慧音が香霖堂を訪れてから、一時間は経とうとしていた。
先程名を覚えたばかりの店主、霖之助は未だに慧音に執着している。
彼女の歴史を食べる(創る)程度の能力に興味を覚えたらしいのだ。
それから、満月の晩に神獣へと変化を遂げる事にも。
――元々、寺子屋の授業で使えるような教材を探しに来た筈なのに。
いつも居座っているという黒白や紅白も今日に限って居ない。
いい加減、慧音も飽きが来ていた。
彼の知識欲を満たす為だけに延々と下らない質問に答えるなど馬鹿げた話だ。
「ふむ……成る程、中々良いセンスのスペルカードだ。
紅魔館のお嬢様――ああ、前に一度だけ来店されたのだが、
彼女のそれは稀に見るハイセンスなものだったよ。……いや、敢えて語るまい」
(全く……何なんだこの男は。
私の経歴からスペルに至るまで。一体何がしたいんだ)
いざとなれば慧音はこのやり取りを無かった事に出来るのだから用心はしていなかった。
それに、霖之助の歴史は既に覗いている。
「私の事を随分と知りたがっているようだが……
平等に私からも聞かせて貰おう。
貴方は人間ではないな、だが妖怪でもない。
さしづめ白玉楼の庭師と似たようなものか。
あの黒白と親しいようだが、貴方は彼女が生まれる前から」
慧音の言葉を遮り、霖之助が口を開いた。
「そう、僕は所詮混じり物さ。
寿命も長い、人間に比べればね。
僕よりも早く魔理沙は死ぬだろう」
「……何が言いたい」
「寿命は人より長く、しかし永遠ではない君に興味を持った。
それに、歴史を操る能力にもね。
お察しの良い君ならもう何が言いたいか分かるだろう?」
「………」
重い沈黙が流れた。
「……歴史から身を隠したいと?」
「ああ。
昔から親しんできた者の死を見るのは辛いものだよ。
僕が歴史から居なくなれば、誰も傷付かない。僕も例外無くね。
道具はあのすきま妖怪が気紛れに外から仕入れてくる」
霖之助は、慧音と逆の立場に置かれているのだ。
「私には……不老不死の、友人が居る。
彼女より私は確実に早く死ぬ。
現に私は何度も何度も見てきたよ。
人間の一生は早いし、教え子はあっという間に大人になる。
里の者は私より早く死んでいくが、今でも一人一人の顔を鮮明に思い出す事が出来る。
貴方が歴史から居なくなれば、確かに誰も悲しまないだろうが、
貴方の大切な人たちの思い出を殺してしまう事になるんだぞ。
乗り越えろ。暗い幻想に呑まれてはならない」
まるで己に言い聞かせるように、慧音は言った。
既に月は雲の隙間から顔を出し、幻想郷を照らしていた。
(――人間と、妖怪か)
(本来共存し得ぬ者ら)
(だが、それがここではまかり通る)
(それこそ幻想郷が幻想郷たる所以――)
死に死に死んで生き返るの者も、死ねば息を無くしてしまう者も。
悲しまない者など居ないのだ。
(明日、妹紅の家に酒でも持って行ってやるか)
end
先程名を覚えたばかりの店主、霖之助は未だに慧音に執着している。
彼女の歴史を食べる(創る)程度の能力に興味を覚えたらしいのだ。
それから、満月の晩に神獣へと変化を遂げる事にも。
――元々、寺子屋の授業で使えるような教材を探しに来た筈なのに。
いつも居座っているという黒白や紅白も今日に限って居ない。
いい加減、慧音も飽きが来ていた。
彼の知識欲を満たす為だけに延々と下らない質問に答えるなど馬鹿げた話だ。
「ふむ……成る程、中々良いセンスのスペルカードだ。
紅魔館のお嬢様――ああ、前に一度だけ来店されたのだが、
彼女のそれは稀に見るハイセンスなものだったよ。……いや、敢えて語るまい」
(全く……何なんだこの男は。
私の経歴からスペルに至るまで。一体何がしたいんだ)
いざとなれば慧音はこのやり取りを無かった事に出来るのだから用心はしていなかった。
それに、霖之助の歴史は既に覗いている。
「私の事を随分と知りたがっているようだが……
平等に私からも聞かせて貰おう。
貴方は人間ではないな、だが妖怪でもない。
さしづめ白玉楼の庭師と似たようなものか。
あの黒白と親しいようだが、貴方は彼女が生まれる前から」
慧音の言葉を遮り、霖之助が口を開いた。
「そう、僕は所詮混じり物さ。
寿命も長い、人間に比べればね。
僕よりも早く魔理沙は死ぬだろう」
「……何が言いたい」
「寿命は人より長く、しかし永遠ではない君に興味を持った。
それに、歴史を操る能力にもね。
お察しの良い君ならもう何が言いたいか分かるだろう?」
「………」
重い沈黙が流れた。
「……歴史から身を隠したいと?」
「ああ。
昔から親しんできた者の死を見るのは辛いものだよ。
僕が歴史から居なくなれば、誰も傷付かない。僕も例外無くね。
道具はあのすきま妖怪が気紛れに外から仕入れてくる」
霖之助は、慧音と逆の立場に置かれているのだ。
「私には……不老不死の、友人が居る。
彼女より私は確実に早く死ぬ。
現に私は何度も何度も見てきたよ。
人間の一生は早いし、教え子はあっという間に大人になる。
里の者は私より早く死んでいくが、今でも一人一人の顔を鮮明に思い出す事が出来る。
貴方が歴史から居なくなれば、確かに誰も悲しまないだろうが、
貴方の大切な人たちの思い出を殺してしまう事になるんだぞ。
乗り越えろ。暗い幻想に呑まれてはならない」
まるで己に言い聞かせるように、慧音は言った。
既に月は雲の隙間から顔を出し、幻想郷を照らしていた。
(――人間と、妖怪か)
(本来共存し得ぬ者ら)
(だが、それがここではまかり通る)
(それこそ幻想郷が幻想郷たる所以――)
死に死に死んで生き返るの者も、死ねば息を無くしてしまう者も。
悲しまない者など居ないのだ。
(明日、妹紅の家に酒でも持って行ってやるか)
end
この慧音、ひょっとしなくても霖之助が嫌いですね
>彼女は無闇に能力を使ったりしないんだろうなあという妄想から出来た作品です
という割には
>いざとなれば慧音はこのやり取りを無かった事に出来るのだから用心はしていなかった。
そういう考えを持っているようには思えないし(能力使えばいいじゃん、とでも言うような)
>それに、霖之助の歴史は既に覗いている。
そもそも、あっさり使ってるし
>生き返るの者も
生き返る者も
ご指摘ありがとうございます。
確かに矛盾点がかなりありますね。
おまけに誤字まで……;
やはり物語は推敲を重ねよく練らなければならないと痛感致しました。
今後の作品の参考にさせて頂きます。
もうちょっとひねってほしかったです。
ご指摘ありがとうございます。
確かに、勢いだけで尻すぼみな感じが否めないですね。
もっと話の作り込みを工夫したかったです。
追記・ご指摘のあった誤字を修正しました。