Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

鍵盤狂想

2008/06/22 20:08:30
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     ※   ※   ※


「姉さん達の馬鹿ぁ!!」

先日行われたライブで、ちょっとしたミスがあり、そこをルナサとメルランに執拗に突っ込まれたリリカ・プリズムリバー。

自分でも気にしていたのと、姉達の突っ込みが自分が予測していたのよりも遥かに酷かったこともあり、
とうとう喧嘩してしまい、家を飛び出して、人間の里の近くの上空でフワフワと浮かんでいた。

「フンだ!!」

プリプリとしながら浮かんでいると、人間の里からある音が聞こえてくる。

「……不協和音……ね……」

耳を澄ますと、ピアノの様な音が聞こえているのがわかる。
けど、本当に不協和音だった。

「……あ~、イライラする~!!」

その不協和音は、リリカからすれば、非常に簡単な曲である事がわかる。
けど、「オイ! そこで躓くか!!」と思える場所で、何度も何度も躓いている。

「あ~、もう!!」

その不協和音に耐えられなくなったリリカは、その不協和音の元へと行って見る。

「ここか」

……その場所とは……

人間の里にある、ちょっと大きな家の2階からだった。

「まったく、弾いているのはどんな奴よ!」

その2階の窓を覗き、弾いている人間を見てみる。

「子供ぉ?」

リリカの目には、まだ小さい男の子が必死な顔をしながら、楽譜とにらめっこをしてピアノを弾いている姿が見えた。

「ああ、これじゃダメよ!」

その男の子は、楽譜につんのめる様に顔を近づけて、必死な形相で一音ずつ指を確認しながら鍵盤を押していっている。

「これじゃ、基礎も出来ていないんじゃないの?」

窓の外から、その男の子の指使いを見ていると、そう思えてしまう。

けど、それでも真剣な顔つきで楽譜を見つめ、一生懸命にたどたどしくも指を鍵盤に向けている姿勢を見ると、
自分も、初めて楽器に触れた時の事を思い出す。

「ああ、もう! 見てらんないわ!」

口からその言葉が出るのと同時に、私はその男の子のいる部屋の窓を開けていた。

「ちょっと! 貴方! それじゃそのピアノが可哀想よ!!」

「うわぁっ!! 誰だぁ!!」

お互いが大声で叫んでいた。
なので、お互いが相手が何を言ったのが聞こえていなかった。

先に口を出したのはリリカの方だった。
まだ、驚いて目を丸くしている男の子に向かって、すごい剣幕でまくし立てる。

「ちょっと! 聞くに堪えない不協和音よ!! いい迷惑よ! 公害よ!」

片方の手は腰に、そしてもう片方の手はビシッとその男の子を指差していた。




一方の男の子は、いきなり窓から入ってきた侵入者に驚いていたが、その服装を見て、
その見覚えのある服を必死に思い出していた。

……あ、もしかして……

目の前で、自分に向かってビシッと指を指している人物をもう一度よく見てみる。

……うん、間違いない!……


「あの~、もしかして…… 『リリカ・プリズムリバー』さんですか?」
男の子は、恐る恐る聞いてみる


「ええ、そうよ! 私はリリカ・プリズムリバーよ! 貴方のピアノが酷過ぎて、聞くに堪えないから注意しにきたのよ!」

その言葉をリリカが言うと、男の子は肩をガックリと落としてうつむいてしまった。

『ありゃ、言い過ぎたかな?』

そう思っていると、目の前の男の子の肩が小刻みに震えだし、小さな嗚咽も聞こえてきた。

『しまった! 言い過ぎた! 泣かせちゃった……』

ちょっぴり反省。

「ご、ごめんね……、そんなつもりはなかったのよ……、言い過ぎたわ」

しかし、すでに遅かった。

男の子は、声にならない声を出して、泣いていた。

『面倒な事になったわね……、けど私が悪いのよね…… うん、仕方ない!』

リリカはある事を決意した。



「ほら泣かないで、ピアノだったら、私が教えてあげるわよ」


そのリリカの言葉を聞いた男の子の泣き声が止んだ。

「グスッ……、ほ、本当ですか?」

「ええ、本当よ!」





そして、私はなぜこの男の子がピアノを練習していたのかの理由を聞いてみたの。

……フムフム……

なるほどね。
どうやら、来月にこの男の子が通っている寺子屋の教室で、里の催し物に合唱で参加するらしいわね。
それで、家にピアノがあるこの男の子が練習をしていたと……、そういう事ね。


私は日めくりを確認する。

「期限は……ちょうど1ヶ月」

よし! なら出来るかも知れない。
そう確認した私は、男の子に確認を取ってみたわ。
私流の特訓を受けるかどうかを……
男の子は、「うん」と即答したわ。


「いいかしら? 私の特訓は厳しいわよ!」

「はい! 覚悟は出来てます!」

「いい返事ね! じゃあ、今から私の事は『師匠』と思いなさい!」

「はい! 師匠!」

「これから一ヶ月、私の教え方に対しての文句は一切受け付けないわ!」

「はい!」

「それと、教え方は、プリズムリバー流でやらせてもらうわ! かなりのスパルタよ!」

「はい!」

「わかったわ! では、明日から毎日私がここに来て特訓をするから、絶対に休まないように!」

「はい、わかりました! 師匠! よろしくお願いします!!」





こうして、私は一度家に戻ったの。
もうさっきまでの姉達との喧嘩なんて忘れたわ。

家について、すぐに自分の部屋に戻り、早速明日からの男の子への特訓プログラムを作り始めたの。

部屋に保管してある、数枚の楽譜を選び、難易度順に並べる。

「この順番なら……出来るかもしれないわ」

私の中での流れはこうなの。

男の子が出る里の催し物までの1ヶ月を4分割するの。
つまり、1週間ね。

1週間で、ある一曲をマスターしていって、マスター出来たら次はちょっとだけ難易度を上げて、
また1週間でマスターしてもらう……
そして、最後の週に、その催し物で演奏する曲をマスターしてもらう。
その為に、最初の3週間分の曲は、その催し物で演奏する曲よりも、ちょっとだけ難しい曲をやってもらうの。

段々と難しくしていくよりも、段階を追ってやさしくしていった方が負担にならないと思うの。

いきなり、lunaから初めてしばらくしてeazyをプレイすると、なんて簡単なの!って思うのと一緒よ。



そして、明日に備えて楽譜をチェックしてから、私は布団へ入ったの。









    ※    ※    ※



【次の日】


「来たわよ!」
「あ、師匠、お待ちしておりました!」


すでにピアノに座って、私を待っていた男の子。
もう軽く指を暖めていた様で、昨日のあの酷いガチガチの指使いから少しは成長したみたいね。
フムフム、関心関心。


では、早速特訓を始めるわ!


と言うことで、私は男の子に、催し物の日までの計画を教えたの。
昨日私が計画した予定をね。

「はい! わかりました!!」

うんうん、相変わらずいい返事ね、

……じゃあ、早速……


私はピアノの譜面台に昨日用意した楽譜を一枚置く。

「それじゃあ、まずはこの曲から練習よ。 言っておくけど、これ位の曲が出来ないと
 当日の催し物の楽曲は失敗するわよ!!」

「はい、わかりました」

そして、男の子はその楽譜を見る。
男の子は、その楽譜に書かれた題名を見る。

「え~っと……『運命のダークサイド』?」

「いいかしら? まず私が見本を見せるわ」

ピアノの椅子にリリカが座り演奏が始まる。

数秒後、男の子は思った。

『無理だ』

師匠の指の残像が見える。
まるで、手がワープしている様だ。
こんなの人間では無理だ。

男の子は冷や汗を垂らしながら、リリカの演奏が終わるのを待っていた。

「はい、こんな曲よ。 簡単でしょ?」

平然とした顔のリリカさんが僕を見ている……
駄目だ、もう逃げられない……

覚悟を決めて、僕もピアノに向かう。
最初から、あんなの弾ける訳がない。
とりあえず、楽譜を見ながら、たどたどしく鍵盤を押して行く。


「師匠! 指が! 指が届きません!!」
「そこは気合よ!」
「師匠! 物理的に不可能な所があります!!」
「そこも気合よ!」
「師匠! この階段落ちは、人間では無理です!!」
「気合だって言っているじゃん!!」


私は思ったの。
「そうよ……、こういった子供にはご褒美が必要ね。そのご褒美で、やる気が出るってものよ!!」

そして、ちょっと考える。


……いい事思いついたわ!……


ピアノの前であまりにもハイレベルな楽曲を前にガックリと肩を落としている男の子に、私はある事を教えたの。



「いい! この曲はなんの曲か知っているかしら!」

「何の曲ですか?」

「この曲はね……、この曲はね! あの『厄神様』のテーマ曲なのよ!!」

「え? あの厄神様の!!」

男の子の頭の中に、寺子屋にたまに代理教師で来る厄神様が浮かんできた。

「そうよ! もしこの曲を完璧に弾けたら……それを聞いた厄神様はどう思うかしら?」


……少年妄想中……


「すごいわ! 貴方! みんな難しいって言って避けていた私のテーマ曲を完璧に弾けるなんて!」

厄神の鍵山 雛は、僕の演奏を聞いて、両手を顔の前に祈るように組み、尊敬のまなざしで僕を見ている。

「いえいえ、練習すれば誰でも出来ますよ」
ちょっとクールに男の子が厄神様に答える。

「そんなことないわ! ああ、すばらしいわ!」

そして、感謝の意を込めて、厄神様が僕を抱擁しようと近づいてくる。
ああ、あの二つのふくらみが……


……妄想強制終了……


「おーい、戻ってこーい!!」

リリカさんの呼びかけで僕は現世に戻ってきた。
なんで、いい所で邪魔をするんだ!

「まあ、とりあえず、そのヨダレを拭いて来い」

「はい! 師匠! 僕やります! やりとげます!! 完璧に弾ききって見せます!」

「よし! その意気だ! その前にまずはそのヨダレを拭いてからだ」

「はい!!」

こうして、僕の戦いが始まった。






【一週間後】


「来たよ~」

いつもとおりに窓からリリカさんが入ってきた。

「さて、今日で第1段階目の曲の最終日だけど……」

「ええ、師匠の教えと、自主練習の成果を見てください!!」

そして、男の子が演奏を始める。
曲目は「運命のダークサイド」


……少年演奏中……




「すばらしい! 完璧だ!」

「やった! これで厄神様の抱擁は僕の物だ!」

「ハァ?」

「いえいえ、こっちの話です」



僕は満足感にあふれていた。
この完璧に弾ききった「運命のダークサイド」を寺子屋に来ている厄神様が聞いてくれたら……
ああ、僕の妄想は現実の物に!!



そんな満足感に浸っている僕にリリカ師匠が次の課題曲の楽譜を渡してきた。
フッ、あんな物理的に不可能な曲を弾ききった僕には、演奏する事が出来ない曲なんてないさ……

そう思いながら、その楽譜を見る。

「え~っと……『狂気の瞳』?」

「ええ、プリズムリバー流ピアノ練習の第二段階目の曲よ」

僕は楽譜を見る。
何か一部分だけ、おたまじゃくしがウヨウヨ書いてあるのは気のせいか?

「じゃ、これもまずは私が見本を弾くね」

そう言い、リリカ師匠が演奏を始める。

数秒後、また僕は思った。

「無理だ」

師匠の指の残像が「運命のダークサイド」よりも激しい。
音階がいきなり変わる。
途中、どうみても早すぎると思える部分があり、師匠の指が見えない。

リリカ師匠の演奏が終わり、また僕の番になる。

僕は楽譜を目で追いながら、たどたどしく鍵盤を叩いていく。


「師匠! 手がこれ以上大きく開きません!」
「気合だ!」
「師匠! 早すぎて指が追いつかない場所があります!!」
「そこも気合だ!」
「師匠! トリルの部分が鬼畜です!!」
「だから気合だって言ってんでしょ!」

『まったく……これにも「ご褒美」が必要なのかしら?』

そうリリカは思い、男の子にこの曲の詳細を教える。

「いい! この曲はね……、この曲はあの里に偶に薬を売りにやって来る『鈴仙・優曇華院・イナバ』のテーマ曲なのよ!」

「え? あの人の!!」

男の子の頭の中には、里で偶に見かけるあのスタイルの良い優曇華院の姿が浮かんでいた。

「もし、この曲を完璧に弾ききったら……彼女はどう思うかしら?」



……少年妄想中……



「え? 私の曲を弾ききったの?」
 両手を口元に当てて、驚きの表情を隠せない優曇華院が熱いまなざしで僕を見つめている。

「ええ、苦労しましたが……、完璧に弾ききれました」

「すごいわ……、感動したわ! お礼にはならないとは思うけど……
 いいわ! 貴方にだけ、私の耳をモッフモフさせてあげるわ!」

「ええ! いいんですか!」

「……恥ずかしいけど……いいわよ……」




……少年妄想強制終了……



「おいこら! 戻って来い!」

まただ、またリリカ師匠の邪魔が入ったよ!
あと数秒我慢出来ないのかな?

「まあ、とりあえず、その何かを揉んでいる様なイヤラシイ手つきをやめるんだ」

「はい! すいません師匠! 僕やります! やり遂げます! そしてモッフモフをぉぉ!!」

「モッフモフ? なんだそりゃ?」



こうして、僕の壮絶な第2回戦が始まった。






   ※   ※   ※



【一週間後】


「さあ、今日は第2段階の総仕上げの日だよ」

「ええ、お待ちしておりました……、とくとご覧ください!」

僕は自信たっぷりと、ピアノに立ち向かう。
もう楽譜なんて見なくっても、指がすべて覚えている!
本当に目を瞑っていても今ならいける!

「じゃあリリカ師匠! 聞いてください!!」


そして、僕は演奏を始める。


「狂気の瞳 ~Invisible Full Moon~」


……少年演奏中……


「すごい……これも完璧だ」

「ありがとうございます。 これも師匠の教えがすばらしいからです」

「いや、素直に君の努力の賜物だ! 自慢してもいいぞ!」

「本当ですか! やった! これであの兎耳がモッフモフ出来る!」

「モッフモフ?」

「いや、こっちの話です」


僕は、今までにない充実感にあふれていた。
もし、僕がこの曲を弾いている時に、家の脇の道を、あの優曇華院と呼ばれる兎さんが通ったら……
ああ、今妄想が現実に一歩近づいた!!


「さあ、じゃあ次が最後の難題よ」


天を見上げて、手を組んで自分の才能に溺れかけていた僕に、リリカ師匠がプリズムリバー流のピアノ練習課題曲の
最後の楽曲の楽譜をピアノの譜面台の上においた。


「今までの曲が出来るのなら、そう難しい物ではないと思うけど……」


僕はその譜面台に置かれた楽譜の題名を読む。

「プレインエイジア?」

「そう、これが私からの最後の課題曲。
 これが弾けたら、もう私は貴方に教える事はなにもないわ!
 それくらい難しい曲なのよ……。 貴方に出来るかしら?」

そう言い、リリカ師匠はピアノに向かい、演奏を始めた。

その演奏を見て、僕は思った。

「今度こそ、絶対に無理だ」と。

楽譜の最初の方は普通なんだよ。
けど、途中の部分は一体なんなんだよ!
楽譜がまるでブドウ畑の様に、黒い塊がウジャウジャと……

それに、あの師匠の指使い。
師匠ですら、辛そうな顔で問題の場面を弾いているよ!
指が……師匠の指が見えない!!

そして、リリカ師匠の演奏が終わる。
今までにリリカ師匠が演奏が終わった後に額にうっすらと汗をかいていた事なんてあっただろうか?
いや、ない!

つまり、それほどこの曲は難しいって事だ!

そして、今度は僕がピアノに向かう。
先日までの「運命のダークサイド」と「狂気の瞳」を完璧に弾き切った身としては、
少しだけ心の中に驕っていた部分があったんだろう。

そして、また楽譜とにらめっこをしながら、僕は鍵盤と格闘を始めた。


「師匠! この音符は見たことがないんですが!!」
「気合で感じろ! フィーリングだ!」
「師匠! 指がどうしても追いつきません!」
「気合で追いつけ!」
「師匠! あの『運命のダークサイド』よりも、物理的に不可能な所があります!!」
「そんなの気合でなんとかしろ!!」


駄目ね、また弱気でいるわ。
仕方ないわ、また「ご褒美」が必要なのかしらね……

そう思い、リリカは悪戦苦闘している男の子に、この曲の詳細を教える。

「いい! この曲はね! 寺子屋の講師である『上白沢 慧音』のテーマ曲なのよ!!」
「え? 慧音先生のですか!!」
「そうよ! 毎日寺子屋で会う、あの慧音先生のテーマ曲なのよ!!」

男の子の頭の中には、毎日寺子屋で見る、あの慧音先生の姿が浮かんでいた。

「もし、この東方内で難易度がトップクラスのこの曲を、完璧に貴方が弾ききったら……、慧音先生は、どう思うかしら?」



……少年妄想中……

「ムッ、なかなかやるな」

「ええ、がんばって練習しましたから……」

「そうか……、なら私からご褒美を上げないといけないな」

そして、厄神様と同じ様に、僕を抱擁しようと、慧音先生が近づいてくる……
ああ、天国がもうすぐ僕の顔に……


……少年妄想強制終了……


「おいこら! まったく!! 戻って来い!!」

まったく、リリカ師匠! 空気読めよ!
あと数秒でいいんだよ!
あと数秒でGO GO HEAVENなんだよ!

「まあ、とりあえずその鼻血を止めて来い、チリ紙はそこにあるから」

「あ、すいません……(ホジホジ)。 リリカ師匠! 僕やります! やりとげます!」

「そうか! その心意気だ! かなり難しいが頑張ってくれ!」

「はい! これを弾ききれば、あの大きな二つの砂丘に顔を!」

「はぁ?」

「いえ、こっちの話です」




こうして、僕の最後の聖戦が幕を開けた。





   ※   ※   ※



【一週間後】



「さて、今日で最後だよ」

「ええ、この日を心待ちにしていましたよ……」

もう、僕の指は限界を突破していた。
腱鞘炎という言葉が脳裏をよぎる。
まるで、何かの禁断症状の様に、手や指先が震えている。

が、指はその動きをすべて記憶している!
まるで、呼吸をするかのように、自然に意識しなくっても、最初の1音を押せば、
指がその動きをトレースする!

今だ! 今しかない!!


「それじゃあ、リリカ師匠! 聞いてください!!」


「プレインエイジア」


……少年演奏中……




「信じられない……」
リリカは言葉を詰まらせる。
それほど、完璧な演奏。
いや、もしかしたら、自分より上手いかもしれない。

男の子の演奏を聞き終わった時、リリカは軽く放心状態になっていた。

「師匠!! 戻ってきてください!!」

「ハッ!」

「どうでしたか? 僕の演奏は!!」

「……言葉も出ないわ……すばらしいわ!!」

「え? じゃあ……」

「ええ、そうよ! 無事にプリズムリバー流のピアノ練習講座は卒業よ!」

「やった!! ありがとうございます!! これも師匠のおかげです!!」

「フフッ、いいのよ……、けどこれからが本番よ! 来週に控えた催し物の曲を練習するのよ!!」

「はい! わかりました!!」



こうして、僕はリリカ師匠のピアノ練習講座を無事に卒業した。
その後に練習した、催し物の楽曲は、まるで子供だましの様に簡単に見えてしまっていた。
なので、僕は演奏に感情を込めて練習をした。
まるで、その合唱の主役は僕だ! と言わんばかりに……





【催し物の前日】


「とうとう明日ね」
「はい、本当にこの一ヶ月ありがとうございました」

「じゃあ、最後に聞かせてもらおうかしら? 明日演奏する曲を……」
「はい、わかりました」

そして、僕はその曲を演奏する。
本来、ピアノと合唱の他に、簡単な打楽器を担当するパートもあって、
教室全体で演奏をするという形式になっている。

けど、僕のピアノは一味違う!

そう思い、思いっきり感情を込めて、その楽曲を演奏してみた。

「うん、とてもすばらしいよ!」

演奏が終わってからリリカ師匠が僕のアドバイスをくれた。

「いいかい? 確かに君の技術は私に肉薄している。
 けど、明日の出し物は教室の生徒全体で行う物なのよ。
 全員がひとつになって、初めてすばらしい出し物になるの。
 だから、明日は周りのみんなに合わせて演奏をするのよ」

「そうですね……、少しうぬぼれていました…… やっぱり僕の師匠だ! ありがとうございます!!」

僕は大きな間違いをする所だった。
ひとりだけ卓越した技術を持っていても、バランスというものがある。
僕は、師匠が言わなければ、そのバランスを大きく崩してしまう所だったのかもしれない……

僕は師匠の言葉を胸に刻んだ。

「それじゃ……、明日頑張ってね」

師匠が帰ろうとしていた。

「あ、ちょっと待ってください!!」

僕は明日の催し物のプログラムを師匠に渡した。

「これ……、この印がしてある所が僕達の出し物の所です。
 もし時間があったら、見に来てください!!」

「うん、わかった。 行ける様に頑張ってみるね」

「お願いします……。 では、本当にありがとうございました!!」

男の子は、窓から帰ろうとしていた私にいつまでも頭を下げて見送ってくれた。

うふふっ、何かいい事をした後って気持ちがいいわね。

私は笑顔で、家へと戻って行ったの。




   ※   ※   ※



【当日】


私は簡単な変装をして、その会場にいたの。
とりあえず、ちょっとは有名人な訳で、見つかってしまったらちょっとした騒ぎになってしまう可能性があったからね。

里の中の広場に作られた特設ステージには、これから行われる様々な出し物の用意が行われている。
私は、ステージの用意でごった返している裏手に回ってみる。

あの男の子に会うために。

ステージの裏手には、なんかどこかで見たことがある様な人達がウヨウヨといたけど、
変装している私には気がつかないみたいで、自分達が行う出し物の練習を一生懸命している所だった。

色々と探して、やっとあの男の子を見つけたわ!
その学級で固まっていて、最後の確認みたいなのをしていたわ。

私は、それが終わるのを待っていたわ。

そして、終わったのを見計らって、その男の子に声をかけたの。

「来たわよ」
「あ、師匠!! 来てくれたんですか!!」
「ええ、客席からちゃんと見ているからね! 頑張ってね! 貴方なら出来るわ!」
「はい! 練習の成果を見ていてください!!」

私は笑顔で男の子を励ましてから、ステージの裏を後にしたわ。

もうすぐ、ステージで出し物が始まる。

私は、さらに慌しくなったステージ裏から、逃げるように客席へと戻ったわ。



   ※   ※   ※


客席に戻った私は、男の子からもらったプログラムを見ていたの。

「なになに?」

プログラムは


①開会の挨拶
②演舞  剣の舞(魂魄 妖夢)。 太極拳(紅 美鈴)
③厄神様の『出張! 無料厄払い』(鍵山 雛)
④歌謡ステージ 夜雀のさえずり(ミスティア・ローレライ)
⑤一般客参加OK! 大食い大会「幽々子様に挑戦!」(西行寺 幽々子)
⑥瀟洒なメイドのマジックショー (十六夜 咲夜)
⑦劇団小町による寸劇 「彼岸のタイタニック」
 出演 ジャック:小野塚 小町
    ローズ :小野塚 小町
    子供A :四季映姫ヤマザナドゥ
    子供B :四季映姫ヤマザナドゥ

⑧里の寺子屋による合奏曲(代表:上白沢 慧音)
⑨チルノプレゼンツ! 博霊 vs 守矢による、「腋合戦」 (博麗 霊夢、東風谷 早苗)
⑩鴉天狗 vs 鬼 vs 風の神による、無制限大酒飲み大会(射命丸 文、伊吹 萃香、八坂 神奈子)
 
⑪閉会の言葉(なお、終了予定時間は未定です)



となっていたわ。

「フムフム、⑧番目か……」

とりあえず、席に座り、男の子の出番を待つ。



    ※   ※   ※



ステージが始まったわ。
里の長老の挨拶が終わり、そこから出し物が始まる。

魂魄妖夢と、紅 美鈴の出し物は……、まあ至って普通の出し物ね。
その手のマニアがステージのそばまで寄って、食い入る様に見ていたけど……



続いては、厄神様ね。
ステージにあがって、両手を上にあげたかと思ったら、里にいる全員の厄を吸い取っちゃったの。
ステージの上は真っ黒な塊しか見えなくなったわ。

「じゃあ、これを山の神様に帰してきま~す!!」

明るい口調で、そのままステージを降りて山に帰って行ったわ……
時間にして、1分も経っていないわ……
やっつけ仕事にしても、酷すぎるわ!
まあいいっか、私も厄を取ってもらったんだし……



次は、ミスチーね。
うん、さすがに上手いわ。
けど、一曲終わって、次の曲を忘れて、また同じ曲を歌うってどうよ?
あ、また忘れて同じ歌を歌っているわ!!
これだから、鳥頭は……



さて、気を取り直して……
今度は大食い大会ね。
っていうか、すでに優勝者は決まっているんじゃないのかしら?
多分、参加者全員で束になって掛かっても、幽々子様には勝てないと思うわ。

……ほら、案の上!……

横で必死に「はしたないから、もう止めてください! 幽々子様!!」って叫んでいる妖夢が可愛いわ……
いいじゃない、こんな時くらい、お腹一杯食べさせてあげたら?


そろそろ、疲れてきたわ。
次は……咲夜さんのマジックショーね。
……うん、なんかオチが読めてきたわ……

あ、やっぱり……
全部、時間を停めてやっているネタばかりね。
デッキを使ったマジックも、何かギミックを使ったトリックも……
あ、最後は誰かの頭の上にりんごを乗せて、それをナイフでりんごだけを射抜くってやつね。
……あ、やっぱり美鈴さんが、りんごを頭に乗せる役なのね……

まあ、咲夜さんのナイフの腕をもってすれば、あの位の芸当なら、目を瞑っても……
あ、失敗してる!!
美鈴さんの頭にナイフがぁ!!!


(一時中断)


フゥ、ナイフが刺さった相手が美鈴さんでよかったわね。
平然とナイフが刺さったまま「どうしたんですか?」って言えるのは、美鈴さんならではよ。


さてと……気を取り直して、次は……
劇団小町の寸劇ね。
あの三途の川の死神が一人二役で劇をするのね。

劇の途中で、ステージの端から端まで、「わ~い」と言いながら駆け抜けていく通りすがりの子供って……閻魔様?
似合うわ~。
って、閻魔様の出演ってこれだけ?





   ※   ※   ※





さて、次ね。
私は何度もプログラムを確認したわ。
次は、あの男の子が出る合唱ね。

前の寸劇の片付けをしているステージ上にピアノが運び込まれ、ステージの脇に置かれる。
そして、ステージ上には、ひな壇の様な台が置かれて、生徒達が3列にその台の上に並ぶ。

私の目はピアノに注目していたわ。
が、ステージの袖のカーテンでよく見えなかったの。

「まあ、いいっか。 演奏中に私の事が気になったら、演奏の邪魔になっちゃうし」

そう思って、私はあえてこの場所を動かなかったの。
いいの。彼の演奏は私が一番よく知っているから。

あの血の滲む様な特訓の日々。
彼の妄想パワーによる、上達の早さ。
そして、その妄想を叶えるための彼の情熱。

そして、なんたって、彼にピアノを教えたのは、この私!
天下のリリカ・プリズムリバー様よ!!


ステージ上の準備が終わり、演奏が始まる前の独特の緊張感が走る。
会場が一瞬だけ静まる。

指揮者の慧音が指揮棒を振り上げた。

「フフッ、驚くといいわ! 私直伝の彼のピアノテクニックを!!」






ボロ~ン。





……! 何よ! 肝心な最初の音を外しているじゃない!!
ま、まあ仕方ないわね……、誰だってこんな大舞台じゃ緊張するわよね?

いいわよ! 後で挽回すればいいんだから!!




ボロ~ン、ボロ~ン。


ありゃりゃ、また音を外しているわ。
どうしたのよ! あの特訓の日々を思い出しなさい!


ボロ~ン、ボロ~ン。

ああ、これじゃあ、私が教えたなんて、恥ずかしくって言えないわ!
それにしても一体どうしたって言うのよ!
貴方の腕なら、あの「ネイティブフェイス」すら簡単に弾ける腕を持っているのに!!


ボロ~ン、ボロ~ン。


ああ、駄目だわ!
もう我慢できないわ!
ここからじゃ、あの男の子が見えないから、見える所まで行って、喝を入れないと!!


そう思って、私は今いる場所を移動したの。
ピアノを弾いている姿が見える所まで、ちょっと距離があったけど、なんとか移動して、男の子のにらみつけたの。

……って、アレ? あの男の子って、あんなに髪の毛長かったっけ?……

私はもう一度、ピアノに座っている人影を凝視する。

……あの男の子じゃないわ!……

じゃあ、一体、あの男の子はどこに!!

私はステージの壇の方を探してみたわ。

「いないわ……いない……、もしかしたら、急に具合が悪くなって休んだのかもしれないわ!
 こういう時って、緊張でよくある事だもんね」

そう思いながらも、ステージ上にいるはずの男の子を捜す。


そして、とうとう見つけたわ!
けど、見つけた瞬間、私は固まったわ。

そして、無意識につぶやいていたの。
























「ねぇ? その手に持っている三角形の打楽器はなあに?」























その後、私はとても感情のこもったすばらしいトライアングルの音色を聞いて、
違う涙を流していたの……

















※    ※    ※






その後の事なんて覚えていないわ。
放心状態の私が気を取り直した時は、ステージの上で大酒飲み大会が行われていたわ。
大会っていうか、ただの酒盛りよね?



……ステージ上の3人以外は、誰も観客はいなかったけど……
あれ?
雛の話じゃないぞ?
どうしたんだ、俺?
苦有楽有
http://blue.ap.teacup.com/hinahina8918/
コメント



1.時空や空間を翔る程度の能力削除
まて、ちっとまて、いいからまてって、
その手に持っている楽器は何かな~??
納得のいく説明をお願いできるかな~???

てか、おもっきり吹いたぞwwwwwwwwww
素晴らしいオチでした。
楽しめました。
2.名前が無い程度の能力削除
まず腋合戦を見せろ。話はそれからだ。
3.欠片の屑削除
とりあえず、この催し物の企画者!出てきなさい!!w
4.#15削除
だから突っ込みきれねぇって言ってるでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁwwwwwww
5.名前が無い程度の能力削除
なにはともあれ腋合戦を見せてもらわないと話が始まらない…

3行目の台詞がどうみても音ゲー関連の単語が飛び交ってる気がしてならないwwwwwww
6.名前が無い程度の能力削除
テラインテルwwwww

狂気の瞳にトリルはなかったはず・・・
ピアノ難易度的にはエイジア>厄神>狂気、話の中だとエイジア>狂気>厄神みたいだけど最初に言ってることとちがくない?
一個一個音確かめてたのに同じ場所で間違えるってのは変な感じがします。
個人的にはセプテットが16分・8部3連符・トリル・和音の4拍子そろった鬼畜曲だと思ってます。
7.削除
あー、一体どこから突っ込んだらいいのかw
とりあえず雛さん、この男の子の頭のまっ黒い厄持ってっちゃって下さい。
8.天人 昴削除
ピアノ弾かないのになんでピアノの練習してるんだw
それしても、想像力のたくましい男の子だ。
そしてリリカは無駄に熱血w
9.名前が無い程度の能力削除
視点がネイティブフェイスのように転がりまくるのは仕様なのかしらん
10.苦有楽有削除
起きてびっくりw。

とりあえず、勢いで書いてしまったSSにコメントありがとうございます。

>腋合戦
誰か、書いて~w

>6番目の方
ええ、私の素人さが全開で出てしまっています。
ご指摘の通りでございます。
素人が専門分野にうかつに手を出すと、こうなるといういい見本ですw。

>9番目の方
ええ、仕様です……うそですw。
私の力不足による物です。
ご指摘ありがとうございます。

うん、やっぱり僕はいつもの書き方の方がいいみたいだ。

コメント、ありがとうございました。
11.あやめ削除
この前、某所で東方ピアノ楽譜動画を見ましたが……それらを弾ききっただと?
ピアノのことはまったく分かりませんが、コメントによる悲鳴、あまりの音符の多さと速度に戦慄を覚えました。
ところで少年、こいつをどう思う?
つ『最終鬼畜~』
12.名前が無い程度の能力削除
腋合戦www
13.名前が無い程度の能力削除
あれ? ちょっと真面目な話かと思ってたり、姉妹の和解は?とかいろいろと序盤に気にしちゃったりしたんだけど、
カオス過ぎて手におえなくて、自分でも何書いてるかわかんなくなってきて、
とりあえず 腹 筋 返 せ !
14.名前が無い程度の能力削除
腋合戦と男の子の妄想自重www