雨が魔法の森に音を立てて、人形使いの家の屋根を濡らす。その下に二人の魔法使い。
家の主、アリス マーガトロイドは冷たくなった紅茶をかき混ぜている。その視線はどこを見つめるでもなく、虚空に揺らめいている。
呼ばれもしないのに居着いたその知人というか友人というか、霧雨 魔理沙は借り物のグリモアールに目を落としたままの姿勢でいる。
テーブルを挟んでも二人の間に会話らしい会話はない。そこそこに長い付き合いは積もる話の山をいつしか平地にでも変えてしまったのだろうか。
部屋には銀のスプーンが陶器のカップを撫でる音と、雨の音だけが等しく続いていた。
「……魔理沙」
沈黙を先に破ったのはアリス。名を呼ぶ声にしかし返事が返ってこない。
「魔理沙?」
「……おぉ、なんだ?」
二度目の声でようやくの返答。
「そこのお砂糖取ってもらえるかしら」
「……自分でやれよ。……ったくあぁもうめんどくさいなぁ」
どこか不機嫌にも聞こえる声でさんざっぱら悪態をついた挙句、それでも砂糖瓶をアリスのほうへと押しやる魔理沙。
ありがとうと一言返して、アリスはすっかり冷め切った紅茶に角砂糖を二つ入れる。スプーンをくるくると回したアリスの視線はまた遠くへと旅立った。
雨は止みそうにない。
「……ねぇ」
かき混ぜた紅茶が干上がると思えるほどの長い沈黙を越えて再びアリスの声。返答の声の代わりに、魔理沙は視線で答える。
「……こんな日、ってさ」
アリスが目をやった窓の外は相変わらずの雨。魔理沙もつられて視線を動かすが、そこには雨に打たれて揺れる木の葉があるだけだ。
「不思議と、あの、紅白の巫女のことなんて思い出さないわね」
魔理沙が眉を顰めてアリスを見る。ぼうっとした顔のアリスもそれに気付いて正面から見詰め合う形になった。
「……何?」
「変な事言うアリスだぜ。思い出さないっていうことを思い出したら、それはつまり・・・思い出してるんじゃないか」
変だぜ、と呟く魔理沙。言われたアリスはそれもそうかとしょぼくれた顔をする。
「でも」
本に目を落としたままの魔理沙の声。
「確かにあいつにはこんな天気は似合わないな」
「……そうね」
それから言葉もなく、続くのは雨音の奏でるコンサート。魔法使い二人はまた静かな空気に溶け込む。
どどどどどどどん!
静寂を叩き破ったのは16ビートのノック音。家の主はそのまま扉まで叩き壊されてはたまらないと
「ちょ、ちょっと!? 開けるから! 今開けるから!」
と大急ぎで玄関に走り寄る。大急ぎで開けたその扉の向こうには・・・
紅白の巫女、博麗 霊夢が豪雨を背にして、いた。
「参ったわよ。人里に久しぶりに買出しに行ったらこの雨でしょ? え、何? 傘とか持っていかなかったのかって? いやぁこんな急に降り出すとは思わなかったし間に合うかなーなんて思ってたんだけど。で、アリス。雨宿りさせてくれるの? くれないの?」
ずぶ濡れの巫女は三白眼をアリスに向ける。その眼力はアリスの断りの言葉を文字通り射殺す。・・・もとよりこんな姿の霊夢をアリスが放っておくことはないのだが。
「……誰もダメとか言わないわよ……。でも、そこで少し待ってて。バスタオル持ってくるから」
「助かるわ」
びしょぬれの巫女の声を背に、アリスはおろしたてのバスタオルを持ってきて渡しつつ、
「しょうがないからお風呂と私の着替えも貸してあげるわね」
何かを諦めたような声を溜息と一緒に投げた。頭にかぶったバスタオルともぞもぞ戯れていた霊夢がひょっこりと顔を見せて、
「助かるわ」
ようやくいつもののんきな笑顔で言う。
「それにしてもホントに、”噂をすれば影”ね」
「……私の話でもしてたの?」
アリスの呟きを聞き逃さない霊夢。ちょっとだけ、しまった、という顔をしながらもアリスは律儀に答える。
「えぇ。あなたには雨空より雲ひとつ無いお日様空が似合う、ってね」
「……どうせ私はぽかぽか陽気で春めいたお日様頭の巫女ですよー」
ついついふくれっつらの霊夢。しかし、それもすぐにしぼんで
「……あはっ」
笑ってしまう。それにアリスも
「……くすっ」
つられて吹き出す。
「……あはははは」
「……ふふふふふ」
しばらく二人は妙なおかしさで笑いあってしまった。魔理沙といえば、いつの間にかアリスのベッドに忍び込み
「……ありすのにおいー……」
とかなんとか寝言混じりに幸せそうな顔。
雨音は優しく三人と幻想郷を包み込んで、次の晴れまで降り続ける。
温かな晴れの日もまた、平穏であれかし。
家の主、アリス マーガトロイドは冷たくなった紅茶をかき混ぜている。その視線はどこを見つめるでもなく、虚空に揺らめいている。
呼ばれもしないのに居着いたその知人というか友人というか、霧雨 魔理沙は借り物のグリモアールに目を落としたままの姿勢でいる。
テーブルを挟んでも二人の間に会話らしい会話はない。そこそこに長い付き合いは積もる話の山をいつしか平地にでも変えてしまったのだろうか。
部屋には銀のスプーンが陶器のカップを撫でる音と、雨の音だけが等しく続いていた。
「……魔理沙」
沈黙を先に破ったのはアリス。名を呼ぶ声にしかし返事が返ってこない。
「魔理沙?」
「……おぉ、なんだ?」
二度目の声でようやくの返答。
「そこのお砂糖取ってもらえるかしら」
「……自分でやれよ。……ったくあぁもうめんどくさいなぁ」
どこか不機嫌にも聞こえる声でさんざっぱら悪態をついた挙句、それでも砂糖瓶をアリスのほうへと押しやる魔理沙。
ありがとうと一言返して、アリスはすっかり冷め切った紅茶に角砂糖を二つ入れる。スプーンをくるくると回したアリスの視線はまた遠くへと旅立った。
雨は止みそうにない。
「……ねぇ」
かき混ぜた紅茶が干上がると思えるほどの長い沈黙を越えて再びアリスの声。返答の声の代わりに、魔理沙は視線で答える。
「……こんな日、ってさ」
アリスが目をやった窓の外は相変わらずの雨。魔理沙もつられて視線を動かすが、そこには雨に打たれて揺れる木の葉があるだけだ。
「不思議と、あの、紅白の巫女のことなんて思い出さないわね」
魔理沙が眉を顰めてアリスを見る。ぼうっとした顔のアリスもそれに気付いて正面から見詰め合う形になった。
「……何?」
「変な事言うアリスだぜ。思い出さないっていうことを思い出したら、それはつまり・・・思い出してるんじゃないか」
変だぜ、と呟く魔理沙。言われたアリスはそれもそうかとしょぼくれた顔をする。
「でも」
本に目を落としたままの魔理沙の声。
「確かにあいつにはこんな天気は似合わないな」
「……そうね」
それから言葉もなく、続くのは雨音の奏でるコンサート。魔法使い二人はまた静かな空気に溶け込む。
どどどどどどどん!
静寂を叩き破ったのは16ビートのノック音。家の主はそのまま扉まで叩き壊されてはたまらないと
「ちょ、ちょっと!? 開けるから! 今開けるから!」
と大急ぎで玄関に走り寄る。大急ぎで開けたその扉の向こうには・・・
紅白の巫女、博麗 霊夢が豪雨を背にして、いた。
「参ったわよ。人里に久しぶりに買出しに行ったらこの雨でしょ? え、何? 傘とか持っていかなかったのかって? いやぁこんな急に降り出すとは思わなかったし間に合うかなーなんて思ってたんだけど。で、アリス。雨宿りさせてくれるの? くれないの?」
ずぶ濡れの巫女は三白眼をアリスに向ける。その眼力はアリスの断りの言葉を文字通り射殺す。・・・もとよりこんな姿の霊夢をアリスが放っておくことはないのだが。
「……誰もダメとか言わないわよ……。でも、そこで少し待ってて。バスタオル持ってくるから」
「助かるわ」
びしょぬれの巫女の声を背に、アリスはおろしたてのバスタオルを持ってきて渡しつつ、
「しょうがないからお風呂と私の着替えも貸してあげるわね」
何かを諦めたような声を溜息と一緒に投げた。頭にかぶったバスタオルともぞもぞ戯れていた霊夢がひょっこりと顔を見せて、
「助かるわ」
ようやくいつもののんきな笑顔で言う。
「それにしてもホントに、”噂をすれば影”ね」
「……私の話でもしてたの?」
アリスの呟きを聞き逃さない霊夢。ちょっとだけ、しまった、という顔をしながらもアリスは律儀に答える。
「えぇ。あなたには雨空より雲ひとつ無いお日様空が似合う、ってね」
「……どうせ私はぽかぽか陽気で春めいたお日様頭の巫女ですよー」
ついついふくれっつらの霊夢。しかし、それもすぐにしぼんで
「……あはっ」
笑ってしまう。それにアリスも
「……くすっ」
つられて吹き出す。
「……あはははは」
「……ふふふふふ」
しばらく二人は妙なおかしさで笑いあってしまった。魔理沙といえば、いつの間にかアリスのベッドに忍び込み
「……ありすのにおいー……」
とかなんとか寝言混じりに幸せそうな顔。
雨音は優しく三人と幻想郷を包み込んで、次の晴れまで降り続ける。
温かな晴れの日もまた、平穏であれかし。
幻想郷にあると言うことは、我々にはありすのにおい~はわからないという事か
……悔しいのう…悔しいのう!OTL
アリスの服を着た霊夢も見てみたいですね。
16ビートでたたき壊されて顔がほころんだ。
ところで魔理沙何口走ってるんだ。
見事な思わせぶりな書き方でした