許さないんだから~!!」
妖怪の樹海の前で、楽しそうに追いかけごっこをする影が二つ。
今日も平和でした……多分。
※ ※ ※
「ねえ、雛ちゃん! 神様は嘘をつかないって言っていたけど、このドッキリ話って『嘘』だよね?」
「ええ、確かに神様は嘘は言わないわ…… けど冗談は言うわよ」
「物は言い方だねぇ」
雛、さいこぉw
雛株が上がったよw
雛かわい過ぎるよ雛
てゐ以上に詐欺の才能あるんじゃないのかw
厄神様。
おちゃめな雛、さいこ~w
でも、何処まで本当の話だろ???
騙されて涙目になるにとりも可愛いと思うんだ
つまりにと雛可愛いよにと雛