「いい天気ですね~」
梅雨が明け、気持ちのいい青空が見える。
夏はすぐそこだとわかり、人々の心境は鬱々とした気分から上向きになっている。
それはまぶしそうに空を見上げる紅魔館門番の美鈴も同じ気持ちだ。
雨にうたれながらの仕事より、今のような晴れのほうが気分がいいのはよくわかる。
「外でお弁当を食べるときは、やっぱり晴れているのが一番です」
そう言った美鈴は門の横にシートを敷いて、正座を崩した状態で座っている。
手には門番隊に配られるお弁当。ちょっとしたピクニック気分で楽しくご飯を食べている。
近くで美鈴の部下たちも楽しそうに話しながらご飯を食べている。やはり美鈴と同じようにピクニック気分なのだろう。
「にぃー」
「おや? 珍しいお客様ですね?」
ご飯を食べる美鈴のそばに子猫が近寄ってきた。
子猫の視線が弁当に向いていることに気付いた美鈴は、
「食べる?」
「にぃー」
魚の切り身をほぐし手にのせ子猫に聞く。
子猫は一声鳴いて魚にかじりつく。綺麗に食べた子猫は名残惜しそうに美鈴の手のひらをなめる。
美鈴はくすぐったそうに笑い、もう少しだけねとほぐした魚を手のひらにのせる。
それも食べた子猫は満足したのか一声鳴いて、美鈴の太ももにのって丸まってしまった。
お腹が膨れたので、次は睡眠欲を満足させたくなったらしい。
「ちょっと困りましたね。
これじゃ動けません」
「隊長~いいなぁ~」
可愛い子猫の寝姿に部下たちが騒ぐ。
「起きるから静かにね?」
人差し指を唇に当てて、部下たちを静かにさせる。
それに部下たちも頷いて、子猫を触ることなく静かに見るだけにとどめた。
休憩時間が終っても子猫は起きることなく眠り続ける。
仕事に戻りたいけど、起こすのもかわいそうだと困る美鈴に部下たちが、子猫が起きるまでそのままいてくださいと頼む。
隊長のぶんまで頑張りますからという部下たちに甘え、美鈴はそのままでいることにした。
一時間もすれば起きるだろうと思っていたからだが、一時間経つ前に魔理沙がやってきた。
あまりに気持ちよさそうに眠る子猫につられるように美鈴もうとうとしていたとき、弾幕で起きた振動と魔理沙の気配を察して起きる。
いつものように門番隊を蹴散らして、美鈴も蹴散らそうとする魔理沙に、美鈴は近くにあった小石を投げた。
「あたっ!?」
弾幕ならばすいすいと避ける魔理沙だが、攻撃の意思が少ない投石だとかってが違うのか簡単に当たる。
その様子にいつもこうだと簡単なんですけど、などと思いながら話しかける。
「この子が起きるので静かにしてください」
「この子? ……どうしたんだその猫?」
「ふらっとやってきて寝てるだけですよ」
「そっか。寝てるところを起こすのは悪いな。静かに通ることにするぜ」
「いつも静かに通ってくださいよ。
そしたら怪我もなくて、門の修繕費もかからずにすむのに」
できたらなーと言って魔理沙は紅魔館に入っていく。
はぁーと溜息をついて、次からはまた門は壊れるのだろうと、美鈴は簡単に予想できてしまった。その予想は半分だけ当たる。
子猫は予想通り、一時間もすると起きた。
美鈴の膝から降りぐっとのびをして離れていく。
少し離れた位置から振り返り、紅魔館から離れていった。
美鈴はもうこないんだろうと思っていたが、次の日もその次の日も子猫は紅魔館に来て、ほぼ毎日来るようになった。
美鈴から、たまに部下たちからご飯をわけてもらい、美鈴の太ももにのって眠る。そして一時間して帰っていく。
紅魔館にくることが気に入ったようだ。
魔理沙も美鈴が座り込んでいる日は、静かに門を通るようになる。
見た目さぼっているように見えるので、咲夜がお仕置きしていると思われるかもしれないが、お仕置きはなかった。
なぜなら魔理沙が門に被害を出さずに通るので、修繕費が減ったからだ。わりとばかにならない額になっていたので、それを減らす原因となった子猫を可愛がることについては言及しない。
レミリアが屋敷に入れないかぎりはほおっておいていいと助言したことも、お仕置きとならなかった要因の一つだろう。
「にぃ」
「気持ちいい?」
相変わらず美鈴の太ももにのり、くつろぐ子猫。その子猫を美鈴が撫でる。
子猫の首には紅いリボンが巻かれている。美鈴の髪の色と同じ色のリボン。
なぜ懐いてくれるのか理由はわからないけれど懐かれて悪い気はせず、むしろ嬉しくてプレゼントしたものだ。
ご飯は部下たちからももらうが、くつろぐことは美鈴のそばでしかしない。
一度部下たちが、自分たちの足にのせてみようとしたがある。大人しく捕まって足にのったが、すぐに下りて美鈴のそばにいってしまった。
部下たちは、あの子猫巨乳属性なのかもしれないと、囁き合っていた。
「めーりんっ」
「フランドール様? こんな時間に外に出てくるなんて珍しいですね」
呼ばれて振り向くと日傘を差したフランドールが立っていた。
「早めに寝たら、早くに目が覚めちゃった」
「そうでしたか」
「ところでめーりん。それなに?」
フランドールは寝ている子猫を指差す。
「猫ですよ?」
「猫? それが猫なんだ」
「フランドール様は見たことなかったのですか?」
「うん。パチュリーにそういうのがいるって聞いたことはあったけど、それだけ。
へーこれが猫」
興味深そうにじっと猫を見る。
「ね、触ってもいい?」
「どうなんでしょう? 寝ていますから。
まあ、ちょっとぐらいならいいと思います」
手を伸ばし毛に触れる。
「さらさらで温かいや。
ぬいぐるみと違った感触」
「生きてますから」
「わっ」
撫でられて起きた子猫がフランドールの手をなめた。それに驚いたのだ。
何度かフランドールの手をなめた子猫は視線を上げ、フランドールを見る。
何を考えているのかわからない灰色の目で、飽きることなくじっと見る。
やがてなにかに納得したのか、はたまたただの気まぐれか、子猫は美鈴の足から下りてフランドールに擦り寄る。
「えっえっ?」
「おやまあ」
「え? めーりん! どうしたらいいの!?」
「そうですね。私と同じようにしてみたらいかがですか?」
「う、うん」
初めてのこと戸惑いながら美鈴の隣にフランドールは座る。
そのフランドールの太ももに子猫がのって丸まった。
「うそー!?」
「あの子巨乳属性じゃなかったの!?」
「たんに私たちが気に入られなかっただけ?」
「ってかあの子猫が、どんな基準で懐くのか全くわからないわ」
「度胸あるわね、あの子猫」
子猫がフランドールに懐いたことで門番隊たちが騒ぐ。
その部下たちを美鈴は一睨みで黙らせ、立ち上がる。
「仕事に戻りますね」
「え? この子はどうするの?」
「フランドール様が見ててくれますか?
なに一時間もすれば起きて住処に帰りますから」
「うん、わかった。見てる」
「はい」
フランドールの返事を聞いて美鈴は門番へと戻る。
といってもすぐそばで立っているので、フランドールと子猫の様子は常にわかる。
時々子猫に触って終始笑顔なフランドールを、美鈴は微笑みを浮かべて見ていた。
この日からフランドールが時々門に来るようになった。
毎日くるのは睡眠時間的に無理だが、不思議とフランドールが門にいる日には子猫は必ず紅魔館にくる。
それはレミリアがそうなるように、運命をいじっていたから。そのことは誰も知らない。
そして何度目かの出会い。
その日、子猫は眠らずにフランドールと遊んでいた。
美鈴の管理する花壇近くで、門番隊から借りた猫じゃらしをもったフランドールを追いかけていた。
猫じゃらしが右へ左へ、子猫もそれを追って右へ左へ。
その様子が面白いのか、フランドールの楽しそうな笑い声が庭に響き、美鈴たちは平和だなと緩んだ気持ちで警備をしていた。
しかし平穏は長続きしない。
子猫の鋭い悲鳴が庭に響き、緩みは消えた。
「どうしたんですかっ!?」
門を部下たち任せて美鈴はフランドールの元へ。
その場には指先から血を流すフランドールと散らばった紅いものだけ。子猫の姿はどこにもない。
「フランドール様?」
思わず最悪を想像しながら、少しぼうっとしたフランドールに話しかける。
「あっめーりん」
「あの子はどこですか?」
震えそうになる声を震わせることなく聞く。
「わからない。あっちのほうに逃げてったのは見たけど」
「逃げていった?」
それを聞いて不安が僅かに消えていく。
破壊されたのかもしれないと思っていた。
地面を良く見ると紅いものは、血などではなく布だった。
それを美鈴が拾う。
「リボンの切れ端ですか?」
「うん。汚れてたから外そうとして、そしたら暴れて指を切って、思わずかっとなって壊しちゃった」
「そう……ですか。
きっと外すときに苦しかったのでしょうね。
とりあえずフランドール様は指の治療をしましょう」
美鈴は部下にフランドールを頼み、自分は子猫を探しにいく。
探すのにそう時間はかからなかった。遊んでいたところから近い茂みに隠れていたからだ。
隠れていても美鈴ならば気配をよんで簡単にみつけることができる。探す時間は十分もかからす、子猫を抱いてフランドールの元へ戻る。
「近くに隠れてましたよ。どこも怪我はしてません」
「よかった」
「ほんとうに」
「ですねぇ」
その場にいた全員がほっとした様子で笑いあう。フランドールをのぞいて。その表情は後悔の混じった恐怖?
「どうされました?」
子猫を抱いたまま美鈴が近づくと、フランドールはそのぶん後ずさる。
視線は下を向いたまま。
子猫を見ることができないのかと思った美鈴は、部下に子猫を任せてフランドールに近寄る。
その予想は当たっていたようで、今度は後ずさることはない。
美鈴は膝を地につけて、下からフランドールに視線をあわせる。そしてもう一度聞く。
「どうされました?」
「……嫌われたから」
ぽつりと呟く。
それだけで美鈴たちはわかった。
能力をコントロールできずに、狂気の赴くままだった頃のことはこの場にいる全員が知っていた。
今でも完全にコントロールできているとはいえないが、魔理沙に出会う以前よりましになっている。
そして誰かと接するということが少しずつ増えてきた。
しかし以前は地下に篭ったままで、メイド長と美鈴とレミリアくらいしか会いにいくことがなかった。
なぜなら壊すという能力とその暴発を誰もが恐れたから。
そのことをフランドールは忘れていない。だから能力を向けた子猫に嫌われたと思い、子猫を見ること近寄ることすら怖がる。
「嫌われるようなことをしたと思うのなら、謝りましょう?
言葉は理解できないかもしれませんが、心から謝ればその想いは伝わるはずです」
フランドールが成長したと信じているからこその言葉。
以前のままではないから、これくらいはできると確信を美鈴は持っていた。
「……」
「やってみましょう?」
「……うん」
こくんと頷いたフランドールは子猫に近づき真正面に立つ。
子猫は近づいてきたフランドールを避けることなく、初めて会ったときと同じように見つめる。
「ごめん」
ただそれだけの短い謝罪。でも全員がしっかりと気持ちが篭っていることを感じ取っていた。
子猫はしっかりとフランドールの目をみつめたまま動かない。まるで心を探るかのように。
「にぃ」
許すよ、とでも言ったのだろうか。一声鳴いて前足をフランドールへと伸ばす。
それに恐る恐る手を伸ばすフランドール。
近づけた手が、ぺろりとなめられたことを理解すると、部下から子猫を受け取ってぎゅっと抱きしめる。
表情に恐怖はなく、謝罪と嬉しさの混じった小さな笑みが浮かんでいた。
庭にビーチパラソルがさされている。
その下には美鈴が正座を崩して座っている。
太ももに子猫はおらず、かわりにフランドールが膝枕で眠っていた。
子猫はフランドールの腕の中で気持よさそうに寝息を立てている。
その首にはフランドールの髪と同じ色のリボン。
この眠りを妨げはさせないと、門番隊たちは気合をいれて仕事をしていた。
梅雨が明け、気持ちのいい青空が見える。
夏はすぐそこだとわかり、人々の心境は鬱々とした気分から上向きになっている。
それはまぶしそうに空を見上げる紅魔館門番の美鈴も同じ気持ちだ。
雨にうたれながらの仕事より、今のような晴れのほうが気分がいいのはよくわかる。
「外でお弁当を食べるときは、やっぱり晴れているのが一番です」
そう言った美鈴は門の横にシートを敷いて、正座を崩した状態で座っている。
手には門番隊に配られるお弁当。ちょっとしたピクニック気分で楽しくご飯を食べている。
近くで美鈴の部下たちも楽しそうに話しながらご飯を食べている。やはり美鈴と同じようにピクニック気分なのだろう。
「にぃー」
「おや? 珍しいお客様ですね?」
ご飯を食べる美鈴のそばに子猫が近寄ってきた。
子猫の視線が弁当に向いていることに気付いた美鈴は、
「食べる?」
「にぃー」
魚の切り身をほぐし手にのせ子猫に聞く。
子猫は一声鳴いて魚にかじりつく。綺麗に食べた子猫は名残惜しそうに美鈴の手のひらをなめる。
美鈴はくすぐったそうに笑い、もう少しだけねとほぐした魚を手のひらにのせる。
それも食べた子猫は満足したのか一声鳴いて、美鈴の太ももにのって丸まってしまった。
お腹が膨れたので、次は睡眠欲を満足させたくなったらしい。
「ちょっと困りましたね。
これじゃ動けません」
「隊長~いいなぁ~」
可愛い子猫の寝姿に部下たちが騒ぐ。
「起きるから静かにね?」
人差し指を唇に当てて、部下たちを静かにさせる。
それに部下たちも頷いて、子猫を触ることなく静かに見るだけにとどめた。
休憩時間が終っても子猫は起きることなく眠り続ける。
仕事に戻りたいけど、起こすのもかわいそうだと困る美鈴に部下たちが、子猫が起きるまでそのままいてくださいと頼む。
隊長のぶんまで頑張りますからという部下たちに甘え、美鈴はそのままでいることにした。
一時間もすれば起きるだろうと思っていたからだが、一時間経つ前に魔理沙がやってきた。
あまりに気持ちよさそうに眠る子猫につられるように美鈴もうとうとしていたとき、弾幕で起きた振動と魔理沙の気配を察して起きる。
いつものように門番隊を蹴散らして、美鈴も蹴散らそうとする魔理沙に、美鈴は近くにあった小石を投げた。
「あたっ!?」
弾幕ならばすいすいと避ける魔理沙だが、攻撃の意思が少ない投石だとかってが違うのか簡単に当たる。
その様子にいつもこうだと簡単なんですけど、などと思いながら話しかける。
「この子が起きるので静かにしてください」
「この子? ……どうしたんだその猫?」
「ふらっとやってきて寝てるだけですよ」
「そっか。寝てるところを起こすのは悪いな。静かに通ることにするぜ」
「いつも静かに通ってくださいよ。
そしたら怪我もなくて、門の修繕費もかからずにすむのに」
できたらなーと言って魔理沙は紅魔館に入っていく。
はぁーと溜息をついて、次からはまた門は壊れるのだろうと、美鈴は簡単に予想できてしまった。その予想は半分だけ当たる。
子猫は予想通り、一時間もすると起きた。
美鈴の膝から降りぐっとのびをして離れていく。
少し離れた位置から振り返り、紅魔館から離れていった。
美鈴はもうこないんだろうと思っていたが、次の日もその次の日も子猫は紅魔館に来て、ほぼ毎日来るようになった。
美鈴から、たまに部下たちからご飯をわけてもらい、美鈴の太ももにのって眠る。そして一時間して帰っていく。
紅魔館にくることが気に入ったようだ。
魔理沙も美鈴が座り込んでいる日は、静かに門を通るようになる。
見た目さぼっているように見えるので、咲夜がお仕置きしていると思われるかもしれないが、お仕置きはなかった。
なぜなら魔理沙が門に被害を出さずに通るので、修繕費が減ったからだ。わりとばかにならない額になっていたので、それを減らす原因となった子猫を可愛がることについては言及しない。
レミリアが屋敷に入れないかぎりはほおっておいていいと助言したことも、お仕置きとならなかった要因の一つだろう。
「にぃ」
「気持ちいい?」
相変わらず美鈴の太ももにのり、くつろぐ子猫。その子猫を美鈴が撫でる。
子猫の首には紅いリボンが巻かれている。美鈴の髪の色と同じ色のリボン。
なぜ懐いてくれるのか理由はわからないけれど懐かれて悪い気はせず、むしろ嬉しくてプレゼントしたものだ。
ご飯は部下たちからももらうが、くつろぐことは美鈴のそばでしかしない。
一度部下たちが、自分たちの足にのせてみようとしたがある。大人しく捕まって足にのったが、すぐに下りて美鈴のそばにいってしまった。
部下たちは、あの子猫巨乳属性なのかもしれないと、囁き合っていた。
「めーりんっ」
「フランドール様? こんな時間に外に出てくるなんて珍しいですね」
呼ばれて振り向くと日傘を差したフランドールが立っていた。
「早めに寝たら、早くに目が覚めちゃった」
「そうでしたか」
「ところでめーりん。それなに?」
フランドールは寝ている子猫を指差す。
「猫ですよ?」
「猫? それが猫なんだ」
「フランドール様は見たことなかったのですか?」
「うん。パチュリーにそういうのがいるって聞いたことはあったけど、それだけ。
へーこれが猫」
興味深そうにじっと猫を見る。
「ね、触ってもいい?」
「どうなんでしょう? 寝ていますから。
まあ、ちょっとぐらいならいいと思います」
手を伸ばし毛に触れる。
「さらさらで温かいや。
ぬいぐるみと違った感触」
「生きてますから」
「わっ」
撫でられて起きた子猫がフランドールの手をなめた。それに驚いたのだ。
何度かフランドールの手をなめた子猫は視線を上げ、フランドールを見る。
何を考えているのかわからない灰色の目で、飽きることなくじっと見る。
やがてなにかに納得したのか、はたまたただの気まぐれか、子猫は美鈴の足から下りてフランドールに擦り寄る。
「えっえっ?」
「おやまあ」
「え? めーりん! どうしたらいいの!?」
「そうですね。私と同じようにしてみたらいかがですか?」
「う、うん」
初めてのこと戸惑いながら美鈴の隣にフランドールは座る。
そのフランドールの太ももに子猫がのって丸まった。
「うそー!?」
「あの子巨乳属性じゃなかったの!?」
「たんに私たちが気に入られなかっただけ?」
「ってかあの子猫が、どんな基準で懐くのか全くわからないわ」
「度胸あるわね、あの子猫」
子猫がフランドールに懐いたことで門番隊たちが騒ぐ。
その部下たちを美鈴は一睨みで黙らせ、立ち上がる。
「仕事に戻りますね」
「え? この子はどうするの?」
「フランドール様が見ててくれますか?
なに一時間もすれば起きて住処に帰りますから」
「うん、わかった。見てる」
「はい」
フランドールの返事を聞いて美鈴は門番へと戻る。
といってもすぐそばで立っているので、フランドールと子猫の様子は常にわかる。
時々子猫に触って終始笑顔なフランドールを、美鈴は微笑みを浮かべて見ていた。
この日からフランドールが時々門に来るようになった。
毎日くるのは睡眠時間的に無理だが、不思議とフランドールが門にいる日には子猫は必ず紅魔館にくる。
それはレミリアがそうなるように、運命をいじっていたから。そのことは誰も知らない。
そして何度目かの出会い。
その日、子猫は眠らずにフランドールと遊んでいた。
美鈴の管理する花壇近くで、門番隊から借りた猫じゃらしをもったフランドールを追いかけていた。
猫じゃらしが右へ左へ、子猫もそれを追って右へ左へ。
その様子が面白いのか、フランドールの楽しそうな笑い声が庭に響き、美鈴たちは平和だなと緩んだ気持ちで警備をしていた。
しかし平穏は長続きしない。
子猫の鋭い悲鳴が庭に響き、緩みは消えた。
「どうしたんですかっ!?」
門を部下たち任せて美鈴はフランドールの元へ。
その場には指先から血を流すフランドールと散らばった紅いものだけ。子猫の姿はどこにもない。
「フランドール様?」
思わず最悪を想像しながら、少しぼうっとしたフランドールに話しかける。
「あっめーりん」
「あの子はどこですか?」
震えそうになる声を震わせることなく聞く。
「わからない。あっちのほうに逃げてったのは見たけど」
「逃げていった?」
それを聞いて不安が僅かに消えていく。
破壊されたのかもしれないと思っていた。
地面を良く見ると紅いものは、血などではなく布だった。
それを美鈴が拾う。
「リボンの切れ端ですか?」
「うん。汚れてたから外そうとして、そしたら暴れて指を切って、思わずかっとなって壊しちゃった」
「そう……ですか。
きっと外すときに苦しかったのでしょうね。
とりあえずフランドール様は指の治療をしましょう」
美鈴は部下にフランドールを頼み、自分は子猫を探しにいく。
探すのにそう時間はかからなかった。遊んでいたところから近い茂みに隠れていたからだ。
隠れていても美鈴ならば気配をよんで簡単にみつけることができる。探す時間は十分もかからす、子猫を抱いてフランドールの元へ戻る。
「近くに隠れてましたよ。どこも怪我はしてません」
「よかった」
「ほんとうに」
「ですねぇ」
その場にいた全員がほっとした様子で笑いあう。フランドールをのぞいて。その表情は後悔の混じった恐怖?
「どうされました?」
子猫を抱いたまま美鈴が近づくと、フランドールはそのぶん後ずさる。
視線は下を向いたまま。
子猫を見ることができないのかと思った美鈴は、部下に子猫を任せてフランドールに近寄る。
その予想は当たっていたようで、今度は後ずさることはない。
美鈴は膝を地につけて、下からフランドールに視線をあわせる。そしてもう一度聞く。
「どうされました?」
「……嫌われたから」
ぽつりと呟く。
それだけで美鈴たちはわかった。
能力をコントロールできずに、狂気の赴くままだった頃のことはこの場にいる全員が知っていた。
今でも完全にコントロールできているとはいえないが、魔理沙に出会う以前よりましになっている。
そして誰かと接するということが少しずつ増えてきた。
しかし以前は地下に篭ったままで、メイド長と美鈴とレミリアくらいしか会いにいくことがなかった。
なぜなら壊すという能力とその暴発を誰もが恐れたから。
そのことをフランドールは忘れていない。だから能力を向けた子猫に嫌われたと思い、子猫を見ること近寄ることすら怖がる。
「嫌われるようなことをしたと思うのなら、謝りましょう?
言葉は理解できないかもしれませんが、心から謝ればその想いは伝わるはずです」
フランドールが成長したと信じているからこその言葉。
以前のままではないから、これくらいはできると確信を美鈴は持っていた。
「……」
「やってみましょう?」
「……うん」
こくんと頷いたフランドールは子猫に近づき真正面に立つ。
子猫は近づいてきたフランドールを避けることなく、初めて会ったときと同じように見つめる。
「ごめん」
ただそれだけの短い謝罪。でも全員がしっかりと気持ちが篭っていることを感じ取っていた。
子猫はしっかりとフランドールの目をみつめたまま動かない。まるで心を探るかのように。
「にぃ」
許すよ、とでも言ったのだろうか。一声鳴いて前足をフランドールへと伸ばす。
それに恐る恐る手を伸ばすフランドール。
近づけた手が、ぺろりとなめられたことを理解すると、部下から子猫を受け取ってぎゅっと抱きしめる。
表情に恐怖はなく、謝罪と嬉しさの混じった小さな笑みが浮かんでいた。
庭にビーチパラソルがさされている。
その下には美鈴が正座を崩して座っている。
太ももに子猫はおらず、かわりにフランドールが膝枕で眠っていた。
子猫はフランドールの腕の中で気持よさそうに寝息を立てている。
その首にはフランドールの髪と同じ色のリボン。
この眠りを妨げはさせないと、門番隊たちは気合をいれて仕事をしていた。
とっても和みました。
猫もかわいい。フランちゃんもかわいい。