みすちーの屋台~金色の八目鰻を求めて~
古い言い伝えがあった。妖怪の山から流れ出る川の上流には広い池があり、そこにはたくさんの八目鰻がいた。
その池は鰻池と呼ばれ、八目鰻が生息するには環境が最も適しており、ほかの場所で獲れる八目鰻よりも一回り大きく育つ。
そして、その池では100年に1度生まれる、『金色の八目鰻』が獲れると言う。
しかし、それが獲れるのは極稀で、今まで捕獲できたものは少ない。
その所為か今ではこの言い伝えを信じるものはほとんどおらず、それを食すことができたのはとある亡霊だけだそうだ。
だが・・・ここに1人、この言い伝えを信じるものがいた。
「今日は~♪楽しい鰻獲り~♪」
言い伝えを信じるもの・・ミスティア・ローレライ。彼女は八目鰻が大好きであり、ほかの誰よりも八目鰻を愛している。
だからこそ信じているのだろう。この言い伝えを。いつか、金色の八目鰻を食べられる日を夢に見てまで。
今日は前回に金色の八目鰻が確認されてから丁度100年目。ミスティアの予想が正しければ、獲れる筈である。金色の八目鰻が。因みに屋台に使う八目鰻も妖怪の山にある鰻池で調達しており、今日はそれも兼ねての『鰻獲り』である。
普段、鰻池には1人で向かうのだが、どうやら今日は1人ではないらしい。
「みすち~・・まだつかないの~・・?」
不満の声を漏らしたのはチルノ。氷の妖精だ。
「チルノちゃん。もう少しだから、ね?頑張ろうよ。棒付キャンディーあげるから。」
「わーい♪」
不満顔のチルノを横からなだめる大妖精。流石というべきか、チルノの扱い方を知っている。そんなことも露知らずチルノは棒付キャンディーを口に咥えて、軽くスキップをしながら喜ぶ。
「・・・単純ね。否、バカね。」
「ふぁたゐふぁぱくぁしゃにゃぁゐ!」
↑『あたいはバカじゃない!』↑
棒付キャンディーを口に咥えて夢中になりながらも重要な部分だけは聞き逃さないチルノ。しかし、口に咥えながらしゃべったため何を言っているのかわかりづらい。尤も、ミスティアや大妖精はいつものことなので聞かずともわかるのだが。
現在、3人は妖怪の山を流れる川の脇を上流に向けて進んでいる。空から飛んでいければ良いのだが、生憎その池の周りは深い木々に囲まれているため空から入ることができない。その池に行くには下流から登っていくしかないのだ。
そして、その道筋のちょうど半分まで来たとき、川の上流から何かが流れてくるのに気がついた3人は『何だろう?』と思いその流れてくる物体を良く見ようと川に近づくと、声が聞こえてきた。
「たぁ~すぅ~けぇ~てぇ~!!」
何やら手足を激しく動かしバシャバシャと音を立てながら助けを求めているようだが、川の流れは速く、3人が助ける間もなく下流へと流されていった。
「・・・あれ、河童よね?」
「そうでしたね・・。」
「ふぁっぷぁ?」
河城にとり。チルノと大妖精とは仲がいい。それは、この川が霧の湖と繋がっているから。そう、にとりが川を流れてくる様は二人にとっては珍しくないことで一ヶ月に、多いときでは5回は流されている。当の本人は川下りをするつもりなど毛頭ないのだが、ついうっかり足を滑らせてしまうそうな。それなら川の付近に近づかなければいい、そういわれてもおかしくないが、にとりはあくまで河童である。河童なのである。
「まぁいいわ。先へ進みましょう。」
「あ、はい。」
「ぺろぺろ」
河童のことはさておき、3にんは先へと進むことにした。あまりゆっくりしていると日が暮れてしまう。日が暮れてしまうと鰻獲りができなくなるのだ。妖怪の山の八目鰻は夜になれば隠れてしまう性質がある。そうなると捜し出すのが面倒になり、余計に時間がかかるのでミスティアは、それだけはなんとしても避けたかった。
そうして鰻池の近くまでさしかかったその時、後方から物凄いスピードで近づいてくる者がいた。その者は3人の目の前まで来ると急ブレーキをかけ、きれいに転んだ。
つるっ すてん!
「あいたーっ!?」
にとりだった。下流に流され、霧の湖まで流れ着いたあと、3人を追いかけてここまで来たのだ。ミスティアと大妖精は、にとりが現れたことよりも河童の脚力に驚き唖然としていた。霧の湖から今ミスティアたちがいる場所までは相当な距離があったためである。そんな中、棒付キャンディーをきれいに食べ終わったチルノは腹を抱えて笑っていた。
「あははははは!ばかじゃないの!」
「あんたにだけは言われたくなーい!」
すかさず突っ込みを入れるにとり。霧の湖からここまで走ってきて息が切れていないことがすごい。河童・・恐るべし。
「・・それで?何しに来たの?」
「誰かさんが助けてくれないもんだから文句を言いに来た。」
それだけの為にわざわざ・・。それを口にすると弾幕勝負が始まる気がしたミスティアは心の中だけに留めた。
「ごめんね、にとりちゃん・・助けてあげられなくて・・。」
そういってうなだれる大妖精。
「あっ・・いや、まぁ・・あれは仕方がなかったね!うん。」
弱かった。河童はなによりも正直者(大妖精)に弱かった。それを聞いた大妖精は上目遣いでにとりを見る。
「許してくれる?」
「うっ!?・・・ぐはぁ!」
河童のにとりは大妖精の攻撃に被弾した。喰らいボムなど論外。かわしようがなかったにとりはその場で赤いものを噴出しながら倒れた。そして大妖精はミスティアとチルノにピースサインを送る。
「(大妖精・・恐ろしい子・・!)」
「(・・・すげぇ)」
二人は各々の心の中で確信した。あのチルノでさえ思ったのだ。大妖精だけは敵に回してはならない、と。
そうしてその場に河童を残して、3人は鰻池へと向かった。鰻池はもうすぐそこである。
途中、いろいろな事があったものの3人は大事無く池に着くことができた。そこには、金色の八目鰻の捕獲に張り切るミスティア。早く鰻を食べたいチルノ。笑顔が絶えない大妖精。
屋台に必要な分の八目鰻を確保し終えた後、それぞれが分かれて金色の八目鰻を捜すことになった。
だが、いくら捜しても見つからない。ミスティアから八目鰻の潜んでいそうな場所を教えてもらったチルノと大妖精だったが、見つかったとしても普通の八目鰻で『金色の八目鰻』ではなかった。それから『金色の八目鰻』が見つかるまでとことん捜し続けた3人は時間の事など忘れ、捜しているうちにとうとう夜になってしまった。
「あぁ~もう!なんで見つからないのよぅ!」
「あたい、もうつかれたわ・・」
「もうだめです・・」
もうほとんど諦めかけていたとき、木々の間から月の光が差し込み鰻池を明るく照らしたのを見てミスティアは驚いた。
それは、あたり一面に『金色の八目鰻』が姿を現したからである。それを見たミスティアはチルノと大妖精に呼びかけ、『金色の八目鰻』を捕獲しようとする。しかし・・。
「あ、あれ?」
「なにこれ?」
「???」
なんと、手にした『金色の八目鰻』は水から引き上げ、しばらくすると元の八目鰻の色に戻ってしまったのだ。わけがわからず、捕まえた八目鰻を一度池に逃がし、三人はもう一度池を見渡した。だが、そこにいるのはやはり『金色の八目鰻』が泳いでいるだけ。
「みすちー?これはいったいどういうことよ?」
「知らないわよ・・そんなの・・。」
「不思議ですねぇ・・でも、綺麗です。」
池は金色に輝き、その輝きがとても幻想的で、まるで夜とは思えないほど池の周りは明るくなっていた。
「それは池の水質が特別だからですよ。」
ふいに後ろから声がして、3人は同時に振り向く。そこにいたのは高い下駄を履き、腰には団扇をつけ、背中に黒い羽を生やした鴉天狗、射命丸文。どうやらこの現象を知っているらしい。
「この池の水は月の光を反射させず、水中に留める性質があるのです。尤も、ここは空が木々で覆わ れているため光の強い満月の夜にしか光が差し込まないので滅多にこの現象は見られませんけどね。」
「じゃあ、『金色の八目鰻』って言うのは・・」
「この池の八目鰻は普段から池の水の中にいるため同じ性質・・つまり月の光を浴びると金色に発光する体質になってしまった・・という事です。」
「では、どうして水から引き上げると色が元に戻るのですか?」
「それは・・私も詳しくは知りませんが、空気に触れると色素が落ちてしまうそうです。」
「・・・・。」
その話を聞いたミスティアは言い伝えを深く信じていただけあって、悲しくなる。結局、『金色の八目鰻』というのは月の光で作られたまやかし・・そう思ってしまったから。ただチルノは文の話に頭を抱えていただけだが・・・。
「真実とは少し違いますが、言い伝えは嘘というわけではありませんよ。」
「え・・?」
「今、ここに、たくさんの金色の八目鰻がいる。この光景はまやかしなんかじゃない。この言い伝えを残し た人はこの光景を皆に伝えたかった・・私はそう思います。」
「・・・・。」
つまり、言い伝えは本当だった。そう言ってくれる文がミスティアにはたまらなく嬉しかった。そこで一つ疑問が浮かぶ。この言い伝えの最後に『亡霊が食した』という一言をミスティアは覚えている。情報通である彼女なら知っているかもしれない。そう思い、迷わず聞いてしまった。
「・・あの亡霊はどうやって金色の八目鰻を食べたのかしら?」
答えを聞いてミスティアはひどく後悔した。
「・・踊り食いですよ。」
いつか自分も食べられる(丸呑みされる)のではないかと思うミスティアだった。
その後、チルノは知恵熱で倒れたそうな。
――その光景は光の強い満月の夜にしか
見る事ができない。
満月の夜になるとそこは池なのに、金色の野原になる。
そんな不思議な鰻池。
そして内容は相変わらずほのぼのないい雰囲気です。
後半の一部にだけ空白が混じってるんですが、そこだけメモ帳で書き直しとかしたんでしょうかね?
次回作期待してます
亡霊様は一味違いますな~。